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diabolus ex  作者: さくら
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2

 二人と二匹が去った後へと視線を向けながら、タバコを咥えた長身痩躯の男が呟いた。年の頃は二十代半ば、スータンと呼ばれる神父服を身に纏い、胸には質素な十字架が掲げられている。

「おまえの餌には勿体ないなぁ」

 男は咥えているタバコを手に取ると、空いている左手を掲げた。そして、その手に絡み付いている頑丈そうな半透明の鎖に口付けた。それに応えるかのように、男の背後で何かの気配が動いた。

 

 晩春の日差しがステンドグラスを通し、そう広くはない礼拝堂の中を彩っていた。穏やかな声音で語られる聖書の文章が、ゆったりと辺りに響いていく。

 兼続は気を抜けば思わず出てしまう欠伸をかみ殺しながら、ぼんやりと耳に入ってくる朗読が終わるのを待っていた。家が教会だからといって宗教に興味があるわけでもなく、むしろ典礼は休日に遊びに行けないストレスの元となっている。

「あ・さ・い・くん」

 突然、小さく耳元で囁かれた声に驚き、兼続は声を上げそうになってしまう。慌てて口元手で押さえ、そのまま声の主を確かめるかのように、ゆっくりと振り返る。そこには、先ほど庭先で見かけた少女の姿があった。

「い……」

 思いがけない相手に、手が離れた兼続の口は再び大きな声を上げそうになり、またもその口を塞ぐ事となる。軽く息を吐きながら手を離すと、兼続は相手に合わせて少し身体を屈めた。アルバの上に左肩からたすき掛けされたストラの端が揺れる。

「委員長? なんでここに?」

 委員長と呼ばれた少女は、耳元で囁かれる言葉に少し悪戯っぽい視線を返した。

「い・ち・か」

 兼続の耳に自分の名前を囁き返し、一花と名乗った少女はふわりとした空気を纏った笑みを浮かべた。その様子と言葉に、兼続は戸惑いの表情を顕わにする。同じクラスではあるが、名前で呼ぶような親しい間柄ではないのだ。

 一花はじっと困惑した表情を浮かべている兼続の顔を見つめた後、その手を取ると静かに出口へ向かって足を踏み出した。突然の一花の行動に呆気にとられ、兼続は考える間もなく礼拝堂の外へと連れ出されてしまった。

「委員長……?」

 どう対応して良いのか分からず、兼続は一花を見つめる。柔らかく緩やかな波を打つ髪が陽光を受け煌めくのを、兼続は少し目を細めながらボンヤリと見つめた。

「一花」

 そう言いながら振り向いた一花の髪が揺れる。

「い……一花……?」

 兼続が戸惑いながら紡いだ言葉に、一花は満足そうな笑みを返した。


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