表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ざまぁ役は、主人公の専属コーチになりました  作者: とま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/16

第4話「基礎の再構築」

サラが加わってから、稽古の質は格段に上がった。


「よし、今日から三人での訓練を始める」


ルークは、廃倉庫の中央に立っていた。


カイとサラが、向かい合って座っている。


「まず、基本的な役割分担を決める」


「役割分担?」


カイが首を傾げた。


「そうだ。俺は理論と技術の指導を担当する。サラは──」


「実戦形式の相手役ね」


サラが引き継いだ。


「私の方が、カイの実力に近い。だから、組み手の相手として適任」


「そういうことだ」


ルークは頷いた。


「俺がカイと組み手をすると、実力差がありすぎる。学びにならない」


「確かに......」


カイは苦笑した。


「ルークに勝てる気、全然しないですもん」


* * *


「では、早速始める」


ルークは壁際に下がった。


「カイ、サラと組み手をしろ。俺は見ている」


「は、はい」


「私も手加減はしないわよ」


サラは剣を構えた。


その構えは、無駄がなく美しい。剣術科首席の名は伊達ではない。


「よろしくお願いします」


カイも剣を構えた。


緊張が走る。


「始め」


ルークの合図と同時に、二人が動いた。


* * *


サラの剣が、鋭く閃いた。


「っ!」


カイは咄嵯に受ける。


「まだまだ」


サラは連続で斬りかかった。


上段、中段、下段──流れるような連撃。


カイは必死に防いだ。


「くっ......!」


だが、防戦一方だ。


攻撃に転じる隙がない。


「遅い」


サラの剣が、カイの首筋で止まった。


「一本」


「......くそっ」


カイは悔しそうに唇を噛んだ。


* * *


「もう一回、お願いします」


「いいわよ」


再び、二人が構える。


「始め」


今度は、カイが先に動いた。


「はあっ!」


渾身の斬撃。


だが──


「読めてるわ」


サラは軽々と躱した。


そしてカウンター。


「っ!」


カイは辛うじて受けたが、体勢を崩した。


「甘い」


サラの追撃が、カイの胴を捉えた。


「二本目」


* * *


「......駄目だ」


カイは膝をついた。


「全然、勝てない......」


「当然よ」


サラは剣を下ろした。


「私は剣術科の首席。あなたは入学して一ヶ月の新入生。実力差があって当然」


「でも......」


「落ち込む必要はないわ」


サラはカイに手を差し伸べた。


「あなた、入学時よりずっと上達してる。それは事実よ」


「......そうですか?」


「ええ。最初の頃とは、別人みたい」


カイはサラの手を取り、立ち上がった。


「ありがとうございます......」


* * *


「さて」


ルークが二人に近づいた。


「今の組み手を見て、問題点が分かった」


「問題点?」


「カイ、お前の弱点は三つある」


ルークは指を立てた。


「一つ目。呼吸が乱れている」


「呼吸......」


「組み手が始まった途端、息が上がっていた。緊張すると、呼吸が浅くなる癖がある」


カイは思い返した。


確かに、サラと向かい合った瞬間、胸が苦しくなっていた。


「二つ目。姿勢が崩れている」


「姿勢......」


「攻撃を受けるたびに、重心が後ろに下がっていた。だから、反撃に転じられない」


「確かに、押されっぱなしでした......」


「三つ目。魔力循環が途切れている」


「魔力......」


「お前は緊張すると、魔力の流れが止まる。だから、動きが鈍くなる」


* * *


カイは項垂れた。


「全部、僕の悪い癖ですね......」


「癖は直せる」


ルークは言った。


「今日から、基礎の再構築を始める」


「基礎の再構築?」


「呼吸、姿勢、魔力循環。この三つを、根本から叩き直す」


「......はい」


「辛い訓練になる。覚悟しろ」


カイは顔を上げた。


「覚悟します。強くなるためなら、何でもやります」


「よし。その意気だ」


ルークは微かに笑った。


「サラ、お前も付き合ってくれ」


「もちろんよ」


* * *


「まず、呼吸から始める」


ルークはカイの前に立った。


「目を閉じろ。息を深く吸え」


「......」


「腹に空気を溜めるイメージだ。胸で吸うな、腹で吸え」


「......」


カイは言われた通りにした。


「そのまま、三秒止めろ」


「......」


「ゆっくり吐け。六秒かけて」


「......はあ」


「それを繰り返せ。吸って三秒、止めて三秒、吐いて六秒」


カイはリズムを刻んだ。


吸う。止める。吐く。


吸う。止める。吐く。


「いい感じだ」


ルークの声が聞こえた。


「この呼吸法を、体に染み込ませろ。戦闘中でも、無意識にできるようになるまで」


* * *


「次は姿勢だ」


ルークはカイの体を手で直した。


「膝を軽く曲げろ。腰を落とせ。肩の力を抜け」


「こう......ですか」


「もう少し前傾。重心を、両足の間に置け」


「......」


「剣を構えろ。そのままの姿勢で」


カイは剣を構えた。


「どうだ。苦しくないか」


「......少し、きついです」


「当然だ。お前の体は、正しい姿勢に慣れていない」


「......」


「だが、これができれば、攻撃を受けても崩れなくなる」


「本当ですか?」


「ああ。試してみろ。サラ」


サラが前に出た。


「軽く押すわよ」


サラがカイの肩を押した。


「っ」


カイは、辛うじて姿勢を保った。


「おお......倒れない」


「それが正しい姿勢の効果だ」


* * *


「最後に、魔力循環だ」


ルークはカイの背中に手を当てた。


「目を閉じろ。体の中心に意識を向けろ」


「......はい」


「魔力の流れを感じるか」


「......はい、何となく」


「それを、常に流し続けるイメージだ。止めるな、途切れさせるな」


「......」


「俺が魔力を送る。それを追いかけろ」


暖かな光が、カイの体を巡った。


「あ......」


「感じるか」


「はい......これが、正しい流れ......」


「そうだ。この感覚を覚えろ。戦闘中でも、この流れを維持しろ」


「......分かりました」


* * *


「では、もう一度組み手をする」


ルークが離れた。


「カイ、今教えた三つを意識しろ。呼吸、姿勢、魔力循環」


「はい」


「サラ、同じ強さで来い」


「分かったわ」


二人が構えた。


カイは、深く息を吸った。


腹に空気を溜める。三秒止める。ゆっくり吐く。


姿勢を整える。膝を曲げ、腰を落とし、重心を安定させる。


魔力を循環させる。体の中心から、全身に流れを作る。


「始め」


* * *


サラが斬りかかった。


同じ速度。同じ角度。


だが──


「っ!」


カイは、今度は崩れなかった。


「やるじゃない」


サラは連撃を繰り出した。


上段、中段、下段。


カイは一つ一つを丁寧に受けた。


「まだまだ!」


サラの剣が加速する。


だが、カイは食らいついた。


「はあっ!」


カイが反撃に転じた。


「!」


サラは驚きながらも、軽々と躱した。


「そこまで」


ルークの声。


二人は剣を下ろした。


* * *


「どうだった、カイ」


「......全然違います」


カイは興奮した様子だった。


「さっきより、体が軽い。動きやすい」


「それが、基礎の効果だ」


ルークは頷いた。


「呼吸が整えば、酸素が十分に回る。姿勢が正しければ、力が逃げない。魔力が循環すれば、反応が速くなる」


「すごい......」


「基礎は、全ての土台だ。これがなければ、どんな技術も宝の持ち腐れになる」


カイは、自分の手を見つめた。


「今まで、こんなこと教わったことありませんでした」


「辺境の村では、教えられる人がいなかったんだろう」


「はい......」


「だが、今は違う。俺とサラがいる」


ルークはカイの肩を叩いた。


「強くなれ、カイ」


「......はい!」


* * *


それから、毎日の稽古が始まった。


朝は呼吸法の訓練。昼は姿勢の維持。夜は魔力循環の練習。


そして放課後は、三人での組み手。


一週間が過ぎた。


「カイ、また上達したわね」


サラは感心したように言った。


「本当ですか?」


「ええ。一週間前とは別人よ」


「サラの言う通りだ」


ルークも頷いた。


「お前の成長速度は、俺の予想を超えている」


「......」


「才能だけじゃない。努力の仕方が正しい」


カイは、照れくさそうに頭を掻いた。


「ルークとサラさんのおかげですよ」


* * *


だが、その成長は──周囲の目にも留まり始めていた。


授業中。


「レイナー君、素晴らしい動きだ」


剣術の教官が、感嘆の声を上げた。


「入学時とは見違えるようだな」


「あ、ありがとうございます」


「どんな練習をしているんだ?」


「えっと......グループ練習と、自主練習を......」


「そうか。努力が実を結んでいるな。この調子で頑張れ」


「はい」


教官が去った後、カイはほっと胸を撫で下ろした。


「危なかった......」


周囲の生徒たちが、ひそひそと囁き合っている。


「あの平民、どんどん強くなってないか?」


「おかしいよな。入学時はド素人だったのに」


「誰かに教わってるんじゃ......」


* * *


噂は、日に日に広がっていった。


「カイ・レイナーという平民が、異常な速度で成長している」


「独学ではあり得ない上達だ」


「誰かが裏で糸を引いているに違いない」


そして、その噂は──教会の耳にも届いた。


「白燐教」


王国で最も権威のある宗教組織。


彼らは、ある伝説を信じていた。


「勇者」の伝説を。


「カイ・レイナー......」


教会の神官が、その名を呟いた。


「この少年、もしかすると......」


* * *


ある日の夕方。


カイは、寮に戻ろうとしていた。


「カイ・レイナー君」


呼び止められた。


振り向くと、見慣れない人物が立っていた。


白い法衣。胸には、白燐教の紋章。


神官だ。


「......何か、ご用ですか」


「少し、話を聞かせてもらえないかな」


神官は穏やかに微笑んだ。


「私は白燐教の司祭、ベルナール。君のことを調べさせてもらっているんだ」


「調べて......?」


「そう。君の成長が、とても興味深くてね」


カイは警戒した。


「何のためにですか」


「君が、特別な存在かどうかを確かめるため、さ」


* * *


「特別な存在......?」


「そう。我々は、ある人物を探している」


ベルナールは語り始めた。


「伝説に語られる、世界を救う者。勇者と呼ばれる存在だ」


「勇者......」


「勇者は、常人では考えられない速度で成長する。才能と、神の加護を併せ持つ」


「......」


「君は、その条件に当てはまる可能性がある」


カイは言葉を失った。


勇者?


自分が?


「もちろん、まだ確定ではない」


ベルナールは言った。


「だから、確認させてほしいんだ。君の魔力を測定し、加護の有無を調べさせてくれ」


* * *


「お断りします」


カイは即座に答えた。


「おや、なぜだい?」


「僕は、ただの平民です。勇者なんかじゃありません」


「それは、調べてみないと分からないだろう?」


「調べる必要はありません」


カイの声は、硬かった。


「僕は、自分の力で強くなりたいだけです。神の加護とか、勇者とか、そういうのは関係ありません」


ベルナールは、しばらくカイを見つめていた。


「......そうか。残念だ」


「失礼します」


カイは足早に去っていった。


ベルナールは、その背中を見送りながら呟いた。


「興味深い少年だ......」


* * *


その夜、カイはルークに報告した。


「教会の人に声をかけられました」


『何だと?』


魔力通信越しでも、ルークの緊張が伝わってきた。


「勇者がどうとか、測定させてほしいとか......」


『断ったのか?』


「はい。きっぱり」


『......よくやった』


「でも、あの人......諦めた感じじゃなかったです」


『当然だ。教会は、勇者を手に入れるためなら何でもする連中だ』


「そんな......」


『カイ、気をつけろ。これから、教会の監視が強まる可能性がある』


「分かりました......」


* * *


翌日。


ルーク、カイ、サラの三人は、秘密の稽古場所で会合を開いた。


「教会が動き出したか......」


ルークは腕を組んだ。


「予想より早いな」


「教会って、そんなに厄介なの?」


サラが尋ねた。


「ああ。王国で最も影響力のある組織の一つだ」


「......」


「彼らは『勇者』を管理したがっている。勇者を見つけ、教育し、自分たちの駒にする」


「駒に......」


「そうだ。純粋な信仰心もあるだろうが、政治的な思惑も大きい」


カイは眉をひそめた。


「僕、勇者なんかじゃないのに......」


「お前が勇者かどうかは問題じゃない」


ルークは言った。


「問題は、教会がお前を『勇者候補』として目をつけたことだ」


* * *


「どうすればいいの?」


サラが聞いた。


「今のところ、静観するしかない」


ルークは答えた。


「教会は、まだ正式に動いていない。あくまで打診の段階だ」


「でも、これからもっと積極的になるんじゃ......」


「その可能性は高い」


「じゃあ......」


「だからこそ、カイを早く強くする必要がある」


ルークはカイを見た。


「決闘の日程が近づいている。それまでに、お前を俺と互角のレベルに引き上げる」


「......はい」


「決闘が終われば、状況が変わる。教会への対策も、その後で考える」


「分かりました」


カイは頷いた。


「今は、稽古に集中します」


* * *


「それでいい」


ルークは立ち上がった。


「では、今日の稽古を始める」


「今日は何をやるんですか?」


「応用技術だ」


「応用?」


「基礎は十分に固まった。次は、それを実戦で活かす方法を教える」


カイの目が輝いた。


「楽しみです」


「楽しめるうちはいい。だが、今日は相当きついぞ」


「覚悟してます」


「よし。サラ、お前も準備しろ」


「言われなくても」


サラは剣を抜いた。


「私も、本気で行かせてもらうわ」


* * *


「今日教えるのは、『読み』の技術だ」


ルークは説明した。


「相手の動きを予測し、先に対応する能力」


「読み......」


「強い剣士は、相手が動く前にその動きを読んでいる。だから、反応が速い」


「そんなことできるんですか?」


「できる。訓練すれば」


ルークは剣を構えた。


「まず、見本を見せる。サラ、攻撃してくれ」


「分かったわ」


サラがルークに斬りかかった。


上段。


だが、ルークはその前に動いていた。


「!」


サラの剣が空を切る。


ルークは既に、彼女の横に回り込んでいた。


「......速い」


「速くない。読んでいるだけだ」


* * *


「どうやって読んでるんですか?」


カイが尋ねた。


「目線、肩の動き、足の位置──全てが、次の動きを示している」


ルークは解説した。


「サラは上段を打つ前に、肩が上がった。だから、上段が来ると分かった」


「そんな細かいこと......」


「最初は見えない。だが、訓練すれば見えるようになる」


「......」


「今日から、この訓練を始める。相手の動きを観察し、予測する」


カイは唾を飲み込んだ。


「分かりました」


「最初は難しい。だが、諦めるな」


「はい」


* * *


訓練が始まった。


「カイ、サラの動きをよく見ろ」


「はい......」


「サラ、ゆっくり動いてくれ」


「分かったわ」


サラがゆっくりと剣を振り上げた。


「今、サラの肩が動いた」


「......あ、本当だ」


「そして、足が踏み込む準備をしている」


「......」


「これが、次の動きを示すサインだ」


カイは必死に観察した。


サラの動き、一つ一つを。


「もう一度、お願いします」


「いいわよ」


サラが再び動いた。


「......肩が動いた。足が......」


「そうだ。それを見逃すな」


* * *


何度も、何度も繰り返した。


「今の、分かりましたか?」


「少しだけ......」


「もう一度」


「はい」


サラが動く。


カイが観察する。


「......ここだ」


「正解。次」


徐々に、カイの目が慣れていった。


「見える......少しずつ、見えてきた......」


「いい調子だ」


ルークは満足げに頷いた。


「では、次のステップに進む」


「次?」


「実際に動いてみろ。読んだ動きに対して、対応しろ」


「......分かりました」


* * *


カイは剣を構えた。


サラがゆっくり攻撃してくる。


「肩が動いた......上段だ」


カイは上段を防ぐ位置に剣を構えた。


サラの剣が、そこに吸い込まれるように当たった。


「......できた」


「よし。次」


サラが再び攻撃。


「足が......横に動いた。横斬りだ」


カイは横を防いだ。


「正解」


「......!」


「いい感じね」


サラは微笑んだ。


「飲み込みが早いわ」


* * *


「では、速度を上げる」


ルークが言った。


「サラ、普通の速度で」


「分かったわ」


サラの動きが、一気に加速した。


「っ!」


カイは反応が遅れた。


サラの剣が、カイの胴を捉えた。


「一本」


「......くっ」


「まだまだね」


「もう一回、お願いします」


「いいわよ」


再び、サラが攻撃。


カイは必死に観察した。


「肩......!」


間に合わない。


また、胴を捉えられた。


* * *


「焦るな」


ルークが言った。


「速い動きを読むのは、一朝一夕ではできない」


「でも......」


「大事なのは、継続だ。毎日続ければ、必ずできるようになる」


「......はい」


「今日はここまでにしておく。明日も同じ訓練をする」


「分かりました」


カイは肩を落とした。


「落ち込むことはないわよ」


サラがカイに近づいた。


「初日でここまでできれば、上出来よ」


「そうですか......?」


「ええ。私だって、最初はもっと下手だったわ」


「......」


「焦らず、一歩一歩進めばいいのよ」


* * *


その夜、カイは寮の自室で考えていた。


「読みの技術......」


難しい。


でも、できるようになりたい。


「強くなりたい」


その想いは、日に日に強くなっていた。


入学した頃は、ただ生き残りたいだけだった。


辺境の村から出てきて、貴族だらけの学院で居場所を見つけたかった。


でも今は、違う。


「ルークやサラさんと、対等になりたい」


彼らは、自分を認めてくれている。


その期待に応えたい。


「頑張ろう」


カイは拳を握りしめた。


* * *


一方、教会では──


「カイ・レイナーについて、追加の報告があります」


若い神官が、ベルナールに報告していた。


「学院内での成績が、急上昇しています」


「ほう」


「特に剣術と魔法基礎で、顕著な伸びが見られます」


「興味深いな」


ベルナールは顎を撫でた。


「やはり、ただの平民ではないようだ」


「どうされますか?」


「もう少し観察を続けよう」


「本人は協力を拒否しましたが......」


「焦る必要はない」


ベルナールは微笑んだ。


「いずれ、彼から来ることになる」


* * *


「どういう意味ですか?」


「勇者の加護は、持ち主の意志に関係なく顕現する」


ベルナールは説明した。


「彼が強くなればなるほど、加護は目覚めていく」


「......」


「そして、加護が目覚めれば、彼は我々を必要とするようになる」


「なぜです?」


「加護は、制御が難しいからだ。暴走すれば、周囲を巻き込む災厄となる」


「......」


「我々だけが、加護を制御する方法を知っている。彼は、いずれ我々に助けを求める」


若い神官は、ぞっとした。


「それは......」


「心配するな。我々は、彼を助けるために存在している」


ベルナールは立ち上がった。


「それが、白燐教の使命だ」


* * *


翌日。


カイは、いつものように授業を受けていた。


「今日の実技は、模擬戦だ」


教官が発表した。


「二人一組で対戦してもらう」


生徒たちがざわめく。


「組み合わせは──」


教官がリストを読み上げていく。


「カイ・レイナーと......」


カイは緊張した。


「アルベルト・ランカスター」


「......!」


アルベルト・ランカスター。


伯爵家の次男で、剣術の腕は新入生の中でもトップクラス。


そして──マルクスの派閥に属する男だ。


* * *


「よろしく、平民くん」


アルベルトが近づいてきた。


嘲笑を含んだ笑顔。


「楽しみだよ。君がどれだけ成長したか、見せてもらおうか」


「......よろしくお願いします」


カイは冷静を保った。


「おや、怯えないのか。度胸はあるようだ」


「......」


「だが、度胸だけでは勝てないぞ」


アルベルトは剣を抜いた。


「せいぜい、恥をかかないようにな」


* * *


模擬戦が始まった。


「始め!」


アルベルトが突進してきた。


「はっ!」


鋭い突き。


カイは咄嵯に躱した。


「おっと、避けたか」


「......」


「だが、これはどうだ!」


連続攻撃。


上段、下段、横薙ぎ。


カイは全てを防いだ。


「......ほう」


アルベルトの目が、わずかに細くなった。


「思ったより、やるじゃないか」


* * *


「今度は、僕から行きます」


カイが攻撃に転じた。


「肩の動き......」


ルークから教わった『読み』を思い出す。


アルベルトの肩が、わずかに動いた。


「左だ」


カイは右に斬り込んだ。


「っ!」


アルベルトは辛うじて防いだ。


「貴様......」


「まだです」


カイは攻撃を続けた。


読んで、動く。読んで、動く。


「くっ......!」


アルベルトが後退する。


「やるな、平民......!」


* * *


周囲の生徒たちが、どよめいた。


「嘘だろ......」


「あの平民、アルベルトと互角に戦ってる......」


「入学時とは別人だ......」


教官も、目を見開いていた。


「レイナーの成長、凄まじいな......」


カイとアルベルトの戦いは、一進一退だった。


どちらも決定打を与えられない。


そして──


「そこまで!」


教官が止めに入った。


「時間切れだ。引き分けとする」


* * *


「引き分け......だと......」


アルベルトは信じられない様子だった。


「この俺が、平民と引き分け......」


「よくやったぞ、二人とも」


教官が褒めた。


「レイナー、素晴らしい成長だ。この調子で頑張れ」


「ありがとうございます」


「ランカスター、油断は禁物だぞ」


「......はい」


アルベルトは悔しそうに唇を噛んだ。


そして、カイを睨みつけた。


「覚えてろ、平民......」


「......」


「次は、こうはいかない」


アルベルトは足早に去っていった。


* * *


放課後。


カイは、サラに出会った。


「見てたわよ、模擬戦」


「あ、サラさん......」


「よくやったわね。アルベルトと引き分けるなんて」


「ありがとうございます。でも、勝てませんでした......」


「贅沢言わないの」


サラは笑った。


「あの男、新入生の中ではトップクラスよ。それと引き分けただけでも、大したものよ」


「そうですか......」


「ルークの訓練の成果ね」


「はい。読みの技術、少し使えました」


「そう。よかったわね」


サラはカイの肩を叩いた。


「この調子で、頑張りなさい」


* * *


その夜、ルークからの通信があった。


『今日の模擬戦、聞いたぞ』


「はい。引き分けでした」


『十分だ。アルベルトは強い。それと互角に戦えるなら、順調に成長している』


「ありがとうございます」


『だが、油断するな』


「はい」


『アルベルトは、マルクスの派閥だ。今日の敗北を、黙って受け入れるとは思えない』


「......確かに、睨まれました」


『報復が来る可能性がある。気をつけろ』


「分かりました」


『それと、教会の動きにも注意しろ』


「はい」


カイは、ベルナールの顔を思い出した。


あの穏やかな笑顔の裏に、何が隠れているのか。


「......気をつけます」


* * *


決闘まで、あと三週間。


カイの成長は続いていた。


だが、その成長は──周囲の注目を集め、新たな火種を生んでいた。


派閥の貴族たち。


教会の神官たち。


そして──学院の地下深くで、何かが脈動していた。


「均衡が......崩れ始めている......」


深い闘の中で、声が響いた。


「この少年......面白い......」


物語の歯車が、加速し始めていた。


* * *


次回予告


* * *


カイの成長を快く思わない者たちが動き出す。

ルークの取り巻きが、「台本通りの悪役」を演じろと迫る。

派閥の圧力が、三人を追い詰める。


第5話「派閥の圧」


「お前は、傲慢な貴族のはずだろう」

「平民を鍛えるなど、家名の恥だ」


ルークの決断が、試される──


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ