#1
今日、オフ会があった。
待ち合わせの時間に待ち合わせの場所に行ったのだが、コミュの人と思われる人は誰も見つけられず。
でもイベントトピでは「発見しました」とか「集合したね」とか書き込みがリアルタイムであがっているし……僕の時計がおかしいのかなって思ったんだけど「遅刻した人は店へ直接きてね」なんて書き込みがあがったから僕は店へ行くことにした。
そこはいまでは珍しくレバ刺し……だったモノ(炙る用の七輪とセット)を出す居酒屋「ホルモン蔵々」……ここだよね。トピに貼ってあった口コミサイトの地図はわかりやすくてすぐに着いた。
土曜日だからなのかな、けっこう混んでる。
「あのー上尾で予約が取ってあるはずなんですけど」
イベント主さんが「上尾で予約いれときました」って書いていたし。
「はい、じょーおーさまですね。承っております。こちらへどーぞっ」
その直後、店員は店内全てに聞こえるような大声でこう言った。
「ハイ! ご予約じょーおーさま、ご来店!」
その声の直後、店内の客がみんな振り返って僕を見た。なんで名前をのばして言うんだよ。
店内のザワザワが増し、クスクスと嫌な笑いが感冒のように広がってゆく。
僕はいたたまれない気持ちになりながらも他の客とは目を合わさないようにしつつ、店員の後をついていった。
そして通された席はカウンター。
え? カウンター?
しかも両隣は見るからにサラリーマン風のオッサンたち。
「あの……ここ……合ってますよね?」
僕の問いかけに対し店員は眉をしかめ「あ、はい。じょーおーさま御一名さま、こちらのカウンター席と承っておりますが」
目の前が真っ暗になった。
少なくともさっきまでは、いや待ち合わせの5分前までは、僕はウキウキしていた。
【うすら寒くなるほど怖い話をしよう】コミュは、上がってくる話はどれも背中がゾクゾクするような話ばかりなのに、雑談トピでは皆明るくやさしかった。
中学時代、顔が暗いってだけでいじめられていた僕にも優しくしてくれた。
どうせ暗いのならあの怪談タレントみたいに怖い話のひとつも覚えようと読み始めた恐怖本をきっかけに、僕は怖い話を書く世界に足を踏み入れた。
僕にとってホラーは救いであり、思い出したくもない酷い過去を「物語」という箱の中にしまい込むことが出来る魔法そのものだった。
僕は「物語」をたくさん書いた。そうやって書かれたひとつひとつの作品が僕にとっては過去を封印するための錠前になったんだ。
コミュの人たちは僕の作品に感想をくれた。それは僕の作品をよくするための忠告であり、励ましであり、十本以上書く頃には「今回のはリアルで怖い」とか「情景が浮かんできた」なんてほめ言葉までもらえた。
僕は有頂天になった。
現実では見た目で敬遠されることが多く、大学は何年も留年してようやく卒業間近となったけれど今でも友達は居ないし就職も決まっていない。家族も姉が自殺し、母が家を出て、最近、父も亡くなった。ぼくのまわりは全部壊れている。
僕は人間が怖い。
でもその怖さが僕に「物語」を作らせる。
今日いただいた「恐怖」で、僕はまた「作品」を書けそうです。
いままでありがとうございました。
そのトピはオフ会中の時間にアップされていた。トピ主は【CRY】。さっき俺達の目の前から、声をかける間もなく走り去った青年が【CRY】なんだろう。
企画者だった俺をはじめ何人かで手分けして探したが、新宿の雑踏の中に消えた初対面の人を探すのは不可能ってもんだ。
「……まさかいきなり走ってっちゃうなんて……」
三回目の探索から戻ってきた【カレンダーZ】がぽつりと漏らす。
【CRY】が席についたタイミングでイベントトピには「そこで振り向いて!」とか「志村、うしろ!うしろ!」などと書き込みがあった。もう一度トピを見てくれれば、いやキョロキョロと周囲を見回してくれさえすれば、俺達や店員さんが「HAPPY BIRTHDAY!」と拍手喝采で迎える……予定だったのに。
「プロフの誕生日、本当じゃなくってフェイクだったんじゃね?」
いつもシニカルな【TagaLog】がポテトフライをツマミながらボツリと言い放つ。
が、コミュのお母さん的存在【ポポン】さんが言葉柔らかくたしなめる。そういう問題ではないことは、誰も口に出さないながらもわかっていた。
「もう一回見てきますね。皆さんは書き込みやメッセージでフォローお願いします。本当にすいません」
コミュの管理人【有りそうデュボア】さんが何度も頭を下げている。俺も慌てて頭を下げる。この人、俺以上に頭を下げている。俺が主犯だってのに。いつもジェントルな書き込みだった管理人さんは、ご本人ものすご紳士。
管理人と【カレンダーZ】、それから新宿で働いていて土地勘があるという【チョコ☆ラヴ】さんと俺。四人で四回目の探索に出かけるが……やっぱり見つからない。
楽しい会になるはずだったのに……俺の企画したクソつまんないサプライズ企画のせいで……涙がにじんできた。
そこにすっと女性の手が差し出された。




