第11話「小さな軍団」
リオンたちの訓練は、本格的に始まった。
「よし、今日から訓練を強化する」
「お願いします!」
集まったのは、十五人。
下級貴族の子弟を中心に、平民の生徒も混じっていた。
「みんな、やる気があるな」
「当然です。カイさんのようになりたいんで」
* * *
「カイのように、か」
ルークは微笑んだ。
「いい目標だ」
「ルーク様、直接教えていただけるんですか」
「ああ。俺とカイで、お前たちを鍛える」
「ありがとうございます!」
「礼はいい。結果で示せ」
* * *
「まず、基礎からだ」
「基礎?」
「剣術の基本。構え、振り、足運び」
「そんなの、もうできますけど......」
「できていない」
「え......」
「お前たちの動きは、まだ荒い。基礎が甘い」
「......」
* * *
「基礎ができていないのに、応用はできない」
「そうなんですか......」
「カイも、最初は基礎からやり直した」
「カイさんが?」
「ああ」
「そうです。最初は、構え方から教わりました」
「......」
「だから、今の僕があるんです」
* * *
「分かりました」
リオンが頷いた。
「基礎から、お願いします」
「よし。では、構えから」
「はい!」
十五人が、一斉に構えた。
「......まだ甘いな」
ルークは、一人ひとりの姿勢を直していった。
* * *
「肩の力を抜け」
「は、はい」
「足の位置が広すぎる」
「すみません」
「視線は前。下を見るな」
「分かりました」
細かい指導が続く。
「こんなに、細かく見てもらったの初めてです」
「学院の授業じゃ、ここまでやらないからな」
* * *
「どうして、学院ではやらないんですか」
「生徒が多すぎる。一人ひとりを見る時間がない」
「なるほど......」
「だから、大抵の生徒は基礎が甘いまま上達しようとする」
「それで、伸び悩む......」
「その通りだ」
* * *
「でも、ルーク様はなぜ......」
「なぜ、お前たちを教えるのか?」
「はい」
「......」
「貴重な時間を、僕たちに使ってくれる理由が......」
「理由、か」
ルークは考えた。
* * *
「二つ、理由がある」
「二つ?」
「一つは、仲間が必要だからだ」
「仲間......」
「俺たちは、敵が多い。だから、味方を増やしたい」
「そういうことですか」
「正直な理由だろう」
「はい。でも、それなら分かります」
* * *
「もう一つは」
「はい」
「......俺自身のためだ」
「自分自身?」
「人に教えることで、俺も成長する」
「......」
「お前たちを見ていると、自分の未熟さが分かる」
「ルーク様が、未熟......」
「ああ。俺も、まだまだだ」
* * *
「すごいですね」
「何が」
「そこまで正直に言えるのが」
「......」
「普通、そんなこと言いません」
「俺は、嘘をつきたくないだけだ」
「......」
「お前たちとは、正直に付き合いたい」
「はい......!」
* * *
訓練は、毎日続いた。
「もう一回!」
「はい!」
「足が遅い! もっと速く!」
「くっ......!」
「諦めるな!」
厳しい訓練だったが、誰も脱落しなかった。
* * *
「みんな、頑張ってるわね」
サラが見ていた。
「ああ。根性がある」
「ルークの教え方も、上手くなったわよ」
「そうか?」
「カイを教えていた頃より、格段に」
「......そうかもしれないな」
* * *
「カイも、教えるの上手いわ」
「僕ですか?」
「ええ。分かりやすく説明できてる」
「ルークの真似をしてるだけです」
「でも、それがちゃんと自分のものになってる」
「......」
「二人とも、成長してるわ」
* * *
一ヶ月後。
訓練の成果が、現れ始めた。
「ルーク様、これでどうですか」
リオンが技を披露した。
「......悪くない」
「本当ですか!」
「ああ。一ヶ月前とは、別人だ」
「ありがとうございます!」
「だが、まだ甘い」
「は、はい......」
* * *
「甘いが、確実に成長している」
「......」
「このペースを維持しろ」
「分かりました!」
「他の者も、同様だ。みんな、よくやっている」
「「「ありがとうございます!」」」
声が揃った。
* * *
「ルーク」
サラが言った。
「どうした」
「そろそろ、実戦訓練を取り入れたら?」
「実戦訓練......」
「基礎はできてきた。次は、実戦経験よ」
「そうだな」
「模擬戦形式で、やってみたら」
「いい考えだ」
* * *
「みんな、聞け」
「はい!」
「今日から、模擬戦を取り入れる」
「模擬戦!」
「二人一組で、戦ってもらう」
「はい!」
「本気で来い。だが、怪我はするな」
「分かりました!」
* * *
模擬戦が始まった。
「はあっ!」
「くっ......!」
剣と剣がぶつかり合う。
「動きがいいな」
「でも、まだぎこちないわね」
「経験が足りない。場数を踏めば良くなる」
「そうね」
* * *
「カイも、相手をしてやれ」
「分かりました」
カイは、訓練生たちと模擬戦を行った。
「行きます!」
「来い!」
カイの動きは、圧倒的だった。
「速い......!」
「これが、カイさんの実力......」
* * *
「どうだ、カイとの差は」
「......すごいです。全然、敵わなかった」
「それが、一年間の訓練の差だ」
「一年......」
「お前たちも、続ければここまで来れる」
「本当ですか」
「俺は、嘘をつかない」
「......」
* * *
「でも、カイさんには、才能がありますよね」
「才能か」
「僕たちには、ないかもしれません」
「......」
「同じように訓練しても、追いつけないかも......」
「そんなことはない」
カイが言った。
* * *
「僕だって、最初は何もなかったです」
「でも......」
「ルークが、根気よく教えてくれたから」
「......」
「才能より、努力の方が大事なんです」
「努力......」
「諦めなければ、必ず強くなれます」
「カイさん......」
* * *
「カイの言う通りだ」
ルークが言った。
「才能は、言い訳にはならない」
「......」
「努力した者だけが、強くなる。それは、どんな世界でも同じだ」
「......はい」
「だから、諦めるな」
「分かりました......!」
* * *
訓練は、さらに続いた。
そして、予想外の出来事が起きた。
「ルーク様」
「何だ」
「誰か、見学に来ています」
「見学?」
「あの......」
訓練場の入り口に、見慣れない顔があった。
* * *
「お前は......」
「初めまして。いえ、初めてではありませんね」
男が、近づいてきた。
「エドワードか」
かつてルークを裏切った、男爵家の息子だった。
「何の用だ」
「......お話があります」
* * *
「話? お前と話すことはない」
「分かっています。でも、聞いてください」
「......」
「僕は、あなたを裏切りました」
「ああ」
「その後、マルクス様の派閥にいました」
「知っている」
「でも......」
* * *
「でも?」
「今は、後悔しています」
「......」
「マルクス様の派閥は、腐っています」
「今更、何を」
「弱者を虐げ、自分たちの利益だけを追求している」
「それが、貴族というものだ」
「違います。あなたは、違う」
* * *
「俺が、違う?」
「はい。あなたは、平民を教えている」
「......」
「身分に関係なく、才能ある者を育てている」
「それが、何だ」
「僕は、それに感銘を受けました」
「......」
「だから、戻ってきました」
* * *
「戻ってきた?」
「はい。もう一度、あなたに仕えたいのです」
「......」
「分かっています。一度裏切った者を、信じられないでしょう」
「当然だ」
「でも、今度は絶対に裏切りません」
「どうして、そう言い切れる」
「......」
* * *
「証明する方法が、あります」
「証明?」
「マルクス様の派閥の情報を、お渡しします」
「情報......」
「僕は、彼らの内部にいた。作戦も、人員も、全て知っています」
「......」
「これを渡せば、僕はマルクス様に殺されます」
「......」
「だから、信じてください」
* * *
「......」
ルークは、考えた。
「本当に、覚悟はあるのか」
「あります」
「二度目の裏切りは、許さない」
「承知しています」
「俺の仲間を傷つけたら、俺がお前を殺す」
「......はい」
「それでも、いいのか」
「はい」
* * *
「......分かった」
ルークは言った。
「お前を、受け入れる」
「ありがとうございます......!」
「だが、信頼は最初から与えない」
「はい」
「時間をかけて、証明しろ」
「必ず、証明します」
* * *
「ルーク、いいの?」
サラが小声で聞いた。
「分からない。だが、情報は貴重だ」
「裏切られたら......」
「その時は、対処する」
「......」
「リスクは承知の上だ」
「......分かったわ」
* * *
「カイ」
「はい」
「エドワードを、見張っていてくれ」
「見張る......」
「完全には信用できない。だが、使えるなら使う」
「分かりました」
「何かあったら、すぐに報告しろ」
「はい」
* * *
エドワードは、情報を提供した。
「マルクス様は、次の学期末試験で、カイさんを襲撃する計画を立てています」
「襲撃?」
「はい。試験中に、『事故』に見せかけて」
「卑劣な」
「対策を、立てておいた方がいいです」
「ああ」
* * *
「他には」
「派閥の構成員のリストです」
「これは......」
「誰が味方で、誰が敵か、分かります」
「貴重な情報だな」
「お役に立てれば」
「......」
* * *
エドワードの情報は、本物だった。
「この情報、正確だわ」
サラが確認した。
「ああ。彼は、本気らしい」
「信じていいの」
「まだ分からない。だが、今は使える」
「そうね......」
* * *
小さな軍団が、形を成し始めた。
訓練生は二十人を超え、元裏切り者も加わった。
「俺たちは、少しずつ大きくなっている」
「ええ」
「この調子で、力をつけていこう」
「賛成」
* * *
「でも、敵も黙っていないわよ」
「分かっている」
「マルクスの計画、どうするの」
「先手を打つ」
「先手?」
「試験の前に、彼らの計画を潰す」
「どうやって」
「情報を、学院に流す」
* * *
「学院に?」
「ああ。襲撃計画の存在を、学院側に知らせる」
「なるほど......」
「そうすれば、マルクスは動けなくなる」
「でも、誰が情報を流したか、バレないの」
「バレないようにする」
「どうやって」
「匿名で、だ」
* * *
計画は、実行に移された。
そして、マルクスの襲撃は未然に防がれた。
「くそっ......誰が漏らした......」
マルクスは、怒り狂っていた。
だが、ルークたちに疑いは向かなかった。
* * *
「うまくいったわね」
「ああ」
「エドワードの情報のおかげね」
「そうだな」
「少し、信頼できるようになった?」
「......少しだけ」
「厳しいわね」
「慎重なだけだ」
* * *
小さな軍団は、確実に力をつけていた。
「俺たちは、前に進んでいる」
ルークは、訓練生たちを見て言った。
「この仲間と一緒なら、どんな敵にも勝てる」
* * *
次回予告
* * *
軍団の存在が、敵に知られる。
マルクスが、報復を開始する。
そして、ルークは決断を迫られる──
第12話「報復の影」
「ギルバートめ......必ず潰す」
「来るなら、受けて立つ」
戦いが、激化する──




