第6話 まだ、終わっていない
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最後の角を曲がった瞬間、
空気が変わった。
張りつめていた圧が、少しだけ緩む。
「……抜けたな」
悠真が小さく息を吐く。
構えていた銃口が下がった。
「うん。この先の昇降機が、まだ生きてるはず」
端末を確認しながら頷く。
大丈夫。
ルートは繋がっている。
―― 帰れる。
―― そう思わなければ、立っていられなかった。
指先の感覚が、まだ戻らない。
その事実に、やっと身体が追いついてくる。
膝がふるふると笑いそうになる。
―― まずい。
―― 終わるまでは、ちゃんとしないと。
「よくやった」
後ろから声が落ちる。
班長だ。
いつも通りの、穏やかな労い。
―― イヤホン越しじゃないだけなのに。
胸がぎゅっと締まった気がして、呼吸が一拍遅れた。
どうしてこんなに苦しいのか、自分でも分からない。
こんな時じゃなければ、ただ嬉しいだけだったのに。
―― どうして。
答えのない問いが、浮かんでは消える。
役に立てた。
連れて帰れる。
―― それが、何よりも嬉しい。
それなのに。
胸が、痛い。
ほんの少し、視線が沈みそうになった時、朱音、と悠真に名前を呼ばれる。
「悠真」
悠真がこちらを見て、軽く親指を立てる。
「さすが」
迷いのない顔。
悠真も、短い。
でも十分だ。
伝わってしまう。
言葉にしなくても。
悠真の視線の柔らかさに。
その表情につられて、
朱音にも、つい笑みがこぼれた。
そのときだった。
ピピ、と。
端末が、小さなエラー音を出す。
いつもの警告音と、どこか音が違った。
「……あれ?」
なんのエラー音なんのか。
ちらり、と端末へと視線を落とす。
―― おかしい。
「え……?」
昇降機の稼働信号が、ついさっきまで、数秒前まで、あったはずなのに。
―― "消えた"
―― そんな消え方をするものじゃない。
何百回と見てきた表示が、こんな風に消えるはずがない。
「朱音?」「三嶋?」
二人の声が、同時に重なる。
朱音の表情が変わったのを、
二人は見落とさない。
「ちょ、ちょっとだけ、待ってください」
もう一度確認する。
更新。
再検索。
もう一度。
―― もう一度
『NOT DATA』
『NO SIGNAL』
ない。
―― 無い
「そんな……」
あり得ない。
整備班の報告では、ここは、確実に通れるはずのルートだ。
故障?
―― 違う。
消されたみたいに、綺麗になくなっている。
表示される文字に、
何も出てこない画面に、
指先が、震える。
文字通り、"無い"のだ。
―― 信号が、消えた。
「他のルートは」
班長の声が、低く、固くなる。
その声に、顔をあげる。
初めて見る、表情だった。
―― まるで、何かと、対峙するかのような。
見えない何かが、
足元で蠢いている。
すべてを飲み込むような、何かが
そこにいる。
そんな気がした。
次回投稿は、2/24(火)21:00の予定です。
良かったら、次話もぜひに。




