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サイレン
緊急警報、緊急警報、赤く廻るサイレンが空を切り裂く、切り裂く。
君と僕が逃げる前に、意地の悪い通り雨が笑い出した。ずぶ濡れのシャツは逃げるのをあきらめたがった。地面にへたばりたがった。スニーカーだけはまだ味方で、沼を踏むみたいに僕らは走った。君の手を引きながら。
炎は踊る、踊る、家家を吞み込んで。誰かの帰る場所だったはずの家を呑み込んで。
そこに僕と君の帰る家はないけれど。どこにも僕と君の帰る家はないけれど。
君の眼は炎なんかに負けないくらい酷く冷たくて、きっといろんなものを見下していて、あきらめていて。
多分世界とか、権力とか、運命とか。
石みたいに止まった君の足に負けないように、固く痛いくらいに君の手を引っ張って。
「行こう」
それだけ言って、廻る、廻る、赤いサイレンの下を征く。




