第11話「カイの選択」
武術大会が終わり、数日が経った。
カイの元に、教会からの使者が訪れた。
「カイ・レイナー殿、お話があります」
「何でしょうか」
「ベルナール司祭が、お会いしたいと」
* * *
「ベルナール司祭が......」
カイは、ルークに相談した。
「教会から、呼び出しがありました」
「呼び出し?」
「はい。ベルナール司祭が、会いたいと」
「何の用だろうな」
* * *
「行ってみるか」
「はい。でも、一人では不安で......」
「俺も同行しよう」
「ありがとうございます」
* * *
教会を訪ねた。
「ようこそ、カイ君。そして、ギルバート様」
ベルナールが出迎えた。
「用件を聞きたい」
「単刀直入に申しましょう」
* * *
「カイ君、あなたに英雄になってほしいのです」
「英雄......」
「教会の象徴として、民衆を導く存在に」
「......」
* * *
「英雄になれ、ということか」
ルークが確認した。
「そうです」
「断る」
「お待ちください、ギルバート様」
「カイは、道具じゃない」
* * *
「道具などとは、思っておりません」
「だが、象徴として利用するつもりだろう」
「利用ではなく、協力です」
「言葉を変えても、同じことだ」
* * *
「カイ君、あなた自身はどう思いますか」
ベルナールが、カイに直接尋ねた。
「僕は......」
「英雄として、民衆を救いたくはありませんか」
「救いたいとは思います」
「なら──」
「でも、教会の道具になりたいわけじゃありません」
* * *
「道具ではありません」
「では、何ですか」
「パートナーです」
「パートナー?」
「教会と、対等な立場で協力する」
「......」
* * *
「教会の指示に従うのではなく」
「僕自身の意志で、行動したいんです」
「......」
「それが、僕の条件です」
* * *
「難しいお願いですね」
ベルナールは溜息をついた。
「教会には、組織としてのルールがあります」
「分かっています」
「あなたの条件を、全て受け入れるのは......」
「では、お断りします」
* * *
「待ってください」
「何か」
「妥協点を、探りましょう」
「妥協点?」
「完全な自由は与えられませんが、ある程度の裁量権は......」
* * *
「ルーク、どう思いますか」
「お前が決めろ」
「え?」
「お前の人生だ。俺が決めることじゃない」
「でも......」
「俺は、お前の選択を尊重する」
* * *
「......」
カイは考えた。
「ベルナール司祭」
「はい」
「もう少し、考える時間をください」
「どれくらい」
「一週間」
「......いいでしょう」
* * *
教会を出た後。
「カイ、悩んでいるな」
「はい......」
「話してみろ」
* * *
「僕は、人を助けたいんです」
「ああ」
「でも、誰かの道具になるのは嫌なんです」
「分かる」
「どうすれば、両立できるのか......」
* * *
「難しい問題だな」
「はい」
「だが、答えは一つじゃない」
「どういうことですか」
「英雄になる方法は、教会以外にもある」
* * *
「教会以外......」
「俺たちと一緒に、世界を救う」
「それも、英雄ですか」
「ああ。教会に認められなくても、な」
「......」
* * *
「大切なのは、誰に認められるかじゃない」
「......」
「自分が、何をしたいか。それだけだ」
「自分が、何をしたいか......」
「お前は、何をしたい」
* * *
「僕は......」
カイは、じっくり考えた。
「困っている人を、助けたいです」
「ああ」
「でも、自分の意志で」
「そうか」
「誰かに言われてじゃなく、自分で決めて」
* * *
「なら、答えは出ているんじゃないか」
「答え......」
「教会の申し出を、断ればいい」
「でも、教会と対立することに......」
「俺がついている」
* * *
「ルーク......」
「サラも、カイの仲間たちも」
「......」
「一人で背負わなくていい」
「......ありがとうございます」
* * *
一週間後。
カイは、教会を訪ねた。
「答えが出ましたか」
「はい」
「それで?」
* * *
「お断りします」
「......」
「僕は、教会の英雄にはなりません」
「残念です」
「でも、人を助けることは続けます」
「......」
「僕自身の意志で」
* * *
「そうですか」
ベルナールは、溜息をついた。
「仕方ありませんね」
「すみません」
「いいえ。あなたの選択です」
「......」
「ただ、覚えておいてください」
* * *
「何をですか」
「いつでも、教会の扉は開いています」
「......」
「気が変わったら、いつでも来てください」
「......ありがとうございます」
* * *
教会を出た。
「よく言ったな」
「はい」
「お前は、自分の道を選んだ」
「ルークのおかげです」
「俺は、何もしていない」
* * *
「いいえ」
「ルークが、一緒にいてくれたから」
「......」
「だから、決断できました」
「そうか」
「これからも、よろしくお願いします」
「ああ」
* * *
「でも、教会は諦めていないわね」
サラが言った。
「ああ。いずれ、また何か仕掛けてくるだろう」
「その時は、また対処しましょう」
「そうだな」
* * *
「僕、決めました」
カイが言った。
「何を」
「自分の道を、自分で切り開きます」
「......」
「英雄かどうかは、関係ありません」
「......」
「ただ、正しいと思うことをする。それだけです」
* * *
「いい考えだ」
ルークは微笑んだ。
「お前は、成長したな」
「ルークに、教わりました」
「俺に?」
「自分で選ぶことの大切さを」
* * *
「俺は、そんなことを教えた覚えはないが」
「でも、ルークは常にそうしてきました」
「......」
「自分の道を、自分で決めて」
「......」
「だから、僕もそうしたいんです」
* * *
「分かった」
「俺は、お前を応援する」
「ありがとうございます」
「これからも、一緒に戦おう」
「はい!」
* * *
カイは、選択した。
英雄の道ではなく、自分の道を。
「俺たちは、自分たちの物語を作る」
ルークは、そう確信した。
* * *
次回予告
* * *
カイの選択が終わった夜、深淵魔の大群が襲来。
学院が、危機に陥る。
そして、カイは覚醒の手前まで──
第12話「夜襲」
「深淵魔が、大量に......!」
「俺たちで、食い止める......!」
最大の危機が、訪れる──




