第5話「王宮召喚」
教会との取り決めが成立してから、数日後。
サラの元に、王家からの召喚状が届いた。
「王宮への出頭を命ずる......」
「サラ、どうした」
ルークが声をかけた。
「召喚状よ。王家から」
「......来たか」
* * *
「やはり、マルクスの仕業ね」
サラは苦い顔をした。
「報告は、予想通りだったようだ」
「ギルバート様との関係について、問いただされるでしょう」
「どう答えるつもりだ」
「正直に答えるわ」
* * *
「正直に?」
「ええ」
「それは、監視役としての任務を放棄していたことを認めることになる」
「分かってる」
「処分を受けるかもしれないぞ」
「覚悟の上よ」
* * *
「なぜ、そこまでする」
「......」
サラは少し考えてから言った。
「嘘をついて、あなたたちとの関係を否定することはできないわ」
「サラ......」
「私は、自分の選択を後悔していない。それを、堂々と伝えるだけよ」
* * *
「サラさん......」
カイが心配そうに言った。
「大丈夫ですか」
「大丈夫よ。心配しないで」
「でも、僕たちのせいで......」
「あなたのせいじゃないわ。私が自分で選んだことだから」
「......」
「だから、後悔しないで」
* * *
翌日。
サラは、王宮へ向かった。
「サラ・ヴァレンシュタイン、参りました」
「入れ」
王宮の一室で、高官たちが待っていた。
* * *
「お前に、聞きたいことがある」
「何でしょうか」
「ルーク・ウィザリア・ギルバートとの関係だ」
「......」
「監視役でありながら、彼に協力しているという報告がある」
* * *
「その報告は、事実です」
サラは、堂々と答えた。
「事実、だと」
「はい。私は、ギルバート様に協力しています」
「なぜだ。お前は監視役のはずだ」
「監視役としての任務と、個人としての判断は別です」
* * *
「個人としての判断?」
「私は、彼らが正しいと信じています」
「正しい? 平民を教えることが?」
「才能ある者を育てることは、国のためになります」
「だが、秩序を乱すことにも──」
「秩序を守ることだけが、正義ではありません」
* * *
「......生意気な」
高官の一人が不快そうに言った。
「お前は、王家の命令に逆らったのだぞ」
「承知しています」
「分かっていて、なぜ──」
「私は、間違ったことをしたとは思っていません」
「......」
* * *
「カイ・レイナーという平民がいます」
サラは続けた。
「彼は、類まれな才能を持っています」
「......」
「その才能を、身分だけで潰すのは、国家の損失です」
「だが、平民が力を持てば──」
「力を持つ者が、全て反逆者になるわけではありません」
* * *
「彼は、国のために戦おうとしています」
「......」
「ギルバート様も、彼を正しく導こうとしています」
「それは、お前の主観だ」
「はい。ですが、私は自分の目で見てきました」
「......」
「彼らは、信頼に値する人たちです」
* * *
高官たちは、しばらく沈黙した。
「......お前の考えは分かった」
やがて、一人が口を開いた。
「だが、王家への報告義務を怠っていたのは事実だ」
「はい」
「処分を下す」
「......覚悟しています」
* * *
「監視役の任を解く」
「......」
「以後、通常の任務に就け」
「分かりました」
「それから──」
高官は、サラを見据えた。
「今後、ギルバートとの接触は禁じない」
* * *
「え?」
サラは驚いた。
「禁じない、のですか」
「お前を完全に切り離すのは、得策ではない」
「......」
「お前を通じて、ギルバートの動きを把握できる」
「つまり、間接的に監視を続けろ、と」
「そう解釈してもらって構わない」
* * *
「それは......」
「お前も、彼らも、王家の敵ではないのだろう?」
「もちろんです」
「なら、問題はない」
「......」
「行け。これ以上の処分はない」
「......はい」
サラは、頭を下げて退室した。
* * *
王宮を出ると、ルークとカイが待っていた。
「サラ!」
「どうだった」
「監視役は、解かれたわ」
「解かれた......」
「でも、それ以上の処分はなかった」
「本当か」
* * *
「接触禁止もなかったわ」
「それは......意外だな」
「王家も、一枚岩じゃないみたい」
「どういうことだ」
「マルクスの報告を、そのまま鵜呑みにはしていない」
「......なるほど」
* * *
「おそらく、王家の中にも派閥があるのよ」
「派閥?」
「貴族重視派と、実力重視派」
「......」
「今回対応した高官は、後者寄りだったみたい」
「助かったな」
「ええ。運が良かったわ」
* * *
「でも、油断はできないわね」
サラは言った。
「マルクスは、まだ諦めていないでしょう」
「ああ」
「次は、別の手を打ってくるはず」
「どんな手だ」
「分からない。でも、警戒は必要よ」
* * *
「ところで、サラ」
ルークが言った。
「これからどうする」
「どうする、って」
「監視役じゃなくなったんだろう」
「ええ」
「俺たちと、距離を置くか?」
* * *
「まさか」
サラは笑った。
「むしろ、逆よ」
「逆?」
「監視役の立場がなくなれば、もっと自由に動ける」
「......」
「今まで以上に、協力させてもらうわ」
* * *
「いいのか」
「もちろん」
「お前の立場が──」
「もう、気にしないわ」
「サラ......」
「私は、あなたたちの味方よ。それだけは、変わらない」
* * *
「サラさん......」
カイは、目を潤ませていた。
「ありがとうございます」
「お礼なんていいわ」
「でも、本当に......」
「私が、そうしたいからするだけよ」
「......」
「さ、湿っぽくなるのはやめましょう」
* * *
「これで、三人の関係は変わらないな」
ルークが言った。
「いえ、変わるわ」
「どう変わる」
「監視役と被監視者じゃない。対等な仲間として」
「......そうだな」
「改めて、よろしくね」
「ああ。こちらこそ」
* * *
その頃、マルクスは──
「サラ・ヴァレンシュタインの処分は?」
「監視役の解任だけだそうです」
「それだけか」
「はい。接触禁止にもなっていません」
「......思ったより、軽いな」
* * *
「王家の中に、ギルバート寄りの者がいるようです」
「厄介だな」
「どうされますか」
「......別の手を考える」
「別の手?」
「直接、潰す」
* * *
「直接?」
「学院祭の模擬戦だ」
「模擬戦......」
「そこで、平民を叩きのめす」
「カイ・レイナーを?」
「ああ。ギルバートの弟子を、衆目の前で打ち負かす」
* * *
「それで、彼らの評判を落とすと」
「その通り」
「素晴らしいお考えです」
「準備を進めろ。俺自らが、相手をしてやる」
「畏まりました」
マルクスは、不敵に笑った。
* * *
一方、ルークたちは──
「敵の次の手は、何だと思う」
「分からないわ。でも......」
「でも?」
「学院祭が近いわよね」
「ああ」
「何か、仕掛けてくるかも」
* * *
「学院祭か......」
ルークは考え込んだ。
「模擬戦があるな」
「模擬戦?」
「上位の生徒が戦う、恒例行事だ」
「マルクスも出場するでしょうね」
「ああ」
「もしかして......」
* * *
「カイを、出場させるか」
ルークは言った。
「えっ」
カイが驚いた。
「僕を、ですか」
「ああ。教師の推薦があれば、出場できる」
「でも、僕は平民で......」
「だからこそ、意味がある」
* * *
「模擬戦で活躍すれば、お前の実力が認められる」
「......」
「平民でも、強ければ文句は言わせない」
「でも、相手は強いんじゃ......」
「強い。だから、鍛える」
「......」
「やるか、カイ」
* * *
カイは、しばらく考えた。
「......やります」
「決まりだな」
「はい。僕も、実力で証明したいです」
「いい覚悟だ」
「ルーク、よろしくお願いします」
「任せろ。お前を、勝てるレベルまで鍛え上げる」
* * *
「私も、協力するわ」
サラが言った。
「情報収集は得意だから」
「頼む。対戦相手の情報を集めてくれ」
「分かったわ」
「三人で、学院祭に挑もう」
「はい!」
「ええ」
* * *
三人の絆は、試練を経てさらに強くなった。
監視役と被監視者から、対等な仲間へ。
「俺たちは、何があっても折れない」
ルークは、そう誓った。
「三人で、乗り越えてみせる」
* * *
次回予告
* * *
サラが「監視」から「同盟」へと変わった。
三人で戦術会議が始まり、反撃の準備が進む。
そして、学院祭での模擬戦が近づく──
第6話「サラの誓約」
「私は、あなたたちの味方よ」
「監視役じゃない。同盟者として」
新たな章が、幕を開ける──




