第12話「報復の影」
襲撃計画が阻止されてから、数日が経った。
マルクスは、怒りを抑えきれなかった。
「誰だ......誰が、情報を漏らした......」
「分かりません。内部に裏切り者がいるのは確実ですが......」
「探せ。必ず見つけ出せ」
「はい」
* * *
「それと」
「何でしょう」
「ギルバートの動きを、監視しろ」
「ギルバート様を?」
「ああ。あいつが、何かしている気がする」
「でも、証拠は......」
「証拠がなくても、感覚で分かる」
* * *
「あの男は、俺の邪魔をしている」
「......」
「いずれ、必ず潰す」
「どうやって」
「方法は考えている。だが、今は時期じゃない」
「では、いつ」
「学期末の期末考査だ」
* * *
「期末考査?」
「ああ。実技試験がある」
「......」
「そこで、奴の弟子どもを叩き潰す」
「カイ・レイナーを?」
「それだけじゃない。新しい取り巻きもだ」
「新しい取り巻き......」
「下級貴族の連中。最近、ギルバートに群がっている」
* * *
「彼らを、どうするのですか」
「期末試験で、徹底的に恥をかかせる」
「......」
「実力で、ギルバートとの差を見せつける」
「なるほど」
「そうすれば、奴らは離れていく」
「確かに......」
* * *
その頃、ルークたちは。
「マルクスが、何か企んでいるようです」
エドワードが報告した。
「何を」
「詳細は分かりません。でも、期末考査で何かやるらしいです」
「期末考査か......」
「対策を立てた方がいいと思います」
「ああ」
* * *
「サラ、情報を集めてくれ」
「分かったわ」
「カイ、訓練生たちの様子は」
「順調です。みんな、やる気があります」
「よし。訓練を強化する」
「はい」
「期末考査までに、さらに鍛える」
* * *
「ルーク様」
リオンが声をかけた。
「何だ」
「僕たち、期末考査に出るんですか」
「ああ。出てもらう」
「でも、まだ......」
「不安か」
「......少し」
「大丈夫だ。お前たちは、強くなっている」
* * *
「でも、マルクス様の派閥は......」
「確かに、彼らは強い」
「......」
「だが、お前たちも弱くない」
「......」
「自信を持て。俺が、そう言っている」
「......はい」
「訓練の成果を、見せてやれ」
* * *
期末考査が近づくにつれ、訓練は激しさを増した。
「もっと速く!」
「はい!」
「そこで止まるな!」
「くっ......!」
「諦めるな!」
全員が、限界に挑んでいた。
* * *
「みんな、よく頑張ってるわね」
サラが言った。
「ああ。だが、まだ足りない」
「厳しいわね」
「厳しくしないと、本番で負ける」
「......」
「負けたら、彼らは二度と立ち直れないかもしれない」
「だから、今厳しくする」
「そうね......」
* * *
「情報は集まったか」
「少しね」
「何が分かった」
「マルクスは、期末の実技試験で、私たちの訓練生を集中的に狙うつもりらしい」
「集中的に?」
「対戦相手を操作して、強い者をぶつけてくるわ」
「卑怯な」
「いつものことよ」
* * *
「対策は」
「難しいわね。対戦相手は、くじ引きで決まることになってる」
「くじ引きを操作するのか」
「おそらく」
「証拠は」
「ない。だから、訴えられない」
「......」
「正攻法で勝つしかないわ」
* * *
「分かった」
ルークは言った。
「なら、誰が相手でも勝てるように鍛える」
「そうするしかないわね」
「カイ」
「はい」
「お前が、先頭に立て」
「僕が?」
「一番強いお前が勝てば、みんなの士気が上がる」
「......分かりました」
* * *
期末考査当日。
実技試験が始まった。
「よし、みんな。落ち着いて行け」
「「「はい!」」」
訓練生たちが、次々と試合に臨む。
* * *
「最初の試合、リオン対フェリックス」
「フェリックス?」
サラが眉をひそめた。
「マルクス派閥の、実力者よ」
「いきなり、強敵か」
「やっぱり、操作されてるわね」
* * *
「リオン、大丈夫か」
「......はい。やってみます」
「恐れるな。お前は、強くなった」
「......」
「俺の弟子であることを、証明しろ」
「......はい!」
* * *
試合が始まった。
「来い、下級貴族」
フェリックスが、嘲笑った。
「お前程度、すぐに終わらせてやる」
「......」
リオンは、構えた。
「行きます」
* * *
「はあっ!」
リオンが突っ込んだ。
「遅い」
フェリックスは、余裕で受け止めた。
「これが、ギルバートの弟子か。大したことないな」
「まだです......!」
リオンは、攻撃を続けた。
* * *
「しつこいな」
フェリックスの反撃が来た。
「ぐっ......!」
リオンは吹っ飛ばされた。
「終わりだ」
「......まだ......」
「しぶといな。だが──」
フェリックスが追撃に来た。
* * *
「くっ......」
リオンは、ルークの教えを思い出した。
『追い込まれた時こそ、冷静になれ』
『相手の動きを見ろ。必ず、隙がある』
「......見える」
* * *
フェリックスの大振りの一撃。
その後の、一瞬の隙。
「今だ......!」
リオンは、その隙を突いた。
「なっ......!」
フェリックスの体が、よろめいた。
* * *
「やった......」
だが、倒せなかった。
「小賢しい......」
フェリックスは立て直した。
「今のは、痛かったぞ」
「......」
「だが、これで終わりだ」
本気の一撃が、リオンを襲った。
* * *
「勝者、フェリックス」
リオンは、負けた。
「くそ......」
「大丈夫か」
ルークが駆け寄った。
「すみません......負けました......」
「いや、よくやった」
「え......」
* * *
「フェリックスは、お前より二年先輩だ」
「......」
「それに、あそこまで食らいついた」
「でも、負けは負けです......」
「負けから学べ。それが、次の勝利に繋がる」
「......はい」
* * *
試合は続いた。
訓練生たちは、次々と強敵とぶつけられた。
「くそっ、また負けた......」
「僕も、駄目だった......」
勝率は、芳しくなかった。
* * *
「どうだ、ギルバート」
マルクスが、嘲笑った。
「お前の弟子どもは、大したことないな」
「......」
「やはり、平民や下級貴族に、剣術は無理なんだよ」
「黙れ」
「事実だろう」
* * *
「まだ終わっていない」
「何?」
「カイの試合が、残っている」
「ああ、あの平民か」
「見ていろ」
「何を見せてくれるのかな」
マルクスは笑った。
* * *
「カイ・レイナー対ヴィクトル・フォン・シュタイン」
「ヴィクトル?」
サラが驚いた。
「学院最強の剣士じゃない」
「......」
「これは、さすがに......」
「大丈夫だ」
「ルーク?」
「カイは、やれる」
* * *
カイは、闘技場に立った。
「カイ・レイナーだな」
ヴィクトルが言った。
「はい」
「噂は聞いている。マルクスを倒した平民だと」
「......」
「俺の実力、見せてもらおう」
「よろしくお願いします」
* * *
「始め!」
試合が始まった。
ヴィクトルが、圧倒的な速度で迫った。
「速い......!」
カイは、ギリギリで避けた。
「いい反応だ。だが──」
連続攻撃が襲いかかる。
* * *
「くっ......!」
カイは防御に徹した。
「守るだけでは、勝てないぞ」
「分かっています......」
カイは、相手の動きを観察した。
『相手を見ろ。必ず、隙がある』
ルークの教え。
* * *
「見えた......」
ヴィクトルの攻撃パターンが、見えてきた。
「ここ......!」
カイは、反撃に転じた。
「疾風連撃!」
高速の連続攻撃。
* * *
「ほう......!」
ヴィクトルは感心した。
「いい技だ」
「まだです......!」
カイは攻撃を続けた。
二人の剣が、激しくぶつかり合う。
* * *
「あの平民、やるな......」
観客席がざわめいた。
「ヴィクトルと、互角じゃないか」
「信じられない......」
「ギルバートの指導は、本物か......」
* * *
「素晴らしい」
ヴィクトルが言った。
「だが、俺も本気を出させてもらう」
「......!」
ヴィクトルの動きが、さらに速くなった。
「っ......!」
カイは、押され始めた。
* * *
「やはり、まだ俺には及ばないか」
「......」
「だが、いい戦いだった」
ヴィクトルの一撃が、カイの剣を弾いた。
「勝負あり」
カイは、膝をついた。
* * *
「勝者、ヴィクトル」
カイは、負けた。
「くそ......」
「落ち込むな」
ルークが言った。
「学院最強と、あそこまで戦えた」
「でも、負けました......」
「負けから学べ。次は、勝てる」
* * *
「ふん」
マルクスが近づいてきた。
「結局、お前の弟子どもは全員負けたな」
「......」
「下級貴族や平民には、所詮この程度だ」
「黙れ」
「何が悪い。事実を言ったまでだ」
* * *
「事実?」
カイが立ち上がった。
「何が事実ですか」
「負けは負けだろう」
「確かに、負けました」
「なら──」
「でも、僕たちは諦めません」
* * *
「何?」
「今日は負けた。でも、次は勝ちます」
「......」
「僕たちは、成長している。いつか、必ず──」
「くだらん」
マルクスは吐き捨てた。
「負け犬の遠吠えだ」
* * *
「遠吠えでも、構いません」
カイは、真っ直ぐにマルクスを見た。
「僕は、諦めない」
「......」
「ルークが教えてくれたことを、信じています」
「......」
「だから、絶対に──負けません」
* * *
マルクスは、何も言えなかった。
カイの目に、強い意志があったからだ。
「......覚えておけ」
マルクスは去っていった。
「必ず、潰す」
* * *
「カイ」
ルークが言った。
「よく言った」
「でも、生意気でしたか......」
「いいや。あれでいい」
「......」
「負けても、諦めない。それが、強さだ」
「はい......」
* * *
「みんな」
ルークは、訓練生たちに言った。
「今日は、負けた」
「......」
「悔しいだろう」
「......はい」
「だが、ここで終わりじゃない」
「......」
「また訓練して、次は勝つ」
「「「はい......!」」」
* * *
報復の影は、まだ消えていない。
だが、ルークたちは屈しなかった。
「俺たちは、何度でも立ち上がる」
「そうよ。負けても、終わりじゃない」
「みんなで、強くなりましょう」
* * *
次回予告
* * *
敗北から学び、訓練生たちは再び立ち上がる。
そして、予想外の試練が訪れる。
地下遺跡から、異変の兆候が──
第13話「再起の誓い」
「何度負けても、俺たちは立ち上がる」
「そして、次は必ず勝つ」
新たな戦いが、始まる──




