第5話「裏切り者の証言」
王国の首都。
サラは、密かに活動を続けていた。
「反教会派との会談は、順調ね」
「あとは、国王を説得できれば......」
その日の夜。
サラのもとに、予想外の来客があった。
「サラ・ヴァレンシュタイン様」
「お会いしたい方がいます」
「誰が」
「エドワード・クローネ」
「......!」
エドワード。
かつてルークを裏切り、教会に情報を流していた男。
「なぜ、彼が......」
「話を聞いてほしいそうです」
「真実を、伝えたいと」
「......会いましょう」
サラは、エドワードとの面会を決めた。
エドワードは、やつれた顔をしていた。
「サラ・ヴァレンシュタイン様......」
「来てくださったのですね」
「何の用?」
「あなたに、伝えなければならないことがあります」
「真実を」
「真実?」
「私が、なぜルークを裏切ったのか」
「その真実を」
「聞くわ」
「話しなさい」
エドワードは、深く息を吸った。
「全ては......私の妹から始まりました」
「妹?」
「私には、病弱な妹がいました」
「彼女を救うには、高額な治療費が必要でした」
「だが、私にはそんな金はなかった」
「それで、教会に......」
「はい。教会が、取引を持ちかけてきました」
「ルーク・ギルバートの情報を流せば、妹を救うと」
「......」
「私は、迷いました」
「ルークは、私の友人だった」
「裏切りたくなかった」
「でも、裏切った」
「......はい」
「妹を救うために」
「妹は、どうなったの」
「......死にました」
「教会は、約束を守らなかった」
「......」
「私は、妹も友も失った」
「何もかも、失いました」
「それで、今更何を」
「償いたいのです」
「私の罪を」
「償える?」
「分かりません」
「でも、知っていることを全て話します」
「教会の計画、全てを」
「......」
「私は、教会の内部にいました」
「大司教の計画を、知っています」
「全てを、お話しします」
「聞くわ」
「大司教の本当の目的は、深淵王の制御ではありませんでした」
「何ですって?」
「大司教は、深淵王と融合しようとしていました」
「融合......」
「深淵王の力を、自分のものにしようとしていたのです」
「馬鹿な......」
「本当です」
「カイ・レイナーの加護は、そのための鍵でした」
「カイの加護が?」
「はい。深淵王と融合するには、深淵に対抗できる力が必要だった」
「カイの加護を制御下に置けば、融合時に自我を保てる」
「そう、考えていたのです」
「つまり、世界を救うなんて......」
「嘘です」
「大司教は、自分が神になろうとしていただけです」
「......」
「狂っているわ」
「はい。完全に」
「他には」
「深淵王の覚醒について」
「大司教は、意図的に覚醒を早めていました」
「意図的に?」
「封印を弱める儀式を、密かに行っていました」
「各地で裂け目が開いたのも、その影響です」
「あの裂け目は、自然なものではなかったの」
「半分は」
「大司教の干渉で、さらに悪化しました」
「......」
「それから、もう一つ」
「大司教派の残党について」
「残党?」
「大司教は追放されましたが、まだ支持者がいます」
「彼らは、大司教の計画を引き継ごうとしています」
「どこにいるの」
「王国内に、潜伏しています」
「具体的な場所は、分かりません」
「だが、彼らは危険です」
「分かったわ」
「他には」
「最後に......」
「ルークに、伝えてほしいことがあります」
「伝言?」
「私は......彼を裏切りました」
「許されないことをしました」
「でも、彼のことは......本当に、友だと思っていました」
「......」
「謝っても、許されないでしょう」
「でも、せめて......この情報が、役に立てば」
「少しでも、償いになれば......」
「......」
サラは、しばらく黙っていた。
「伝えるわ」
「ルークに」
「ありがとうございます」
「それから......」
「私は、これから王国の裁判を受けます」
「裁判?」
「反逆罪で、起訴されています」
「おそらく、処刑されるでしょう」
「......」
「でも、構いません」
「私は、罰を受けるべきです」
「妹を裏切り、友を裏切り......」
「罰を受けるのは、当然です」
「......」
「最後に、一つだけ」
「何?」
「ルークを、支えてあげてください」
「彼は、強い人間です」
「でも、一人では......きっと、辛いはずです」
「......分かったわ」
「約束する」
「ありがとうございます」
「では、失礼します」
エドワードは、去っていった。
サラは、一人で考え込んだ。
「エドワード......」
「あなたも、被害者だったのね......」
翌日。
サラは、ルークに連絡を取った。
「ルーク、重要な情報があるわ」
「どうした」
「エドワードに、会ったの」
「エドワード......」
「あいつが、なぜ......」
「彼が、全てを話してくれた」
「大司教の本当の目的、深淵王の覚醒の真相......」
「全てを」
「話してくれ」
サラは、エドワードから聞いた情報を全て伝えた。
「大司教は、深淵王と融合しようとしていた......」
「信じられない」
「でも、辻褄は合う」
「カイの加護が、その鍵だった」
「だから、あんなに執着していたのか」
「......」
「ルーク、エドワードから伝言があるの」
「伝言?」
「彼は......あなたを、本当に友だと思っていたそうよ」
「許されないことをしたけど......」
「せめて、この情報が役に立てばと」
「......」
「エドワードは、裁判を受けるそうよ」
「処刑される可能性が、高いわ」
「......」
ルークは、しばらく黙っていた。
「あいつは......馬鹿だな」
「ルーク......」
「妹のために、俺を売った」
「でも、結局、妹も救えなかった」
「......馬鹿だ」
「でも......分からなくもない」
「え?」
「大切な人を守るために、何かを犠牲にする」
「その気持ちは、分かる」
「ルーク......」
「俺だって、カイを守るために何でもした」
「エドワードも、同じだったんだろう」
「許すの?」
「......許さないとは、言わない」
「でも、今は......」
「今は?」
「あいつの情報を、活かすことが先だ」
「それが、あいつへの答えになる」
「そうね......」
「サラ、情報をまとめてくれ」
「大司教派の残党について、特に」
「分かったわ」
サラは、情報収集を続けた。
「大司教派の残党......」
「王国内に潜伏している......」
「どこに......」
マーカスと連携し、調査を進めた。
「残党の潜伏先を、特定した」
「どこだ」
「王都の地下。旧教会の施設だ」
「旧教会の施設?」
「今は使われていない場所だ」
「だが、地下には広大な空間がある」
「そこに、潜伏しているようだ」
「襲撃するのか」
「いや、まだだ」
「彼らが何を企んでいるか、まず把握する」
「監視を続けよう」
「ああ。頼む」
数日後。
衝撃的な報告が入った。
「大変だ!」
「残党が、動き出した!」
「何をしている」
「封印を、完全に破壊しようとしている!」
「深淵王を、強制的に目覚めさせようと!」
「馬鹿な......!」
「止めないと......」
「でも、今から間に合うか......」
「間に合わせる」
サラは、即座に動いた。
「マーカス、協力して」
「分かった」
サラとマーカスは、残党の阻止に向かった。
だが、間に合うのか。
時間は、刻一刻と過ぎていく。
一方、大陸連合へ向かうルークとカイ。
「ルーク、嫌な予感がします」
「俺もだ」
「急ごう」
過去の真実が明らかになった。
だが、危機は──さらに深まっていた。
次回予告
残党が、封印を破壊しようとする。
サラたちは、間に合うのか。
そして、深淵王が──目覚めようとしていた。
第6話「深淵王の目覚め(前編)」
「封印が......崩壊する......」
「アザルが......目覚める......」
終末の序章が、幕を開ける──




