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第7話 知っている者

お読みいただきありがとうございます。

感想、評価をいただけると嬉しいです。

 十分なほど、異変は、伝わっている。

 言葉にできずにいる朱音あかねと、

 視線をあわせた知佳ちかが、小さく頷く。


 その小さな頷きに、

 喉がこくり、と動く。



「探します」

「任せた」



 声が震えないように、奥歯を噛んだ。

 飲み込まなければ、次に進めない。


 飲み込めない何かが、こみ上げる。



 悠真ゆうまの銃口を構える手があがる。

 班長の視線が周囲に走る。


 切り替えが早い、二人の"特務班"の顔に、

 冷たくなり続ける指に、力をこめる。



 探す。

 更新。

 探す。

 更新。


 ―― 探す


 震える指で。

 視界が、狭くなっていく。




「……なに、これ」

「三嶋?」

「……朱音?」



 胸騒ぎがする。

 喉の奥が、重たくなっていく。



 何度目かの更新のあと、

 表示された、データには、


 見覚えのない空白が、

 地図の一部に広がっている。



 現実のほうが、間違っているかのように。

 世界のほうが、嘘をついているみたいだ。



 こんなの、無かった。


 ―― 違う。



 ここには、ルートが"あった"

 探索班が、

 大至急で書き上げていた手書き地図と、

 整備班が整えていた地図が、


 確かに"あった"のに。




 知らない。


 データにない。

 データが、ない。


 ―― そんなこと、過去に、一度も



「どうした」


 悠真の問いが近い。


 悠真の視線が、すぐそばにある。



 ―― 答えなきゃ。


 ―― 見つけてしまったのは、自分だ。



 でも。


 喉がうまく動かない。

 時間だけが、先に進んでいく。


 けれど、言葉にすれば、戻れなくなる。



 ―― 言ってしまったら


 ―― それはただの、事実に、なる。


 ―― なってしまう。



 それでも、

 これは、「事実」だ。


 言わなくちゃ、

 私も、二人も、

 前に進めない。




「朱音、大丈夫だ」


 何が大丈夫とも、言わない。

 けれど、

 悠真は、視線を逸らすことなく

 朱音に告げる。


「無い、です」



 嫌な予感が、

 ゆっくりと形になる。




「この先……“落ちて”る」


 道が、途切れている。



 崩落?


 違う。


 そんな雑な消え方じゃない。


 まるで最初から、

 そこに何も無かったみたいに。



「消えた、んじゃないの。

 "落ちて"る」



 朱音の言葉に、沈黙が場を支配する。



 静かだ。



 さっきまで聞こえていた遠くの銃声も、

 今はない。


 代わりに。



 もっと深い場所から、

 何かが響いてくる気がした。


 知らないはずの、鼓動。



 ―― 何かの、音がする


 胸の奥が、それに応えそうになる。

 呼ばれている。


 ―― 誰に?

 ―― 何、に



 足が、わずかに前へ出そうになる。


 知っている。

 この音を、自分は知っている。



 でも。


 ―― どうして





「……なんだよ、それ」


 悠真の声が、わずかに強張る。


 知佳は、

 その先を見ている。


 暗闇の奥。


 まるで、

 呼ばれているみたいに。



「別ルートを探す」



 知佳は、視線を暗闇に向けたまま、

 言い切った。


 即断だ。




 立ち止まらない。


 立ち止まったら、

 何かが追いついてくる気がした。



 ―― 何が……?


 そんな言葉が、頭をよぎる。

 けれど、


 ―― いま、考えることは、一つだけだ。



 その言葉を、頭から押し出した。



 大丈夫。


 私は、道を探す。


 必ず。


 帰るために。



 ―― 私が、出来ること


 データが、落ちようと、

 地図を、燃やそうと、

 覚えている。



 ―― 一度、見た。

 だから

 忘れない。


 いま、これは、

 私にしか、できない。



 だから、ここに居るんだ。




 ―― 逃げるわけにはいかない。




「はい」


 班長の言葉に、応えた声は、

 自分の声じゃないくらいに、固い。


「三嶋なら、大丈夫だ」


 そう告げた、班長の声に、


 もう一度、端末を握り直す。



 ―― 帰る。


 ここは、終わりじゃない。

 まだ、途中でしかないのだから。



 二人を、連れて帰る。


 それは、わたしにかできない。





 けれど。


 同時に。さっきまでとは違う何かもまた、

 彼らの立つ大地の下で、確実に始まろうとしていた。




 もう、誰も、止められない場所で。





 それは、確実に、こちらへ向かっていた。







次回投稿は、2/26(木)21:00の予定です。

良かったら、次話もぜひに。

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