『新たなる旅立ち』3
日差しが強く照りつける昼の空。
基地のシャッターがゆっくり開くと、灼熱の荒野に機械音が鳴り響く。
——ガシャン! ガシャン! ガシャン!
すると、暗闇からリュカが運転する継ぎ接ぎのリビオンが現れる。
リュカが夜中の間に動かせる程度に修復したしたリビオンが背中に機材等を詰め込んだ格納庫を背負っていた。その後ろからライムたちは大荷物を背負って外に出ると、整列をして迎えを待つ。
五分程待つと、遠くの空からプロペラ音が聞こえ始めた。
すると、ライムは無理向いて基地の方を名残惜しそうに眺める。
当分、此処ともお別れか……。
いずれ、戻って来られるといいな。
プロペラ音はどんどんと近づいて、巨大な輸送ヘリの姿が現れる。
——パタパタパタパタパタパタ……。
そして、直ぐに一同の頭上近くまで輸送ヘリが来ると着陸態勢に入る。
一同は強力な風圧によって起こる砂煙に思わず腕で目を覆った。
——ガチャン!
輸送ヘリが着陸すると直ぐにリビオンが通れるほどの大きなハッチが開き、ビシッと軍服を着たシュライが降りてくる。
「みんな、待たせたな!」
明るく笑顔で一同に駆け寄ると、シュライはリュカの運転するリビオンを感慨深く見つめた。
そして、ライムの方へ視線を戻すと荷物を見てシュライは輸送ヘリに乗っている他の兵士へ合図をする。
「荷物の積み込みを手伝え!」
ズラズラと兵士たちは降りてくると、ライムたちの荷物運びを手伝い始めた。
そして、一通りライムたちの荷物を積むと、兵士たちはシュライの前に整列した。
「荷物の積み込み完了しました!」
兵長がシュライに報告すると敬礼をする。
すると、シュライがリビオンの前に立ち、手を大きく上げる。
「今からリビオンを機内に入れる! 着いてきてくれ!」
リュカは操縦桿を握ると、リビオンを操作して輸送ヘリに乗り込む。ライムたちもリュカに続く様に搭乗した。
快晴の上空の中、青々と輝く海の上を鳥たちが優雅に空中飛行を楽しんでいる様子をリュカは機内の窓から眺めている。
輸送ヘリに一同が乗って、既に二時間程経っていた。
機内ではマイカとバッカスとテリーの三人はいびきをかきながら爆睡しており、ライムは兵長に色々と地球防衛軍についての質問をしていた。リュカもライムたちの会話を聞きながら、自身のリビオンの調整を考える。
話を聞いている感じ……。
今のままの装備じゃどうにもならなそうね。
リュカは再び窓を見ると、頭の中でリビオンの強化内容を考え始める。
「なぁ、まだ着かないのか?
俺、早く基地の最新シミュレーションを試してぇんだけど!
てか、タバコも酒もダメって厳しすぎないか!」
飽きてしまって貧乏ゆすりしながら不貞腐れるデイヴにシュライが微笑む。
「まぁ、そんなカッカするなって。もうすぐ着くからさ。
それに、お前さんはまだ未成年だろ?代わりに良いものやるよ」
そう言うと、シュライは内ポケットから禁煙パイポを出してデイヴに渡す。
「気晴らしにはなるぞ。
そういえば、俺も禁煙には苦労したなぁ」
デイヴは不服そうにパイポを加える。
「それで、あとどのくらいで着くんだ?」
ライムがシュライに尋ねると、腕に着けた画面状のデバイスを確認する。
「あと十五分ってところだな。
基地に着いたら、リュカとデイヴには新型のシミュレーション機で模擬戦をやってもらう。
他の皆は施設の説明を行うから兵長、案内を頼む」
兵長を見ると、真っ直ぐな瞳でシュライに敬礼をした。
「分かりました!」
「質問なんだけど、私のリビオンはどこまで強化が出来そう?」
リュカの質問にシュライは腕を組んで考える。
「うーん。まずは、ある程度の修復をして強化に耐えうるボディーに仕上げたあとにエンジン等を強化する流れになると思うが……。
もう、あのリビオンはかなりの旧型だから、強化しても新型機に性能は大きく劣ってしまう。
正直、俺は新型機に乗り換えるのをオススメする」
「それはダメ!
あのリビオンで一番にならないと……」
必死なリュカの反応にシュライは天井を見上げる。
「よし、あのリビオンは俺にとっても思い出の機体だからな。出来るだけの事はやってみる。
だが、調整が終わるまでは新型機で実践訓練に参加してくれ」
「分かったわ……」
リュカは少し不満気に頷く。
「間も無く基地へ着きます。
着陸準備をお願いします』
パイロットのアナウンスが機内に流れ、マイカたちは目を覚ます。
「いよいよだな……。
お前ら、寝ぼけてないでシャキッとしろ」
ライムは後ろを向くと、寝ていた三人に声をかけた。
リュカが窓を再び見ると、海上に聳え立つ正七角形の白い塔が見えた。
「あれが、防衛軍基地……」
ライムたちは窓から見える夕日に照らされた防衛軍基地の圧倒的存在感に思わず目を奪われる。
海風が気持ち良い平和でのどかな夕暮れ
輸送ヘリは基地の屋上にある中央ヘリポートへ着陸する。
——ガチャン!
ハッチが開き、一同が荷物を運びながら輸送ヘリを降りると、最新型リビオンを整備していた整備兵たちが作業を止めてシュライに向けて敬礼をする。
「すげぇ……」
バッカスは整備兵が使っている工具を食い入るように見ていた。
「ちょっと来てくれ!」
シュライが手招きすると、周りの整備兵とは雰囲気が違う無精髭を生やし、白いツナギを着た男が近づいて来る。
「バッカス、君に紹介したい。コイツは俺のダチのクリスだ。整備兵長をやってる」
「よろしく」
クリスがバッカスに手を差し出すと、二人は硬い握手を交わす。
「今まで、君がリビオンの整備を?」
「あ、はい……」
バッカスの返事にクリスは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「君、相当機械に強いんだな!
レースの情報は見させてもらったが、限られた物資の中であのスペックを維持するのがどれだけ大変かは痛いほどよく分かる」
クリスはそう言うと、シュライの方を睨んだ。
「なっ、何だ?」
「お前らさぁ。少しは機体の負担を考えて欲しい。
毎回毎回、実機訓練で機体を損傷させるから整備するこっちはたまったもんじゃない!」
「ははは。すまねぇ。
クリスにはこのあと、バッカスに整備室等の案内を頼む。きっと直ぐに優秀な整備士になるだろう」
「そういうことなら任せてくれ。
バッカス。早速なんだが、明日までに済ませないといけない整備がまだまだある。
案内ついでに君も手伝ってくれないか?」
バッカスは口を大きく開けて、目をキラキラさせる。
「良いのか!?」
「もちろんだ。今日来た全員が即戦力と上層部から聞いている。
仕事内容を出来るだけ早く伝えておきたいからな」
シュライはクリスの肩を軽く叩く。
「じゃあ、頼んだぞ。
あと、機内にある旧型のリビオンをバッカスと一緒に強化してくれ」
すると、クリスは不思議そうにシュライの顔を見る。
「わざわざ旧型のリビオンの強化をするのか?」
「ああ。リュウジさんが乗っていた機体なんだ。
なんとか頼む」
「分かった。出来る限りの事はやってみる」
そう言うと、クリスはバッカスの方を見る。
「じゃあ、整備室に向かうぞ」
「おっす! じゃあ行ってくる!」
バッカスは手を振ると、クリスと一緒に他の整備兵の集まる方へ向かった。
「よし、俺らは基地の中央エリアまで行くぞ」
一同を扇動するようにシュライは屋上の端にある巨大エレベーターに向かって歩み出す。
一同は高速エレベーターに乗り、基地中央エリアがある七階に向かった。
——チンッ!
エレベーターのドアが開いた途端、ライムたちは目の前の景色に圧倒される。
「紹介する。
ここが基地中央エリア、希望の光だ」
そこには名前通り、地球に残された人類が勝利を手にするための技術が集約されていた。
何処を見回しても最新の見たこともないテクノロジー……。
一同はエレベーターから降りると辺りを見回す。
そして、部屋を囲むようにモニターと操作パネルが付けられたデスクがずらりと並べられ、全世界から集められたエリートがモニターを見ながら地球上のあらゆる場所にマイクを通して指示をしていた。
そんな部屋の中央には巨大な地球儀上のホログラムが映し出されており、世界で起きている異常気象を表示していた。
リュカはホログラムに表示されている文字を見て思わず息を呑む。
『気候安定期突入まで三ヶ月』
たった三ヶ月後、戦争が始まる……。
To be continued…