第13話「不正試験」
学期末が近づいていた。
学院では、恒例の実力試験が行われる。
「今年の試験は、例年より厳しいらしい」
「そうなのか?」
「ああ。地下の異変のせいで、学院側が引き締めを図ってるとか」
生徒たちの間で、緊張が走っていた。
* * *
「試験か......」
カイは、不安を感じていた。
「入学してから、初めての正式な試験だ」
成績が悪ければ、留年もあり得る。
最悪、退学になる可能性も。
「頑張らなきゃ......」
* * *
試験の数日前。
ルークはカイに、試験対策を教えていた。
「筆記試験は、基本を押さえれば問題ない」
「はい」
「実技試験は、今まで練習してきたことをやればいい」
「分かりました」
「焦らず、落ち着いてやれ」
「はい」
* * *
「ところで」
ルークは真剣な顔になった。
「試験で、何か妨害があるかもしれない」
「妨害?」
「マルクスたちだ。お前を潰すために、不正を仕掛けてくる可能性がある」
「不正......」
「例えば、試験問題を事前に漏洩させて、お前だけに教えないとか」
「そんな......」
「あるいは、実技試験で審判を買収するとか」
「ひどい......」
* * *
「だから、警戒しろ」
「分かりました。でも、どうやって防げばいいんですか」
「完全に防ぐのは難しい。だが、対策はある」
「対策?」
「不正があった場合、証拠を残すこと」
「証拠......」
「俺とサラが、監視する。何かあれば、すぐに対応できるようにしておく」
「ありがとうございます」
「それと、お前自身も注意しろ。何かおかしいと思ったら、すぐに報告しろ」
「はい」
* * *
試験当日。
筆記試験から始まった。
「では、始め」
試験官の合図で、生徒たちが一斉に問題用紙を開く。
カイも、問題を確認した。
「......?」
何かがおかしい。
問題の内容が、授業で習ったものと違う。
「これ、教わってない......」
* * *
周囲を見回すと、他の生徒たちは順調に回答しているようだ。
「どういうこと......」
カイは混乱した。
自分だけ、違う問題を渡されている?
「まさか......」
これが、ルークが言っていた「不正」か。
* * *
試験終了後。
カイは、ルークに報告した。
「筆記試験の問題が、おかしかったんです」
「おかしい?」
「僕だけ、授業で習っていない問題が出ました」
「......やはりか」
「どういうことですか」
「マルクスたちの仕業だろう」
「でも、どうやって......」
「試験問題を入れ替えた可能性がある」
* * *
「入れ替え?」
「お前の問題用紙だけ、別の内容にしたんだ」
「そんなことが......」
「証拠を探す必要がある」
「どうやって」
「サラに頼んである。問題用紙を回収して、調べてもらう」
「サラさんに......」
「彼女なら、教務課にアクセスできる」
「分かりました」
* * *
その夜。
サラから連絡があった。
「調べたわ。やっぱり、カイの問題用紙だけ違っていた」
「やはりか」
「他の生徒は、全員同じ問題。カイだけ、別の問題が入っていた」
「誰がやった」
「まだ特定できていない。でも、証拠は押さえた」
「よくやった」
「これを、教務課に報告すれば......」
「いや、待て」
「待つ?」
* * *
「すぐに報告しても、もみ消される可能性がある」
「どういうこと」
「マルクスたちの背後には、有力な貴族がいる。教務課も、圧力を受けている可能性が高い」
「じゃあ、どうすれば」
「もっと決定的な証拠を集める」
「決定的な証拠?」
「実技試験で、また不正があるはずだ。その時に、現行犯で押さえる」
「なるほど......」
「そうすれば、もみ消しようがない」
* * *
実技試験の日。
カイは、闘技場に立っていた。
「実技試験は、模擬戦形式で行う」
試験官が説明した。
「ランダムに選ばれた相手と戦い、審判が評価する」
「ランダム......」
カイは嫌な予感がした。
* * *
「では、対戦相手を発表する」
試験官がリストを読み上げる。
「カイ・レイナーの相手は──」
カイは息を呑んだ。
「アルベルト・ランカスター」
「......」
やはり。
「ランダム」のはずなのに、最強の相手と当たった。
* * *
「偶然のはずがない」
観客席で、ルークは呟いた。
「マルクスたちの仕業ね」
サラが言った。
「ああ。カイを潰すために、仕組んだのだろう」
「どうする?」
「見ているしかない。だが......」
「だが?」
「審判にも注意しろ。買収されている可能性がある」
「分かったわ」
* * *
試合が始まった。
「始め!」
アルベルトが、猛然と攻めてきた。
「くっ......!」
カイは必死に防いだ。
「どうした、平民! その程度か!」
「......」
カイは、冷静を保とうとした。
ルークから教わったこと。「負けない剣」を思い出せ。
* * *
「はあっ!」
カイがカウンターを放った。
「っ!」
アルベルトは、辛うじて躱した。
「やるな......」
「まだまだ!」
カイの攻撃が、加速する。
二人の戦いは、拮抗していた。
* * *
だが、その時──
「そこまで!」
審判が、突然試合を止めた。
「え?」
「カイ・レイナー、反則負け」
「は?」
カイは、何が起きたか分からなかった。
「反則......? 何が......」
「今の攻撃は、禁止技に抵触している」
「禁止技? 僕は何も......」
「異議があるなら、後で申し立てるように。今は、退場しなさい」
* * *
「そんな......」
カイは、呆然と立ち尽くした。
何が起きた?
自分は、普通に戦っていただけなのに。
「おい、さっさと退場しろ」
「......」
カイは、闘技場を後にした。
その目には、悔しさと怒りが滲んでいた。
* * *
「これはひどいわ」
サラが憤った。
「明らかな不正よ。カイは、禁止技なんて使っていなかった」
「ああ。審判が買収されている」
「どうする?」
「今すぐ動く」
ルークは立ち上がった。
「証拠は、押さえた。これを使って、反撃する」
* * *
ルークは、教務課に乗り込んだ。
「異議申し立てをする」
「異議?」
「カイ・レイナーの実技試験について。審判の判定に不正があった」
「不正とは、穏やかではないですね」
「証拠がある」
ルークは、書類を差し出した。
「これは、試験の一部始終を記録した魔法映像だ」
「魔法映像?」
「サラ・ヴァレンシュタインが、監視の一環として記録していた」
* * *
「これは......」
教務課の職員は、映像を確認した。
「確かに、カイ・レイナーは禁止技を使っていませんね」
「審判の誤審だ。もしくは、故意の不正判定だ」
「しかし......」
「調査を要求する。審判が買収されていないか、徹底的に調べろ」
「分かりました。調査します」
* * *
その日の夕方。
調査の結果が出た。
「審判を務めた教官が、不正を認めました」
「誰に買収された」
「それは......」
職員は言い淀んだ。
「言え」
「マルクス・クレインの一派に、金銭を受け取っていたと......」
「やはりか」
* * *
「カイ・レイナーの試験結果は、取り消されます」
「再試験は」
「行います。今度は、公正な審判の下で」
「よし」
ルークは頷いた。
「それと、不正を行った者たちへの処分は」
「マルクス・クレインと関係者には、厳重な処分が下されます」
「当然だ」
* * *
マルクスたちは、停学処分となった。
「くそっ......」
マルクスは、悔しさに歯噛みした。
「ギルバートめ......」
「どうされますか」
「今は、引くしかない。だが、覚えていろ......」
「はい」
「いつか、必ず復讐する」
* * *
再試験が行われた。
今度は、公正な審判の下で。
カイは、見事に合格した。
「やった......」
「おめでとう」
ルークが祝った。
「ルークのおかげです」
「お前が頑張ったからだ」
「でも、ルークとサラさんが、証拠を押さえてくれたから......」
「仲間だからな」
* * *
「ねえ、ルーク」
サラが近づいてきた。
「今回のこと、よく分かったわ」
「何が」
「あなたたちの関係。本当に信頼し合っているのね」
「......」
「私も、もっと協力したい」
「協力?」
「今まで、監視役として距離を置いていた。でも、それじゃダメだって分かった」
「サラ......」
「私も、仲間に入れて」
* * *
ルークは、サラを見つめた。
「......いいのか」
「いいわ。もう決めた」
「王家の立場は」
「それは、それ。これは、これよ」
「......」
「私は、自分の意志で動きたい。あなたたちと一緒に」
ルークは、小さく笑った。
「分かった。歓迎する」
「ありがとう」
* * *
「これで、正式に三人チームね」
サラが言った。
「ああ。心強い」
「私も、できることをするわ」
「頼んだ」
カイが嬉しそうに言った。
「サラさんが仲間になってくれて、本当に嬉しいです」
「よろしくね、カイ」
「はい!」
* * *
三人の絆は、さらに深まった。
困難を乗り越えるたびに、信頼は強くなる。
「俺たちなら、きっとやれる」
ルークは、そう確信していた。
どんな敵が来ても──
「三人で、立ち向かう」
* * *
次回予告
* * *
学院初の合同任務が発令される。
ルーク、カイ、サラの三人が同班に。
だが、地下の封印が不穏な反応を示し始める──
第14話「初任務の前夜」
「明日から、任務だ」
「何が待っているか分からないが......」
運命の扉が、開かれる──




