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この婚約に、恋の続きを込めて  作者: もちもちほっぺ


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17/21

15

一年後。


前のめりなルカに引っぱられるようにして、アナスタシアは最短日程で結婚式を挙げた。


式は滞りなく終わったが、新郎は終始様子がおかしかった。

誓いの言葉を噛み、指輪をはめる手を震わせ、最後には満面の笑みで固まっていた。


浮かれきった様子に、アナスタシアは何度も笑いをこらえる羽目になった。


「……まだ夢みたいです」


式から数日経っても、ルカは同じことを言う。

そのたびに、アナスタシアは苦笑しながら頷くしかない。


その午後、居間でくつろいでいたアナスタシアのもとへ、ミレイユが手紙を持ってきた。


「また届いてますよ」


封蝋の色を見ただけで、差出人はわかる。


ミレイユは封を切り、中身を確かめてからアナスタシアに手渡した。


「レティシア様からです」


あの夜のあと、隣国へ旅立った彼女から最初に届いたのは、

“侍女は無事だったの?”という素っ気ない確認の手紙だった。


そこから文通が始まり、気づけば一年近く続いている。


アナスタシアは椅子に腰掛け、便箋を開いた。


相変わらず勢いのある筆跡が紙いっぱいに踊っている。


『親愛なるアナスタシアへ』


書き出しからして堂々としていた。


隣国での暮らし、商売の成功、社交界の噂、

そしてゴドフロワが新しい事業でまた当てたこと。


自慢話と近況報告が半々だ。


読み進めていくうちに、アナスタシアの眉が少し上がる。


「……あら」


「どうしました?」


ミレイユが覗き込む。


アナスタシアは便箋を差し出した。


『あなたたち、新婚旅行はまだでしょう?

こちらに来なさい。最高の滞在を用意してあげるわ』


一拍の沈黙。


ミレイユがゆっくり瞬きをする。


「……これは」


「招待状ね」


アナスタシアは小さく笑った。


「しかも断る余地がない書き方だわ」


最後の一文には、


『来ないなら迎えに行く』


と添えられていた。


ミレイユは額に手を当てる。


「本気ですね、あの方」


「ええ。本気ね」


アナスタシアは便箋を折りながら、どこか楽しそうだった。


遠い隣国の空気が、紙越しに伝わってくるようで。





手紙を読んでからほどなくして、新婚夫婦の新居に来客があった。


侯爵家の子息。

レティシアの兄である。


応接間に通された男は、椅子に座るなり束ねた長髪をつかみ、指に絡めてくるくると回し始めた。

それが癖なのだろう、話している間も止まらない。


「妹から連絡があってね」


軽い調子で切り出す。


「君たちの背中を押せと」


ルカは一瞬だけ視線を泳がせ、アナスタシアを見る。

アナスタシアは微笑みを崩さない。


「……隣国への招待の件でしょうか」


「そうそう、それそれ」


兄は満足そうに頷いた。


「うちとしてもね、あれを止める気はもうない」


“あれ”とはレティシアのことだ。


「正直な話、あの性格だろう?止めても止まらないし、閉じ込めても抜け出す」


くるくる回していた髪をぱっと放す。


「だったら好きにさせた方が被害が少ない」


侯爵家らしからぬ率直さだった。


「しかも相手の商人が隣国で大成功だ。

家の面目も立つ。文句のつけようがない」


ルカは小さく息を吐く。


「……つまり」


「黙認だよ」


兄は笑った。


「ただね」


そこで声の調子が少し落ちる。


「妹がどうしているのかは知りたい」


束ねた髪をまた掴む。


「手紙は寄越すが、都合のいいことしか書かないからな」


アナスタシアは思わず笑みをこぼした。


「想像できます」


「だろう?」


兄は肩をすくめる。


「だから君たちに行ってほしい。

旅行ついででいい。様子を見てきてくれ」


ルカとアナスタシアは顔を見合わせる。


断る理由はなかった。

むしろ、すでに半分決まっている話だった。


「承知しました」


ルカが静かに答える。


兄は満足げに頷き、立ち上がる。


「助かる。あれは放っておくと国ひとつ乗っ取って帰ってきかねないからな」


冗談なのか本気なのかわからない言葉を残し、長髪をくるくる回しながら去っていった。

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