第2話「聖印の共鳴」
洞窟の入り口に、三人は立っていた。
「いいか、慎重に進む」
「はい」
「敵は十体以上。油断するな」
「「分かりました」」
* * *
洞窟の中に入ると、深淵の気配が濃くなった。
「この魔力の濃さ......」
「ひどいわね」
「ああ。通常の深淵魔の巣とは、レベルが違う」
「何か、特別な理由があるのかしら」
「調べれば分かる。進もう」
* * *
奥へ進むにつれ、異変が起きた。
「っ......」
カイが、胸を押さえた。
「カイ? どうした」
「分かりません......急に、体が......」
「加護が、反応しているのか」
「かもしれません......」
* * *
「大丈夫?」
サラが心配そうに聞いた。
「は、はい......」
「無理なら、戻った方がいい」
「いえ、大丈夫です」
「本当に?」
「行けます」
カイは、歯を食いしばって進んだ。
* * *
だが、奥へ進むほど、症状は悪化した。
「くっ......」
「カイ、やはり──」
「大丈夫です......」
カイの体から、光が漏れ始めていた。
「加護が、暴走しかけている......」
* * *
「ルーク、どうする」
「一旦、止まれ」
「カイ、深呼吸しろ」
「は、はい......」
「教えた制御法を思い出せ」
「制御法......」
「体の中心を感じて、力の流れを抑える」
* * *
「......」
カイは目を閉じ、集中した。
「体の中心......」
「そこにある力を、感じろ」
「......感じます」
「ゆっくりと、抑え込め」
「......」
少しずつ、光が収まっていった。
* * *
「落ち着いたか」
「はい......なんとか」
「何が起きた」
「分かりません......深淵の気配に、加護が反応したみたいで」
「反応?」
「共鳴、という感じでしょうか」
「共鳴......」
* * *
「深淵と加護が、共鳴している?」
サラが尋ねた。
「可能性はある」
「どういうこと」
「カイの加護は『救世の加護』だ」
「ええ」
「深淵を滅ぼすために生まれた力」
「......」
「つまり、深淵と対極の存在。だから、近くにいると反応する」
* * *
「厄介ね」
「ああ。だが、対処法はある」
「何?」
「加護を完全に制御できれば、共鳴を抑えられる」
「今のカイでは......」
「難しい。だが、やるしかない」
* * *
「僕、頑張ります」
カイが言った。
「加護を制御できるように、なります」
「今すぐは無理だ」
「分かっています。でも──」
「ここで諦めたら、何も始まりません」
「......」
* * *
「行こう」
ルークは決断した。
「カイが厳しくなったら、すぐに撤退する」
「はい」
「サラ、カイの様子を見ていてくれ」
「分かったわ」
「では、進む」
* * *
さらに奥へ。
「見えた......深淵魔だ」
「数は......」
「十五体」
「多いわね」
「だが、やるしかない」
* * *
「作戦は?」
「俺が正面から突っ込む」
「サラは側面から攪乱」
「カイは後方で援護」
「無理はするな」
「「はい」」
* * *
「行くぞ!」
ルークが飛び込んだ。
「はあっ!」
一体目を、瞬時に斬り捨てる。
「二体目!」
連続で攻撃を繰り出す。
* * *
「こっちも!」
サラが側面から攻撃した。
「精密に、急所を狙う」
「三体目、倒した!」
サラの剣術は、正確だった。
* * *
「僕も......!」
カイは後方から、隙を見つけて攻撃した。
「疾風連撃!」
「四体目!」
だが、攻撃するたびに、体が熱くなる。
「くっ......」
* * *
「カイ、大丈夫!?」
「大丈夫です......まだ、やれます......!」
カイは歯を食いしばった。
「五体目......!」
* * *
戦闘は、激しさを増した。
「七体! 残り八体!」
「こっちで三体!」
「僕も二体......!」
順調に数を減らしていく。
* * *
だが、その時。
「っ......!」
カイの体から、再び光が溢れ始めた。
「カイ!」
「すみません......抑えきれない......」
光は、どんどん強くなる。
* * *
「まずい......暴走する......!」
「ルーク、どうすれば!」
「俺に任せろ!」
ルークは、カイに駆け寄った。
* * *
「カイ、俺の声を聞け」
「ルーク......」
「目を閉じろ」
「は、はい......」
「体の中心を感じろ。そこにある力を」
「感じます......でも、大きすぎて......」
* * *
「大きくても、お前の力だ」
「僕の......」
「お前が、コントロールするんだ」
「でも......」
「できる。俺が信じている」
「ルーク......」
* * *
「お前は、強い」
「......」
「俺が鍛えた。だから、分かる」
「......」
「この程度の力、必ずコントロールできる」
「......はい」
カイは、目を閉じて集中した。
* * *
「力を......抑える......」
「呼吸を、整えて......」
「体の中心に、集めて......」
「そして......封じ込める......」
* * *
「......!」
光が、急速に収束していった。
「やった......」
カイは、力を制御できた。
「ルーク......できました......」
「よくやった」
* * *
「でも、まだ敵が──」
「俺が片付ける」
ルークは、残りの深淵魔に向かった。
「三体か」
「すぐに終わらせる」
* * *
「はあっ!」
ルークの剣が、一閃した。
「一体目」
「二体目」
「三体目」
あっという間に、全ての深淵魔を倒した。
* * *
「終わったわ」
サラが言った。
「ええ。でも、カイが......」
「大丈夫だ。制御できた」
「でも、危なかった」
「ああ。これは、予想以上に厳しい」
* * *
「カイ、どうだ」
「はい......なんとか」
「加護の制御、難しいか」
「はい。深淵の近くだと、どうしても......」
「分かった」
「これからは、もっと注意して訓練する」
* * *
「でも、良い発見もあったわ」
「発見?」
「カイの加護が、深淵に反応するということは──」
「深淵の探知に使える、か」
「そうよ」
「なるほど」
* * *
「洞窟の奥を、調べよう」
「まだ、何かあるの?」
「深淵魔がこれだけ集まる理由がある」
「確かに」
「奥に、何かあるはずだ」
* * *
三人は、洞窟のさらに奥へ進んだ。
「ここは......」
「何か、ある」
奥の壁に、古い紋様が刻まれていた。
* * *
「これは......封印の紋様?」
「そうね。学院の地下で見たものに似てる」
「やはり、繋がっているのか」
「この村の近くにも、封印があった」
「そして、それが崩れかけている」
* * *
「だから、深淵魔が集まってきたのね」
「ああ。封印の綻びから、深淵の力が漏れている」
「その力に引き寄せられて、深淵魔が......」
「そういうことだ」
* * *
「どうすれば、止められる?」
「封印を補強するしかない」
「カイの加護で?」
「ああ。やれるか、カイ」
「......やってみます」
* * *
カイは、封印の紋様に手を当てた。
「力を......流し込む......」
「無理するな」
「大丈夫です......」
光が、紋様に流れ込んでいく。
* * *
「......!」
紋様が、輝き始めた。
「封印が、強化されている」
「うまくいってるみたいね」
「もう少し......」
カイは、力を注ぎ続けた。
* * *
「......終わりました」
「どうだ」
「封印は、補強できたと思います」
「よくやった」
「でも、完全じゃありません」
「完全じゃない?」
* * *
「封印自体が、古くなっています」
「どういうこと」
「いずれ、また崩れるかもしれません」
「......」
「根本的な対策が、必要です」
「なるほど」
* * *
「今は、これで良しとしよう」
「はい」
「少なくとも、しばらくは大丈夫だ」
「そうですね」
「村に戻って、報告しよう」
「はい」
* * *
村に戻ると、村人たちが待っていた。
「どうだった」
「深淵魔は、全て倒した」
「本当か......!」
「ああ。そして、封印も補強した」
「封印?」
「村の近くに、古い封印があった。それが崩れかけていた」
* * *
「そんなものがあったのか......」
「知らなかったのも無理はない。古い時代のものだ」
「......」
「当分は、深淵魔は来ないはずだ」
「ありがとう......本当にありがとう」
老人の目から、涙がこぼれた。
* * *
「礼はいい」
「だが、気をつけてくれ」
「何を」
「封印は、完全ではない。いずれまた、崩れるかもしれない」
「......」
「その時は、教会か王国に助けを求めてくれ」
「分かった」
* * *
「俺たちは、先を急ぐ」
「待ってくれ」
「何だ」
「せめて、一晩泊まっていってくれ。宴を開きたい」
「宴?」
「お前たちへの、感謝の気持ちだ」
「......」
* * *
「行こう、ルーク」
サラが言った。
「たまには、休息も必要よ」
「......分かった」
「では、一晩だけ」
「ありがとう」
* * *
その夜、宴が開かれた。
「カイ、飲み過ぎないでね」
「飲んでませんよ」
「あら、顔が赤いわよ」
「それは......火のせいです」
「ふふ、可愛い」
* * *
「ルーク」
「何だ」
「今日のこと、ありがとうございました」
「何のことだ」
「僕の暴走を、止めてくれて」
「当然のことだ」
「でも......」
* * *
「お前は、俺の弟子だ」
「......」
「弟子を守るのは、師匠の役目だ」
「ルーク......」
「それに、お前は自分で制御できた」
「え?」
「俺は、きっかけを与えただけだ。最後に力を抑えたのは、お前自身だ」
* * *
「そうですか......」
「ああ。お前は、成長している」
「ありがとうございます」
「だが、まだまだだ」
「はい」
「もっと訓練して、完全に制御できるようになれ」
「分かりました」
* * *
宴は、夜遅くまで続いた。
そして翌朝──
「行くぞ」
「「はい」」
三人は、村を後にした。
* * *
「ありがとう! また来てくれ!」
村人たちが、手を振った。
「ああ。元気でな」
「お元気で!」
「気をつけてね!」
* * *
聖地への旅は、まだ続く。
そして、カイの加護は──
少しずつ、その力を増していた。
* * *
次回予告
* * *
次の村で、教会の儀式に遭遇する。
「供物の儀」──その実態とは。
三人は、新たな問題に直面する。
第3話「供物の儀」
「この儀式は、おかしい」
「村人を、犠牲にするつもりか」
正義のために、立ち上がる──




