第14話「初任務の前夜」
学期末試験が終わった。
生徒たちは、束の間の休息を楽しんでいた。
だが、そんな中──
「緊急告知! 全生徒は大講堂に集合せよ!」
学院中に、警報が鳴り響いた。
* * *
大講堂に、生徒たちが集まった。
「何があったんだ......」
「分からない。緊急事態か?」
ざわめきの中、学院長が壇上に立った。
「静粛に」
彼の声が響くと、会場が静まり返った。
* * *
「皆に、重要な発表がある」
学院長は厳かに言った。
「王国から、学院への任務要請が来た」
「任務?」
「そうだ。学院の生徒に、実地訓練を兼ねた任務への参加を求められている」
生徒たちがざわめいた。
「任務って......」
「実戦ってことか?」
* * *
「詳細を説明する」
学院長は続けた。
「王国の辺境で、魔物の活動が活発化している」
「魔物......」
「調査と討伐のため、精鋭部隊を派遣することになった。その一員として、学院の上位成績者を選抜する」
「上位成績者?」
「そうだ。成績優秀な者、実力が認められた者を、任務に参加させる」
* * *
「選抜基準は何ですか」
生徒の一人が質問した。
「剣術と魔法の成績。そして、教官の推薦だ」
「教官の推薦......」
「選抜された者には、後ほど個別に通知する。以上だ」
学院長が壇上を去ると、生徒たちの間で議論が始まった。
「任務か......怖いな」
「でも、参加できれば実績になる」
「選ばれるかな......」
* * *
放課後。
ルーク、カイ、サラの三人に、通知が届いた。
「任務への参加を命ずる」
「俺たち三人とも、か」
「そうみたいね」
「しかも、同じ班に編成されてる」
ルークは通知を確認した。
「......都合がいいな」
「偶然かしら」
「分からない。だが、結果的には助かる」
* * *
「任務の詳細は」
「辺境の村で、魔物の調査と討伐」
「魔物って、どんな種類ですか」
「分からない。現地で確認することになる」
「......不安だな」
「当然だ。初めての実戦だからな」
「でも、三人一緒なら心強いです」
「ああ。協力して乗り切ろう」
* * *
任務の前夜。
三人は、最後の打ち合わせをしていた。
「持ち物の確認をしよう」
ルークが言った。
「剣、防具、回復薬、保存食......」
「通信用の魔道具も」
「ああ。離れても連絡が取れるようにしておく」
「分かりました」
* * *
「それから、役割分担だ」
「役割?」
「俺が指揮を執る。戦闘時の判断は俺に任せろ」
「はい」
「サラは前衛。剣術で敵を迎え撃て」
「分かったわ」
「カイは中衛。状況を見て、援護や追撃を担当」
「はい」
「緊急時は、臨機応変に動け。だが、基本はこの形で行く」
* * *
「質問があります」
カイが手を挙げた。
「何だ」
「魔物との戦いって、模擬戦とは違いますよね」
「ああ、違う」
「どう違うんですか」
「まず、相手が命を狙ってくる」
「......」
「模擬戦は、どこかで手加減がある。だが、実戦は違う。殺されるか、殺すか」
カイは息を呑んだ。
「怖い、ですね」
「怖くて当然だ。だが、恐怖を乗り越えろ」
* * *
「俺たちは、仲間だ」
ルークは言った。
「一人じゃない。三人で戦えば、何とかなる」
「はい......」
「信じろ。俺を。サラを。そして、自分自身を」
「......分かりました」
カイは、拳を握りしめた。
「僕、頑張ります」
「その意気だ」
* * *
「それじゃ、今日は早く休みましょう」
サラが言った。
「明日に備えて、体力を温存しないと」
「そうだな」
「カイ、ちゃんと眠るのよ」
「はい」
「ルークも」
「分かっている」
「じゃあ、明日」
「ああ、明日」
* * *
その夜。
ルークは、自室で考え込んでいた。
「任務か......」
辺境での魔物調査。
一見、普通の任務に見える。
だが──
「何か、引っかかる」
* * *
「なぜ、このタイミングで任務が来た」
学院の地下で、封印が不安定になっている時期だ。
そんな時に、上位成績者を外に出す?
「王国は、何を考えている」
あるいは──
「封印と関係があるのか」
* * *
ルークは、地下の封印のことを思い出した。
アザルとの会話。
『封印は、いずれ崩れる』
その言葉が、頭から離れない。
「もしかして、任務は......」
封印の調査が、本当の目的なのかもしれない。
* * *
「考えすぎか......」
ルークは首を振った。
「今は、目の前のことに集中しよう」
任務を無事に終わらせる。
それが、最優先だ。
「明日から、いよいよだな」
ルークは目を閉じた。
* * *
その頃、学院の地下では──
封印が、また脈動していた。
『......誰かが、近づいてくる......』
アザルの声が、闇に響いた。
『面白い......あの者たちか......』
紫色の光が、強くなる。
『見届けてやろう......お前たちの、運命を......』
* * *
翌朝。
任務参加者が、学院の正門に集まった。
「これが、任務班のメンバーか」
ルークは、周囲を見回した。
自分たちの他に、数人の上級生がいる。
そして──
「まさか......」
アルベルト・ランカスターの姿があった。
* * *
「ギルバート」
アルベルトが近づいてきた。
「お前も、この任務か」
「そうだ」
「奇遇だな」
「ああ」
二人の間に、緊張が走る。
「今回は、仲良くやろうぜ」
「......」
「任務中に足を引っ張るなよ、平民」
アルベルトは、カイを睨んで去っていった。
* * *
「あいつ......」
カイは悔しそうに呟いた。
「気にするな」
ルークが言った。
「任務中は、協力するしかない。私情は後だ」
「分かってます」
「いい返事だ」
サラが言った。
「では、出発よ」
* * *
馬車が出発した。
辺境の村まで、数日の旅だ。
「長い道のりになるわね」
「ああ」
「この間に、作戦を詰めておきましょう」
「そうだな」
三人は、馬車の中で打ち合わせを続けた。
* * *
「敵の情報は、ほとんどない」
ルークは言った。
「魔物の種類も、数も分からない」
「現地で確認するしかないわね」
「ああ。だから、最初は慎重に動く」
「分かりました」
「無理な戦闘は避ける。情報収集を優先」
「はい」
「それから──」
* * *
馬車が、突然揺れた。
「何だ!?」
「外で何かあったみたいです」
窓から外を見ると、先頭の馬車が止まっていた。
「出てみよう」
三人は馬車を降りた。
* * *
「どうしたんですか」
先頭の教官に尋ねた。
「道が塞がれている」
「塞がれて?」
見ると、道の真ん中に大きな岩が転がっていた。
「自然に落ちたのか......?」
「分からない。だが、通れない」
「迂回するしかないか」
* * *
その時。
周囲の森から、不気味な気配が漂ってきた。
「......!」
「何か、いる」
「全員、警戒しろ!」
教官の声と同時に──
森から、黒い影が飛び出してきた。
* * *
「魔物だ!」
「まさか、ここで......!」
魔物たちが、馬車の列に襲いかかった。
「迎え撃て!」
教官が叫んだ。
学院の生徒たちは、剣を抜いて戦い始めた。
* * *
「カイ、サラ、固まれ!」
ルークが指示を出した。
「背中を合わせろ!」
「はい!」
「分かったわ!」
三人は、円陣を組んだ。
「来る!」
魔物が突進してきた。
* * *
「はあっ!」
サラが、魔物を斬り伏せた。
「こっちにも!」
「任せろ!」
ルークが、別の魔物を迎え撃つ。
「カイ、援護!」
「はい!」
カイは、隙を見て攻撃を加えた。
* * *
戦闘は、激しさを増した。
「数が多い......!」
「どこから来てるんだ!」
「森から、次々と......!」
だが、学院の生徒たちは、懸命に戦った。
* * *
「くっ......!」
カイが、魔物の攻撃を受けた。
「カイ!」
「大丈夫......! かすり傷です......!」
「無理をするな!」
「まだ、戦えます......!」
カイは、傷を押さえながら剣を構えた。
* * *
やがて、魔物たちは退却し始めた。
「......逃げた?」
「追わなくていい。深追いは危険だ」
「了解......」
生徒たちは、息を整えた。
「負傷者は」
「軽傷が数名。重傷者はいません」
「よし。手当てをしながら、移動を再開する」
* * *
「まさか、道中で襲われるとは......」
サラが言った。
「想定外だったわ」
「ああ。魔物が、こんな所まで出てきているとは」
「任務の目的地に着く前に、これか......」
「本番は、もっと厳しいかもしれないな」
カイは傷の手当てを受けながら、険しい表情をしていた。
「僕、役に立てましたか......?」
「ああ。よくやった」
「本当ですか」
「本当だ。初めての実戦で、あそこまで動けたのは立派だ」
「......ありがとうございます」
* * *
夜、野営地で。
三人は、焚き火を囲んでいた。
「今日は、大変だったわね」
「ああ。まさか、襲撃があるとは」
「魔物が、内地まで出てきてるなんて......」
「辺境の状況は、思ったより深刻かもしれないな」
* * *
「ねえ、ルーク」
サラが言った。
「今日の魔物、何か変じゃなかった?」
「変?」
「普通の魔物より、統率が取れていた気がする」
「......確かに」
「まるで、誰かに指示されているみたいに」
ルークは考え込んだ。
「指示......」
* * *
「もしかして......」
ルークの脳裏に、嫌な予感がよぎった。
「封印と、関係があるのか......?」
「封印?」
「いや、何でもない」
「ルーク、何か隠してる?」
「......後で話す。今は、休もう」
「......分かったわ」
* * *
その夜。
ルークは、一人で星空を見上げていた。
「魔物の活動が活発化している理由......」
封印が弱まっているせいか。
それとも、別の理由があるのか。
「分からないことが、多すぎる」
だが、一つだけ確かなことがある。
「何かが、動き始めている」
世界の均衡が、崩れ始めている。
「俺たちは、その渦中にいる」
* * *
次回予告
* * *
任務中、封印の綻びが開く。
「深淵の気配」が、世界に漏れ出す。
物語の難易度が、上がり始める──
第15話「境界の裂け目」
「これは......深淵の気配だ」
「世界が、変わろうとしている」
第1部、完結──




