第6話「サラの誓約」
「これで、正式に三人同盟ね」
サラが言った。
「ですね!」
カイも嬉しそうだった。
「改めてよろしく」
「こちらこそ」
「よろしくお願いします!」
三人は、固く手を握り合った。
* * *
「さて」
ルークが切り出した。
「同盟を結んだ以上、戦略を練る必要がある」
「戦略?」
「マルクスたち、教会、勇者管理局。敵は多い」
「そうね......」
「闇雲に戦っても勝てない。きちんと計画を立てよう」
「賛成」
* * *
「まず、敵の分析から始めよう」
ルークは紙を広げた。
「主な敵勢力は三つ」
「マルクス派閥、教会、勇者管理局」
「その通り。それぞれの目的を整理しよう」
* * *
「マルクス派閥は?」
「俺の失脚が目的だ」
「どうして?」
「貴族間の勢力争い。俺が力を持つのが気に入らない」
「単純な嫉妬?」
「それもあるが、政治的な理由もある」
「......」
「ギルバート家は王家に近い。俺を潰せば、家全体にダメージを与えられる」
* * *
「教会は?」
サラが尋ねた。
「カイの加護が目当てだ」
「救世の加護......」
「教会は、勇者を自分たちの手で管理したい」
「でも、管理局があるのに」
「管理局は王国との共同機関だ。教会は、単独での支配を望んでいる」
「厄介ね......」
* * *
「勇者管理局は?」
「これが一番複雑だ」
「複雑?」
「王国と教会の思惑が絡み合っている」
「......」
「王国は、勇者の力を国家のために使いたい」
「教会は、勇者を宗教的権威のために使いたい」
「両者の綱引きの場が、管理局というわけ」
「そうだ」
* * *
「で、僕はその綱の先についてるわけですね......」
カイは苦笑した。
「悪く言えば、そうだな」
「はぁ......」
「だが、それを利用できる可能性もある」
「利用?」
「敵同士の対立を煽れば、俺たちへの圧力が分散する」
「なるほど......」
* * *
「具体的には、どうするの?」
サラが聞いた。
「いくつかの戦略を考えている」
「聞かせて」
「まず、情報戦」
「情報戦?」
「敵の動きを把握し、先手を打つ」
「サラの情報網が役立つわね」
「ああ。お前に頼りたい」
「任せて」
* * *
「次に、同盟の拡大」
「同盟の拡大?」
「俺たち三人だけでは、力が足りない」
「......」
「味方を増やす必要がある」
「でも、誰が......」
「目星はある」
「誰?」
「学院内で、貴族派閥に不満を持っている者たち」
* * *
「そんな人たちがいるの?」
「いる。全員が派閥に従っているわけじゃない」
「......」
「中には、俺たちの行動に共感している者もいるはずだ」
「でも、表立っては言えない」
「そうだ。彼らを見つけ出し、味方につける」
「難しそうね」
「だが、やる価値はある」
* * *
「僕にできることはありますか」
カイが尋ねた。
「ある」
「何ですか」
「強くなることだ」
「強く......」
「お前が実力をつければ、それ自体が武器になる」
「......」
「言葉で説得できない相手も、実力を見せれば黙る」
「分かりました。もっと頑張ります」
* * *
「もう一つ、重要なことがある」
ルークは続けた。
「何?」
「学院祭の模擬戦だ」
「模擬戦?」
「来月、学院祭がある。そこで模擬戦が行われる」
「ああ、聞いたことあるわ」
「これに、カイを出場させたい」
* * *
「僕を?」
「ああ」
「でも、模擬戦って、上位の生徒だけが出られるんじゃ......」
「例外がある。教師の推薦があれば、誰でも出られる」
「推薦......」
「俺が推薦する」
「ルークが?」
「ああ。俺は学院の教官補佐も兼ねている。推薦権がある」
* * *
「なるほど......」
サラが頷いた。
「模擬戦で活躍すれば、カイの実力が認められる」
「その通り」
「平民でも、強ければ文句は言わせない」
「そういうことだ」
「でも、相手は強いんじゃ......」
「強い。だから、鍛える」
「......」
「カイ、やれるか」
「......やります」
* * *
「決まりだな」
ルークは立ち上がった。
「今日から、訓練を強化する」
「はい!」
「サラは、情報収集を頼む」
「任せて」
「特に、模擬戦の対戦相手について調べてくれ」
「分かったわ」
「では、始めよう」
* * *
訓練場にて。
「いいか、カイ」
「はい」
「模擬戦まで、一ヶ月だ」
「はい」
「この一ヶ月で、お前を一段階上のレベルに引き上げる」
「一段階上......」
「覚悟しろ。地獄の訓練になる」
「......望むところです」
* * *
「まず、現状の確認だ」
ルークは剣を構えた。
「全力で来い」
「はい!」
カイが突っ込む。
ルークは、その攻撃を冷静に受け止めた。
「......ふむ」
「どうですか」
「成長している。だが、まだ足りない」
「足りない......」
* * *
「お前の弱点は、二つある」
「弱点?」
「一つ目は、攻撃パターンが単調だ」
「......」
「俺は、お前の攻撃をほぼ読める」
「そうですか......」
「二つ目は、防御が甘い」
「防御......」
「攻撃に意識が行きすぎて、守りが疎かになっている」
* * *
「どうすれば......」
「練習だ」
「練習......」
「まず、攻撃パターンを増やす。次に、防御の基礎を叩き直す」
「はい」
「一ヶ月で、両方を身につける」
「できるでしょうか」
「やるしかない」
「......はい」
「では、始めるぞ」
* * *
訓練は、厳しかった。
「遅い!」
「くっ......!」
「そこで止まるな!」
「は、はい!」
「防御を忘れるな!」
「ぐあっ......」
何度も打ちのめされた。
「立て! まだ終わってないぞ!」
「......はい......」
* * *
休憩中。
「大丈夫?」
サラが水を持ってきた。
「ありがとうございます......」
「ルーク、ちょっと厳しすぎない?」
「これくらいでないと、一ヶ月で間に合わない」
「でも......」
「カイは、やれる。俺は信じている」
「......」
「信じているからこそ、厳しくする」
* * *
「大丈夫です、サラさん」
カイは立ち上がった。
「ルークの期待に応えたいんです」
「カイ......」
「もっと強くなりたい。そのためなら、この程度......」
「無理しないでね」
「はい。でも、ここで諦めたら、何も変わりません」
「......」
「僕は、変わりたいんです」
* * *
「よし」
ルークが言った。
「次は、新しい技を教える」
「新しい技?」
「ああ。模擬戦で、相手を驚かせるための技だ」
「どんな技ですか」
「『疾風連撃』だ」
「疾風連撃......」
「高速で連続攻撃を繰り出す技。俺の得意技の一つだ」
* * *
「ルークの得意技を......」
「見本を見せる。よく見ておけ」
ルークは構えた。
そして──
「っ!」
一瞬で、五回の斬撃が繰り出された。
「す、すごい......」
「これが、疾風連撃だ」
「ほとんど見えませんでした......」
「最初は見えなくていい。感覚で覚えろ」
* * *
「感覚で......」
「まず、体に動きを叩き込む」
「はい」
「俺の動きを真似しろ。何度も、何度も」
「分かりました」
カイは、ルークの動きを真似し始めた。
最初は、ぎこちなかった。
「違う。もっと滑らかに」
「はい......」
「力を抜け。力むな」
「は、はい......」
* * *
何度も繰り返す。
「もう一度」
「はい」
「もう一度だ」
「はい!」
少しずつ、動きが良くなっていく。
「......悪くない」
「本当ですか」
「まだまだだが、センスはある」
「ありがとうございます」
「礼はいい。続けるぞ」
* * *
日が暮れるまで、訓練は続いた。
「今日は、ここまでだ」
「はい......」
カイは、へとへとだった。
「よく頑張った」
「ありがとうございます......」
「明日も同じ訓練をする。覚悟しておけ」
「......はい」
「体を休めておけ。明日に備えろ」
「分かりました」
* * *
カイが去った後。
「どう思う」
ルークはサラに尋ねた。
「カイのこと?」
「ああ」
「驚いたわ」
「何に」
「あの根性。普通なら、とっくに音を上げてる」
「......」
「本気で、強くなりたいのね」
「そうだな。だから、俺も本気で教える」
* * *
「間に合うかしら」
「分からない。だが、やるしかない」
「そうね......」
「お前の方はどうだ。情報は集まったか」
「少しずつね」
「何か分かったか」
「模擬戦の対戦相手、目星がついたわ」
「誰だ」
「マルクス・フォン・ヴェルナー」
「......マルクスか」
* * *
「偶然じゃないわよね」
「ああ。仕組まれたな」
「マルクスは、カイを叩き潰すつもりよ」
「予想はしていた」
「大丈夫なの?」
「大丈夫かどうかは分からない。だが、避けては通れない」
「......」
「むしろ、好都合かもしれない」
「好都合?」
* * *
「ここでマルクスを倒せば、一気に形勢が変わる」
「確かに......」
「カイが貴族派閥の中心人物を破れば、彼らは黙る」
「でも、マルクスは強いわよ」
「知っている」
「カイで、勝てる?」
「......鍛え上げれば」
「自信はあるの?」
「ない。だが、信じている」
「カイを?」
「ああ」
* * *
「あなたって、意外と情に厚いのね」
「意外とは失礼だな」
「ふふ、ごめんなさい」
「......」
「でも、私も信じてる」
「何を」
「カイを。そして、あなたを」
「......ありがとう」
「三人で、勝ちましょう」
「ああ」
* * *
その頃、マルクスは──
「カイ・レイナーが、模擬戦に出場するらしい」
「平民が?」
「ギルバートの推薦だそうだ」
「ふん。自ら恥をかきに来るとはな」
「どうされますか」
「叩き潰す」
「容赦なく」
「当然だ。平民の身の程を、思い知らせてやる」
* * *
「ギルバートも、見物することになるでしょうね」
「ああ。あいつの目の前で、弟子を叩き潰す」
「それは......」
「最高の屈辱だろう」
「確かに」
「準備を整えろ。万全の状態で臨む」
「畏まりました」
* * *
日々の訓練が続いた。
カイは、少しずつ成長していった。
「疾風連撃、形になってきたな」
「ありがとうございます」
「だが、まだ遅い」
「はい......」
「実戦では、今の三倍の速度が必要だ」
「三倍......」
「できる。お前なら」
「......頑張ります」
* * *
サラも、情報収集に励んでいた。
「マルクスの戦い方、分かったわ」
「どんなだ」
「パワー型。重い一撃で、相手を圧倒するタイプ」
「なるほど......」
「防御力も高い。正面からの攻撃は、ほとんど効かない」
「弱点は」
「スピード。動きはそこまで速くない」
「つまり、速さで勝負すれば」
「勝機はあるわ」
* * *
「カイ」
ルークは言った。
「マルクスに勝つ方法が見えてきた」
「本当ですか」
「ああ。お前の速さが鍵だ」
「速さ......」
「疾風連撃を完成させろ。それが、勝利への道だ」
「分かりました」
「あと二週間。全力で鍛える」
「はい!」
* * *
訓練は、さらに激しさを増した。
「もっと速く!」
「はい!」
「そこだ! 今の速度を維持しろ!」
「くっ......!」
「諦めるな!」
「諦めません......!」
カイの目には、強い意志が宿っていた。
* * *
「......いいぞ」
ルークは、満足げに頷いた。
「今の、悪くなかった」
「本当ですか?」
「ああ。このまま行けば──」
「勝てますか?」
「分からない。だが、戦える」
「戦える......」
「お前は、成長した。胸を張れ」
「......はい」
* * *
模擬戦まで、あと一週間。
「緊張してきたわね」
サラが言った。
「ああ......」
「カイは?」
「集中している。余計なことは考えていない」
「それがいいわね」
「お前は?」
「私? 私は......」
「......」
「少し、心配」
「心配?」
「カイが、怪我しないかって」
* * *
「マルクスは、容赦しないだろう」
「分かってる」
「だが、カイも覚悟している」
「......」
「俺たちにできるのは、信じて見守ることだ」
「そうね......」
「大丈夫。カイは、やれる」
「......信じましょう」
* * *
模擬戦前日。
「カイ」
「はい」
「明日で、全てが決まる」
「はい」
「お前は、十分に強くなった」
「......」
「後は、自分を信じろ」
「自分を......」
「俺が教えた全てを、出し切れ」
「分かりました」
* * *
「一つだけ、忘れるな」
「何ですか」
「勝っても負けても、お前は俺の弟子だ」
「ルーク......」
「俺は、お前を誇りに思っている」
「......」
「だから、思い切り戦ってこい」
「......はい!」
カイの目に、涙が浮かんだ。
「必ず、勝ちます」
* * *
「私からも」
サラが言った。
「応援してるわ」
「ありがとうございます」
「勝って、みんなを見返しましょう」
「はい!」
「三人の同盟、ここからが本番よ」
「はい......!」
* * *
そして、模擬戦の朝が来た。
「いよいよね」
「ああ」
「カイ、準備はいい?」
「はい。大丈夫です」
「よし。では、行くぞ」
「はい!」
* * *
三人は、闘技場へ向かった。
運命の戦いが、始まろうとしていた。
* * *
次回予告
* * *
学院祭の模擬戦が始まる。
カイ対マルクス。平民対貴族。
そして、運命の一撃が──
第7話「模擬戦開幕」
「来い、平民。お前の身の程を教えてやる」
「僕は、負けません」
決戦の幕が、上がる──




