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夜会 中編

 

 金色の布地に張り付いたラメがシャンデリアの明かりを反射する。

 遠くからでもわかるそれを見るなり、ホールの近くで待っていたアタックが眩しそうに目を細めた。


「やっぱりそのスーツえげつないな……」

「……ですよね」


 アタックの言葉に、フロガは自分の衣装のことを思い出した。

 天狐を途中までエスコートして若干浮かれてはいたが、良く考えたら今自分はとんでもない格好をしている。

 魔法でアタックの姿に変えてもらったので、周りから見れば「張り切りすぎている元平民」だろう。

 きっと好奇の眼差しや嘲笑の声が集まるに違いない。

 アタックのためにも、ここは完璧な貴族を演じるつもりだ。

 

「アタックさん、俺はこういう所は慣れているので、貴族としての振る舞いをさせてもらいます。 なので、アタックさんもこれからしっかり勉強してくださいね」

「すごいな、マスター……もしかして元貴族だったりする?」

「まさか! 貴族の方から依頼が多かったので自然に覚えただけですよ」


 勘の鋭いアタックに若干驚きながらも適当に誤魔化す。

 実際、プラチナランクともなると貴族からの指名依頼が増えるので嘘は言っていない。


「じゃあ、俺は弟達を一人ずつ呼んでシメてくるよ。 主犯は誰か一人か、それとも全員かわからないが、俺の暗殺をやめさせる」

「わかりました。 こっちは任せてください」

 

 アタックが拳を握り締め、執事と共に消えて行った。

 フロガも、天狐と共に会場へ向かう。


 本日の夜会は、アタックを正式にオラージュ家の跡取りとして迎え入れた歓迎会のようなものらしい。

 広く見知ってもらう事と、ひっそりとお見合いも兼ねていたのか、いつもより招待客の人数が多く、若者が中心だ。

 雑談がメインの立食パーティーのようだが、広いホールと生演奏でダンスも楽しめるようになっているのは、若い者たちに自由にしてほしいというオラージュ侯爵の計らいのようだった。


 オラージュ侯爵、侯爵夫人と合流し、貴族達に挨拶をして周る。

 予想通り、好奇の目では見られはしたが奇抜な衣装とは正反対の穏やかで上品なフロガの対応で、すぐにそれらは消えた。


(ジャン・ドゥ男爵も流石に老けたな……最後に挨拶したのが15のときだから当然か)


 久し振りに会う貴族の面々は懐かしいとすら思った。

 こうしてちゃんと夜会に出るのだって、実家にいた時以来だ。

 見知った顔も多いので、うっかり「お久しぶりです」などと言わないように細心の注意を払いつつ、初めて社交界に出る()()()()を演じた。


「……ねえあなた、本当に冒険者なの? とてもそうは思えないわ」


 侯爵夫人が驚きと共にフロガへ小声で囁く。

 どうやらアタック同様に勘が鋭いらしいが、フロガはそれに笑ってみせた。


「貴族の方の護衛が多いので、恥をかかせまいと私なりに勉強しております」

「あらそうなの。 まるで本物の息子みたいで、わたくし今とても楽しいわ」

「光栄です」


 夫人が柔らかく笑う。 

 そんなふうに穏やかな時間が流れているが、フロガ……もとい、アタックへの刺客は既に三人ほど現れていた。

 警備がザルなのか、刺客がそれなりのプロなのか、どちらかはわからないが、全て天狐の魔法によって捕獲後、オラージュ家の者によって暗に排除されているので誰も気付かない。


 フロガから少し離れた後ろでグラスを傾けている天狐にそっと話しかける。


「天狐、アタックさんはどうだ?」

「さっき会ったが、どうも五男が怪しいらしい。 どこにもいないそうだ」


 天狐が手に持っていたレモネードを飲み干す。

 フロガがこうして挨拶回りをしている間に、犯人がわかってきたようだ。


「そうか。 そっちは天狐とアタックさんに任せるよ」

「ああ。……おい、あれ」


 天狐が目だけで合図する。

 表情も変えず、あくまで自然に、何にも気付いていないような、そんな仕草に異変を感じて、フロガはゆっくりと振り返った。


「やあ、クレヴォ! 久し振りじゃないか」

 

 侯爵が大きな身振りで男の手に肩を置く。

 そこには、まるで鏡でも見ているかのような、フロガと同じ顔の男がいた。


「お久しぶりです、オラージュ侯爵」


 穏やかな弧を描いている唇から、フロガと全く同じ声が聞こえる。

 髪色から瞳の色、ホクロの位置まで同じその男は、フロガの双子の兄であるクレヴォだ。

 事前に渡された招待客のリストで来るのはわかっていたが、改めて前にするとフロガは少しだけ戸惑った。

 しかし、それを顔や仕草に出さないよう、クレヴォに笑いかけてみせる。


「息子のアタックだ」

「お初にお目にかかります。 クレヴォ・エリュプティオと申します」

「アタック・オラージュです」

「お会いできて光栄です」


 クレヴォが人好きな笑顔を浮かべる。

 その笑顔の作り方すら似ていて、後ろにいた天狐はそこにフロガがいるような錯覚さえ起こしそうだった。

 幸い、本物のフロガは自分にだけはいつもの姿で見えているので、なんとか区別がつく。


「エリュプティオ家には世話になっていてね……そうそう、この間貰った桃は実に美味かった!」

「いえ、お世話になっているのはこちらの方ですよ。 いつも良くしていただいて、感謝しております」


 オラージュ侯爵も、その夫人も、随分クレヴォのことを気に入っているらしい。

 一緒に狩りへ行っただとか、クレヴォの妻がサロンに来ると楽しいだとか、話が盛り上がる。


 対してフロガは、こんなに仲が良いと知っていたら、もっと警戒していたのに。 と、背中で嫌な汗をかいていた。

 フロガがエリュプティオの家にいたころは、オラージュ家との交流はなかったのだ。

 この様子を見るに、父ではなくクレヴォが上手く輪を広げたのだろう。


「そういえば、今日はお一人なのね」


 夫人が、クレヴォの妻がいないことを残念がっている。

 クレヴォは申し訳無さそうに眉を下げ、そっと後ろへ視線をやった。


「今日は若い方が多いと聞きましたので、妹を連れてきたんです」

 

 クレヴォの合図に気付いた女がゆったりとやってくる。

 シルバーブラウンの髪におっとりとした紫紺の瞳、クレヴォよりもずっと背が低くて華奢な少女が優雅にカーテシーをした。


「ごきげんよう。 お久しぶりです」

「まあ、トリア!? こんなに大きくなって! もう立派なレディーね」


 鳥の囀りのような、可愛らしい声がクスクスと笑う。

 

「まあ、オラージュ侯爵夫人。 うふふ、私もう20ですのよ」

「初めて会ったのは5年前だったかしら……」


 夫人より驚いたのがフロガである。

 自分が出ていく頃はまだ幼かった妹がこんなに大きくなっている事に、一種の感動さえ覚えた。

 しかし、その感動に浸るほどフロガは浮かれてはいない。

 トリアに卒なく挨拶をし、夫人とトリアが二人で談話室へ行くのを見送って、クレヴォと喋っているオラージュ侯爵の後ろでなるべく気配を消した。


 しかし、クレヴォはそう甘くはなかった。

 それは、オラージュ侯爵が別の客人へと向かった時だ。


「アタック様、少し気になっていたのですが……」

「はい、なんでしょう」


 一人になった一瞬の隙で、クレヴォが声をかけてきた。

 オラージュ家の家督を継ぐアタックと仲良くしておきたいのだろう。 


 当然だ。 もし自分があちら側の世界にいたのなら、同じことをする。

 きっと、この金色の衣装が気になっていたと話を切り出すに違いない。

 そう思っていた。

  

「そちらの女性は……?」


 一瞬、言葉に詰まった。

 予想外の事を聞かれたのと、まさか貴族でもない天狐のことを気にするとは思ってもいなかった。

 それとなく距離も取っていたのだが、クレヴォは天狐がオラージュ家に近い者だと判断したのだ。


「……彼女は、冒険者です。 護衛を頼んでいるんですよ」

「そうでしたか…………てっきり、囲い者かと」


 言葉に詰まった瞬間を見逃さなかったのだろう。

 フロガにだけ聞こえるように「囲い者」という言葉をそっと耳元で囁くと、穏やかな顔で微笑んだ。

 

 ──貴族の中には愛人を夜会に連れてくる者がいる。


 理由としては、二通り。

 一つは、美しい女を自慢し、それを侍らせている自分が如何に凄いか見せつけたい場合。

 主に人気のある高級娼婦を連れてくることが多い。


 もう一つは、身分違いの恋で正式に結婚できず、愛人に留まらせている場合。

 

 平民上がりのアタックは後者だと思われたのだ。

 初めての夜会に堂々と愛人を同行させることができず、「護衛」という建前で連れてきている、とでも解釈したのかもしれない。

 

「いえ……彼女はただの護衛です」

「そうでしたか。 大変失礼致しました」


 クレヴォは悪びれる様子もなく、言葉だけの謝罪をする。

 それから天狐の前まで行き、軽く手を取って紫紺の瞳で見つめた。


 近くで見ると、ゾッとする程似ている。

 思わずその瞳を見つめ返す天狐へ、クレヴォがフロガと同じように笑いかけた。

 握られた手は、逃さないと言わんばかりに柔らかい力が加わる。


「冒険者にしておくには勿体無い程綺麗だね。 君、名前は?」


 天狐が無言で目を伏せ、握られた手を引いてカーテシーをする。

 それから一歩下がって、フロガの後ろへ付いた。

 

「……性格も良さそうだ。 良いヒトを雇いましたね、アタック様」

「ええ」

「今度は是非、そちらの方と我がメロウラージュにお越しください。 協力できる事があれば、何でも致しますよ」

「ありがとうございます。 機会があれば、行かせていただきます」


 クレヴォには最後までアタックが愛人に入れ込んでいる男に見えていたようだ。

 何ならそれを手助けするとも、遠回しに言ってきた。

 

(その気遣いは悪手だぞ……)


 オラージュ侯爵と親密な関係を作りあげたクレヴォは上手くやっている。

 しかし、どうもツメが甘いようにも思える。

 去っていくクレヴォの背中に、フロガは心のなかで忠告した。



*****


 立食が中心だったパーティーは、時間が経つにつれてダンスを楽しむ者が多くなってきた。

 挨拶周りも終わり、明るい音楽に合わせて楽しげに踊る貴族達を尻目に、フロガは庭へ向かう。


 魔具で妖艶にライトアップされた庭では、若い者たちが語り合っていた。

 歯の浮くような愛の言葉は嫌でも耳に入ってくるし、視線を背けてみれば、別の場所で見つめ合っている者が目に入る。

 息抜きに、と庭へ出てみたが失敗だったようだ。


「マスター!」


 げんなりしているフロガに、草むらに隠れたアタックが小声で近寄って来る。

 服は血だらけだ。 恐らく、全て返り血だろう。


「アタックさん、そちらはどうですか?」

「侵入しようとしてた刺客数人ぶっ倒して……あとは五男意外軽くシメてやった。 あいつら、最初はナメた態度だったけど、もう俺には逆らわないぜ」

「……それは良かったです」


 本当に「軽く」なのかは疑問だが、アタックの計画は順調に進んでいるようだ。

 軽く絞め上げた弟たちは皆、アタックをやっかんでいたものの暗殺者までは寄越していないと言う。

 一人ずつ決闘を申し込んで完勝したことにより、アタックの力を認め、今は全員と和解したようだ。


 やはり問題は、「五男」である。


「五男……名前はヤニックっていうんだが、朝から見当たらないらしいんだ」

「ほぼ確定だとは思いますが、あまりにもわかりやすいというか……誰か別の者が動いている気もします」

「弟はまだ18だ。 それを考えると作戦が幼稚なのも納得できねぇか?」

「……でも18歳で暗殺なんて考えるのでしょうか」


 確かに。 と、アタックが頷く。

 立て続けに兄達が死んだ事により、欲が芽生え始めたのか。

 それとも、平民のアタックが家に入る事を嫌がったのか。

 どちらにせよ、それはヤニックに聞いてみないとわからない。


「俺はもう少しヤニックを探してみる」

「はい。 お気を付けて」

「マスターも。 どこで何してくるかわからねぇからな……」


 そう言うと、アタックは闇夜に消えて行った。

 同時に天狐がそっと物陰から出てくる。


「18歳なんてまだガキじゃないか。 暗殺者まで雇って兄貴殺して家督を継ぎたいだなんて、ヒトってのはどこまでも欲深い生き物だな」

 

 やや呆れ気味に吐き捨てる天狐に、フロガは苦笑いで返した。


「そんなものだよ。 よくある事なんだ」

「馬鹿馬鹿しい」

「……俺もそう思うよ」


 冷たくなってきた夜風が庭に吹き付ける。

 ふわりと靡く天狐の金髪と、散りばめられた紫紺の小さな宝石が混ざり合い、魔具に反射してキラキラと交互に輝くのをフロガはつい目で追ってしまった。


 また、ぴゅうと風が吹く。

 それに反応した天狐が腕を組み、肩を竦めた。

 むき出しの白い肩が寒そうだ。

 そう思って、ジャケットに手をかけ、口を開いた。

 

「寒くなってきたね。 中に入ろうか」


 フロガが言うよりも先に、後ろの方でそんな声がした。

 声の主である二人の若い男女が歩いて来るのを見て、天狐がそっと離れる。

 フロガも開きかけた口を閉じ、手を降ろした。

 男のほうが、女へジャケットをかけてやるのを横目で見てから、フロガが何事もなかったかのように後ろへ続く。


 ──本当なら、先程の台詞もジャケットをかけてやるのも、全部フロガが天狐にしてやりたい事だった。


 しかし、貴族の男が護衛の女にジャケットをかけてやるなど、あり得ない光景だ。

 貴族になりたてのアタックの姿を借りているのだから、おかしな真似はできない。

 

(仕事じゃなければなぁ……)


 ジャケットをかけてやって、冷たい肩を抱いてやれるのに。


 後ろで天狐の気配を感じながら、フロガはそんなふうに思わずにはいられなかった。



**********



 ホールへ戻ると、明るかった音楽はしっとりとした穏やかなものへ変わっていた。

 そろそろ終わりも近い。 踊り疲れた者は別室へ移動し、煙草や茶や菓子を楽しんでいるようだ。


 ヒトも少なくなってきたホールを、フロガは壁にもたれ掛かってゆっくりと見回した。

 穏やかな音楽も相まって、一瞬眠気が襲ってくる。


 ゆっくりと瞳を閉じた、その瞬間──

 フロガは背筋がぞわりと粟立つのを感じた。


「おい!!」


 天狐の怒号と共に体を捻る。

 横を掠ったのは、上から落ちてきたランプだ。

 ガラスが飛び散り、頬や目の横に鋭い痛みが走る。

 同時にフロガの前に飛び込んできた天狐を、何者かが鈍器で殴りつけたのが見えた。


「天狐!」


 咄嗟に叫ぶ。

 天狐は振り返る事無く、間髪入れずに炎を相手に放った。

 しかし魔法が弾かれ、二度目の打撃が天狐に振ってくる。

 金属を破る、鈍い音がした。

 

「こいつ! 防御魔法掛けてやがる!」


 後退った天狐が、穴の空いた銀の蓋を捨てた。

 二度の打撃をその蓋で防いだのだろう。


 黒いフードを目深に被った者が、尖った鈍器を構える。

 杖も本も魔法を出す仕草さえ見当たらないことから、魔法使いでも魔術師でも無いようだ。

 身長はフロガよりも低く、天狐よりは高い。

 肩幅や足癖から見て、恐らく男だろう。


 ──天狐の魔法は並の防御魔法なら簡単に貫通する程度には強力だ。


 その魔法を弾いたということは、並ではないということ。

 どの程度強い防御魔法かはわからないが、天狐が本気を出せば確実にそれを貫き、燃やすことができる。

 しかし、そんなことをすればこの屋敷が無くなってしまう。

 諦めた天狐が、フロガの後ろへ下がった。


「お前がやれ」

「ああ」

 

 天狐が、持っていたポーチ型魔具から片手剣を出して上へ投げる。

 フードの者が驚いたように肩を揺らす。

 目元は見えないが、上へ投げられた片手剣に気を取られた一瞬のうちにフロガが男へと踏み込み、男の手首を捻った。


「はやっ……い゛ッ!!」


 声を出した頃には跪いていた。

 首元に剣の冷たい感触が当たり、頸動脈がドクドクと脈打っているのがわかる。

 ざわざわと騒ぐ貴族たちの声が、男にはやけに遠く感じた。


「誰かこいつを連れ出してくれ」


 フロガが声をあげる。


 その声に反応したのか、貴族たちの間を縫って、誰かが走ってきた。

 灰色の外套を被り、仮面を付けた男だ。

 手にはナイフが握られている。


「またか……」


 天狐が呟いて炎を放つ。

 すぐに男の外套は燃え、悲鳴を上げて膝を付いた。

 殺さない程度の弱い炎はすぐに消え、男の顔と裸体があらわになる。

 まだ幼さの残る顔は、恐怖で引き攣っていた。


「ヤニック坊ちゃま!!?」


 そこへ、駆け付けた警備の者が思わず声を上げる。

 天狐を睨みつけたが、首を振ってフロガが押さえている男を指差した。


(このヒトがヤニックくんか……)


 フロガはじっと全裸の男を観察した。

 幼さが目立つ顔と体。 どう見てもただの子供。


 ──後先考えずに馬鹿な事をしたものだ。

 こんな大観衆の中で襲撃なんてすれば、成功したとしても捕まっていただろう。 

 そんな事もわからないほど、家督という物に目が眩んでいたのだろうか。

 それとも誰かに唆されたのか。


「ヤニック」


 フロガは押さえていた男を警備の者に渡し、ヤニックにジャケットをかけてやると、そっと肩を持った。


「魔術で操られていたんだな。 可哀想に……」

「……ッ!?」

「誰かが私の暗殺を企てていたようだ。 お前もそいつにやられたんだろう?」


 ヤニックが目を瞬かせる。

 何やらモゴモゴと言い始めたので、フロガはヤニックが余計な事を言わないように強く抱き締めた。


「すまない。 私が平民出身だから、お前に迷惑をかけてしまったな。 でも大丈夫だ、私は強い。 お前も、弟達も、これからは私がこの家と共に守っていこう」


 なるべく周囲に聞こえるように、大きな声をあげる。

 こうすれば、アタックの評価は上がるだろうしヤニックも大きな罪に問われることはない。

 命を狙われたとは言え、ヤニックに重い懲罰を与えようなどと、アタックだって望んでいないはずだ。

 フロガはヤニックにそっと耳打ちをした。


「俺の話に合わせて。 君を悪いようにはしないから」

「あんた……本当にアタックなのか?」

「話は後で。 まずはこの場をなんとかしよう」


 そこから目も当てられないような茶番が始まる。

 天狐の冷ややかな視線を感じながら、フロガは何とかその場を収めた。


 とんでもない茶番ではあったが、周りの貴族からは同情と称賛の声を得たのは、フロガの計画通りであった。

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