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雨宮家の日常:雨宮理沙の場合


「よしっと!...じゃあ、わたちゃんお仕事頑張ってね~!」

「わんわん!」(りさもがんばって~!)

理沙が家の鍵を閉め、わたこと一緒に家を出る。

わたことは職場の方向が違う理沙は、家を出て直ぐの道でわたこと別れた。


「今日はどんなお肉かな~~~!」

理沙が向かうのは冒険者が集う第5地区。

鍛冶屋や冒険者ギルドが立ち並ぶ、王都で最も人の流れが多い地区だ。


「あらリサちゃん、おはよう。」

「今日もたっぷり狩ってくるから解体よろしくな!」

「キャシーさん、レックスさんおはようございます~。まってますねぇ!」

理沙に挨拶してきたのは2人組の冒険者、キャシーとレックス。

2人はこの王都でもランクの高い冒険者で、よく二人の持ってきた魔物を若い女性である理沙が受け取って解体を行うため、物珍しさも含めて自然と仲が良くなった。


魔物の解体という血なまぐさい職業は男女ともにあまり人気ではない。

魔物を解体するには力とスタミナ、そして精神力が必要となるからだ。


しかし理沙は田舎の出身で祖父が猟師であることから、小さい頃から熊や鹿をさばきなれていた。

更にこの世界に来たことで授かった謎の怪力のお陰で、解体の仕事は理沙にとってまさに天職だった。


「今日は人が多いなぁ~。」

冒険者ギルドの近くまでくると、いつもの1.5倍ほどの冒険者がギルドに集まっていた。

そんな冒険者達を横目に、ギルドの裏口へ回って魔物の解体を行う部屋の入り口に手を伸ばす。


「おはようございま~~~~す!」

「....おはよう...。」

理沙とは対照的に口数の少ないこの男の名前はギーダリヤ・ゴルバドリス。

通常の人間の1.5倍ほどの大きさを持つ、巨人族と呼ばれる種族だ。

名前が覚えにくく長いため、理沙は『ぎーさん』と呼んでいる。


「ぎーさん。今日は冒険者の人がいつもよりたっくさんいたんですけど~。何かあったんですか~?」

理沙は荷物を部屋の端に置いて、全身を覆うような無骨なエプロンを装着しながらギーダリヤへと話しかけた。


「..西の草原....ワイバーン....。」

ギーダリヤは最低限の情報を伝えながら、作業場にある本棚から分厚くて大きな本を取り出した。

パラパラとページをめくり、目当てのページを開いたまま理沙へと渡した。


「ワイバーン....おっきなトカゲさんかぁ....。捌き買いがありますね~~!!」

受け取った本にはワイバーンの生態と、傷付けてはいけない希少部位の説明を確認しながら心を躍らせた。

今彼女の頭の中ではワイバーンがいろんな料理にされていることだろう。


「うむ....。リサ、午前頼む....。....ギーダリヤ、道具準備する....。」

「はーい!やっぱりワイバーンにもなるといつもの道具じゃダメなんですね~~~!」

ギーダリヤがワイバーンを捌くための道具を準備するのに手いっぱいになるため、午前中の解体の仕事を理沙に任せる事をわかりにくく説明すると、理沙は瞬時にその意図を汲み取った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「すいませーん!」

「は~い!」

冒険者ギルドの側にある解体場の受付から冒険者の呼び声がかかった。

理沙はナイフの手入れを止め、受付に走って向かっていった。


「解体と討伐実績の更新お願いしまーす!」

「はい~。解体士にポイントの加算を申請する場合は~。魔物の死体から評価させていただくので~、実際の戦力を完全に把握することはできませんがよろしいですか~?」

解体の仕事の一つに討伐実績の更新がある。

冒険者がどの程度の実力があるのかをギルド側が把握するために、倒した魔物とその手際を解体時に査定して冒険者ポイントを加算する。

そのポイントによって冒険者の強さが示され、受けられるクエストのランクに関わってくるのだ。


ポイントを加算する方法は2つ、冒険者ギルド直属の職員が戦闘を実際に見て評価を行う方法と、討伐した魔物の死骸から冒険者ギルト直属の解体士が評価を行う方法。

前者のほうがより詳細にパーティの強さを評価し貰えるが、職員の同伴費用は高い。

駆け出しの冒険者は無料で受けられる解体士に依頼するしかないのであった。


「はい、大丈夫です!」

「はーい!じゃあマジックバッグをお預かりしますねぇ~。...はい、受付番号になりますっ!魔物の量はどの程度ですか~?」

待っていたのは10代の男性冒険者。その後方にいる3人の男女は彼のパーティメンバーだろう。

受付の男性は腰に剣を装備していて、後ろにいる金髪の男性は大きな盾、赤い髪の毛の女性は大きな杖、プラチナシルバーの髪の女性は杖を持っていた。


男性から受け取ったマジックバッグを受け取った理沙は『1』と書かれた札を渡した。


マジックバッグとは、容量以上にものが入る、空間魔法が付与されたバッグのことである。

ギルドから販売されている、決められた時間が経過すると消滅するという使い切りのバッグのため、バッグというよりはレジ袋のようなものといった方が正確なのかもしれない。


「えっと、ゴブリンとジャイアントフロッグ、それとアイアンタートルが一体ずつです。」

「はーい!ゴブリンはお金になるような部位が無いので~、こちらで討伐実績だけつけさせていただきますね~!次からは討伐証明部位である右耳だけあれば十分ですよ~!」

ゴブリンのように金になる部位が存在しない魔物は、討伐したことを示す部位さえ持ってくればポイントの加算対象となる。


「あっ、そうなんですね...ゴブリンを倒したのは初めてなので...。」

「いいえ~!気にしないでください~!では、大体1時間くらいで終わると思いますので~、それ以降にまた来てください~!」

理沙は若い冒険者達にお辞儀をして、作業場へと戻った。


「ん~、中くらいのサイズでいいかなぁ~」

『中』と書かれた棚から革で作られた大きなシートを取り出すと、おもむろに地面に広げる。

そして先ほど冒険者から受け取ったマジックバッグに手を突っ込むと、中の魔物の死体をシートの上に丁寧に置いた。


「ゴブリンは~。体のいたるところに切り傷と殴打の痕...やっぱりレックスさんとは違うんだなぁ~。」

マジックバッグから最初に取り出したのはゴブリン。

初心者冒険者ということもあって、致命傷にならないダメージを何度も与えた痕が数多く刻まれていた。

理沙は以前ベテラン冒険者のレックスが持ってきたゴブリンの死体を思い出した。

レックスは剣と盾で戦うオーソドックスな戦士であり、彼の倒したゴブリンが頭と体が綺麗に分断されていたことからレックスは戦いというものに相当手慣れていることを理沙はその時理解した。


「ジャイアントフロッグは...あちゃ~。真っ黒けっけに焦げちゃってる。皮からは毒が取れたのになぁ~。あの杖を持ってた子がやったのかなぁ?この焦げ具合から一撃っぽい~。」

次に取り出したのはジャイアントフロッグ。

上部の皮膚が炭化していることから、素材としての価値は著しく下がっている。

無事なのは足くらいだろうか、理沙はむちむちっとした立派な後ろ足を見て、口元から涎が垂れそうになるのを我慢した。


「でもお肉はすっごい美味しそう!私なら~...翔ちゃんのおつまみ用の唐揚げと~、わたちゃん用の塩分0ハンバーグと~、私の大好物の紫蘇挟み天ぷらかなぁ~。....じゅるり。」

つい仕事の手を止め目の前の食材の調理方法を妄想する理沙。

先ほど我慢した涎も、そこまで妄想しては抑えることができなかったようだ。


「はっ、...いけない、続き続き!....えーっと、アイアンタートルは...おー!でっかい!」

最後に取り出したのは、鉄の甲羅で覆われているアイアンタートル。

大人数人がかりで何とか持ち上がる程の重さだったが、この世界で怪力の才能に目覚めた理沙にとっては発泡スチロールと大差が無かった。


理沙は以前解体したアイアンタートルに比べ、倍ほどの大きさであることに驚きの声を上げた。


「すごーい!でもコレどうやって倒したんだろう?外傷がないけど...。」

鉄鉱石をエサとし、甲羅に鉄分を蓄えるアイアンタートルは討伐することが難しい。

動きは遅いが気性が荒く、防御力も高いため、殻に閉じこもる前に頭を潰すか、甲羅ごと粉砕する程の強大な力で止めを指す必要があるのだが、このアイアンタートルには外傷が見当たらなかった。


「よーし、じゃあ解体していきますかぁ~!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「すいませーん!」

理沙がゴブリン、ジャイアントフロッグ、アイアンタートルの解体を終え、次の解体に移っていると、受付から呼び声がかかった。

解体の手を止め、パタパタと受付まで走っていくと、1番の番号札を持った青年が立っていた。


「お待ちしてました~!1番のマジックバッグは....こちらになります~!」

解体後のお金になる素材を入れたマジックバッグを青年に渡し、討伐実績を記入した魔法紙を受付に置いた。


「それでは、パーティの冒険者カードをこの上においてくださいっ!」

「はい!」

青年が取り出した冒険者カードには4人分の名前とパーティ名、冒険者ポイントが記されていた。

それを討伐実績を記入した魔法紙の上に置くと、青白くカードが光出す。


「...うわぁ!ポイントが一気に30も!!」

「おいマジかよ!!...流石に貰いすぎじゃね?」

「え~、アタシの実力のお陰でしょ?」

「身の丈に合うでしょうか....。何かの間違いでは?」

ポイントが加算された冒険者カードを見た青年が驚きの声を上げると、後ろで待機していたパーティのメンバーが一斉にこっちにやってきた。

どうやら彼らが予想していたよりもはるかに高い値だったようだ。

それもそのはず、彼らが以前別の街で魔物の解体を依頼した時は今回よりも多くの魔物を狩ったにもかかわらず、10ポイントしか評価してもらえなかったからだ。


「解体のお姉さん、詳細を教えていただけますか?どこを評価してもらえたのでしょうか....。」

青年は自信なさげに理沙へと問いかける。

パーティメンバーも解体士が若い女性でどこか不振に思っているようだった。



「はい、まずゴブリンですが~...止めを刺すまでに何度も攻撃が必要となった形跡がありましたので~、こちらは1ポイントです~。」

「カロル~言われてんぞ~。」

「人型の魔物は初めてだったんだってば!!」

大きな盾を持つ男性がカロルと呼ばれた青年を小突きながら笑う。

どうやら彼は動物型の魔物との戦闘経験はあったものの、人型の魔物とは戦ったことが無いようだった。

.....では日本という平和な国からやってきた理沙が、淡々とゴブリンを解体できたのはなぜなのだろうか、....こう見えて彼女の闇は深い.....のかもしれない。


「つぎにジャイアントフロッグですが~、黒焦げで取れる素材は少なくなってはいますが~、この大きさのジャイアントフロッグを一撃で仕留めるほどの高火力な魔法をお持ちであればもっともっと強い魔物にも対抗ができると判断しましたので~、10ポイントです~!...ひゃ!」

「きゃ~!やったぁあ!お姉さんありがとう!!私の事認めてくれて!!」

ポイントを告げた瞬間、赤髪の魔法使いっぽい女性が理沙の両手を握った。

理沙は突然のことで驚きの声を漏らしてしまうが、嬉しそうに喜ぶ女性をみて笑みがこぼれた。


「....ってことはリースが仕留めたアイアンタートルが19ポイントか!!!」

「はい!アイアンタートルに目立った(・・・・)外傷は無く、また内部の損傷も『一部』のみだったので素材としても、手際としても言うこと無しでした~!おめでとうございます~!」

「....。ではお姉さま、目立っていない外傷から、私達がどういった方法で敵を倒したのかわかりますか?」

理沙がアイアンタートルの説明をした途端、プラチナホワイトの髪をした修道女風の女性が理沙の目の前にやってきてまっすぐ見つめて来る。

理沙は(なんでそんなことを聞いてくるんだろう?)と疑問に思いながらも修道女風の女性...リースへ答えた。


「えと、自信はないんですけど~、甲羅に小さな傷跡が二つあったのと、その傷跡の延長線上にアイアンタートルの心臓部があったので~、何かしらの衝撃を内部に与えて、こう....クロスしたところにダメージを与えたのかなぁ...ってひゃわあ!」

理沙が自信なさげに答えた瞬間、リースは理沙の手を取って強く握りしめた。


「お姉さま!!その慧眼、恐れ入りました!!....まさか私の聖十字撃(セイクリッドクロスインパクト)の原理を理解してくださるなんて!!!!!」

「????...せいくりっど....??」

ギルド中に響き渡るリースの声、頭の上にクエスチョンマークを浮かべる理沙。

理沙は日本の医療系のドラマでたまたま知った、レーザーを2点から当てて丁度交差する部分の腫瘍を焼き切るという技術を思い浮かべて、何となく(そうだったりして~)くらいの気持ちで答えた。

しかしそれがまさかのドンピシャ。


実はこのリースという女性、こう見えて神聖拳闘士という光魔法と格闘を駆使して戦うインファイターであり、自分で創り出した技に誇りを持っている。

そして頭もよく『敵を壊すにはまず体の構造を学ぶ』というモットーから魔物の体を熟知していた。

だがパーティメンバーには誰も理解してもらえず、『なんかリースが凄い技で敵を倒した』としか思われていない。


つまり、高い知能で開発した技を理解してくれる人というのはリースにとってまさに『自分を認めてくれる唯一の人』、テンション爆上がりである。

「私はリースと言います!お姉さま、お名前をお聞きしても!?!?」

「理沙って言います~。雨宮が家名で理沙です~。」

なんだか賑やかなひとだなぁ~と思いながら答える理沙と、興奮しすぎてもはやキスでもしてしまうのではないであろうかと思われるほどに顔を寄せるリース。


「リースの技を理解するなんて...やるわね解体士の人....。」

「リースのこんな姿初めて見た...。」

「お、おぉ...誰だこれ...。」

パーティメンバーは少し引き気味だ。


こうして理沙は初心者冒険者の一人にいたく気に入られ、半ストーカー気味に付きまとわれることとなった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「リサ...さっきはどうした....。」

午前の仕事が終わり、ブラッドボアの端肉から作ったまかないの豚丼をもしゃもしゃと食べていると、ギーダリヤが理沙へと話しかけてきた。

恐らくリース達と騒いでいたことをギーダリヤは聞いているようだ。


「あ~、えっとリースちゃん...朝に解体を引き受けた冒険者の人が私の仕事に喜んでくれたみたいで~!」

リースにはあの後、雨宮家の場所を聞き出された。


理沙は翔と付き合って翔の家庭事情を知ってから、認めてもらえない辛さと、認めてもらえる嬉しさを人一倍知っていた。

だからこそ、自分がリースの『嬉しさ』になれた事が嬉しくて、これからも仲良くしたいと家の場所を教えたのであった。


「そうか....。ふ....その調子だ。」

「はい~!」

普段笑わないギーダリヤの口元が緩んだのを理沙は見逃さなかった。

ギーダリヤもまた、自分の事を認めてくれているんだ。と気が付いた理沙の口元もにへらっと緩む。


上司も客も自分を認めてくれる、(自分で作った)まかないも美味しい、いろんなお肉を解体できる。

理沙はこの生活にとても満足していた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ひゃああああああ!おっきいいいいいい!」

午後になってギーダリヤがアイテムボックス(特大)から取り出したのは、今朝話に上がっていたワイバーン。

....の一部、羽と尻尾である。


とはいえ、それだけでこの作業場を9割は埋め尽くしている事実に驚愕する理沙。


「床で....作業...リサ...翼...。」

「はい~っ!」

理沙はギーダリヤが手入れを行った青白く光るナイフ....ミスリルナイフを手にして翼へと近付いた。


「(まずは皮を剥いで、筋肉をそぎ落として、最後に骨を分割...。)」

ワイバーンのような竜種は普通の生物と違い、魔竜骨という特殊な骨を持つ。

その骨に魔力を流すと反重力を発生させることができ、大きな巨体をもつ場合でも自由に空を飛ぶことができる。

この魔竜骨を砕いて素材に混ぜるだけで、竜種程ではないがある程度の体重を軽減できるため、当然高値で取引される。


「ぴっぴっぴ~♪」

慣れた手つきでワイバーンの皮に切れ込みを入れ、脂肪分と皮を剥離していく理沙。

この時に脂肪分をなるべく皮に残さないようにすると、革職人に素材を渡す時に喜ばれる。

とはいえ、翼に脂肪分はあまりついていないため、さほど難しい作業ではなかった。


「竜の油って濃厚で美味しいんだっけ~.....ゴクリ。」

理沙は手についた脂肪分を見て思わず唾をのんだ。


「(竜の油でラーメンとか作ったら絶対おいしそうだなぁ...でも骨から出汁なんてとったらラーメン浮いちゃったりして~)ふふっ」

またもや食に関する妄想をしながら、次の作業に移る。

次は肉と骨を分ける作業。

翼の根元には大きな筋肉がついているが、今回理沙が解体しているのは筋肉があまりついていない場所だった。

ほぼ骨な分、逆に難しいその作業を地道にこなしながら理沙は考える。


「(手羽先だよね~これって...ちみちみ解体するんじゃなくて、いっそのこと丸ごと揚げてお肉をはむはむ食べたほうが楽だし美味しいのになぁ~。)....じゅる....。」

脂肪分を見ればラーメン、翼を見れば手羽先。

人一倍食いしん坊な理沙は解体中いつもこんなことばかり考えている。


骨の周りの肉をそぎ落としていくと、段々と骨が見えてくる。

その骨を見た理沙は驚いて声を上げた。


「わぁ...骨にみえない...。」

それもそのはず、普通であれば白い骨が綺麗な銀色に輝いていたからだ。

理沙は朝に呼んだ図鑑を思い出す。

『竜種の多くは鉱物を好んで食べる。食べた鉱物は体内で分解され、鱗を持つ有鱗類は鱗に、鱗を持たない無鱗類は骨を形成する栄養となる。』

つまりこのワイバーンは、同じく鉄を食すアイアンタートルの甲羅のように、骨が金属になっていたのだった。


カンカン

「わ、ほんとに金属だぁ...。これを切った人ってすごいなぁ~。」

ナイフの柄部分で軽く骨を叩くと、金属特有の高い音がした。

こんな硬い骨を持つワイバーンの翼を切断したのはものすごい強い冒険者なんだなぁ~、と見知らぬ冒険者に一方的な尊敬をしていると、後ろから声がかかる。


「...リサ、ワイバーン、切ったの...俺...。」

「えぇ!!!ギーさんすごい!!」パチパチパチ

普段世間話をあまりしないギーダリヤが、わざわざ理沙を呼んで、自慢げな表情でそう告げた。

理沙はギーダリヤが自慢してきたことと、その強さに驚いて盛大に拍手をする。


しかしギーダリヤはすぐに背を向けて、ボソボソと続きを話した。


「ごめん....冗談....。」

「え~!なんですかぁ~もう!信じたのにぃ~!」

ぷりぷりと理沙が怒ると、ギーダリヤは何事もなかったかのように黙々と作業を再開した。


「(そういえばギ―さんの冗談初めて聞いたかも~。....ギーさん耳が赤くなってる~!)」

背中を向けて作業するギーダリヤの耳が赤くなっているの確認した理沙は、ギーダリヤも世間話を振ってくれるようになったことに胸が温かくなった。


「(やっぱりこの職場は最高だなぁ~)」

その後、理沙は帰りにそぎ落としたワイバーン肉を持って帰れないか交渉をしたのであった。


ちなみに持って帰ることには成功したのだが、骨周りの肉は鉄の匂いが強くてあまり美味しくなかったそうな。


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