第4話「恩寵の試験」
ギルバート家との契約が成立してから、一週間が経った。
カイの元に、教会からの通知が届いた。
「恩寵測定試験への召喚......」
「恩寵測定?」
「加護の強さを測る試験らしいです」
「教会が、まだ諦めていないのか」
「どうしましょう」
* * *
「行くしかないな」
ルークは言った。
「でも、契約があるのに......」
「測定だけなら、契約違反にはならない」
「そうなんですか」
「ああ。訓練への干渉が禁止されているだけだ。測定は別だ」
「......」
「俺も同行する。一人で行かせるわけにはいかない」
* * *
測定当日。
ルークとカイは、教会の測定施設を訪れた。
「ようこそ、お二人とも」
ベルナールが出迎えた。
「今日は、ただの測定です。ご安心ください」
「余計な真似はするなよ」
「しませんとも。約束は守ります」
* * *
カイは、測定室に通された。
部屋の中央に、巨大な水晶球がある。
「この水晶に触れてください」
「これに?」
「はい。加護の強さが、数値で表示されます」
カイは恐る恐る、水晶球に手を触れた。
* * *
「......!」
水晶球が、激しく輝き始めた。
「おお......」
「これは......」
周囲の神官たちが、驚きの声を上げる。
数値が、みるみる上昇していく。
「100......200......500......」
「止まらない......」
「1000を超えた......!」
* * *
「これは......前例がない」
ベルナールの顔に、驚愕が浮かんだ。
「歴代の勇者でも、500を超える者は稀だった」
「それが、1000以上......」
「いや、まだ上がっている」
「1500......2000......」
最終的に、数値は──
「2347......」
「信じられない......」
* * *
「どういうことですか」
カイは、困惑した顔で尋ねた。
「僕の加護って、そんなに強いんですか」
「強いどころではありません」
ベルナールは、興奮を抑えきれない様子だった。
「歴代最強の勇者でも、1200程度でした。あなたは、その倍近い」
「......」
「これは、まさに『救世の加護』......」
「救世の加護?」
「世界を救うために選ばれた者だけが持つ、伝説の力です」
* * *
「どういうことだ」
ルークが割って入った。
「救世の加護とは、何だ」
「古い伝説に記されています」
ベルナールは説明した。
「世界が滅びの危機に瀕した時、救世主が現れる」
「......」
「その救世主は、通常の勇者を遥かに超える力を持つ」
「カイが、その救世主だと?」
「可能性は、極めて高いです」
* * *
「馬鹿な」
ルークは否定した。
「カイは、ただの平民だ。救世主など──」
「平民だからこそ、かもしれません」
「どういう意味だ」
「救世主は、何の力も持たない者の中から選ばれる。それが、伝説の定説です」
「......」
「カイ君は、その条件に完全に合致しています」
* * *
「仮にそうだとして」
ルークは言った。
「教会は、何をするつもりだ」
「彼を守りたいのです」
「守る?」
「これほどの力は、世界の均衡を乱します」
「......」
「制御できなければ、周囲に甚大な被害が出る」
「だから、教会の管理下に置きたい、と」
「そうです」
* * *
「断る」
ルークは即答した。
「カイは、俺の弟子だ。教会には渡さない」
「ギルバート様......」
「測定は終わっただろう。帰るぞ、カイ」
「は、はい......」
「待ってください」
ベルナールが制止した。
「このままでは、彼自身が危険です」
「俺が守る」
「あなたに、何ができるのですか」
「見ていろ」
ルークは、カイを連れて教会を後にした。
* * *
帰り道。
カイは、沈黙していた。
「ルーク......」
「何だ」
「僕、本当に救世主なんでしょうか」
「分からない。伝説など、当てにならない」
「でも、数値が......」
「数値は数値だ。お前が何者かは、お前自身が決める」
「僕自身が......」
「そうだ。救世主になるかどうかは、お前の選択だ」
* * *
「でも、もし本当に世界が危機に瀕したら......」
「その時は、俺も一緒に戦う」
「ルーク......」
「お前一人に、背負わせるつもりはない」
「......」
「俺たちは、仲間だろう」
「......はい」
「なら、一緒に乗り越えよう」
カイは、少し笑顔を取り戻した。
「ありがとうございます」
* * *
学院に戻ると、サラが待っていた。
「どうだった?」
「予想以上に、厄介なことになった」
「どういうこと?」
ルークは、測定結果を説明した。
「2347......?」
「ああ」
「それは......」
「歴代最強を超えている。教会は、カイを『救世主』だと言い始めた」
* * *
「救世主......」
サラは眉をひそめた。
「それ、政治的にも大きな意味を持つわね」
「どういうことだ」
「救世主を持つ勢力は、発言力が格段に上がる」
「......」
「教会が必死になるのも、分かるわ」
「だから、渡すわけにはいかない」
「でも、圧力は強くなるわよ」
「分かっている」
* * *
その夜。
ルークは、一人で考え込んでいた。
「均衡崩壊が、加速している」
カイの加護が強くなればなるほど、世界のバランスは崩れる。
「俺がカイを鍛えたことが、原因だ」
だが、後悔はしていない。
「カイを守るためには、強くするしかなかった」
その結果として、世界が変わり始めている。
「俺は、責任を取らなければならない」
* * *
数日後。
教会から、正式な通知が届いた。
「カイ・レイナーの加護制御訓練を、教会で行うことを要請する」
「またか......」
「断りましょう」
「いや、待て」
ルークは考えた。
「完全に拒否すると、教会との関係が悪化する」
「じゃあ、どうするの」
「妥協点を探る」
* * *
「妥協点?」
「訓練は俺が行う。だが、教会の協力を受け入れる」
「どういうこと?」
「加護の制御方法について、教会から情報を得る」
「なるほど......」
「俺一人では、加護の扱いは分からない。教会の知識は必要だ」
「でも、それって教会に借りを作ることになるわよ」
「ああ。だが、仕方ない」
* * *
ルークは、教会に提案を送った。
「加護制御の情報を提供してくれるなら、定期的な測定に応じる」
「訓練は、引き続きギルバート様が?」
「そうだ。情報だけもらう」
「......分かりました」
ベルナールは、渋々ながら同意した。
「情報は提供します。ただし、条件があります」
「何だ」
「測定は、月に一度。そして、異常があればすぐに報告してください」
「いいだろう」
* * *
こうして、教会との新たな取り決めが成立した。
「これで、少しは時間が稼げるわね」
「ああ。だが、根本的な解決にはなっていない」
「どういうこと?」
「カイの加護は、成長し続けている」
「......」
「いつか、制御できなくなる時が来るかもしれない」
「その時は......」
「その時は、俺が止める」
* * *
「止める? どうやって」
「方法は、これから考える」
「......」
「だが、一つだけ決めていることがある」
「何?」
「カイを傷つけることだけは、絶対にしない」
「ルーク......」
「カイは、俺の弟子だ。守り抜く」
サラは、ルークの決意を見て頷いた。
「私も、協力するわ」
* * *
一方、教会では──
「測定結果を、王国にも報告しますか」
「いいえ、まだです」
ベルナールは首を振った。
「王国に知らせれば、彼を奪い合うことになる」
「では......」
「今は、情報を独占する。そして、時期を見て──」
「ギルバート様から、彼を引き離す」
「その通りです」
* * *
教会の陰謀は、静かに進んでいた。
そして、マルクスたちも──
「サラ・ヴァレンシュタインの件、王家に報告した」
「反応は?」
「近いうちに、呼び出しがあるそうだ」
「よし。これで、ギルバートの味方が一人減る」
「次は、平民の方を......」
「焦るな。一歩ずつだ」
* * *
敵は、四方から迫っていた。
だが、ルークたちは屈しない。
「俺たちは、諦めない」
どんな困難が待ち受けていても──
「三人で、乗り越える」
* * *
次回予告
* * *
マルクスの報告により、サラに王宮からの召喚状が届く。
監視役としての立場を問われる中、サラは決断を下す。
そして、三人の関係が変わる──
第5話「王宮召喚」
「私は、自分の選択を後悔していない」
「それを、堂々と伝えるだけよ」
覚悟の時が、来る──




