11
反射的に了承の返事をした兼続は、手を差し出そうとして思い止まると急いで制服のズボンで手のひらを拭く。怖ず怖ずと差し出した手に一花の指先が触れ、うるさいほど心臓が大きな音を立てた。重ねられた手のひらの感触に身体は熱を帯び、戸惑いながらも兼続は一花の手を握り返す。
これで付き合っていないというのは絶対にありえないという状況に、兼続はもうその事について考えるのを止めてしまった。
「かーくーん!」
突然、嫌と言うほど聞き覚えのある声がし、兼続は振り返る。そこには嬉しそうに手を振りながら近づいて来る父親の姿があった。
「だから、かーくんって呼ぶな!」
目の前に来た父親に、思わずいつもと同じ返事が口を付いて出た。
「も、もしかして……かーくんの彼女?」
兼続の言葉など耳に届いていないかのように、父親は一花へと視線を向けた。
「え? あーその……」
父親の質問に、どう答えるべきなのか悩み言葉を濁す。返事に困っていると、握り締めていた一花の手に微かな力が込められた。
「ってか、なんでこんなとこに居るんだよ?」
返答を誤魔化すかのように、兼続は少し荒げた声で話題を変えた。普段、殆ど教会から出ることのない父親と、なぜ今日この時に出会ってしまうのかと兼続は自身の運の悪さを呪った。
「あーそうそう。今日から修行の人が来るんだけど、道が分からないらしくて迎えに来たんだよ」
兼続の顔へ視線を向け、父親は思い出したと言わんばかりにポンッと手を叩いた。
「なら、早く探しに行けよ」
「そうそう。早く探しに行かないとね」
そう言いながら父親は足を踏み出したが、すぐに歩みを止めて振り返る。
「今日のオヤツはズッパイングレーゼだから、彼女も連れておいでね」
そう言い残し、兼続が声をかける暇もなく父親は足早にその場から立ち去った。
「あーごめん……。変な父親で……」
一花に呆れられたかもと兼続は軽く心の中でため息を吐いた。
「変じゃないけど、ミサの時とはかなりイメージが違うから少し驚いた」
楽しそうに小さく笑いながら一花が答えた。
確かに父親は、ミサや説法をしている時と普段ではまるで別人のようである。あの厳かの空気と近づきがたい威厳からは、普段の様子はまったく想像できない物である。
「そういえば、委員長ってクリスチャンなの?」