第4話「交渉の剣」
供物の儀を阻止してから、数日が経った。
三人は、北への旅を続けていた。
「追手は、来ないわね」
「ああ。教会も、簡単には動けないようだ」
「よかった」
* * *
「でも、これからは気をつけないと」
「どういうこと」
「ガルディスは、俺たちを覚えている」
「報復が、あるかもしれない」
「そうだな」
* * *
「後悔してる?」
「いや」
「私も、してないわ」
「僕も、です」
「なら、いい。先に進もう」
* * *
次の町に到着した。
「ここは、国境の町か」
「ええ。この先は、別の領地になるわ」
「別の領地......」
「通過するには、許可が必要よ」
* * *
「許可?」
「そう。領主の許可状が必要」
「面倒だな」
「仕方ないわ。ここは、厳しい地域なの」
「どうすれば、許可がもらえる」
「領主に、直接交渉するしかないわね」
* * *
「交渉か」
ルークは考えた。
「俺が行こう」
「あなたが?」
「ああ。こういう交渉は、俺の得意分野だ」
「確かに、貴族同士の交渉なら......」
「任せてくれ」
* * *
「私とカイは、どうする?」
「町の様子を調べておいてくれ」
「分かったわ」
「何か問題がないか、確認しておく」
「頼んだ」
* * *
ルークは、領主の屋敷を訪ねた。
「ギルバート家の者だ。領主殿に会いたい」
「お待ちください」
しばらくして、執事が戻ってきた。
「お通しします」
* * *
領主は、五十代の男だった。
「ギルバート家の嫡男が、なぜこんな辺境に」
「旅の途中です」
「旅?」
「北の聖地を目指しています」
「聖地巡礼か。珍しいな」
* * *
「領地を通過する許可をいただきたい」
「許可、か」
「何か、問題がありますか」
「問題......というほどではないが」
「では、許可を」
「待ってくれ。条件がある」
* * *
「条件?」
「この地域は、最近治安が悪い」
「治安?」
「盗賊団が、出没している」
「なるほど」
「その討伐を、手伝ってくれないか」
* * *
「盗賊討伐......」
「報酬も出す。許可状も、発行する」
「悪い話ではないな」
「だろう?」
「だが、仲間と相談してからだ」
「構わない。明日までに、返事をくれ」
* * *
ルークは、宿に戻った。
「どうだった」
「条件付きで、許可を出すと」
「条件?」
「盗賊団の討伐だ」
「盗賊......」
「治安維持の仕事だな」
* * *
「やる?」
「やるしかないだろう」
「でも、時間がかかるわね」
「聖地巡礼が、遅れるかも」
「仕方ない。許可がなければ、先に進めない」
* * *
「僕は、構いません」
カイが言った。
「困っている人を、助けられるなら」
「カイ......」
「それに、実戦経験になりますよね」
「確かに」
「では、決まりだな」
* * *
翌日、ルークは領主に返事をした。
「引き受ける」
「ありがとう。助かる」
「盗賊団の情報を、教えてくれ」
「分かった」
* * *
「盗賊団は、約三十人」
「三十人か」
「リーダーは、元傭兵のゴルドという男」
「元傭兵......」
「腕は立つ。油断しない方がいい」
「分かった」
* * *
「拠点は、森の中にある廃砦」
「廃砦?」
「昔、軍の前線基地だった場所だ」
「なるほど」
「守りは堅い。正面攻撃は、難しいだろう」
「策を考える」
* * *
三人は、作戦会議を開いた。
「三十人を、三人で相手にするのは......」
「正面からは、無理だな」
「どうする?」
「役割分担だ」
「役割分担?」
* * *
「俺は、交渉を担当する」
「交渉? 盗賊と?」
「ああ。まず、リーダーと話をする」
「何を話すの」
「投降を、勧める」
「応じるかしら」
「分からない。だが、試す価値はある」
* * *
「サラは、治安維持だ」
「治安維持?」
「盗賊が逃げた時に備えて、周囲を見張ってくれ」
「分かったわ」
「逃げた盗賊が、村を襲わないようにする」
「任せて」
* * *
「カイは、救出担当だ」
「救出?」
「盗賊団は、人質を取っているかもしれない」
「人質......」
「もし人質がいたら、お前が助け出せ」
「分かりました」
* * *
「俺が交渉している間に、二人は配置につく」
「はい」
「交渉が決裂したら、戦闘になる」
「その時は?」
「俺が正面で引きつける。その隙に、二人が動け」
「了解」
* * *
翌日、三人は廃砦に向かった。
「見えた。あれが廃砦か」
「守りが堅そうね」
「ああ。だが、やるしかない」
* * *
ルークは、正面から近づいた。
「誰だ!」
見張りが叫んだ。
「話がしたい。リーダーのゴルドに会わせろ」
「話? 何の話だ」
「投降の勧告だ」
* * *
「投降だと? 馬鹿を言うな」
「俺は本気だ。ゴルドに伝えろ」
「......待ってろ」
見張りは、砦の中へ消えた。
* * *
しばらくして、大柄な男が現れた。
「俺がゴルドだ。何の用だ」
「投降を勧める」
「投降? 笑わせるな」
「笑い事ではない。このままでは、全員死ぬ」
* * *
「死ぬ? お前一人で、何ができる」
「俺一人ではない」
「仲間がいるのか」
「ああ。そして、領主の軍も動く」
「......」
「今なら、命だけは助ける。投降しろ」
* * *
「......」
ゴルドは、考え込んだ。
「お前、何者だ」
「ルーク・ウィザリア・ギルバート」
「ギルバート......侯爵家の?」
「ああ」
「貴族のお坊ちゃんが、なぜこんなところに」
* * *
「俺にも、事情がある」
「事情、ね」
「お前にも、事情があるんだろう」
「......」
「なぜ、盗賊になった」
「......生きるためだ」
* * *
「生きるため?」
「傭兵をやっていたが、仕事がなくなった」
「......」
「飢え死にするか、盗むか。選択肢は、それだけだった」
「なるほど」
「貴族には、分からんだろうな」
* * *
「分からないわけではない」
「何?」
「生きるためなら、何でもする。それは、分かる」
「......」
「だが、方法が間違っている」
「方法?」
「盗みでは、いずれ破滅する。別の道を探せ」
* * *
「別の道? 今更、何ができる」
「傭兵の技術があるなら、正式な仕事がある」
「正式な仕事?」
「領主に、口利きしてやる」
「本当か」
「ああ。お前たちを、領主の警備隊に推薦する」
* * *
「警備隊......」
ゴルドの目に、迷いが浮かんだ。
「俺たちを、受け入れてくれるのか」
「領主には、人手が足りていない」
「......」
「元傭兵なら、即戦力になる」
「......」
* * *
「どうする。投降するか、戦うか」
「......」
ゴルドは、長い間黙っていた。
「お前、信用できるのか」
「俺は、嘘をつかない」
「......」
「約束は、必ず守る」
* * *
「......分かった」
ゴルドが言った。
「投降する」
「賢明な判断だ」
「だが、もし約束を破ったら──」
「破らない。俺の名にかけて」
「......頼んだぞ」
* * *
盗賊団は、投降した。
「全員、武器を捨てろ」
「分かった」
三十人の盗賊が、武装解除された。
「カイ、人質は」
「いました。三人、救出しました」
「よし」
* * *
領主の元に、盗賊団を連行した。
「これは......全員、捕らえたのか」
「ああ。ただし、条件がある」
「条件?」
「彼らを、警備隊として雇ってほしい」
「元盗賊を?」
「元傭兵だ。使えるぞ」
* * *
「......」
領主は、ゴルドを見た。
「本当に、真面目に働くか」
「ああ。約束する」
「......」
「俺たちにも、もう一度チャンスをくれ」
「......分かった」
* * *
「許可状を、発行する」
「ありがとう」
「お前たち、見事だった」
「いえ」
「戦わずに、解決するとは......驚いた」
「交渉も、戦いの一つです」
* * *
三人は、領地を通過する許可を得た。
「うまくいったわね」
「ああ」
「交渉で解決できるなんて」
「戦いだけが、解決策じゃない」
「そうね」
* * *
「ルーク」
「何だ」
「今回、役割分担がうまくいったわね」
「ああ」
「俺が交渉、サラが治安、カイが救出」
「これが、俺たちのチームワークだ」
* * *
「これからも、こうやっていこう」
「はい」
「三人なら、何でもできる」
「そうね」
「では、先を急ごう」
「「はい」」
* * *
三人の絆は、さらに深まった。
そして、聖地は──もう、すぐそこだった。
* * *
次回予告
* * *
ついに聖地に到着する。
だが、そこには深淵魔の巣があった。
カイの力が、試される──
第5話「深淵狩り」
「ここが、聖地......」
「だが、深淵に汚染されている」
最大の試練が、始まる──




