第9話「不安定な力」
その日、異変は突然起きた。
「っ......!」
訓練中、カイが膝をついた。
「カイ! どうした!」
ルークが駆け寄る。
「分かりません......急に、体が......」
カイの体から、異常な光が漏れ出していた。
* * *
「何だ、この光は......」
「加護......だと思います......」
「コントロールできないのか」
「は、はい......勝手に溢れて......」
光はどんどん強くなっていく。
「くっ......痛い......」
「カイ!」
* * *
「何事!?」
サラが駆けつけた。
「カイの加護が、暴走している」
「暴走?」
「自分でコントロールできていない」
「どうすればいいの!?」
「分からない。だが、このままでは──」
光が、爆発的に膨張した。
* * *
「伏せろ!」
ルークがサラを庇った。
光が収まった時、訓練場の一角が吹き飛んでいた。
「......」
「カイ!」
カイは気を失っていた。
「医務室に運ぶ! 手伝え!」
「分かったわ!」
* * *
医務室にて。
「加護の暴走......」
医師が首を傾げた。
「前例がほとんどない」
「治療法は」
「分からん。教会に問い合わせるしかない」
「教会......」
「彼らが、加護についての知識を持っている」
* * *
「教会か......」
ルークは苦い顔をした。
「どうするの」
「選択肢がない。問い合わせるしかない」
「でも、教会はカイを狙ってる......」
「分かっている。だが、カイの命が優先だ」
「......」
「行ってくる」
* * *
ルークは、教会を訪ねた。
「ギルバート様。珍しいですね、あなたの方から来られるとは」
ベルナールが出迎えた。
「用件を言う」
「何でしょう」
「カイの加護が、暴走した」
「......ほう」
「対処法を教えろ」
* * *
「加護の暴走、ですか」
ベルナールは、興味深そうに聞いた。
「詳しく教えていただけますか」
「訓練中に、突然光を発した」
「光......」
「コントロールできず、膨張して爆発した」
「それは......」
「本人は気を失った」
「なるほど」
* * *
「心当たりはあるのか」
「......あります」
「何だ」
「覚醒、です」
「覚醒?」
「救世の加護が、次の段階に進もうとしている」
「次の段階......」
「力が大きくなりすぎて、器が追いついていないのです」
* * *
「器が追いついていない?」
「人間の体には、限界があります」
「......」
「カイ君の加護は、その限界を超えつつある」
「どうすればいい」
「制御の方法を、学ぶ必要があります」
「教えられるのか」
「......条件があります」
* * *
「条件?」
「カイ君を、一定期間教会で預かること」
「断る」
「......」
「カイは、俺の弟子だ。渡さない」
「では、彼は加護に殺されますよ」
「......」
「人間の体で、あの力を受け止めるのは不可能です」
* * *
「他に方法はないのか」
「......一つだけ」
「言え」
「あなたが、制御法を学ぶのです」
「俺が?」
「そして、カイ君に教える」
「......」
「教会に来る必要はありません。ただし──」
「ただし?」
「かなりの時間と労力がかかります」
* * *
「構わない」
ルークは即答した。
「俺がやる」
「本気ですか」
「ああ」
「加護の制御は、専門家でも難しい」
「だから、何だ」
「失敗すれば、あなた自身が危険です」
「それでも、やる」
* * *
「......分かりました」
ベルナールは頷いた。
「資料を渡します」
「頼む」
「ただし、約束してください」
「何を」
「カイ君の状態を、定期的に報告すること」
「......いいだろう」
「取引成立ですね」
* * *
ルークは、分厚い資料を持って帰った。
「これが、加護の制御法......」
「すごい量ね」
「ああ」
「読むだけでも大変そう」
「だが、やるしかない」
「私も手伝うわ」
「頼む」
* * *
カイが目を覚ましたのは、翌日だった。
「......ここは......」
「医務室だ」
「ルーク......」
「覚えているか」
「訓練中に......急に体が......」
「ああ。加護が暴走した」
「暴走......」
* * *
「カイ、正直に答えろ」
「はい」
「以前から、何か異変を感じていたか」
「......」
「隠すな」
「......はい。最近、体の中で何かが膨らんでいる感じがして......」
「なぜ言わなかった」
「心配をかけたくなくて......」
* * *
「馬鹿者」
ルークは厳しい声で言った。
「俺たちは仲間だろう」
「......」
「仲間に隠し事をするな」
「すみません......」
「次から、何かあったらすぐに言え。約束しろ」
「......はい。約束します」
「よし」
* * *
「で、僕は......どうなるんですか」
「加護の制御法を、学ぶ」
「制御法?」
「お前の力は、成長している。だが、体が追いついていない」
「......」
「制御法を身につければ、安全に力を使えるようになる」
「誰が教えてくれるんですか」
「俺だ」
* * *
「ルークが?」
「教会から資料をもらってきた」
「教会......」
「俺が学んで、お前に教える」
「でも、そんな......大変じゃ......」
「大変でも、やる」
「......」
「お前を守ると、決めたからな」
「ルーク......」
* * *
「サラも手伝ってくれる」
「私は、補助役ね」
「ありがとうございます......」
「礼はいいわ。早く治して」
「はい......」
「まずは休養だ。体力を回復させろ」
「分かりました」
* * *
カイが休んでいる間、ルークは資料を読み込んだ。
「加護の制御......」
「理論は複雑だな」
「でも、基本原理は分かったわ」
「ああ。要は、力の流れをコントロールすることだ」
「魔力の制御に似てるわね」
「似ているが、規模が違う」
* * *
「カイの加護は、2347だったわよね」
「ああ」
「普通の魔力の、何十倍もの規模......」
「だから、制御が難しい」
「どうやって教えるの」
「段階的に進める」
「段階的に?」
「まず小さな力から始めて、徐々に大きくしていく」
* * *
数日後。
カイの体力が回復した。
「よし、始めるぞ」
「はい」
「今から、加護の制御訓練を行う」
「お願いします」
「まず、目を閉じろ」
「......」
「体の中心を、感じろ」
「中心......」
* * *
「何か感じるか」
「......はい。温かいものが、ここに」
カイは、胸の辺りを指した。
「それが、お前の加護の源だ」
「これが......」
「今から、それを少しだけ動かしてみろ」
「少しだけ......」
「ゆっくりと、意識を集中して」
* * *
「......」
カイは集中した。
すると、胸の温かさが、少し動いた。
「動いた......」
「いいぞ。その調子だ」
「でも、すごく小さな動きです」
「最初はそれでいい。急ぐな」
「はい......」
「毎日、少しずつ練習する」
* * *
制御訓練は、地道に続けられた。
「もう少し、上に」
「こうですか」
「そう。ゆっくりと」
「......」
「力を抜け。力むと暴走する」
「は、はい」
「深呼吸しろ」
「......」
少しずつ、カイは加護をコントロールできるようになっていった。
* * *
「調子はどう」
サラが聞いた。
「少しずつ、掴めてきました」
「よかった」
「でも、まだ大きな力は無理です」
「焦らなくていいわよ」
「はい......」
「ルークも、そう言ってるでしょ」
「言ってます」
* * *
「ルーク、大丈夫かしら」
「何が」
「あなた、最近寝てないでしょ」
「......」
「資料を読み込むのに、徹夜してるんじゃない」
「必要なことだ」
「でも、体を壊したら意味がないわ」
「......」
「少しは休みなさい」
* * *
「......ああ」
ルークは折れた。
「お前に言われると、弱いな」
「当然よ。私は監視役......だったんだから」
「だった、か」
「今は、仲間よ」
「......そうだな」
「だから、心配してるの」
「......分かった。今日は早めに休む」
* * *
一ヶ月が過ぎた。
カイの制御能力は、着実に向上していた。
「どうだ」
「かなり安定してきました」
「暴走の兆候は」
「ありません」
「いいぞ。このまま続けよう」
「はい」
* * *
「ルーク」
「何だ」
「ありがとうございます」
「何のことだ」
「毎日、付き合ってくれて」
「......」
「僕のために、こんなに時間を使ってくれて」
「当然のことだ」
「でも......」
「俺は、お前の師匠だ。弟子を守るのは、当然のことだ」
* * *
「そうですか......」
「それより、油断するな」
「はい」
「力が安定しても、完全ではない」
「分かっています」
「これからも、訓練を続ける」
「はい」
「そして──」
「そして?」
「いずれ、お前はこの力を使いこなす」
* * *
「使いこなす......」
「ああ。その時、お前は本当の強さを手に入れる」
「本当の強さ......」
「俺が教えた剣術と、お前の加護。それが合わさった時──」
「......」
「お前は、誰にも負けなくなる」
「ルーク......」
「そのために、今は鍛えるんだ」
「はい!」
* * *
その頃、教会では──
「カイ・レイナーの状態、安定してきているようです」
「ギルバートが、教えているのか」
「はい。我々の資料を使って」
「ふむ......」
「どうされますか」
「予定通りだ。彼が力を制御できるようになるのを待つ」
「そして?」
「時が来たら、動く」
* * *
「時が来たら、とは」
「均衡崩壊が、本格化した時だ」
「......」
「その時、彼の力は必要になる」
「我々の手で、導くのですね」
「そうだ」
「ギルバートは、邪魔では」
「今のところは、利用価値がある」
* * *
「利用価値?」
「彼がカイを鍛えてくれている」
「なるほど」
「我々が手を汚さずに、勇者が育つ」
「好都合ですね」
「ああ。だが、いずれ──」
「いずれ?」
「彼を排除する時が来る」
「......了解しました」
* * *
闇の中で、陰謀は静かに進んでいた。
だが、ルークたちはまだ知らない。
「俺たちは、前に進む」
「ああ」
「三人で、乗り越えていこう」
「はい」
「私も、ついていくわ」
* * *
不安定だった力が、少しずつ安定していく。
だが、それは新たな戦いの始まりでもあった。
「俺たちの戦いは、まだ続く」
ルークは、空を見上げた。
「どんな困難が来ても──」
「俺たちは、屈しない」
* * *
次回予告
* * *
カイの力が安定した時、教会が動き出す。
「協力」の名のもとに、新たな要求が──
そして、王家からも圧力が──
第10話「三つ巴の圧力」
「教会と王国、どちらにつくのだ」
「どちらにも、つかない」
政治の渦が、激しくなる──




