#16
懐から取り出した眼鏡を片手で開き、かける。
「メールアドレスは……こちらのシーアールワイ……ではじまるこれと一緒かな?」
ファイルの中から出された一枚の紙には、俺たちが「【CRY】から来たメール」と判断したあのアドレスが記載されていた。cry_cry_cry_hideto1990で始まるやつだ。数字も含め一文字も違っていない。
「合っています。これです」
「高田篤春から預かった藤堂英都の携帯電話から送られたものだ。間違いない。ただ、通話記録やメールの発信記録の点から見ると、君達3人が見た連続メールは見つからないのだよ」
「あったんです」とダダをこねてもどうにもならないのは分かっている。
俺だって何でなくなったのか、本当はマボロシを見てたんじゃないかって、いまでも分からないままなんだし。
本当に【CRY】からのメッセージだったのだろうか。
……だとしたら、その理由は?
「あるんだよ」
山下さんがため息をついた。
「そういうことはあるんだよ。ごくたまにだが。死者が教えるっての……まあ公式には残せないけれどね」
うわ。現場の生のホラー話?
すんげーこと聞いちゃった…………けど。
そういう気分には、なれないよ。
俺の中にはまだ、アッツから聞いたばかりの話が未消化のまま、もたれていたから。
「あるいはこの携帯を詳しく調査すれば、消されていたとしてもデータの復旧はできるかもしれないが……それには時間がかかるらしくてね」
「あの……もしも疑われているんなら……携帯、提出いたします」
代替機とか……貸してもらえないだろうなぁ。
「それはそれでお願いするかもしれない。その前に」
その前に?
「見てもらいたいものがある」
ここで、いままでずっと部屋の片隅で黙って立っていた後藤さんが俺の隣に移り座る。
ノートPCにログインして、一つのページを開いて。
これ、【CRY】の……ページ? 二人目のほうの。
そこには鍵付きのフォトアルバムが設置されていた。
フォトアルバムのタイトルは『記録』。
そして、説明としてあった言葉。『この事件に関わった二人に最も関係の深い言葉を知る者だけが開く権利を持つ』
「我々も仕事だからね、高田篤春と藤堂英都の亡き姉こよみさんが同じ中学に通っていたことはつきとめている。パスワードはkoyomiだったよ」
中の画像が表示される。
俺は一瞬、アッツの話を思い出した。
アッツが処分したがっていた彼女の死の姿のポラロイド写真のことが脳裏をよぎる。
しかしそれはすぐに杞憂だとわかりホッとする。
画面に表示された画像は、文字ばかり……手紙?
「この画像を取り込んでテキストに落としたのがこちらのものだ」
テキストファイルの内容が画面に表示される。
「……あの、俺、これ見ちゃっていいんですか?」
「さっき、高田篤春と話をしていただろう? その内容と照らし合わせてほしいんだ」
俺は、息を呑んだ。
そして、テキストを目で追い始めた。
『ぼくは小さい頃から暗いといわれ続けた。
それは仕方ないこと。
だってぼくには闇がつきまとっているから。
ぼくの父の父の父が戦争である人を殺した。
本当かどうかは分からないけれど毎晩その夢を観させられる。
父の父の父に殺される夢を。
父に相談したことがある。でも信じてもらえなかった。
勉強から逃げ出したくて嘘をつくのかとさえ言われた。
ある日、子どもが家族を皆殺しにするニュースを見た。
その犯人は、小さい頃遊んでもらったいとこのお兄ちゃんだった。
ぼくは信じられなくて、お兄ちゃんに教えてもらった秘密基地に行ってみた。
事件を起こしたのはニセモノで、本当のお兄ちゃんは隠れているって思ったから。
でもお兄ちゃんは居なかった。
代わりに日記があった。
殺される夢のことが書いてあった。
夢を見る度に殺意が増えることも。止められなくて怖いって書いてあった。
また別の事件にも気づいた。
親戚の叔父さん。
お酒に酔っ払って通り魔をした。
無関係の親子連れを殺した。
もう一人。
おじいちゃんの弟は無理心中して死んだって聞いた。
死ぬ前に、夢に襲われるって言ってたみたい。
結論。
ぼくらの一族は呪われている。
多分、父の父の父のせい。
そしてその呪いは一族だけに向くわけじゃない。
時限爆弾みたいに突然、誰かを傷つける。
祟りは七代続くとよく聞く。
父の父の父……ってことはまだ半分。まだ続く。
今でももう遅いけれど、でもやる価値はある。
ぼくは一族の無責任を代表して、立ち上がる。
世界を守るために。
そして最後はぼくも……』
『一枚目の手紙.txt』の内容はそこまでだった。




