#10
「すると英都はファイルの横に缶を置いて、こちらは資料ですがこちらは作品です、と答えたんだ」
「……作品?」
「……英都は缶の中から新聞の切り抜きを何枚か取り出した。そこにはいくつかの事件が……さっきの資料と同じように入っていた。オレはどう違うんだ? と、聞いた」
「よく見て下さい、と英都は答える。資料は殺人事件ばかり。でもこちらは資料ではなく記録です、と。自分の記録だけをモチーフに選んだら、リアル過ぎるじゃないですか、って。英都の作品、確かに時々すごくリアリティのある描写があったもんな」
「お、おい、それって……」
「ああ。もし、英都の言っていることが本当なのだとしたらあいつは人を殺していて、そしてそれがバレていない。本当だったら、な……あいつはあまりにも落ち着いていて、本当に小説を朗読しているみたいだった」
自分が書いた作品にハクをつけたくて、思わせぶりな「おまけ」をつけるタイプの奴が居る。創作なのに実話ってただし書きをつけちゃうタイプの。
いや、それが悪いなんて思わない。読み手は「楽しければどっちでもイイ」んだから。【CRY】はそういうタイプなのか、それとも現実と妄想が混乱してるのか……いや、もう一つあった。
……アッツが、俺を騙そうとしている可能性も。でも。俺は、その考えだけはすぐに棄てた。
「オレはまだ、へーって感じで話を聞いていた。半信半疑、いや半分も信じていなかった。それよりこよみのことをどうやって切り出そうと思っていた。そしたらさ。向こうから切り出してきた」
俺までドキドキしてきた。ここから核心だな。
「これはとっておきなんです、まだ一度も使っていないネタですって言いながら、缶の中からポラロイドカメラで撮った写真を出してきたんだ。その写真に写っていたのがこよみだった。風呂場で手首を切っていた……」
アッツの声が震える。
「なんだよこれって聞いた。英都は表情を変えずに答えた……ぼくの最初の作品です、と」
「さ、作品ってなんだよそれ。狂ってやがる」
だが、赤い目のアッツは淡々と続けた。
「そのさ、その写真のこよみの腹、ふくれていたんだ。妊娠ってのは本当だったんだ。気づかないオレが馬鹿だった……当然だよな。避妊もせずにあんだけ……そのことをこよみはずっと隠していた。オレにも、家族にも……」
アッツの握りしめている拳が小刻みに震えている。
「英都は言ったよ。オレの家に手紙が投函されたあの夜、帰ってきたこよみがお腹を押さえて風呂場に行った。そして腹が膨れているのを目撃したそうだ。英都は自分の姉のことが好きだったそうだ。当時の英都は小学5年生だったが、父親が産婦人科だったこともありそっちのほうの知識は随分とませていたらしい……だからそれが妊娠だと分かったのだと言った。そして悔しかったのだと。こよみをオレに取られたことが」
いや、だからって殺すか?
「…………英都は……こよみを自殺に見せかけた。コンセントから引いた電気を風呂につけたと言っていた。そのショック状態のうちに包丁で……二人の両親は医者って言っただろ。産婦人科なんだよ。その中学生の娘が妊娠、自殺。親は自分たちの体面を守ることを一番に考えた。だから、オレは探されなかったし……あっという間に引っ越して行った」
リアルの話なのか? でも、写真があるんだよな?
アッツの顔だけじゃなく言葉にも、涙がつまる。
「アッツ……」
声をかけてはみた。でもそれ以上言葉が続かない。こんなときなんて言えばいいんだよ。
自分の言葉に無力さを感じる。
俺は文章で、人の幸せに貢献したいって思っているのに……情けねぇ。
「こよみのことを謝ろうとした相手が、実はこよみを殺した張本人って……どう言葉を尽くしても、あの時のオレの心の中は言い表せない。英都はオレに言ったんだよ。ぼくのことを殺したいですか? と」
「な……なんて答えたんだ?」
「オレは……首を縦に振り、そしてそのまま横に振った。こよみを殺したのは英都ってわけじゃない。英都とオレ。共犯みたいなものなんだよ」
「アッツ……」
「そんなオレを見つめながら、英都の告白はまだ続いたよ」




