リュシアの日記
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どこを探してもおじい様の書き記した召喚魔法についての本は出てこない。
どこにあるんだろう?あれさえあれば異世界についてもっと知れるのに....。
やっぱり禁書庫にあのかも、あそこに忍び込むのはちょっと危険があるんだけど....。
思い切って見るべきか....。
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色々なことがいっぺんに起こりすぎて何から描けばいいのかわからない。
極端に良いコトと悪いコトが起きたせいで現実味がまったくない。
気分的に悪いコトから描いたほうがいいかもしれない。
まず、あのクソジジイのせいで女神様から神罰を受けた。
遊び半分で召喚魔法なんて作るからこんな目にあった!なんで規模を制限しなかったのよ!
私は異世界の物体を少しだけ召喚する程度の魔法を期待してたのに!
異世界の家ごと!?召喚!?バカげてる!
女神様からは『一族の不始末は一族が背負いなさい』なんて言われるし....。
異世界人の住民権と仕事の斡旋を任された時はどうしようかと思ったけど、精神感応魔法があってよかったわ....。
責任者の記憶をちょちょっと改変すればいいんだもの。
精神感応魔法も禁忌だけど、女神様は黙認してくれたし一安心。
でもいいコトもあった。
異世界人がとてもやさしい人たちだった。....ちょっと暢気すぎる気もしたけど、そこがまた好感が持てた。
もし変な人だったら、私はどうなってたことやら...。女神様からは異世界人の人たちの言うことをすべて聞くように、
なんて言われちゃってたし、何かされても断れなかったと思う。
まぁあんな優しい人だとわかってたからそういったんだろうけど。
あのミミズを模した小麦の炒め物はとてもおいしかった。味付けも完全に未知。あれが異世界の味なんだろうか。
....ここまで我慢してたけど、一番よかったのはなんといってもショウさんに貰った異世界の時計!!!!
異世界には魔法が無いことは知っていたけど、まさか魔法に頼らずあそこまで発展している世界とは思わなかった!
不思議なのはこの世界の1日と異世界の1日が全く同じだったこと。1日はこの星が1回回転するのと同じだから
それが全く一緒ということは普通考えられない。異世界は別の星だと思っていたけれど、もしかしたら同じ星ということに...。
有り得えないことだとは思うけど、もしそうだとしたら、どんなことが考えられるだろうか。
この星のどこかに彼らの住む場所がある?いや、そうだとしたら遥かに発展している彼らの国が私達の国に干渉してくるはず。
...秘匿している可能性もあるけれど、もし違うとしたら?...同じ星で別の世界...。
クロノス・フィーラ・フォートの多次元宇宙説が正しいのかもしれない。
もう一度彼の論文を見る必要がありそうね。
あああ!でもショウさん達の仕事を探さなきゃ!!やりたいことがってもやるべきことが多すぎる!!
...彼らの才能がなんなのか、聞いておくべきだったわね....。異世界人にも才能はあるはずだし、明日確認してみよう。
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まさか異世界の才能という概念がこんなに違うとは...。
でもこの世界に来て開花したのはよかったわね。
話を聞いた感じ、リサさんは怪力で確定ね。....それにしては強すぎる気もするけど...。
料理が好きで、動物の解体に慣れていて、怪力の才能持ちなら解体士の仕事がよさそう。冒険者ギルドは治安が悪いのが難点ね。
わたこちゃんはよくわからないけど...家族限定で意思疎通ができる魔法なんて効いたことないし、念話の才能かしら?
でも彼女は一体何なんだろう....魔物だとして、魔物が才能をもつなんて聞いたことが無い。犬獣人に近い種族?
ショウさんは全くよくわからない、でも接客に慣れているし、仕事になると真面目になるって話から、接客業がよさそうね。
魔法店の受付..は魔法の知識がないと無理だし、鍛冶屋はドワーフがいるし、...門番辺りが打倒かしら。
にしても、本当に申し訳ない事をしたわね...。偶然とはいえ、彼らは自分の家をも持ってこれから明るい人生が
始まるところだったのに...。私ができることは何でもしてあげないと。
何をしてもこの罪を償うことができる気がしない...クソじじぃめ....。
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ショウさんに、わたこちゃんも仕事をしたがっているから紹介してくれと言われた。
そんな場所あるかしらなんて思って王都を歩いてたら、これほどピッタリな職場はないんじゃないかって思うほどの
お店を見つけた。まさかわたこちゃんに似ているフェンリルをモチーフにしたお店があるなんて....。
今日、早速その足でわたこちゃんとショウさん、リサさんと一緒に『フェンリルの鳴き声』に行ったら、
丁度経営難だったらしく少しでも可能性があるなら、と看板犬として正式に雇用が決まった。
給料はわたこちゃんのご飯となる魔物のお肉。働きに応じて追加の素材も貰えるらしい。
賄いも出るって聞いたときのわたこちゃんかわいかったなぁ。凄いはしゃいでた。
ショウさんとリサさんは仕事に対しての不満は何もないみたいだった。
むしろ前の仕事よりも楽しいようで、ショウさんに至っては城の兵士からその評判が上がってきている。
なんでもショウさんが来てからあのクレームだらけだった悲惨な現状が嘘だったかのように落ち着いたという。
ショウさんが勤務する日はクレームが0なんだとか。これも異世界の...いや、ショウさん自身の力だろう。
仕事を一度見に行ってみてもいいかもしれない。あの性格だから強気な人が来たら押し負けるんじゃない以下と思ってたけど
杞憂だったみたいね。兵士からは真面目で愛想がよくとても話しやすいとか言われたけど..ショウさんってもっと気怠そうな
ちょっと適当でのほほんとした人だったと思うけど....。
リサさんの事も冒険者のギルドマスターと解体士の巨人族の人から報告を受けている。
のほほんとした人柄が、冒険者の心を穏やかなものにしているお陰で、冒険者ギルド全体の雰囲気が柔らかくなったそうだ。
巨人族の人からは....ちょっと意思疎通が難しかったけれど、自分が持てないような重いものを軽々と持っていた。なんて
話を聞いた。怪力の才能ってせいぜい2倍ぐらいの筋力になるだけなのに....。人の3倍は力のある巨人族よりも強いって
どういうこと?まさか怪力じゃなくてもっと上位の才能?....注意しておく必要はありそうね。
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時間ができたのでクロノス・フィーラ・フォートの多次元宇宙説をもう一度確認してみた。
その後の世界を大きく変えるような選択をした場合としない場合で同じ世界の異なる未来を産むという説だ。
この説が発表された時、世の学者たちは馬鹿にした。でも彼の説は正しかったのかもしれない。
この世界と異世界の大きな差は魔法の存在、獣人やエルフといった人種以外の種族の存在、才能の存在...割と多い。
はるか昔、この世界の神が私達の祖先に魔法の使い方を与えた、というのがこの世界の神話には存在する。
そこから人種以外の存在が生まれ、神の加護...才能が生まれた。
つまり神が魔法を教えたことが、この世界と異世界を分けたきっかけなのではないか。
それを裏付けるように、クソじじぃの作った召喚魔法の手順には魔法を駆使する時に必要なマナが異世界にもあるような
記述があった。
『マナに愛されし土地にて、天上より陽光が人と獣を照らす時、古より伝わりし呪文を交互に唱えよ』
召喚魔法が成立したということは、少なくともショウさん達は『マナに愛されし土地』という条件を満たしている。
となるとやっぱり神の介入の有無によって世界が分かたれたということになる...。
ショウさん達の世界は神の啓示を受けるようなことは無いのか、今度確認してみよう。
なんだか書いてて悪寒がしてきた。もしかするとこれも禁忌なのだろうか。
そういえばこの説を唱えたクロノス・フィーラ・フォートも変死をしていたけど...まさか神に罰せられたなんてことはないはず
...だよね?
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今日は女性には嬉しい出来事があった。
ショウさんが仕事仲間のフィーダさんという方を連れてきた。
最初は何事かと思ったけど、まさか兵士が染色の才能を持っているとは。
だって建物の染色とかできるなら、貴族からしたら引く手数多なのに....。
彼は自分を認めてくれるような人が周りにいなかったんでしょうね、世界には彼のように才能の使い道を見出せずに
埋もれていく人が沢山いる...これはこの国の課題でもあるわね。
でもまさかショウさんが全く違う方向性でこの才能を活かすことができるとは思わなかった。
国の発展にそこまでの貢献度が無いと言われ後回しにされていた、髪染めに活かすだなんて....。
フィーダさんには貴族界で流行最先端を行くあのマルチラ先生を紹介した。
マルチラ先生の食いつきはもの凄くて、話の途中で自分の髪を金色に染めてくれなんて飛びつくもんだから
平民のフィーダさんは驚いてたなぁ。
そういえばミランダが赤髪に憧れてたっけ。ミランダのように自分の髪の色が気に入らないという女性は多い。
それに貴族の女性なんかは自分を気品よく見せるために金髪に憧れるって話も聞いたことがある。
私もおとぎ話の大賢者様みたいな綺麗な水色に染めてもらおうかなぁ..でもその場合髪の毛だけじゃ変だし..眉毛とかまつげも
染めてもらうことになるのかな?あんまり知らない男の人に触れられるのは怖いなぁ。
ショウさん達はこの世界にいい風を起こしてくれている。
それも、軍事に関することじゃなくて、人々が気持ちよく暮らせる方向に。
召喚してしまったことは申し訳ない限りだけど、彼らがこの世界に来てくれてよかった。
もっと私にしてあげられることは無いかなぁ。
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久しぶりに宮廷魔術師としてのまともな仕事をこなした。
最近はショウさん達も特に不自由なく生活していたから、ここの所はいつもの仕事に戻ってた。
王子と王女に魔法教えるのにはもう飽き飽きしてたところだったし、ちょうどいい気分転換になったわね。
でもその仕事はまだ継続中、は~、何よこの魔石は....。
東の森にあるダンジョンで見つかったらしいけど、普通の魔石とは全然違うし...。
なにが「正体を突き止めろ」だよあのハゲ大臣!いっつも私に面倒ごと押し付けて!
あーあ、私くらいの年齢だったらもっとお洒落で有意義な生活をしてるはずなのに。
宮廷魔術師になるの早まったかなぁ...。
というかショウさんもリサさんも、私の事ちゃん付けで呼んでるけど...まさか子供だと思われてる?
20歳なのにな、やっぱりこの背の低さ..いや胸の....虚しくなるから止めよう。
あー、どこかに身長高くしたり胸大きくする才能の持ち主はいないかなぁー。
需要は留まることを知らないのに。
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「は~あ...。」
リュシアは今日の出来事を書き終えると、羽ペンを置いて自分の胸に手を置いた。
何かを確かめるようにぺたぺたと触ったリュシアは、しばらく触った後、体をがっくりと前へ倒した。
「...どうしたらいい出会いがあるんだろう。」
最初は仕事の事を日記に書こうとしていたのに、途中で脱線し、自らの恋愛事情を気にし出してしまった。
....リュシア、20歳 彼氏いない歴=年齢。
彼女は王都魔法学校を主席で卒業し、学校の推薦で今の職業に就いた。
給与は日本円に直すと約月200万、年齢に対して不釣り合いな金額である。
国民からは『宮廷魔術師様』と敬われる存在になってしまっているため、当然出会いはない。
他の宮廷魔術師は皆50歳を超える高齢のため、職場恋愛の可能性もない。
「冒険者になっとけばよかったかなぁ...でもそれだと研究に集中できてないだろうし...。」
全ての属性の魔法に長け、生活魔法も熟知しているリュシアがもし冒険者になったら、頂点に君臨し人々から敬われていただろう。
しかしそうなっていたとしても、モテていたかどうかは別である。
強大な力を持つ相手なら尚の事、一線引いてしまうのが人間である。
「研究が一人でできるくらいお金がたまったらさっさと止めちゃおう..。あと3..いや4年くらいは我慢...。」
果たしてリュシアに彼氏はできるのか、それは神のみぞ知る...。
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「あ~、暇ね。召喚魔法騒動も落ち着いたし...何もやること無いわ...。あんたたち、面白い事起きてない?」
「エリアさま!U6211-2468で星間同士の大恋愛が繰り広げられています!!」
「U6211-2468?宇宙進出してる星よね?...私が許可する!メインモニターいっぱいに映し出しなさい!それと主要人物のプロフィールも検索!主要人物の各視点もそれぞれチェックして、面白そうならメインモニターに出しなさい!....久々の大恋愛モノが見れるわ...く~!やっぱりリアリティショーってどうなるかわからなくて堪らないわね!」
「「「「はい!!!!」」」」
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いや、神も知らないかもしれない....。