第3部「遠征篇:聖印共鳴と原作の前倒し」第1話「辺境の村」
氷結の聖域を目指す旅は、予想以上に過酷だった。
「寒い......」
カイが歯を鳴らした。
「当然だ。ここは北の果てだからな」
「分かってますけど......」
「我慢しろ。聖域は、もうすぐだ」
* * *
だが、その途中で──
「ルーク、あそこに村があるわ」
サラが指差した。
「村? こんな辺境に」
「地図には載ってなかったけど......」
「立ち寄ってみるか」
「賛成。少し休憩したいわ」
* * *
村に近づくと、異様な雰囲気を感じた。
「なんだ......この空気」
「重い......」
「魔力の澱みがある」
「澱み?」
「深淵の汚染だ」
* * *
「深淵の汚染......」
カイは顔をしかめた。
「ここまで、来ているんですか」
「ああ。原作終盤の現象だ」
「でも、今は......」
「まだ、序盤のはずだな」
「どういうことですか」
「分からない。だが、何かがおかしい」
* * *
村の入り口に、番人がいた。
「お前たち、何者だ」
「旅人だ。少し休ませてもらいたい」
「......旅人か」
番人は、三人をじっと見た。
「構わん。入れ」
「ありがとう」
* * *
村の中は、静かだった。
「人が少ないわね」
「ああ。家も、半分は空いているようだ」
「何があったんでしょう」
「聞いてみよう」
* * *
村の広場で、老人が座っていた。
「すみません、少しお聞きしたいのですが」
「何だね」
「この村は、いつからこんな状態に」
「......」
老人は、深い溜息をついた。
「三ヶ月前からだ」
* * *
「三ヶ月前?」
「ああ。あれが現れてからだ」
「あれ、とは」
「......深淵の獣だ」
「深淵魔が、出るのか」
「時々、村を襲う。そのたびに、人が減った」
* * *
「ひどい......」
カイは同情した。
「誰か、助けに来なかったんですか」
「来るもんか」
老人は苦笑した。
「こんな辺境に、王国は目を向けない」
「......」
「教会も、布教には来るが、助けてはくれん」
* * *
「俺たちで、何かできないか」
ルークが言った。
「え?」
「深淵魔を、討伐するのはどうだ」
「ルーク様、本気ですか」
「ああ」
「聖地巡礼は......」
「少し遅れても、構わない」
* * *
「なぜ、そこまで......」
老人が尋ねた。
「俺たちには、関係ない話のはずだ」
「......」
ルークは考えた。
「見て見ぬふりは、できない」
「え......」
「それだけだ」
* * *
「ルーク......」
サラが小さく微笑んだ。
「変わったわね」
「何が」
「昔のあなたなら、関わらなかったでしょう」
「......そうかもしれないな」
「でも、今は違う」
「ああ。カイに教えられた」
* * *
「僕に?」
「お前は、困っている人を見ると、放っておけない」
「......」
「その姿勢に、俺も影響された」
「そうですか......」
「だから、今は見て見ぬふりができない」
「......」
「お前のせいだぞ、カイ」
「え、僕のせい?」
* * *
「深淵魔の巣は、どこにある」
ルークは老人に尋ねた。
「村の北にある、古い洞窟だ」
「分かった。明日、討伐に行く」
「本当に、やってくれるのか」
「ああ」
「......ありがたい」
* * *
その夜、三人は村の宿に泊まった。
「明日の作戦を、練ろう」
「はい」
「まず、敵の情報を集める」
「どれくらいの数がいるか、分かってないのよね」
「ああ。偵察が必要だ」
* * *
「僕が、偵察に行きます」
「カイが?」
「はい。僕が一番、足が速いですから」
「......」
「危険だぞ」
「分かっています。でも、やらせてください」
「......分かった。だが、無理はするな」
* * *
翌朝。
カイは、洞窟へ向かった。
「気をつけてね」
「はい」
「何かあったら、すぐに戻れ」
「分かりました」
* * *
洞窟の入り口に到着した。
「ここか......」
禍々しい気配が、洞窟から漏れ出していた。
「中を、見てみよう」
カイは、慎重に洞窟の中へ入った。
* * *
「......!」
中は、予想以上に広かった。
そして、深淵魔の数も──
「十体以上......いや、二十体か......」
これは、予想以上だった。
「戻って、報告しないと」
* * *
だが、その時。
「......!」
深淵魔の一体が、カイに気づいた。
「グルル......」
「見つかった......!」
カイは、全力で逃げ出した。
* * *
「追ってくる......!」
深淵魔が、背後から迫る。
「疾風......!」
カイは、全速力で走った。
「あと少し......」
* * *
「カイ!」
洞窟の外で、ルークとサラが待っていた。
「敵が来ます!」
「何だと!」
「追われてるわ!」
「対処する!」
* * *
深淵魔が、洞窟から飛び出してきた。
「五体か」
「多いわね」
「俺が二体、サラが二体、カイが一体だ」
「「はい!」」
* * *
戦闘が始まった。
「はあっ!」
ルークの剣が、深淵魔を両断した。
「一体目!」
サラも、精密な剣術で敵を仕留める。
「こっちも!」
* * *
「僕も......!」
カイは、深淵魔と対峙した。
「疾風連撃!」
高速の連続攻撃が、深淵魔を貫いた。
「倒した......!」
* * *
「全滅させたな」
「はい」
「でも、まだ巣の中にいるのよね」
「ああ。十体以上」
「明日、本格的に攻め込む」
「分かりました」
* * *
村に戻ると、村人たちが心配そうに待っていた。
「大丈夫だったのか」
「ああ。深淵魔は、五体倒した」
「五体も......!」
「だが、まだ巣にはいる。明日、残りを叩く」
「......ありがたい」
* * *
「ルーク」
「何だ」
「深淵魔の数、多すぎない?」
「ああ。こんな辺境に、これだけの数は不自然だ」
「何か、原因があるのかしら」
「おそらく」
「調べた方がいいわね」
* * *
「明日、巣を叩くついでに調べよう」
「分かったわ」
「カイ、体は大丈夫か」
「はい。大丈夫です」
「よし。今日は休め。明日に備えろ」
「はい」
* * *
その夜。
カイは、眠れなかった。
「深淵魔......」
「あの気配、前に感じたことがある」
「地下遺跡で......」
「やっぱり、繋がっているのか」
* * *
「カイ、起きてるの?」
「あ、サラさん」
「眠れない?」
「はい......」
「私もよ」
「......」
「明日のこと、考えてた?」
「はい」
* * *
「不安?」
「少し」
「私もよ」
「サラさんも?」
「ええ。でも、三人ならきっと大丈夫」
「そうですか......」
「ルークがいる。カイもいる。だから、私は怖くない」
「......」
* * *
「僕も、二人がいるから、怖くないです」
「そう。よかった」
「明日、頑張りましょう」
「ええ」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
* * *
翌朝。
「行くぞ」
「「はい」」
三人は、洞窟へ向かった。
* * *
辺境の村での戦いが、始まろうとしていた。
そして、これは──
原作の終盤の出来事が、前倒しで起きている証拠だった。
* * *
「世界の均衡が、崩れ始めている」
ルークは、そう確信した。
「俺たちのせいか」
「いや、考えても仕方ない」
「今は、目の前の敵を倒す」
「それだけだ」
* * *
次回予告
* * *
洞窟の奥で、深淵魔の巣を叩く。
だが、カイの加護が異常な反応を示す──
暴走の兆候が、現れ始める。
第2話「聖印の共鳴」
「カイ、しっかりしろ!」
「体が......言うことを聞かない......」
加護と深淵が、共鳴する──




