#12
アッツは俺をじっと見る。目が、赤い。
「その時、自分の自殺をオレに手伝わせることを思いついたのだと言っていた。俺が必死に取り繕ってオフ会の終了を待っていた間、英都はオレに手伝わせる死の方法を考えていた」
「アッツが断るとは思わなかったのかな……だって、殺すとかって普通……」
普通、に続く言葉として「無理だろ」という言葉をすんでのところで飲み込む。
もしもアッツが「やって」いたのなら……追い込みたいわけじゃない。
「ああ。普通なら断るよ。でもオレは普通じゃなかった。こよみの死体の写真を見せられたからかな……オレは条件を出した。英都の最期の作品に協力する代わり最初の作品を欠番にしてほしい、と。こよみの死にまつわる記録を全て処分させてくれと頼んだんだ。こよみの死体を、他のやつの目に触れさせたくなかった。もちろん黙ってこよみの写真だけ抜くこともできる。だがバックアップを持っているかもしれないし、オレの意思としてそのことを伝えておきたかったってのもあったからな」
……黙ってアッツを見つめる。嘘をついている感じはない。
「オレはもう一度、英都に尋ねた。どうしてこのタイミングなのか。その時に話してくれたのが、さっきの生と死のリアリティの話。そして続けた言葉ってのがな……充分に哀れな人間が自殺するのに大きな理由はいらない。楽しんだけれどやっぱり馴染めなかった、とか、そんなんでもいい。とにかく日常にないシーンをトリガーとして入れることで、自分を殺す作品のリアルさを増したい、と」
……狂っている。
人を殺すことが出来る人間は、自分をも容易に殺せるというのか?
人を殺したことのない俺からしたら、殺す側に居る人間が殺される側に甘んじて移動するというには、何か大きなきっかけが必要な気がしていて。
そう。
何かが足りない気がする。それは何か分からないけれど。何かが。
「英都は携帯をビニール袋に入れてオレに渡した」
ビニール袋? 携帯……あ、まさかあの夜、アッツが飛び降りたあとのドアの前に落ちてたビニール袋って……
「そのビニール袋ごしならば指紋はつかないだろうから、それを使って「教えても居ない【CRY】からのメールが来た」という演出をしてもらいたい、と」
……思わず息をのむ。あれ、が……作品だって?
「自分が自殺をして数日後に、この携帯で【CRY】というアカウントをつくり、うす怖コミュに入り、オフ会のイベントを立てて下さい、と英都は言った。行き先を知らせないオフ会。そのオフ会に参加し【CRY】からのメールが導くままに進むと、この部屋にたどり着くように、と」
確かにそんな流れだった。
「オレ一人だけだと怪しいし、悪いけどお前にも参加してもらった。まさか4人も来るとは思わなかったけれどな。おかげでこっそりメール送信するの大変だったぜ。メール自体は事前に作っておいたけれどさ、かなり緊張した」
昨日の夜のこと、ゆっくりと思い出す。そわそわはしていた。それは俺も同じだから気にしてはいなかった。それから。
それから……あ、そういえば「初めて乗る」とか妙に強調していた気がする。
「オレは英都に本当に自殺するのかって尋ねたよ。そしたら英都は、もう殺したくないからと答えた。オレはその時ようやく自分も殺される可能性があったことに気付いた。俺の中の英都のイメージは、こよみの弟。自分がかつて脅した相手。ちょっと狂気に病んでいたとは感じていたが、そんなこと考えてもいなかったんだ」
「英都は次々と指示を出す。オレはどうにも騙されている気がしていたが、それでも指示を聞いた。もしこれが悪質なジョークだったとしても、人ひとりが死なずに済むのに文句はない。ただやっぱりフツーじゃない英都に気持ちで呑まれていたってのはあったかもな……」
そりゃ俺だって呑まれると思う。
「家の鍵も受け取った。鍵は洗濯機の下に隠して行ってほしい、と。そしてこの携帯でイベントを立てたオフで誘導して部屋に入ったらビニール袋から携帯を取り出し、そのへんに……血が飛んでいない場所に転がしておいてほしいと」
……血。
あの部屋の前で嗅いだ臭いが、むぅっとノドの奥を詰まらせる。
ノドに、血を沁み込ませた綿をつめられているみたいに苦しくて、思わず咳き込んだ。




