#13
「……幽霊が自分の死体を発見させるオフを開いたってのが、英都の……【CRY】の、最期の作品になるのだと。英都は記録ばかりが入った缶も俺に渡したきた。姉……こよみの写真は燃やしてもかまわない。でも新聞記事は残しておいてほしい、と。それから自分の事件が載った新聞や雑誌の切り抜きも一緒にこの缶にしまってほしいと。タイムカプセルのようにどこかに埋めてしまってもいいから、一つにまとめておいてほしい、と」
まるで「墓」だな。
「……その願いをきいたのか?」
その缶があればアッツの話の信憑性が増し、無実……というか、少なくとも殺人は犯していないことを証明できるんじゃないのか?
……でも、俺はその時、気付くべきだった。
なんでアッツはその話を、警察にではなく俺に話したのか、ということを。
「オレは携帯と鍵と缶を受け取った後もまだ半信半疑だった。死にたいなんて目の前に居る奴に言われてみろよ。本当は死にたくない奴ほど死にたいって言うんだよ。だけどな」
……
「英都は包丁を取り出した……こよみが手首を切った包丁だと英都は言った。どうしてそれを押収されずに持っているのか聞いたら、すり替えたんだなんてトボケやがった。そしてあいつはその包丁を腹にあてて……血が飛び散る前に扉の向こうへ、なんて言いやがった。くれぐれも自分の血がオレにつかないように、と。血ってけっこう飛ぶんですよ。篤春さんが玄関に言って靴を履いてから刺します、と。あまりにも的確な指示だろ」
【CRY】の書いた物語を思い出す。
登場人物はあんまりパッとしないのだが、殺すに至る心理描写や物理的な殺人の描写はかなりのエグさ……リアリティがあったっけ。
「……アッツは……見届けたのか? その……」
「いや。そんなの見たい奴居るわけないだろ。玄関まで血が飛ばないなんて確証はない。だからオレが外に出て鍵を閉めてからやると言ったんだ。俺は英都の指示通り、予備のビニール袋を手にはめたままドアを閉め鍵をかけた。それでもまだ、俺は英都が死なないような気がしていたんだな。それよりもこよみの死の写真を早く燃やしてやりたかった」
「そこで気付いたんだ。こよみの墓のことを聞こう、と……ドアノブに鍵を差し込もうとしたとき」
……した、とき。
俺は心の中で首を振る。やめてくれ、と祈りながら。
「音が聞こえたんだ。中から。あれ、血が吹き出す音っての? 初めて聞いた。けっこう勢いがあるのな。その時、情けないことに最初に浮かんだこと、なんだと思う?」
え、なんだろう。
「救急車、とか?」
俺の答えに、アッツは悲しそうな、そして嬉しそうな顔になった。
「刃物ってさ、体に刺さった角度や深さから自分でやった傷か他人が刺した傷かわかるんだってな。英都がどんな風に自分を刺したのかわからないけれど、もし万が一、自殺じゃないって処理されてしまったら。俺のアリバイがヤバイんじゃないかなって……ダサイだろ」
あれ。俺ってこんなに無口だっけ。趣味で文章を書いているだなんて思えないほど、言葉が出てこない。
もどかしさと切なさと申し訳なさとがぐるぐると俺の中をまわっている。その中に手を入れて言葉を引っ張り出すことができないくらいに、まわるスピードは速すぎて。って大縄跳びかよ!
くだらないことに頭は動くのか。でも、声が……出ない。
「オレは背筋がぞわぞわして急いで鍵を洗濯機の下に放り込んで……今、自分が見たもの聞いたものが実は悪戯で……そんなことを考えながら帰宅した」
自殺の現場に、居ただなんて。扉一枚へだてていようが、その衝撃は……俺だったら、耐え切れるか?。
「その夜は眠れなかった。自分を責める気持ちがずっと居座っていて、イライラしていた。オレはこよみの写真を燃やしながら、英都の言葉を思い返していたよ……」
……俺はその時、アッツが英都を殺したんじゃない、という「救い」に逃げた。
勝手に安心してしまったんだ。だからその直後に「面会時間が終了した」と言われたときも、ちょっと時間が経てばすぐにアッツは出てくるって勝手に考えていた。だから、話は中途半端だったけれど、俺はアッツに手を振った。
「早く、出てこいよ。待ってる」
アッツは俺を眩しそうに見て、赤い目のまま面会室を出て行った。
随分、長い時間が経った気がする。そして、随分と遠い場所へ来てしまったような錯覚さえも。
さっぱりとはしない気分のまま留置所を出る。
地面近くから視線を上げられないまま重い足で歩き始めたその視界に、道を塞ぐ何組かの足が見えた。
俺は顔を上げてその足の主を確かめた。




