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ピタサンド



 青い空、青い海、揺れるヤシの木。

 白い砂浜が煌めくここはワジャイ島。

 カイナンからの定期船で訪れることができるこの常夏の島は、カップルや新婚に大人気な観光地である。


 暑い陽射しの下、熱いカップルや若者たちが楽しげに海ではしゃいでいる中、天狐は太陽からそそがれる光を恨めしげに手で遮った。

 砂浜に置かれたパラソルの下は、影ができているものの涼しくはない。


「天狐、飲み物買ってきたぞ」


 浜辺に並んでいる売店から瓶入りのラムネを買ってきたフロガが戻って来る。

 シズル感溢れるラムネの瓶を受け取り、天狐はそれを流し込んだ。


「マンティランタの方が良かった」

「仕方ないだろ。 緊急の討伐依頼が入っちゃったんだから」


 白いパラソルの下で、面白くなさそうに膝を抱える天狐がフロガをじっとりと見上げた。

 薄っすらと汗ばんでいる天狐の姿は、なんだか暑そうだ。

 いつもより薄着ではあるが、こうも日光が眩しいとずっと砂浜にいるのも厳しいだろう。

 周りではしゃいでいるカップルや若い集団を眺めたあと、フロガは再び天狐を見た。


「なあ天狐。 少し海に入らない?」

「討伐依頼があるんじゃないのか」

「それは夜になってヒトがまばらになってからだからさ、ちょっと遊ぼうよ」


 天狐が海を見つめる。

 穏やかな波と、美しいコバルトブルーの水面が太陽に反射してキラキラと光っている。

 なんだか涼し気に見えて、少しくらいは入っても良い気がしてきた。


「着替えてくる」

「うん、俺も行く」


 一応、水着は持ってきた。

 元々マンティランタへ持っていくつもりで買ったものだ。

 ボトムにフリルがついた、ピーチピンクのレイヤードビキニ。

 天狐にしては可愛らしい水着と色だが、選んだのはフロガである。

 

 着替えが終わって、ビーチへ行く。

 元の場所へ戻るが、フロガはまだ来ていないようだ。

 再びパラソルの下に座ってフロガを待つことにした。


「お待たせー!」


 座ってから5分程度でそんな声が聞こえた。

 振り返ると、知らない男が二人。

 天狐は表情も変えず、再び海へ視線を移す。

 そんな天狐を囲むように両脇へ男が座ると、肩に手を回して引き寄せた。


「あれー? ヒト違いでした!ごめんね! お詫びに美味しいもの奢るからさあ、あっち行こうよ」

「……すぞ」

「え? なに?」


 男が天狐の声を聞こうと顔を近付ける。

 が、そのまま流れるように天狐の体が離れた。

 

「はいごめんね。 お兄さんたち危ないから離れたほうが良いよ」

「……うわ、男いんのかよ……サーセンでしたー」


 フロガを見るなり顔を顰めると、男は簡単に離れて行った。

 去り際に大きめの舌打ちが聞こえ、わざとらしくフロガにぶつかっていく。

 他のナンパ先を探すように歩き始めたが、次の瞬間には男達の水着が突然燃え、悲鳴がビーチに響き渡った。


「天狐、お前!!」

「私じゃない。 あいつらが勝手に燃えた」

「勝手に燃えるわけないだろ!!まったく……待たせた俺も悪かったけどさあ」


 そうぼやきながら、フロガが男達に駆け寄っていく。

 動けない男達を背負って医務室へ運んでやるが、結局は病院へ送られることになった。


「……あれじゃ一生使い物にならないな」

「どうせ粗末なもんだろ。 使われないほうが良いんじゃないのか」

「まあ、それもそうだね。 海行こうか、浮き輪借りてきたんだ」


 大きくてカラフルな浮き輪を天狐に渡す。

 遅くなったのはこれのせいだったらしい。

 

 早速浮き輪を体に通し、海へ入る。

 温い潮水が心地よく、浮き輪に体を預けて波の流れに身を任せた。

 そんな天狐の周りでフロガは少し泳いでから横へ掴まって天狐を覗き込んだ。


「気持ち良いね」

「……風呂じゃないんだぞ」

「お風呂みたいに浸かってるのはお前だろ」


 天狐は泳げない。

 水に浸かるのも掛かるのも問題ないが、泳ぐという行為が苦手なのだ。

 周りで潜ったり泳いだりしているフロガを眺めながら、天狐は揺れる波に再び体を預けた。

 そんなふうに少し遊んでから、フロガが再び浮き輪の脇に掴まる。

 

「さて、そろそろ戻ろうか」

「ああ」


 浮輪に付いている紐を掴んで、フロガが浅瀬へと移動する。

 程よいスピードが気持ち良く、天狐は浅瀬へ着いてもしばらく体を浮かせて引っ張られるのを楽しんだ。

 やがてズルズルと腰を引き摺る姿勢になると、フロガが手を止めた。

 

「天狐、ほら出るぞ」

「ああ……ん?」

「ん?」


 ふと、違和感を覚えた。

 尻が寒いのだ。

 

「フロガ、水着が流された」   

「えっ……どっち?」

「下」

「下って二枚だったよね。 両方?」

「いや、一枚だから問題ない」


 言って、天狐が海から這い出てくる。

 天狐は問題ないと思っているようだが、ほぼ紐であるボトムはかなり際どい。

 

「あー……ちょっと待って」

「なんだよ。 着てるから良いだろ」


 フロガが珍しく眉を顰めた。

 パラソルの下に置いておいたフロガのシャツを天狐の腰に巻く。

 そんなに心配なら、こんな水着を買わなければ良かったのに、と口に出しかけた天狐だったが、フロガなりに何か考えがあったのだろうと思い直して口を閉じた。

 どうせ、ろくな考えでは無いのだろうが。


 ようやくフロガが安心した所で、泳いで腹も減ったため浜辺に並んでいる屋台へ向かった。

 ヤキソバ、サンドイッチ、串焼き等の他にカキ氷やアイス、冷やしたフルーツなんかもある。


 そんな中で天狐が選んだのは、ラム肉を挟んだサンドイッチだった。  

 ピタと呼ばれる円形のパンを袋状に切り、中にはスパイスで味付けされたラム肉と、刻んだレタスや玉ねぎなどの野菜がみっちりと挟まれているサンドイッチだ。

 ピタパンの生地は柔らかく、薄くて食べやすい。


「うまい」

「美味しいね。 なんだかオシャレだしピザに似てるかも」

「そうだな」


 ボリュームのあるピタサンドを食べ終わる頃にはお腹いっぱいになっていた。

 フロガは食後のアイスコーヒーを注文し、天狐はメロンソーダと冷えたフルーツを注文した。

 ドリンクを飲みつつ、冷たくて爽やかなオレンジや瑞々しい桃やスイカを摘みながら、浜辺を眺める。


 静かに波打つビーチは、ヒトがまばらになってきていた。

 そろそろ日が落ちる時間のようだ。


「今回の依頼、緊急っていう割には平和そうだな」

「ヒトの多い昼は何もないそうなんだけど、問題はヒトがいなくなった夜なんだって」

「夜?」

「ああ、夜なってから浜辺に行ったカップルを魔獣が襲うらしい」


 この浜辺の管理者である依頼人が言うには、夜になるとダーツフィッシュやシュリップが突然大量に発生するそうだ。

 今は夜の浜辺を立入禁止にしているが、ムードが良いのでルールを破った者達が浜辺へ行ってしまい、襲われているらしい。

 更に奇妙なことに、魔獣が現れるのは恋人同士や夫婦などの仲睦まじい二人が浜辺にいるときだけなのだ。

 まだ死亡事故にはなっていないが、被害者は増え続けている。

 今すぐにでも討伐して欲しいとのことだった。

 

「意図的に魔獣を放っている奴がいるかもしれないってことか」

「そういうこと。 だから、今日はヒトがいなくなったら俺と天狐で浜辺に行こうと思う」

「なるほどな」


 そんな話をしている間に、陽はゆっくりと落ちていった。

 

 コバルトブルーの海が漆黒に包まれる頃、海岸の周辺はヒト払いが行われた。

 これで今現在、浜辺にいるのはフロガと天狐の二人だけである。

 

「あまり数が多いようだったら魔法で一掃したほうが早いかな」

「大量発生ってくらいだからな。 とりあえずお前の剣に私の魔法を纏わせて様子見するか」

「そうだな」


 暗い浜辺を歩く。

 海の反対側にある街からは、うっすらと赤い光が見えている。

 恐らく街中にたくさんあった提灯の灯りだろう。

 鮮やかな赤色の丸い光は幻想的で、とても美しい、

 この浜辺も、立入禁止にする前はライトアップされていたと、管理者が言っていた。

 

「ほら天狐、見てごらん。 綺麗だなあ」

「そうだな」

「明日はお祭りがあるみたいだから、見に行ってみようか」

「はしゃぎすぎだろ」

「たまには良いだろ。 それに、神都とは全然違うらしいんだ」

「……ふうん」


 フロガが街中の灯りに夢中になっているなか、天狐は黒い海を眺めた。

 水面には月明かりが浮かんでいる。

 時折きらめく波間はライトアップなんてしなくても、充分美しい。

 こういう雰囲気の中で、恋人や夫婦が愛を囁き合っているのだろうと思うと、天狐は妙に滑稽に思えてきた。

 もし、大量発生している魔獣がヒトの手によるものなら、そういう類が嫌いな奴なのだろう。


「天狐」


 ふと、フロガが低く囁いて、天狐の肩を掴んだ。

 この男は雰囲気を重んじる男ではない。

 だからこういう所で愛を囁くようなことはしない。

 つまり、異変があったのだ。


 足を止めて、フロガと同じ方向を見る。

 黒い海の水面が、不自然に波立っている。 そう思った瞬間、海の中からダーツフィッシュが飛び出して来た。

 向かって来たダーツフィッシュを、フロガが薙ぎ払う。

 続けてシュリップも飛び出して来たが、また薙ぎ払っていく。


「これなら俺だけでなんとかなりそう!」

「そうみたいだな」


 大量発生……という割には向かってくるダーツフィッシュやシュリップは精々十匹ずつ。

 フロガなら目を瞑っていても倒せるだろう。

 天狐は少し離れて全体を眺めた。

 どこかにヒトの気配があるだろうか。

 暗い周囲に目を凝らした、そのときだった。

 

「う……」


 足にヌルリとした嫌な感触が走る。

 動かそうにも、何かが絡まって動かない。

 魔法を出そうと手を動かそうとしたが、こちらも動かない。

 その嫌な感触に、ぞわりと背中が粟立った。

 

「サムドリータンブー? 報告にはなかったが……」


 下を見れば、いつの間にか体中に巻き付くサムドリータンブーがいた。

 十本の頭部がうねうねと蠢き、絡まり、ヌルヌルの感触が体を這っていく。

 毒などは持っていないが、ぬめつく粘液は単純に気持ちが悪い。


「おい! フ…………っ!!」


 叫ぼうと思った瞬間、サムドリータンブーの頭が口に入ってきた。

 同時に、足に鋭い痛みを感じる。

 サムドリータンブーに鋭い牙は無いはずだ。


 もう一度下を見て、目を疑う。


「……っ!?」


 八本の頭部。

 ブーミータンブーだ。

 ブーミータンブーの牙には毒があり、幻覚や麻痺を引き起こす、厄介なものだ。

 致死量ではないが、こちらも単純に気持ちが悪いし、何より幻覚も麻痺も天狐の嫌いな属性だ。

 嫌悪感を覚える天狐の意識が、ゆっくりとぼやけていき、体から力が抜ける。

 

(ブーミータンブーも、サムドリータンブーもこんなところにいるはずがない。 だとすると、やはり、誰かが……)


 何かが木の影で動いた気がした。

 幻覚かもしれない。


 *****


「天狐! 多分これで最後だ。……天狐?」


 返事がない。

 フロガは最後のダーツフィッシュを切り捨て、辺りを見回す。もう動くものはなかった。

 しかし、天狐も見当たらない。

 静かになった海、暗い砂浜、ささやかな風に揺れる木。

 フロガはそっと耳を澄ます。


「うぅ……」


 か細い呻き声が聞こえた。

 

「天狐!!」


 呻き声は、揺れる木の近くから聞こえてくる。

 急いでそちらへ向かおうと走り始めると、突然炎の矢が木々の間を突き抜けた。 これは、天狐の魔法だ。


「「ぎゃっ!!」」


 男女の悲鳴が聞こえた。

 もちろん、天狐のものではない。

 姿が見えない天狐のことも気になるが、とりあえず悲鳴を上げた男女のほうへ向かった。


「大丈夫ですか? ……ここで何をしていたんです?」


 木の横で倒れているのは、若い男女。

 その脇には大きな網型の魔具が広がっていた。

 

「お、俺たちは……その……」

「えーと、あの……海を見ようかなって」


 白々しい程の嘘をついている。

 目はキョロキョロと辺りを見回し、体はそわそわと落ちつかない。

 網型の魔具を隠そうとしている姿は、それだけで全てを語っているようだった。


「……その網は?」

「え、いや、これは私たちのじゃないです」


 フロガが網を拾いあげる。

 ぬるりとした感触や、シュリップのヒゲ、ダーツフィッシュの鱗が残っているのが見えた。

 網を眺めてから、もう一度二人を見る。


「もう一回聞くね。 ここで何を?」


 フロガの圧に二人は観念したのか、大きく息を吸うと一気に喋り始めた。

 

「俺たち、仲良くしてるカップルや夫婦に魔獣をけしかける事にはまってて……」

「でも、ひどい怪我や殺したりはしてません!」

「そういう問題じゃないでしょ。 どうしてそんなことを?」


 とても理解し難い趣味だ。

 殺してないと言うが、怪我をさせたり迷惑をかけたことに変わりはない。

 さらに問うと、少し話し辛そうにしながら男がぽつぽつ喋った。


「その……カップルの片方にはブーミータンブーを放って動けなくしてから、サムドリータンブーを放つんです」

「……どうして?」

「触手に絡まれてる恋人を目にした時の姿が……寝取られてるみたいで……興奮して……なあ?」

「……うん」


 フロガは言葉を失った。

 そもそも何を言っているのか理解できない。

 寝取られとはどういうことだろう。

 少し考えてみたが、理解したくはなかったのですぐに警備隊を呼んで、連行してもらった。


「変なヒトたちだったな……」


 久し振りに理解し難いヒトに出会って疲れてしまった。

 早くホテルに帰って休もう。

 しかし何かを忘れている気がする。


「あ、天狐……」


 忘れてはいけないものを忘れていた。

 何せ、あのカップルの印象が強すぎたのだ。

 急いで天狐の呻き声が聞こえた木の横へ向かう。


「天狐! ごめん……」

「……ふざけんな……」


 虚ろな目でブーミータンブーとサムドリータンブに絡まれている天狐が小さく呟く。

 死ぬまでではないが、ヌルヌルの粘液や幻覚、麻痺に苛まれているのだから、辛いのだろう。

 すぐに二匹の魔獣を切り裂き、拘束を解いてやると、天狐はその場にペタリと倒れてしまった。


「大丈夫……じゃないよなぁ」

「……さいあくだ」


 よく見てみれば服は破け、肌は粘液の這った跡だらけ、脚には噛まれた傷がある。

 ぼうっとした表情のままフロガを見上げる天狐は、見たことない顔をしていた。


「ホテルに戻ろうか」

「ん……」


 粘液で汚れた体を拭いてやり、上からシャツを被せる。

 力の抜けた天狐を背負い、なるべく人目を避けてホテルへ向かった。

 

 ホテルの自室へ入り、そのままバスルームへ向かう。

 破けた服は剥ぎ取って、粘液を洗い流し、丁寧に拭いてやって、ベッドへ寝かす。

 もう喋る気力さえない天狐がフロガを見上げてから目を閉じ、そのまま眠ってしまった。

 一晩眠れば、きっと麻痺や幻覚は解消されるだろう。

 

「おやすみ、天狐」


 今日は天狐にとっては災難だった。

 次の休みには、行きたがっていたマンティランタへ連れて行って、美味しいものを食べさせてあげよう。

 フロガも軽くシャワーを浴びて、天狐の横で眠ることにした。

 

*****


 あれから一晩眠り、目覚めたのは今日の昼。

 夕方までホテルでゆっくりと過ごし、陽が落ちて涼しくなってから、祭りが行われているという街の広場へ出てきた。

 夏の訪れを知らせる祭りは、赤い提灯を街中にぶら下げてお祝いするのだという。

 大人数で神輿を担ぎ、歌を歌って騒ぐ街の人々は楽しげであった。


 広場の暗い夜道に、赤い提灯がぽつぽつと光っている。

 立ち並ぶ屋台には神都では見たことのない食べ物が並び、天狐を悩ませた。

 

「これにする」


 天狐が選んだのは、真っ赤なりんご飴。

 シャキシャキとした瑞々しいりんごに薄い飴を纏わせたそれは、一口齧ればりんごの酸味と飴の甘さが口の中に広がった。

 美味しそうにそれを頬張る天狐を眺めながら、フロガはカキ氷を口に入れる。

 

「回復して良かったよ」

「あの程度で私がダウンするわけないだろう」

「わかってるよ」


 近くのベンチに座り、一息つく。

 一通り食べ終えたりんご飴を咀嚼しつつ、天狐は屋台を見回した。

 甘いものの次は塩っぱいものを食べたくなったのだろうが、天狐の視線がふいに止まる。


「フロガ、見てみろ」


 天狐が夜空を指差す。

 言われた通り見上げると、ひゅう、と何かが打ち上がる音がして、次の瞬間には炸裂音と共に大きな花火が視界いっぱいに広がった。

 光の雫が晴れた夜空を覆い尽くし、ゆっくりと消えていく。

 それから間髪を入れずに次の花火が打ち上がった。

 菊や牡丹が咲き乱れ、冠が広がり流れ落ちる。

 

「ああ、綺麗だね」


 そう言って、フロガは天狐の横顔を盗み見た。

 花火の光に照らされて、少し赤らんだ頬と、輝く瞳。

 花火も綺麗だが、こちらも美しい。


「たーまやー」


 どこかからそんな声が聞こえて、天狐が首をかしげた。


「今のなんだ?」

「さあ……現地の方言じゃないかなぁ」

「ふーん」


 天狐は興味無さげに答えたが、花火を見る表情は穏やかで、満喫しているのが見て取れた。

 やがて花火はクライマックスを迎えたのか、百花繚乱の火花が次々と打ち上がり、周囲から歓声が湧き上がる。

 天狐も楽しそうに口の端を吊り上げて、フロガを見た。


「ちょっとは来て良かったって思えただろ」

「ちょっとはな」


 天狐が笑う。

 そんな天狐に、フロガも笑い返した。


「次はマンティランタでうなぎを食べようか」


 天狐の笑顔が引き攣った。

 こういうとき、ムードを作れないのがフロガという男である。

 引き攣る天狐の笑顔に笑いながら、フロガは現地の言葉の真似をした。


「たーまやー」


 パラパラと弾ける音を立てながら、光の残滓がゆっくりと消えていく。

 最後に一際大きな花が夜空へ咲き乱れると、辺りは静寂に包まれた。

 ここは常夏の島、ワジャイ。

 夏の訪れを知らせる祭りは、静かに終えようとしていた。

 


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