第14話「撤退命令」
全ての裂け目を塞ぎ、学院に戻った翌日。
予想外の命令が届いた。
「撤退命令......?」
「何のことだ」
* * *
「王国上層部からです」
学院長が、書類を見せた。
「全ての深淵対策部隊に、撤退を命ずる」
「撤退? なぜ」
「理由は、書かれていません」
* * *
「おかしい」
ルークは眉をひそめた。
「俺たちが裂け目を塞いだばかりだ」
「今、撤退する理由がない」
「でも、王国の命令だ。従わざるを得ない」
* * *
「サラ、何か分かるか」
「調べてみるわ」
サラは、王家のコネを使って情報を集めた。
* * *
「分かったわ」
「何が」
「この命令、教会が関わっている」
「教会?」
「教会と王国の一部が、結託しているみたい」
* * *
「目的は」
「分からない。でも、何か企んでいるのは確実」
「撤退することで、何が起きる」
「深淵魔が、再び増える」
「そして......」
* * *
「裂け目が、また開く」
「それを、狙っているのか」
「かもしれないわ」
「だが、なぜ......」
* * *
「考えられる理由は、一つ」
ルークが言った。
「深淵王の覚醒を、促している」
「覚醒を、促す?」
「封印が弱まれば、深淵王が目覚めやすくなる」
「そんな......」
* * *
「教会は、深淵王の力を利用しようとしているのかもしれない」
「利用? どうやって」
「分からない。だが、可能性は否定できない」
「危険すぎるわ」
「ああ」
* * *
「どうする、ルーク」
「命令に従うふりをしながら、独自に動く」
「独自に?」
「表向きは撤退する。だが、裏では監視を続ける」
「なるほど」
* * *
「カイ、お前は学院に残れ」
「え?」
「お前が動くと、目立つ」
「でも......」
「俺とサラで、裏から動く。お前は、訓練生たちを守れ」
「......分かりました」
* * *
三人は、作戦を開始した。
表向きは、撤退命令に従った。
「深淵対策部隊、解散します」
「ご苦労だった」
* * *
だが、裏では。
「監視ポイントを、設置したわ」
「よし。各地の状況を、把握できる」
「異変があれば、すぐに分かる」
「完璧だ」
* * *
数日後。
「ルーク、動きがあったわ」
「何だ」
「教会の一団が、封印の近くに集まっている」
「封印の近く?」
「何かの儀式を、準備しているみたい」
* * *
「儀式......」
「深淵王の覚醒を、促す儀式かもしれない」
「阻止しなければ」
「行きましょう」
* * *
二人は、現場に向かった。
「あそこだ」
教会の一団が、封印の前で何かをしていた。
「見つけたわね」
「潜入して、詳細を確かめる」
* * *
物陰から、様子を窺った。
「何をしているんだ......」
「儀式の準備みたいね」
「祭壇を設置して......」
「あれは......生贄?」
* * *
「生贄を使って、封印を弱める気か」
「最悪ね」
「止めないと」
「でも、相手は大勢よ」
「構わない」
* * *
「待って」
「何だ」
「もう少し、情報を集めましょう」
「なぜ」
「ここで阻止しても、また同じことを繰り返す」
「根本から、潰さないと」
* * *
「黒幕を、突き止める必要があるのか」
「ええ」
「誰が、この計画を主導しているのか」
「それが分かれば、対処できる」
「分かった。だが、儀式が始まったら──」
「その時は、止める」
* * *
様子を見守った。
「指揮しているのは、誰だ......」
「あの人物......」
「ガルディスか」
「以前、供物の儀を強行しようとした司祭ね」
「やはり、あいつが関わっていたか」
* * *
「でも、彼だけではないわ」
「何?」
「後ろに、もっと大きな存在がいる」
「誰だ」
「分からない。でも、教会の上層部が絡んでいる気がする」
* * *
「儀式が、始まりそうだ」
「止めるわ」
「ああ」
二人は、姿を現した。
* * *
「誰だ!」
「俺たちだ」
「ギルバート......!」
「その儀式、中止してもらおう」
「できるわけがない!」
* * *
「なら、力ずくで止める」
「やれるものならやってみろ!」
戦闘が始まった。
* * *
「はあっ!」
ルークとサラが、教会の兵士たちと戦う。
「五人! 十人!」
「こっちも!」
「ガルディスを、捕らえる!」
* * *
「逃がすな!」
ガルディスが、逃げ出した。
「追え!」
「任せて!」
サラが、追いかけた。
* * *
「くそっ......捕まった......」
「観念しろ」
「この儀式を止めても、無駄だ」
「何?」
「もう、他の場所で進んでいる」
「......」
* * *
「お前たちの負けだ」
「どういうことだ」
「深淵王は、間もなく目覚める」
「......」
「お前たちに、止める術はない」
* * *
「そうかな」
ルークが言った。
「俺たちには、カイがいる」
「あの平民か」
「あいつの加護は、深淵王に対抗できる」
「......」
* * *
「お前たちの計画は、失敗する」
「そうはいかない」
「見ていろ。俺たちが、深淵王を止める」
「......できるものなら、やってみろ」
* * *
ガルディスを拘束し、学院に連行した。
「情報を、吐かせる」
「尋問ね」
「ああ。黒幕が誰か、突き止める」
* * *
「ガルディス、黒幕は誰だ」
「言うと思うか」
「言わなければ、力ずくで聞き出す」
「......」
「どちらがいい」
* * *
「......」
ガルディスは、しばらく黙っていた。
「......教会の大司教だ」
「大司教?」
「彼が、全てを計画している」
「目的は」
「深淵王の力を、利用する」
* * *
「利用? どうやって」
「深淵王を制御し、世界を支配する」
「馬鹿な」
「できると、信じている」
「狂ってるわね」
* * *
「だが、お前たちには止められない」
「なぜだ」
「深淵王の覚醒は、もう止められない段階に入っている」
「......」
「あと数日で、完全に目覚める」
* * *
「数日......」
「その間に、何とかしないと」
「方法は」
「カイの力を、最大限に引き出す」
「深淵王と、戦える状態にする」
* * *
「できるの?」
「やるしかない」
「時間が、ない」
「分かっている」
「急ごう」
* * *
撤退命令の裏には、深い陰謀があった。
そして、深淵王の覚醒は──
もう、止められない段階に入っていた。
* * *
次回予告
* * *
深淵王アザルの名が、記録に現れる。
早期覚醒が、確定した。
そして、第3部は──終幕を迎える。
第15話「最初の"名"」
「深淵王......アザル......」
「ついに、目覚めるのか」
決戦への序章──




