第3話「供物の儀」
村を発って、三日が経った。
「次の村が、見えてきたわ」
サラが言った。
「ここで、補給しよう」
「はい」
三人は、村に入った。
* * *
だが、村の様子は異様だった。
「何だ......この雰囲気」
「人が、おびえてる」
「何かあったみたいね」
* * *
広場に、人だかりができていた。
「何があったんだ」
ルークは、近くの男に尋ねた。
「教会の儀式だ」
「儀式?」
「供物の儀、というらしい」
「供物の儀......」
* * *
「どんな儀式なんだ」
「よく分からん。だが──」
男は、声を潜めた。
「生贄が、必要らしい」
「生贄?」
「人間の、だ」
* * *
「人間の生贄だと......」
「ああ。村の娘が、選ばれた」
「選ばれた?」
「教会が、勝手に決めたんだ」
「そんな馬鹿な」
「馬鹿げてる。だが、誰も逆らえない」
* * *
「なぜ、逆らえないんだ」
「教会の力は、絶対だ」
「......」
「逆らえば、村全体が破滅する」
「脅しか」
「そうだ。だから、皆従うしかない」
* * *
「ルーク......」
カイが言った。
「これ、放っておけません」
「ああ」
「でも、教会と対立することになるわよ」
「分かっている」
「どうするの」
* * *
「まず、状況を確認する」
「はい」
「儀式の詳細を調べよう」
「分かったわ」
「そして、止める方法を考える」
* * *
三人は、情報を集めた。
「儀式は、明日の夜明け」
「場所は、村外れの祠」
「選ばれた娘は、十五歳のリリア」
「十五歳......」
「若い娘を、生贄に......」
* * *
「教会の司祭は、誰だ」
「ベルナール......じゃないわね。別の司祭」
「名前は」
「ガルディス。辺境の布教を担当する司祭だそうよ」
「ガルディス......」
「評判は良くないわ。強引で、傲慢だと」
* * *
「儀式の目的は」
「深淵の浄化、だそうです」
「浄化?」
「この辺りの深淵汚染を、払うための儀式らしいです」
「だが、生贄が必要とは......」
「本当に、必要なのかしら」
* * *
「俺も、疑問だ」
ルークが言った。
「教会の正式な教義に、人間の生贄はない」
「本当に?」
「ああ。勇者の育成には、生贄など使わない」
「では、この儀式は......」
「異端か、あるいは別の目的がある」
* * *
「どうする」
「司祭と、話をする」
「話を?」
「儀式の正当性を、問いただす」
「危険じゃない?」
「危険だが、やるしかない」
* * *
ルークは、司祭ガルディスを訪ねた。
「ギルバート家の......これは珍しい」
「用件がある」
「何でしょう」
「明日の儀式について」
「ああ、供物の儀ですか」
* * *
「生贄は、本当に必要なのか」
「もちろんです」
「教会の教義には、そんな儀式はないはずだ」
「......」
ガルディスの目が、鋭くなった。
「お詳しいようですね」
* * *
「俺は、教会の者たちと関わりがある」
「ベルナール司祭のことですか」
「ああ」
「彼とは、方針が違うのです」
「方針?」
「深淵を払うには、強力な手段が必要」
「生贄が、その手段だと」
「そうです」
* * *
「根拠はあるのか」
「古い文献に、記されています」
「見せてくれ」
「......」
「見せられないのか」
「部外者には、お見せできません」
「では、信用できないな」
* * *
「信用する必要はありません」
ガルディスは冷たく言った。
「儀式は、予定通り行います」
「村人は、同意しているのか」
「同意は、必要ありません」
「何だと」
「これは、教会の決定です。村人は、従うだけです」
* * *
「それは、横暴だ」
「横暴? 違いますよ」
「何が違う」
「これは、彼らを救うための行為です」
「一人を殺して、多数を救う。合理的でしょう?」
「......」
「あなたも、貴族ならお分かりでしょう」
* * *
「分からないな」
「何?」
「一人の命も、多数の命も、同じ命だ」
「......」
「どちらも、勝手に奪っていい理由にはならない」
「理想論ですね」
「理想だろうが、俺はそう考える」
* * *
「では、どうするおつもりで」
「儀式を、止める」
「止める? どうやって」
「必要なら、力ずくでも」
「......」
ガルディスは、笑った。
「面白い。やってみるといい」
* * *
「後悔するぞ」
「こちらの台詞だ」
「......」
ルークは、部屋を出た。
* * *
「どうだった」
「話にならない」
「止められないの?」
「話し合いでは、無理だ」
「では......」
「実力で、止める」
* * *
「実力で......」
「ああ。明日、儀式が行われる前に動く」
「具体的には」
「生贄に選ばれた娘を、救出する」
「救出......」
「そして、儀式を中止に追い込む」
* * *
「でも、教会と敵対することになるわ」
「分かっている」
「大丈夫なの」
「大丈夫かどうかは、分からない」
「......」
「だが、見て見ぬふりはできない」
* * *
「ルーク......」
カイが言った。
「僕も、手伝います」
「いいのか」
「はい。あの娘を、死なせたくありません」
「......」
「それに、これが正しいことだと思うから」
* * *
「私も、手伝うわ」
サラも言った。
「教会の横暴は、許せない」
「サラ......」
「三人なら、きっとできる」
「......ああ」
* * *
「作戦を、練ろう」
「はい」
「まず、娘がどこにいるか確認する」
「おそらく、祠の近くに監禁されてるわ」
「見張りは」
「教会の兵士が、何人かいるはず」
* * *
「兵士の数は」
「多くて十人、と見ている」
「十人か」
「三人で対処できる」
「でも、できれば無傷で」
「殺したら、後が面倒だからな」
* * *
「夜明け前に、動く」
「何時頃」
「儀式の一時間前。まだ暗いうちに」
「分かった」
「見張りを無力化して、娘を救出」
「そして、村から脱出」
「計画は、それでいい」
* * *
その夜、三人は準備を整えた。
「武器の確認」
「大丈夫です」
「私も」
「では、少し休め。夜明け前に起きる」
「はい」
* * *
夜明け前。
「起きろ」
「......はい」
「行くぞ」
三人は、静かに宿を出た。
* * *
祠に向かう。
「見えた。見張りだ」
「四人」
「予想より少ないわね」
「油断するな。中にも、いるかもしれない」
* * *
「俺が前に出る」
「はい」
「サラは左から、カイは右から」
「分かった」
「合図は、俺の剣が光った時だ」
「了解」
* * *
ルークは、正面から近づいた。
「誰だ」
「旅の者だ。道に迷った」
「道に迷った? ここは立入禁止だ」
「すまない。戻る」
「待て──」
* * *
その瞬間、ルークの剣が光った。
「今だ!」
* * *
三人が、同時に動いた。
「何っ──」
見張りたちは、あっという間に無力化された。
「よし、中へ」
* * *
祠の中には、もう二人の見張りがいた。
「侵入者!」
「黙れ」
ルークが、瞬時に二人を倒した。
「娘は、どこだ」
* * *
「ここです!」
カイが、奥の部屋を見つけた。
「縛られてる......」
「助けてくれ......」
「大丈夫、もう安全だ」
カイは、娘の縄を解いた。
* * *
「逃げるぞ」
「は、はい......」
娘を連れて、祠を出る。
「急げ。夜明けまでに、村を出る」
「分かった」
* * *
だが、その時。
「待て」
声がした。
ガルディスが、兵士を連れて立っていた。
「逃がすと思ったか」
* * *
「どけ」
「どくと思うか」
「どかないなら、倒す」
「やってみろ」
ガルディスが、杖を構えた。
「教会の力を、見せてやる」
* * *
「サラ、娘を連れて先に行け」
「でも──」
「俺とカイで、ここを抑える」
「......分かったわ」
サラは、娘を連れて走り出した。
* * *
「逃がすな!」
「させるか!」
ルークとカイが、立ちふさがった。
「邪魔をするなら、容赦しない」
「こちらこそ」
* * *
戦闘が始まった。
「はあっ!」
ルークが、兵士たちを薙ぎ払う。
「カイ、援護しろ!」
「はい!」
* * *
「くそっ、強い......」
兵士たちは、次々と倒れた。
「司祭様、逃げてください!」
「逃げるものか!」
ガルディスが、魔法を放った。
* * *
「っ!」
ルークは、魔法を剣で弾いた。
「甘い」
「何っ──」
ルークの剣が、ガルディスの杖を叩き落とした。
「終わりだ」
* * *
「くっ......」
「儀式は、中止だ」
「お前......覚えておけ......」
「覚えておけ? 俺は何度でもやるぞ」
「......」
「無辜の民を殺すなら、俺は何度でも邪魔をする」
* * *
ルークとカイは、村から脱出した。
「サラ、娘は」
「無事よ」
「よかった......」
娘は、泣きながらお礼を言った。
「ありがとう......ありがとう......」
* * *
「礼はいい」
「でも......」
「お前は、自分の人生を生きろ」
「......はい」
「誰にも、お前の命を奪う権利はない」
「ありがとうございます......」
* * *
三人は、娘を安全な場所まで送り届けた。
「これから、どうするの」
「教会と、対立してしまったわね」
「ああ。だが、後悔はしていない」
「僕も、です」
「私も」
* * *
「正しいことをした」
ルークは言った。
「それだけで、十分だ」
「そうね」
「先を急ごう。聖地が、待っている」
「はい」
* * *
次回予告
* * *
教会との対立を乗り越え、旅は続く。
三人の役割が、明確になっていく。
サラが治安、ルークが交渉、カイが救出──
第4話「交渉の剣」
「俺たちは、それぞれの役割がある」
「協力すれば、何でもできる」
チームワークが、試される──




