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怪力無双

「うーん、今日は全然人が来ないなぁ....。」

ここは冒険者であふれかえる三番地区の冒険者ギルド。

その中にある解体所で働く理沙は、解体士として働いてから体験したこのない客の少なさに驚愕していた。

今日は上司であるギーダリヤも不在であり、特に指示はない。

解体道具やマジックバッグの手入れも既に終わっており、解体の依頼もない。

新規の解体依頼が来るまで、理沙には本当にやることが無かった。


「暇だなぁ....。」

解体所の受付で肘を突き、暇そうにしている理沙へと一人の女性が近寄ってきた。


「これだけ暇だとパーッと飲みに行きたくなるね~。」

「確かに~」

理沙に話しかけたのは冒険者ギルドのクエスト受付嬢、猫獣人のルチェだった。

ルチェは理沙が解体士として働き始めた時に冒険者や魔物について色々教えてくれた女性であり、それ以降一緒にご飯を食べに行ったり服を買いに行ったりと、プライベートでも仲の良い友人とも呼べる人物だ。

歳は20、理沙よりも6つほど年下のため、ルチェは理沙を姉のように好いている。


「そうだ、ルチェちゃんさ~今度1番街にできたアクセサリーショップ行こうよぉ~。ルチェちゃんのオレンジの髪に似合いそうなアクセあったんだ~!」

「え、本当!?行く行く!!も~~リサってそういうとこ~そういうとこだよ~~...好き!結婚して!」

ルチェは受付越しに理沙に抱き着くと、理沙の胸元に頭を埋めてぐりぐりと顔を押し付けた。


「結婚してるから無理で~す!」

「知ってる~~!」

受付越しにイチャイチャとふざけ合う理沙とルチェ。

そんな二人の姿を男性冒険者達が見ていたら、理沙にもルチェにも、さぞ羨ましく思うだろう。

実はこの2人、冒険者ギルドでは有名な美人受付嬢なのだ。


ルチェは猫獣人特有のかわいらしい顔立ちとは裏腹に、出るところは出て締まる所は締まっている、いわゆるモデル体型だ。

それなのに自分がどれほど男性を誘惑してしまう体型かを理解していない、その無防備な立ち振る舞いが男を虜にしてしまう、小悪魔的可愛さがあるのだ。


一方で理沙はモデル体型ではないものの、独特なおっとりとした雰囲気と優しい顔立ち、そしてどんな人にでも優しいその性格から、男女年齢問わず幅広く人気がある。


そんなことはつゆ知れず、2人はきゃっきゃとはしゃいでいると、冒険者ギルドの扉がギィと音を立てて開いた。


「あ、誰か来た。んじゃ受付に戻るねっ!」

「はぁ~い」

とたたたと小走りでクエストの受付の方へとルチェが戻っていったのを確認して、理沙もいつ客が来てもいいように受付表やマジックバッグを再度チェックした。


最初の人が入ってきたのを皮切りに、一気にガヤガヤと賑わいだすギルドホール。

リサは受付に立ってギルド内を眺めていると、どの人も浮足立っているのに気が付いた。


(何かあったのかな~?お客さんが来たら聞いてみよ~)

そんなことを思いつつも、何度もチェックしたはずの受付表にもう一度手を伸ばす。

とにかく暇なのだ。


そんな時だった。


「こ、困ります!」

ギルドホールにルチェの大きな声が響く。

理沙がそれを聞いて顔を上げると、強力な魔物の素材で作られた防具で身を固めたベテラン冒険者がルチェの手を握って言い寄っている所を目撃した。


「あんだよ、誘ってんだろ??そんなデカい乳を見せつけやがって。」

「そ、そんなつもりでは....!!」

「おいおい嬢ちゃん、そりゃないぜ!俺らは『ヨゴレ』になったクエストを受けるためにはるばる王都まで足を運んでやったんだぜ?少しくらい前払いを貰ってもいいだろ?」

「お前は女を見つけるとすぐ強引になるな...。程々にしておけよ...。」

ルチェの手を掴む男性は大剣を背負った背丈およそ2m、筋骨隆々の前衛タイプ。

その背後には大剣の男よりも背の高い、長髪の不気味な雰囲気の銃を持った男と、見るからにチャラそうな金髪オールバックの中年が立っていた。

武器や防具に使われている素材はこの冒険者ギルドではめったに見かけない程に強力な魔物であると、解体士の理沙は気が付いた。

一緒にいる2人も同じく強力な魔物を素材にした装備をしていて、1人は大剣を背負った男に呆れているが止めようとはしていない。


そんなルチェを見た理沙はゆっくりと立ち上がり、受付の横にある扉からギルドホールへと出て行った。


冒険者ギルドの壁一面にあるクエストボードに張られたクエストの中でも、高レベルや割に合わないクエストは冒険者に避けられ、いずれ内容が書かれた紙が汚れてしまったクエストの事を通称『ヨゴレ』と呼ぶ。

ヨゴレになってしまったクエストはその冒険者ギルドの質の低さを示す。

質の低い冒険者ギルドは評判が落ち、客である冒険者が減る。

冒険者が減ればヨゴレが増え、更に評判が落ちる。

そして冒険者が減れば魔物の素材、薬の原料、食材も減り、その都市は衰退へと向かう。


つまりヨゴレを引き受け達成できる冒険者はそれだけ重宝されるのだ。

そんなありがたい存在を無下に扱うことなど、冒険者ギルド職員にはできるわけがない。


(俺らのルチェちゃんが....。)(あそこまでしなくても....。)

(誰か止めてきなさいよ....。)(無理だろ、見ろあの大剣に筋肉、Aランク冒険者の『怪力無双のジャルダーヤ』だぜ?)

冒険者も同様に、自分よりも格上の相手を止めることなどできない。

ルチェのファンである男性冒険者達も、そうでない冒険者も揃って遠巻きにヒソヒソと話すのが精いっぱいだ。


普段こういういざこざを止めるのはギルドマスターか解体所を取りまとめている理沙の上司であるギーダリヤだが、生憎今日は二人とも留守にしている。


この場に彼らを止め、ルチェを助けられる人間など存在しないのだ。


「あのぉ、すみません。ギルド職員には手を出さないで頂けないでしょうかぁ...。」

存在したのだ。


「リサ...!」

理沙はいつも通り、ふんわりとした雰囲気でジャルダーヤと呼ばれた冒険者へと声をかける。

自分を助けてくれたことへの感謝の気持ちと、機嫌を損ねてヨゴレのクエストを受けてもらえないかもしれないという恐怖が入り交じり、複雑な表情で理沙をみるルチェ。


ジャルダーヤはルチェの手を取ったまま声のする方へとギロリと視線を向けた。


「あァ?...ほー、このギルドは冒険者の質はわりぃが女の質はいいじゃねぇか。代わりにお前が相手してくれるならコイツを解放してやってもいいぜ?」

「お前、こういうのが好みなのか?この猫獣人の方がエロい体してんぜ?」

(やべぇ、リサちゃんが狙われる!!)(マイペースが通じる相手じゃねぇぞ!)

(いや、案外うまく切り抜けるんじゃないか?)(リサちゃん、どうか刺激しないでくれ!!)

上から下まで舐めまわすように理沙の事を見た後、ジャルダーヤは狙いをルチェから理沙へと変えた。

彼の好みだったのだろう。

オールバックの冒険者はルチェの方が好みのようだ。


「ごめんなさい、私結婚しているので~...。」

(((普通に断ったーーーーーー!!!)))

(やべぇ、どうなっちまうんだ...?)(クソ、俺が強ければ...!)

自分の二倍はあろうかと思われる体格を持ったジャルダーヤに対してもなお、自分のペースを乱さない理沙にギルドホール全体がざわつきだす。

力の持った冒険者にただのギルド職員が楯突いたらどうなるか、容易に想像がついたからだ。

..しかしジャルダーヤはそんな想像とは裏腹に、大きく口を開けて笑い出した。


「ガハハハ!構わねぇ!寧ろその方が燃えるってもんだろォ?」

「略奪愛ってやつか、まぁいいんじぇねの?おれはこっちの女の方が好みだけどな。」「....趣味が悪いぞジャル。」

ジャルダーヤはルチェを掴む手を離して理沙との距離を詰めた。

ルチェはその隙に理沙の後ろに回り込み、理沙の服をきゅっと掴んだ。


しかし、普通の女性なら恐怖で震えてしまうだろう相手でも、理沙は変わらずニコニコ笑っている。


「ルチェちゃんの事、離してくれてありがとうございます~。では、私は仕事に戻りますね~。」

(おいおいおいおい)(リサちゃんはマイペースだと思ってたけど、ここまでとは....。)(やべぇ)

ペコリとジャルダーヤに一礼すると、受付に向かおうとする理沙。

そんな理沙を見て、プライドの高いジャルダーヤは怒りをあらわにプルプルと震え出した。


「.....待て、お前舐めてんのか?俺達が何のためにここに来てやったと思ってんだ?」

「えーっと、ヨゴレ?って言ってましたよね~?....お掃除?」

「ちょっ、リサ!」

「....フッ!」

ヨゴレという業界用語を知らない理沙は、それを掃除と解釈してしまった。

理沙の天然な発言により額に血管が浮き出るほどの怒りをあらわにしたジャルダーヤ。

しかし、そんな彼よりもオールバックの冒険者の方が先に動き出す。


「テメェ!!馬鹿にしやがって!!!!」

「きゃああああ!!」

(クソッ!動け俺の足!!!!)(リサちゃんが!リサちゃんが!!!)(ダメ、見てられない!)

オールバックの男が理沙に向けて殴りかかる。

その光景を見てルチェは思わずしゃがみこみ目を閉じた。

周囲の冒険者達も自分ではどうすることもできないことを悟り、思わず目を伏せる。


しかし、理沙は避けようともせずその場から動かなかった。

理沙にはある確信(・・)があったから。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「今日はステーキ♪ワイバーンステーキ♪」

ある日の仕事帰り、理沙は仕事で安くワイバーンの肉が手に入り浮かれていた。

イヤホンをしてスマートフォンで曲を聴きながら、替え歌を歌ってしまうほどに。


「~~~~~~~!!」

そのせいで後ろから近づく暴走した馬車に気が付くのには時間がかかった。


「ど、どいてくれ~~~!!!!!!危ない!!!!」

「えっ、きゃああああああ!!」

馬車を引いているのは6本の足を持った4メートルを超える大きな馬『アトラスホース』

そんなアトラスホースが暴走しながら全速力で理沙に向かってくる。

残り数メートル、理沙は突然の事態に身動きが取れずその場でしゃがみこんで死を覚悟した。


(だめだ...もうおわりなんだ...せめて最後にワイバーンのお肉が食べたかった....。ステーキにしたら絶対美味しいのに...カツもいいかもしれない...唐揚げもいいな.....。....あれ?)

最後に考えることが何ともまぬけな理沙の元に、いつまでたっても衝撃が来ない。

恐る恐る目を開けて周囲を見回すと、理沙の横には何かにぶつかったであろう気絶したアトラスホースと大破した馬車が横たわっていた。


「えぇ....。」

幸い、馬車に乗っていた人は軽傷で済んだが、理沙の才能が只の怪力ではない事が明らかとなった。

後日、リュシアに説明し検証を行った結果、理沙の能力は「完璧肉体(パーフェクトボディ)」という、筋力も防御力も化け物染みたモノになるという、伝説の才能であることがわかった。


勿論、自分の才能と比べた翔が落胆したのは言うまでもなかった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「~~~~~~っ!!!!いってええええええ!!!!」

理沙が殴られたと思い目を伏せた冒険者の耳に届いたのはオールバックの男性の悲痛な叫び声。

誰かが理沙を助けてくれたのかと大半の者が勘違いしたが、目に入ったのは微動だにしていない理沙とあらぬ方向へと曲がった指を抑えて悶えるオールバックの男性。


「バルジャス!?」

「....これは驚いた。」

ジャルダーヤがバルジャスと呼ばれた男の手を見て驚きの声を上げる。

もう一人の長身の男は顎に手を当てて興味深そうに理沙を見つめていた。


(何があったんだ!?)(見てなかったからわからん)(魔法か!?)

(魔法が発動した形跡は無いわ...一体何が...???)

「リサ!!大丈夫!?」

冒険者達は目の前で起きたことを理解できずに頭を傾げていると、心配したルチェが殴られたであろう理沙の頭部をぺたぺたと触って状態を確認した。


....が傷はおろか、殴られた形跡も見当たらない。


「あ~、大丈夫だよ~。...それよりも...ギルド職員に手を上げるのは違反になるのではないでしょうか~?」

「クソ....何だこの女....。何をしやがった!!」

涙目で理沙に怒鳴りつけるバルジャス。

ジャルダーヤもそれを見て理沙へと手を上げた。


「テメェ!!....あいだだだだだだあああああ!!!!」

しかしその手は理沙のか細い腕につかまれ、キュッっと捻り上げられる。

常人の数倍以上の腕力で捻られたその手からはバキバキっと骨が折れたような音が響く。


(え...?リサちゃん...?)(嘘...怪力無双のジャルダーヤを腕力で負かした....?)

「リサってこんな強かったの....?」

冒険者もルチェも、か細い女性が屈強なAランク冒険者を腕力でねじ伏せる、その目を疑いたくなるような光景を見て初めて理沙の強さを実感した。


「やめておけジャル。相手が悪い。」

「クソっ、指が....!」

「うぎぎぎぎぎ....おせぇよ!!!!なんだコイツは!!」

「恐らく才能で筋力や防御がありえない程に高いのだろう....。フッ、神とは気まぐれなものだな。...帰るぞ。」

仲間が悲痛な表情で痛みに堪える中、長身の男は冷静に状況を判断する。

そして冒険者内から漂う自分たちに向けられた視線を察してギルドの出口へと歩き出した。


「あの、すみません~...ここまでするつもりはなかったんですけど....。」

「ルセェ!!!!帰るぞバルジャス!!」

「覚えとけよ女ァ...この礼はいつか必ず返してやるからな....。」

理沙の煽りともとれる発言を一蹴し、バルジャスとジャルダーヤも長身の男を追うようにしてギルドを後にする。


「あぁ....行っちゃった...。」

(帰っちゃったけどクエストは受けてくれるのかな?)

と呑気な事を考えてる理沙、Aランク冒険者が去った後のギルド内は、誰もが目を疑うような光景に驚愕して静まり返っていた。


「....怪力無双のリサ。」

そんな時、ぽつりと一人の冒険者がそうつぶやいた。


「そうだ、怪力無双を腕力でねじ伏せたリサちゃんこそ怪力無双だろ!!」

「「「「「怪力むっそう!!!怪力むっそう!!」」」」

1人の発言を皮切りに、ギルド内にいた冒険者達が理沙に向けて一斉に叫びだす。


「リサちゃんスカッとしたぜー!!!!」「やっぱり、俺が出るまでもなかったなあ!!」「お前足震えてたじゃねぇか」

「「「怪力むっそう!!!」」」

「え~...なんでぇ...?」

一度始まったコールはだれにも止められない、そんな中、「怪力無双のリサ」という可愛くないあだ名に落胆している理沙に、落ち着きを取り戻したルチェが抱き着いた。


「リサ~~~~~~~!!!!も~~~~!危ないことしないでよぉ!!!!心配したんだからあああ!!!!」

「ルチェちゃん、ごめんねぇ。でもルチェちゃんが嫌がってたから....。つい....。」

「もう!!!馬鹿!!!アタシはリサがあんなに強いなんて知らなかったから!!!どれだけ心配したと思ってんのよおおおお!!うわあああん!」

「可愛くない才能だったから言いたくなくってぇ...ああ、泣かないでぇ?よしよし~。」

「「「「かっいりきっ!かっいりきっ!」」」」

泣きじゃくるルチェを慰める理沙、その周囲には態度の悪いAランク冒険者を撃退したことで興奮が醒めない冒険者達が一斉に腕を上げて怪力コールをしている。

このカオスな状況を、止められるものなどこの場には誰一人いなかった。


「ちょっと??なになになに??なにがあったわけよ~?」

と思っていたのだが、この場を止められるものがちょうど現れた。


「ギルマスぅぅぅ~~!」

「ギルマスおせぇぞ~~!!」「リサちゃんの勇士が見れなくて残念だったなぁ!!」

「我がギルドに怪力無双が誕生したぞ!!!」「ピュゥウウウイッ」

ぼさぼさの髪の毛を頭で描きながら、気怠そうな表情でギルドに入ってきた中年男性、その正体はこのギルドのマスターであるグラジア・オルヴィエール。

グラジアが入ってきたのを確認したルチェは、理沙の元を離れてグラジアの胸へと飛び込んだ。


「おっと、ルチェは泣いてるし、冒険者共はくるってるし....何があったわけ?リサが何かやった?」

「え、えと~。深い事情がありまして~....。」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「はぁ、つまりヨゴレを受けに来たAランクパーティ『破壊の呼び(コールオブデストロイ)』を正面からねじ伏せて返しちゃった訳ね....。はぁ~どうすっかなぁ....。」

「でもギルマス!うまく返せなかったアタシが悪くて!リサはヨゴレについて知らなかったんです!」

「そんな重要な冒険者だったなんて~....。ごめんなさい....。」

興奮した冒険者達を放置して、職員用の部屋でルチェとリサから事情を聴いたグラジアは頭を抱えた。

リサがヨゴレを知らなかったとはいえ、はるばる遠くから来たAランクパーティの機嫌を損ねてしまったのだ。

もう彼らはクエストを受けてくれないかもしれない。


「いや、悪いのは冒険者ギルドを夜の店と勘違いしたあいつらだし、お前らだけにした俺も悪かった。すまん。」

「謝るのは私の方です~...。ルチェちゃんもグラジアさんも、私の軽率な行動に巻き込んでしまってごめんなさい...。」

「いやいやいやいや!頭を上げてくださいよギルマス!リサもアタシの事を助けてくれたんだから、謝らないで」

頭を下げ合う理沙とグラジアを止めるルチェ。

結論から言うとAランクパーティ『破壊の呼び(コールオブデストロイ)』のとった行動は冒険者ギルドの条例に違反しているため、しかるべき場所に報告をすれば彼らが罪に問われるのだが.....そんな条例を3人は覚えていなかった。

それでいいのかギルド職員。


「とはいえ...誰が悪いとかは置いといて、ヨゴレをどうするかだよなぁ。」

「あんなことしててもAランクですからねぇ...。」

うーーーーんと頭を捻る2人を見ていた理沙が、はっと何かを思いついたようにポンと手を叩いた。


「そうだ、その『ヨゴレ』になったクエストってどんな内容なんですか~~?」

「ん?なんでそんなこと...まぁいいか、ヨゴレの内容はアイアンタートル最上位種のアダマンタートルの討伐だ。西の森を南西に抜けた所にあるポチェーレ村近隣で大量発生しているらしい。奴らはおとなしい性格だが、恐ろしく重いうえに硬い。しかも最悪なことに人間が食べるような作物が大好物でなぁ...ポチェーレ村の畑は全滅、このままだと村に住む農家の人たちは廃業なんだよ。死者の危険性が無い分、国の優先度も低い。」

人を襲うことが無いアダマンタートル、しかし危害を加えなければという前提が必要となる。

アダマンタートルはこの世界で最高硬度をもつアダマンタイトを主食とするため、体で最も固い甲羅と牙と爪がアダマンタイト級の硬さを誇る。

勿論、アダマンタイトのみでは栄養が取れないため、一般的に野生の草から栄養を摂取するのだが、人が作った作物を一度食したアダマンタートルはその栄養価の高さから、それしか食べなくなるという。

その被害に会ってしまったポチェーレ村は農業が盛んで、村全体の広大な敷地の8割は畑という恐ろしい農業大村なのだ。


グラジアはそんな依頼がヨゴレとなっているのを知って、各国の冒険者ギルドへアダマンタートルを討伐できるレベルの冒険者の派遣を数年前から要請していた。

そしてようやく訪れたのが、Aランクパーティ『破壊の呼び(コールオブデストロイ)』だった。


「成程~...アダマンタートルってどれくらい硬いんですか???」

「リサ知らないの~?鉄よりもずっっっと硬いんだよ!」

「それを知って何になるんだか...。ちょっと待ってろ...。」

グラジアは机の引き出しから一つのナイフを取り出した。

そのナイフの刃は硫黄のように黄色く、キラキラと輝いている。


「これがアダマンタイトでできたナイフだ。」

「へぇ~これが....。このナイフって高価ですか??」

「いや、アダマンタイトはマナを無効化するからなぁ。近接でも魔法を剣に纏わる戦いが主流なこの時代では対した価値はじゃない。ま、せいぜい紙を切る程度ってところだな。」

「じゃあこのナイフ、ちょっと壊せるか試してみてもいいですか??」

ナイフを手にした理沙の思わぬ発言にグラジアとルチェの目が点になる。


「何言ってんのリサ~あはは、いくら力が強いからってそれはアダマンタイトだよ~~?」

「壊すって素手でか??ははは、無理だろ!!」

理沙はナイフの刃を切れないように軽く握り、親指を切先にあてる。

グラジアとルチェは理沙の無茶苦茶な発言に思わず笑いだす。


「ふぬぬぬ」

理沙は親指にぐぐぐっと力を入れると、刃が徐々に反りだした。


「リサでもさすが....に...。」

「いくらAランク冒険者に勝ったとはいえ、それは特別なハンマーが無いと....。」

「えい!」

掛け声とともに思いっきり力を入れると、ナイフの先端はキィン!と音を立てて壁に突き刺さった。


「え?」

「は?」

「何とか壊せそうです~!」

理沙の込めた力は全力の7割程度。

しかも筋力が数倍に跳ね上がる魔筋魔法は使っていないというのだから驚きだ。


「えええええええ!?」

「ちょいちょいちょいちょいまて!今何をした!?」

「なにって、普通に力を入れて...えい!えい!えい!」

キィン!キィン!と連続してアダマンタイトのナイフが短くなっていく。

はじけ飛んだナイフはまるで矢のように次々に壁に突き刺さっていった。


2人の視線はナイフと壁に突き刺さったナイフの破片を交互に行き来する。

まさか生身でアダマンタイトを破壊できる人間がこの世にいるとは思えなかったからだ。


「リサどうなってんの!?それアダマンタイトだよ!?」

「....この力で腕を潰されたってのか...こりゃ『破壊の呼び(コールオブデストロイ)』の奴は災難だったってこった...。」

グラジアは先ほど聞かされた、騒動の概要を思い出して身震いする。

最初は半信半疑で聞いていたが、承認が居すぎる以上納得せざるを得ない。それぐらいの気持ちで聞いていた話が一気に信憑性をました。


そしてアダマンタイトを生身で砕くような女性に喧嘩を売ってしまった哀れなAランクパーティに心から同情したのだった。



「じゃあ私、このクエスト受けてきますね!!」

「ちょっ、リサ!?」

「この力なら問題ないとは思うが...本当に道中はどうする??西の森には魔物もいるぞ?」

王都の西の森にはCランクパーティ程度の実力が無いと倒せない魔物が住み着いている。

いくら力があるとはいえ、理沙は魔物との戦闘歴はないはず。グラジアは素直に首を縦に振るには行かなかった。


「多分大丈夫です~!私ってこの通り、攻撃も無効化しちゃうみたいなので~。」

理沙はそう言ってナイフにかろうじて残っている刃を手に当て、ギコギコを押し引いた。


「っっおい!....はぁ?」

「きゃ!!!!....あれ?」

「この通り~!」

ルチェとグラジアはその光景を見てまたもや驚き、理沙の手を取って確認するが、手の平に傷は一つもなかった。


「おいおい、冒険者の素質しかないじゃないの...。リサちゃん冒険者でもやる?ギルド職員兼非常勤冒険者」

「はぁ~。」

「ちょ、ギルマス!いくらリサが強いからって女の子にそんなこと任せたら危ないですよ!...危ないよね?」

頭をかきながら困ったような表情で冒険者に勧誘するグラジアを怒鳴りつけるルチェ。

しかしルチェ自身も今見た光景を思い返してグラジアを否定する自信が無くなってしまう。


「でもアダマンタイトのダガーを折る攻撃力とそれで傷一つつかない体なんて....何がリサちゃんを危険にさせられるんだろうねぇ....。」

「それは....そうですけど...。リサはどうしたいの?」

「ん~、今の仕事も続けられて、いろんなお肉が食べられるならそれもいいかなぁ~。とりあえず、このクエスト受けてからにしようかなぁ~って」

理沙が軽く話すこのクエストは、今このギルドに所属する冒険者には誰も達成できず、ヨゴレとなってしまった難易度の高いクエストなのだが、本人はちょっと硬い亀を沢山退治する程度にしか考えていない。

なんとも呑気なものである。


「はぁ...まぁいいや、このクエストの説明するわ....。」

「ギルマス!?今考えるのやめませんでした!?」

「あーあー、なにもきこえなーい。リサ、まずこのクエストの場所だが.....。」




この後、グラジアの説明を聞いたリサは単独でポチェーレ村へと向かい、農作物を脅かすアダマンタートルを全て拳で討伐した。

ポチェーレ村に住む人々は作業的にアダマンタイトの硬さを誇る魔物を討伐していく姿を見て「卵かってくらい軽々甲羅を砕いてた。ありゃ冒険者ギルドの改造人間か?」と疑問を抱いたらしい。


結局、異例の速さで全てのアダマンタートルを討伐した理沙はその日の夕方ごろに冒険者ギルドへと帰還した。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ってことがあったんだよ~!だから今日はカメさんのお肉でご飯作るね~!」

「ぶはっ!!!!」

いつもより大量の肉を持って帰ってきた理沙に訳を聞いた翔は、口に含んだお茶を全て吐き出した。


「ちょっと翔ちゃん!汚いよ~!」

「げほげぇほ!!...ちょっ、ちょちょちょちょちょっとまって、じゃあ理沙はあの『ヨゴレ』をひ、一人で、数時間で、その恰好でこなしたってこと!?」

冒険者ギルドで働く理沙は防具を持っていない。あるのはせいぜい解体する時に着る皮のエプロン程度だ。

つまり理沙は私服で(・・・)討伐に行ったことになるが....。


「?うん、そだよ~!なんかね、また私にクエスト頼むかもって言われちゃった~!」

「はぁ!?」

翔はとても複雑な気持ちになった。

理沙がどれほど強靭な肉体を持ち、どんな魔物が相手でも傷一つつかないことは理解しているが、それでも自分の妻。心配しないわけがない。

それともう一つ、自分が憧れていた展開をサラッと理沙はやってのけた。

その事がとても羨ましく、心配と嫉妬が入り交じった複雑な心境に悩まされていた。


頭を抱える翔に更に理沙が追い打ちをかける。

「だからね~、ギルド職員兼非常勤冒険者って肩書になったの~!クエストの報酬はその都度貰えるから沢山お給料ももらえるよ~!今日なんて80万ゴールドも稼いじゃった!素材も換金したらも~っと行くと思うんだぁ~!」


「一日で....は、はちじゅうまん.....。」

翔の門番の仕事は国直属であり、評判もとてもいいため、高給取りだ。

とはいえ、手取りで月50万ゴールド、理沙が今日貰ったクエスト達成ボーナスは翔の給料を上回り、素材の換金も入れたら二倍以上に跳ね上がるだろう。


つまり翔は心配、嫉妬に咥え一家の大黒柱としてのプライドもへし折られたのだった。

膝から崩れ落ちる翔に、わたこがとてとてと近寄ってくる。


「くぅ~ん....。」(しょう~元気出して~)

ペロペロとほっぺを舐められた翔は、(そういやわたこにも魔法の才能で抜かされてるんだよな...。)と卑屈な考えを脳内に巡らせてしまう。


「もしかして俺って.....この家で一番下....?」

一度考えてしまったことは簡単に頭から消えない。

理沙とわたこに慰められても翔はこの時のことを相当引きずるのであった。


頑張れ翔、負けるな翔。





◇「一方そのころ」

『ここで速報です、○○県▲▲市に住む民家が突然建物ごと姿を消したとの情報が入ってきましたが...。これは...どういうことでしょうか?』

『私も理解できていないんですがねぇ....人ならまだしも建物ごとでしょう....?誤報じゃないんですか?』

「そんなバカな....って、○○県▲▲市...?まさかねぇ...。」

狭い1LDKに住む女性が昼から酒をたしなんでいると、そんな不可解なニュースが流れてきた。

女性の名は兵藤千紗(ひょうどう ちさ)、理沙の妹である。


「理沙ねぇが家買ったって言ってたのその辺じゃなかったっけ?」

千紗はスマホを手に取り理沙へとメッセージを送った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

千紗:理沙ねぇって家買ったよね?○○県▲▲市だっけ?

理沙:うん、そだよ~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


既読はすぐにつき、返信もすぐに来た。

地域が同じでもニュースで流れていることとは無関係だろう、と千紗はホッと肩を撫でおろす。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

千紗:なんか今ニュースで理沙ねぇの住んでる市で建物ごと消えたって言ってたよ!近かったら見に行ってみたら??

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

しかし、その後の返事はいつまでたっても帰ってこない。


「今日が新居に入れる日だもんね、そりゃ忙しいか。」

千紗はスマホを置いて酒を飲みながらTVを何となく眺め出した。


『今入った情報によりますと、消えた建物は最近できた新築のようです!映像出せますか?はい、現場の田辺さん、そちらはどんな状況でしょうか!』

「新築....?」

まさかな、と疑いながらTVを凝視する千紗。


『はい、こちら現場の田辺です。見えますか?これが跡地なんですが....家1件分、いや、庭を含めた土地が全て綺麗に無くなっています!私も目を疑ってしまいますが、まるで切り取られたかのように地中深くまで切り取られているようです。家に繋がっている下水や電線、水道管といった類も切断されているため、今消防隊が駆けつけているとのことです!』

『.....これは.....一体何が起きているんでしょうか....?』

「うっわ、こんな事有り得るの?神隠し?」

TVで流れている映像には、新築が建て並ぶ分譲地の一画だけ綺麗にえぐり取られている光景が映っていた。

まさか理沙が、雨宮家が住む家だとは思いもせずに千紗は興味津々にTVに釘付けになった。


そんな時、千紗のスマホがピコン♪と音を立てる。


「理沙ねぇかな?」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

理沙:お姉ちゃん異世界に来ちゃった見たい~ビックリ!

理沙:(翔と理沙とわたこの王城をバックに庭で撮った3ショット)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「はぁ!?」

理沙の訳の分からない発言と共に送られてきたのは1枚の写真。

そこには呑気にポーズをとる義理の兄:翔と理沙、そして千紗も大好きな大型犬のわたこが映っていた。

そしてその後ろに見えるのは立派な西洋風のお城。

庭で取られたその写真は、家の近くにお城があることを示していた。


そんなことは絶対にありえない。


何一つ理解ができない千紗は急いで理沙に電話を掛けた。


「意味わかんないよ~!何やってんの理沙ねぇは~~~!!」プルルルルル

『あ、千紗ちゃん~?』

「あ、千紗ちゃん~?じゃないよ!!!どういうこと!?なにそのお城?今どこいんの!?」

『わわ、声おっきいよ~。なんかねぇ、リュシアちゃんが言うには~』

「リュシアって誰だよ!!!!」

『リュシアちゃんは~、ヴァレンシア城の宮廷魔術師さんなんだよ~!』

「ちょっとまって......。」

千紗は何一つ理解できない姉の説明に混乱し、開いている手で頭をぐしゃぐしゃと掻きむしった。


『でね~、リュシアちゃんがお仕事とかも紹介してくれるんだって~!』

「理沙ねぇちょっと待ってって!!!」

千紗は頭に手を当てて理沙の言うことをまとめてみた。

・理沙ねぇは今異世界にいる。

・リュシアという異世界人が....


「なわけあるかぁ!!!」

『わ、千紗ちゃん怖いよ~。何で怒ってるの??』

理沙は昔からマイペースで、千紗をいつも困らせていた。

どんな時でも緩い喋り方かつ自分のペースで話すせいで、聞きたいことが何一つ頭に入ってこないのだ。


「だめだ、理沙ねぇじゃ話になんない。翔さんと変わって!はやく!!」

『え~、酷い~!...翔ちゃーん、千紗ちゃんが変わってって~!』

千紗と雨宮家は仲が良い。

結婚前からわたこふくめ皆でよく遊びに行ったこともある。

そのため、翔の仕事とプライベートの性格に差があることも把握している。

千紗は(今日ばかりは仕事バージョンであって!)と祈りながら翔を待った。


『あ、千紗ちゃん?んふ、なんかぁ、俺ら異世界に来ちゃったっぽいんだよね。しってる?異世界転生とか転移とか。』

「はああああああああ..........。」

理沙は深いため息をついた。

それもそのはず。

翔はリュシアの前では仕事バージョン寄りの態度で平静を保ってはいたが、異世界に転移した喜びが凄すぎてプライベートバージョン+αの浮かれっぷりになっていたからだ。


『ん?どしたの?あ、ビデオ通話にするね。....ほらほらほらほら見てあの城!!!!あの建物!!本当に異世界!!ひゃっほぉ!!!』

「ダメだこりゃ......。」

画面には翔の浮かれた顔しか映っておらず、手振れも激しい。

千紗は翔が落ち着くまで待つことにした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「はぁ.....信じられないけど、本当に転移..?しちゃったみたいだね....。」

『っぽいね。まさかニュースでもやってるとは....。』

落ち着くまで話しを聞いていると、30分ほどして翔は落ち着きを取り戻した。

こちらでの状況と異世界での状況、それらをまとめるととても2人掛かりで嘘をついてる用には思えず、千紗は家ごと異世界に転移したことを認めざるを得なかった。


「今もニュースやってるけど....なんでそっちでも水道もガスもネットも使えてるの?こっちは消防隊が断裂したライフラインを塞いだってやってるよ?」

『ん~、よくわかんないけど、なんか不思議な力でも働いてんじゃね??』

「またそんな適当な....。」

とはいえ、家ごと転移したことを認めてしまった千紗は、今更不思議な力が働いていることを否定する気にはなれなかった。


「で、どうするの?このままだと私の所にも警察とか色々来ると思うけど?」

『あぁ~、千紗ちゃんごめん。何とかしといて!』

「何とかって......。」

TVでは住民がいた状態で家が消えたことまで突き止め、捜索している最中だと言っていた。

であれば近々千紗の元へ事情を聴きに来るのは間違いないだろう。


「はぁ...わかった。でも翔さん達のことは何も知らないで通すよ?異世界なんて説明しても信じてもらえないだろうし....。」

『ありがと~。まぁこうやって連絡はできるからいつでも連絡してよ!』

「はいはい、異世界がどんなとこか知らないけど、気を付けてね。」

千紗はそう伝えて通話を切りスマホをコトンと机の上に置いた。


「異世界か....。」

異世界転生や転移といったジャンルが最近はやっているのは千紗も知っている。

そのご都合主義満載の展開が気に食わず、千紗はあまり好きではなかった。


しかしいざこうして身内が当事者になってしまうと話は別だ。

どんなに離れていても家族、ご都合主義だろうが何だろうが、安全に暮らしていけるに越したことは無い。


「でももう会えないってことかぁ....。」

はぁ、とため息をついてぼんやりとTVをみつめる千紗。


『やはり何かしらの天災でしょうか....?』

『そうとしか考えたくありませんね、人為的にできる域を超えています、こんなことをできる存在なんて神位でしょうな』

「はは、神か...。」

(神が理沙や翔さん、わたこちゃんを異世界に送ったというなら、何かの意味があるんだろうか。)

TVで行き先の見失った討論を繰り広げる専門家たちを見ながら、そんなことを考えた。


....この転移は超偶然であり、神の意思とは無縁のものなのだが...彼女は知る由もないだろう。


「さて、事情を聴かれた時の練習でもしておきますかね....。」

千紗の職業は女優、高校生の時にスカウトされそのまま芸能人となる。

この事件に関係があることがバレたら相当話題となるだろう。


「どうして....姉が.....ひっ....。どこに行ったんですか....!!」

そのために入念な演技が必要となるが、彼女の演技力は若手女優ながらトップクラス。


「うーん、ちょっとわざとらしいかな?」

きっとマスコミをうまい事躱すことができるだろう。


事情を知るものが他にいなければの話だが.....。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

千紗が唯一の家族を失った悲劇の若手女優として世間に同情され始めてから数週間後、あるSNSサイトに一枚の写真が投稿されたことで、世界中に大きな反響が起きた。


その投稿者は雨宮翔。

投稿内容は『異世界で元気にやってまーす!』といった内容。

その文章だけだったらアカウントを乗っ取られただけだと話題にもならなかっただろう。


問題は添付された写真だった。

それは翔が謎の肉を食べながら自撮りをしている写真。

後ろに移っているのは笑顔で肉を解体する理沙と、頭の上に耳の映えた猫獣人のルチェとフリスビーを引っ張り合っているわたこ。

そして鎧姿で酒を飲んでいるオルクスたちが映っていた。

その遥か背後には王城がうっすらと。


この行方不明となっていた翔たち雨宮一家が謎の場所でコスプレした一行とBBQしている写真が投稿されたことで千紗の努力は全てが水の泡となった。


しかし、千紗は頭の回る凄腕若手女優。

世間には翔たちが無事でいることをSNSで初めて知って、安心して泣き崩れた、と無事自分の地位を確立しながら好感度を上げることに成功した。


(あのバカ夫婦~~~~~!!!!!!!!)

内心は怒り狂っていたことは言うまでもない話だ。


ちなみに、千紗はこの事件の後更にその名を世界中に轟かせ、空前の異世界ブームが巻き起こった。

彼女は世界を騙し続けることができるのか。


それは彼女にもわからない。

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