第9話「台本の修復」
ある朝、学院に衝撃的な知らせが届いた。
「サラ・ヴァレンシュタインを、召喚する」
王家からの、正式な召喚状だった。
「何事だ......」
* * *
「サラ、何かしたの?」
「何も......」
「心当たりはないの?」
「全くないわ」
「では、なぜ......」
* * *
召喚状の理由は、衝撃的だった。
『サラ・ヴァレンシュタインは、王家への反逆罪の容疑で取り調べを受ける』
「反逆罪......!」
「嘘よ。私は、そんなことしていない」
* * *
「何かの間違いだ」
ルークが言った。
「サラが、王家に反逆するはずがない」
「分かっているわ。でも......」
「召喚を無視するわけにはいかない」
* * *
「行くしかないわね」
「俺も同行する」
「でも、あなたは......」
「お前一人で行かせるわけにはいかない」
「ルーク......」
「カイ、お前も来い」
「はい」
* * *
王宮に向かった。
「サラ・ヴァレンシュタイン、参りました」
「入れ」
取り調べ室に通された。
* * *
「サラ・ヴァレンシュタイン」
高官が言った。
「お前に、反逆罪の容疑がかかっている」
「身に覚えがありません」
「証拠がある」
「証拠?」
* * *
「これを見ろ」
高官が、書類を差し出した。
「これは......」
「お前が、敵国に情報を流していた証拠だ」
「嘘です。私は、そんなことしていません」
* * *
「この書類には、お前の筆跡がある」
「偽造です」
「偽造だと?」
「私の筆跡を真似た、偽物です」
「証明できるか」
「......」
* * *
「ルーク、これは......」
「罠だ」
「罠?」
「誰かが、サラを陥れようとしている」
「誰が......」
* * *
「待ってください」
ルークが前に出た。
「その書類、検証させてください」
「検証?」
「専門家に見せれば、偽造かどうか分かります」
「......」
* * *
「私は、ギルバート家の嫡男です」
「それは知っている」
「ギルバート家の名にかけて、サラの無実を証明します」
「......」
「一週間、猶予をください」
* * *
「一週間、か」
高官は考え込んだ。
「......いいだろう」
「ありがとうございます」
「だが、サラは監視下に置く」
「構いません」
* * *
王宮を出た。
「ルーク、ありがとう」
「礼はまだ早い。証拠を見つけないと」
「どうやって」
「筆跡鑑定の専門家を探す」
「そして、偽造を暴く」
* * *
「でも、誰が私を陥れようと......」
「心当たりはないか」
「......マルクスかしら」
「マルクス?」
「彼なら、私を排除しようとするかもしれない」
* * *
「確かに、動機はある」
「お前を排除すれば、俺たちの戦力が削がれる」
「でも、証拠がないわ」
「証拠を見つけよう」
* * *
「カイ、マルクスの周辺を調べてくれ」
「分かりました」
「何か、手がかりがあるかもしれない」
「はい」
「俺は、筆跡鑑定の専門家を探す」
* * *
数日後。
「ルーク様、分かりました」
カイが報告した。
「何が分かった」
「マルクスの側近が、最近ある人物と接触しています」
「誰だ」
「王宮の書記官です」
* * *
「書記官......」
「その書記官は、公文書の偽造を専門にしているという噂があります」
「なるほど」
「サラさんの筆跡を真似たのは、彼かもしれません」
「証拠を掴む必要があるな」
* * *
一方、ルークは筆跡鑑定の専門家を見つけた。
「この書類を、鑑定してほしい」
「承知しました」
専門家は、書類を詳しく調べた。
「......これは」
「どうだ」
「偽造ですね。筆跡は似せていますが、筆圧が違います」
* * *
「偽造の証拠が、見つかった」
「本当?」
「ああ。鑑定書も作成してもらった」
「よかった......」
「だが、これだけでは足りない」
「足りない?」
「誰が偽造したか、突き止める必要がある」
* * *
「書記官を、調べよう」
「どうやって」
「直接、会いに行く」
「危険じゃない?」
「危険でも、やるしかない」
* * *
ルークは、書記官を訪ねた。
「失礼する」
「何の用だ」
「質問がある」
「質問?」
「お前は、サラ・ヴァレンシュタインの筆跡を偽造したか」
* * *
「何を言っている」
「しらばっくれるな」
「証拠でもあるのか」
「ある」
「......」
「筆跡鑑定で、偽造が判明した」
* * *
「......」
書記官の顔色が変わった。
「そして、お前がマルクスの側近と接触していたことも分かっている」
「......」
「白状しろ。誰に頼まれた」
* * *
「......」
書記官は、しばらく黙っていた。
「......マルクス様だ」
「やはりか」
「金を積まれて、偽造を頼まれた」
「証言してくれるか」
「......殺される」
「守ってやる」
* * *
「本当に、守ってくれるのか」
「ギルバート家の名にかけて」
「......分かった」
「証言する」
「ありがとう」
* * *
王宮に、証拠を提出した。
「これが、偽造の証拠です」
「そして、書記官の証言です」
「マルクスが、サラを陥れるために偽造を指示した」
* * *
「......」
高官は、証拠を確認した。
「確かに、偽造のようだな」
「サラは、無実です」
「......分かった。容疑を取り下げる」
「ありがとうございます」
* * *
「しかし、マルクスへの処分は......」
「証言があっても、難しいか」
「貴族への処分は、慎重に行わなければならない」
「......分かりました」
「だが、厳重注意は行う」
* * *
「サラ、よかったわね」
「ええ......ルークのおかげよ」
「俺だけじゃない。カイも手伝ってくれた」
「カイも、ありがとう」
「いえ、当然のことです」
* * *
「これで、物語補正が一つ防げた」
「物語補正?」
「お前が排除されれば、俺たちの力が弱まる」
「それが、物語の望む展開だったのね」
「そうだ。だが、防いだ」
* * *
「でも、マルクスは処分されなかった」
「ああ。貴族社会は、そういうものだ」
「悔しいわね」
「だが、これで奴も簡単には動けない」
「そうね」
* * *
「これからも、気をつけないと」
「ああ」
「物語は、まだ俺たちを排除しようとしている」
「次は、誰が標的になるか分からないわ」
「だから、警戒を怠るな」
* * *
「分かっているわ」
「三人で、乗り越えよう」
「「はい」」
* * *
台本の修復──物語補正は、一時的に防がれた。
だが、運命は──
まだ、諦めていなかった。
* * *
次回予告
* * *
サラへの濡れ衣は晴れた。
だが、新たな危機が迫る。
サラの名誉を、完全に回復するために。
第10話「剣姫の汚名」
「私の名誉を、取り戻す」
「そのために、何でもする」
サラの戦いが、始まる──




