#14
「ヨーちゃん!」
俺が顔をあげるより早く、向こうから声がかかった。アニメ声の。
【チョコ☆ラヴ】さん、【ポポン】さん、そして管理人の【有りそうデュボア】さん……と、もう一人……
「この方は、後藤寛治さん。刑事さんよ」
【ポポン】さんが説明してくれる。こないだのオフには居なかったはず。【KG】さんか……コミュでも名前見た記憶ないけれど……
「はじめまして。後藤です……その……妹がお世話になっております」
と、【チョコ☆ラヴ】さんを軽く肘でつつく。俺は二人の顔を見比べながら渡された名刺を……野方署刑事課強行犯係……え。【KG】じゃなくって刑事……頬が急に熱くなる。
「あ、すいません。なんか勝手に」
「え、もしかしてヨーちゃん、兄貴のことなんか勘違い?」
笑い声がどっとおきる。
なんだろう。笑い声。妙に耳に懐かしい。そんな当たり前の日常がとっても嬉しい。
そして【ポポン】さんがヒューヒューとか言い出して。
え?
あ……俺が【チョコ☆ラヴ】さんのお兄さんを恋人だと勘違いしたと思われてる?
……刑事を【KG】というハンドルと間違えたってのはもっと恥ずかしいので黙っておこう。
「こちらの有相さんから情報提供を受けてね、是非あなたにも来ていただきたいのですが……お時間よろしいでしょうか?」
有相さんと指されたのは管理人さん。本名聞いてなかったけどハンドルまんまじゃないか……と思いつつ、管理人さんには話してもよいかもと漏らしたさっきのアッツの言葉を思い出す。
「……わかりました。行きます」
行くよ。どこまでも。
こんなモヤモヤした気持ちをいつまでも引きずりたくはない。
案内されたのは警察署の一室。
そこには一台のノートPCが用意される。後藤さん以外にも何人かの制服警官が詰め掛け、反対に【ポポン】さんと【チョコ☆ラヴ】さんは別室へと移動してゆく。
物々しくてドキドキする。
ドラマに出てくる取調室みたいなのとは違い、会社の会議室に近い感じの部屋。それでも警官の制服って威圧感がある。悪いことはしていないのに緊張する……いや……俺、馬鹿な企画してたよ。十分に悪者だ。
俺はたずねられるがままに全て答えた。
一回目のオフのこと。【CRY】のこと。二回目のイベントをどうやって知ったのか、二人目の【CRY】のこと。二回目のオフの時のこと。俺は全部話した。
特にサプライズ企画のことと、二回目のオフの話はしつこく聞かれた。
有相さんは話の内容がコミュに及ぶ時にはPCを操って解説を加えてくれた。
一通りのことを話すと、管理人……有相さんが出て行き、かわりに今度は目つきの鋭い初老の男性が入ってきた。
後藤さんはじめ周囲の若い署員たちが一斉に背筋を伸ばす。
「初めまして。野方警察署刑事課強行犯係長の山下です。本日はご協力感謝します」
握手を求められ手を差し出すと、煙草の臭いが染み付いたゴツゴツの手がぎゅっと俺の手を握りしぼる。ちょい痛の握手。
「あと二、三、尋ねたい事があるのですが、よろしいですか?」
低い声。周囲の音が引き締まる感じ。そして鋭い目。やましいことがないのにすんごくドキドキする。
慌ててうなずいておく。
「まず君は、藤堂英都は自殺だと感じたかね?」
のっけからズブリと心に突き刺さる質問。【CRY】の本名が藤堂英都だということはさっき後藤さんも教えてくれたこと。
【CRY】はあのオフで走り去り、あんな作品を挙げ、そして……だけど人間ってそんな簡単に死ぬものなのか。疑問はずっとあった。いや自分の企画が発端になっての自殺ってのに向き合えないゴマカシではなく。
もちろんアッツのさっきの告白を聞く前から。
そういえばこの刑事さんたちはアッツのあの話は聞いたのだろうか。まさかその確認?
って俺黙り過ぎ? 部屋中の視線が俺に集まっている。うわ、緊張する。
なんか心理テストみたいに回答までの時間をチェックしていたりして……俺は必死に何かを言おうとした。
「お、俺自身は……人がそんな簡単に死んでしまうものなのかって驚きの方が大きくて……もし自殺だったら……原因作った俺はどんな罪になるんですか? 殺人教唆みたいな?」
人が真面目に聞いたってのに山下さんは声をあげて笑ったよ。
「そんな心配しなくてよいよ。いや、君を逮捕しようってんじゃない」
君を。
その言葉にひっかかる。
じゃあ……。




