魔王が駆け落ちをしたので後始末を押し付けられた妹殿下の話 その後2
勇者が選抜された。
その絶望的なお仕置きフラグに魔王城に激震が走った。
「っうかお仕置きされるべき魔王がいないのに誰が!誰がお仕置きされるんですかぁ!!俺らか!俺らっすか!!」
「魔王様連れてきましょうよ!!」
「無理だ!!あの人最強だぞ?忘れたか!!勇者に仕置きされる前に社会的に抹殺されたいのか!!」
「ではもういっそ魔王様の居場所バラしましょうよ!!」
「その瞬間に侵略下克上が発生………」
「うっ!」
盛大に議論は出るが現状を打開できる案は出てこない。状況が悪すぎる上に理不尽だ。
「…………調べたが勇者のお仕置きについては詳しいことは殆ど文章に残されていない。ただ、仕置きされた魔王が残したとされる言葉が…………」
ごくりと誰かがつばを飲み込む音がやけに響いた。
「命は助かった。だが、こんな目に遭うぐらいなら………命を奪われた方がマシだった。後世の者よ決して決して決して!!勇者は出現させるな!と。文字は泣いていたのか滲んで震えていた…………」
基本的に魔人が泣くなんてことはない。特に恐怖の涙なんぞ流し、己の失態を文章に残し、後世に警告まで残すなど有り得ない。有り得ないのだが………その有り得ないことをしてしまうほど勇者のお仕置きはいやなものなのだろう。
誰もが絶望に染まったその時、それまで黙っていた妹君が遠い目をして一言。
「夜逃げ、しようかな………なんか、もう、つかれた………」
魔人にあるまじき弱々しいその声に部下達が全員すすり泣きながら妹君に縋りついた。
「だぁぁぁぁぁ!!気持ちは分かります!!分かりすぎるほど分かります!!だけど今、シリル様に逃げられたもうお終いなんですぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
「あ、ははははは…………」
「戻ってきてください~~~~~~~~~!!」
ただいま場が混乱しております。しばらくお待ちください………。
「………お互いに少し冷静になりましょう」
「「「「そうですね………」」」」
どうにかこちら側に戻ってきたらしい妹君。つぐつぐ真面目で貧乏くじを引きやすい性分である。
「でも確か勇者って選抜されてもすぐには魔王のところにきませんよね?」
「ええ、確か聖剣やら仲間の選抜やら女神の祝福やら精霊の祝福やらで結構な時間が取られるはずです」
「なら、時間はまだあるってわけね」
自身も優秀ながらその上を行く兄の所為で霞、優れた能力を全て兄の所業の尻拭いに費やした妹君がニヤリと笑う。そして不思議なことにこの人がやる気になるとどんな絶望的な状況でも何とかなると思わされてしまうのだ。
絶望に染まっていた部下達の顔に生気が戻る。
魔王の暴政の中、この人の存在がどれほど自分達の支えになっていたことか!!
「ここでぐだぐだしてても始まらないわ!時間があるうちに策を立てるわよ!あと、勇者に関する情報を出来るだけ集めて!!民には手は出さないとは思うけど一応避難の準備!城の非戦闘員の退避も急いで!!」
「「「「はい!!」」」」
絶望的な状況ながら他人を引っ張れるカリスマ。妹君が確かに王族であるという確かな証であ………。
「ごごごごごご報告します!!!ゆゆゆゆゆ勇者が諸々の儀式をボイコット!!!聖剣だけ引っつかんで風の精霊脅して単身でこ、こちらに猛スピードで向かってきていますぅぅぅぅぅぅ!!!」
「「「「………………………………」」」」
地獄の静寂再び。そして。
「もういや~~~~~~~~~~~~~!!私の人生なんでこんなことばかり起こるのよ~~~~~~~~!!」
王族だろうがなんだろうがどうしようもない状況には叫ぶしかなかった。