#11
「英都は父親を殺したのも自分だと言っていた。父と顔を合わせるたびに姉のことを思い出して苦しかったから、一人になるために殺したのだと言っていた。こよみと同じように電気ショックと剃刀とで自殺に見せかけて……実際、英都の父親の病院は母親が居なくなってから経営が悪化していたらしく、警察は事件性がないと判断したという」
姉、姉のお腹の子、そして父親。
「遺産はあまりなかったからとりあえず家を売って当面の学費にあて、自分はボロいアパートに引っ越したんだとよ。んで、あともう一人。むかーし英都を馬鹿にした叔父も殺したんだと言っていた。方法としては通勤時にホームから突き落としたらしい……」
殺す、という行為が目の前で体験として語られるのはどんな気持ちだろう。普段は俺だってホラーで殺人を扱うこともある。
でもさ。でもだよ。
「英都は自分の中には昔から闇が棲んでいたと言ったよ。あの夜に英都がアップした物語、他の物語と同じように本当と嘘とを混ぜて書いたとも言っていた。あのオフの後、死ぬつもりだったというのは元々の予定だったんだと。これは本当に英都が言ったんだ。別にお前を安心させようとして嘘をついているんじゃない」
自分の呼吸が浅くなっているのを感じる。
アッツの言うことを信じないわけじゃない。でも。
「英都は物語を書くことで、殺人の罪悪感を虚構の中に織り込んで薄めていた。だがそれでも薄めきれないと感じていたらしい。父親が居なくなってしばらくは良かったのだとか。でもある朝、鏡を観たとき。自分の顔の中に父の面影を見つけてしまったと。そして気付いたと言っていた。どうして自分を殺すということに気付かなかったのか、と」
はじめから死ぬつもり?
その言葉を遮ろうとして口を開いたが、その口から出せる何の言葉も表現も見つからない。
俺が何も言い出せないでいるうちに、アッツは続けた。
「死ぬ前に一度くらい虚構の中の自分に逃げ込んで何もかも忘れてはしゃいでみたかった。それが英都のオフ会への参加動機だと。自分の誕生日のことなんて、すっかり忘れていたらしいぜ」
その一言が、本当なのか、それともアッツの俺への優しさなのか分からない。
だけど。
……
「だけど」
ようやく声が出た。
「……だ、だけど……アレはちょっと……俺の企画、悪ふざけが過ぎた」
なんか話かみあってないし支離滅裂だ。
ずっと抱えていた自分の罪が突然消えたらバランスを崩して倒れそうになるだろ。刀を失くした侍。そんな感じなんだ。
「いや、喜んでいたよ。サプライズの対象になったのは生まれて初めてだって。英都のやつ、こよみを手にかけた時からずっと周囲の人とのつながりを絶ちながら生きてきたんだと。だからあの特別な夜だけは主役になったみたいで本当に楽しかったって」
「アッツ、俺にはわからない。姉や父を殺すような人間が、どうしてオフ会に参加しようと思ったのか、本当に楽しんだのか。もちろんアッツは一度、【CRY】の言った言葉を俺に伝えてくれたよ。でもさ。殺人を犯す者が、オフ会なんかを楽しめるのかって疑問が頭に湧いて尽きないんだよ」
「……言いたいことはわかる。その答えになるかどうかはわからないけれど、本来書くはずだったあいつの物語をお前に教えるよ」
物語?
【CRY】のか?
「英都は最後の作品は自分の死を扱うと最初から決めていたと言っていた。文章としての作品、そして殺人としての作品に。命を奪い続けてきた若者が、自分を止めてもらいたくて、でもバレたくはなくて書き続けていた物語。その物語は、彼の呼吸する現実にとても近くて、リアルでも物語の中でも命はぺらぺらに軽かった。でも、そうやってリアルな殺人を書き続けているうちに、死そのもののリアルさは増したが、登場人物のリアリティは欠けていった。生きていない人間が、リアルに死んでゆく物語になっていってしまったと。だから最後の作品を書く前に、生きていることを楽しむ連中に混ざり、生のリアリティを学ぼうと思って……それで、参加したんだとよ」
「だが予想外にサプライズ過ぎた。あんなに目立つつもりもなかったとも言っていた。だからもともと書こうと思っていた物語の一部を使い、死ではなく失踪する作品を書き、自分の死の作品は改めて仕切りなおすつもりだった、と」
つもり?
「だが、オレに会ってしまった。こよみを孕ませたオレに」




