雨宮夫婦の家族事情
異世界の夜は地球に比べ、とても静かだ。
地球のような娯楽も少なく、夜中まで起きているのは朝まで飲み明かす冒険者やドワーフ達だけだろう。
翔たちの住む、ほぼ住宅の地区では、外から聞こえるのは虫の声とフクロウの声だけ。
そんな静かな夜、雨宮家からはピンク色な空気が漂っていた。
「ね~、翔ちゃん....。私ちょっと甘えたい気分だなぁ...。」
翔がいつも通りベッドに入り、今日あったことを理沙と話していると、突然理沙が手を握り体を押し付けるようにすり寄ってきた。
風呂上がりのトリートメントのいい匂い、いつもよりも紅潮した頬。
翔の眼には理沙がどうしようもなく魅力的に移った。
翔は異世界に来てから実に2回目の、そういった気分の理沙を目の当たりにして心臓の鼓動がドクンドクンと大きくなっているのを感じた。
「理沙...。」
理沙のやわらかい髪の毛をそっと撫で、翔は顔を近づけ...。
「わんわんわんわん!」(ねー何してんのー!わたもー!!)
「わぷっ」
「ひゃあ!」
....ようとしたとたん、爆睡していたわたこが2人の気配を感じて、飛びついてきた。
べろんべろんとわたこに顔をなめられた理沙と翔は、先ほどまでのピンク色な雰囲気が一気に覚めていった。
「わははは!わた、やめろってぇ~!」
「わたちゃああん!もう~!!」
尻尾をぶんぶん振りながら翔と理沙の間に入り込み、体をぐりぐりとベッドに押し付けて喜びを表現するわたこ。
2人はわたこのお腹を撫でまくり、わたこのテンションはバク上がり。
結局、夜中にもかかわらず、2人は遅くまでわたこと遊ぶことになった。
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次の日の朝.....。
「ふあああああ.....。理沙、ほい、カフェオレ...。わたこはちゅーるな~」
目をこすりながらコップと小皿に水を入れ、才能を駆使してカフェオレと犬用のペースト状のおやつへと変える翔。
翔の才能は物質を別の物質に置換する能力。
自分用にはブラックなコーヒーを用意していた。
「あいがと~...翔ちゃ...目玉焼きとソーセージやいたよぉ....ふあああ....。わたちゃんはいつものフードねぇ~・」
理沙も翔と同じく、目をこすりながら2人分の朝食とわたこのドッグフードを用意した。
「わふ!わふ!」(いただきまあーす!!)
「「いただきます~....ぐぅ...。」」
夜中まで遊んでいたというのにわたこは元気いっぱいだ。
翔と理沙は眠さのあまり、朝食に手をつけながら目を閉じていた。
ぴんぽーん
「「はっ!」」
そんな状態の中、家のインターホンが鳴り響く。
その音で2人は目を覚まし、理沙がとたとたとインターホンまで歩いて行った。
「は~い」
『こんにちは、リュシアです。ちょっとご相談がありまして、今大丈夫ですか?』
訪れたのは翔たちにとって異世界で初めて友達になった宮廷魔術師のリュシア。
彼女と雨宮家の不幸な偶然により、この家はこの世界に転移した。
その後、女神の口添えによりリュシアは雨宮家が異世界で暮らすための全面的なサポートをしてきたのだった。
そんなリュシアはいつも通り、とんがり帽子に大きなローブを羽織っている。
「リュシアちゃん~!どうも~!着替えるからちょっと待ってねぇ。」
「リュシアちゃん?あ、俺らパジャマか....。」
理沙がインターホン越しにリュシアと話しているのを聞いて、翔も自分の格好に気が付いた。
朝食をそのままにし、脱衣所で二人は普段着に着替えると、玄関へと歩いて行った。
「ごめんね~、今起きたばっかで~。」
「リュシアちゃんいらっしゃい~。」
リュシアは玄関から出てきた2人を見て、一瞬固まった。
2人は服こそ普段着に着替えてはいるが、髪の毛はぼさぼさ、目はほぼ閉じたまま、理沙の言う通り寝起き感が満載の見た目だったのだ。
「あっ、いきなりごめんなさい、出直してきたほうがいいですか??」
「いいよいいよ~!入って~!」
「ごめんね~、夜中ずっとわたこと遊んでて...。」
翔たちはリュシアを家の中に招き入れ、リビングへと案内した。
「わふわふわふ」(今日もおいしい!おいしい!おいしい!)
リビングには背の低いテーブルの上におかれたお皿に頭を突っ込んで、ガッツガッツと朝食を食べるわたこがいた。
わたこはまだリュシアが来たことに気が付いていないようだ。
「わたこさん...もお食事中でしたか、ほんといきなりでごめんなさい。」
「いいのいいの!ほら座って!リュシアちゃんが好きなオレンジジュースもあるよ!」
以前リュシアが家に遊びに来た時に気に入っていた、オレンジジュースを才能で生成した翔は、テーブルの上にコップを置いてリュシアに座るよう促した。
「オレンジジュースっ!...ごちそうになります。」
「リュシアちゃんはかわいいなぁ~」
オレンジジュースにつられて席に着いたリュシアは座ってすぐにコップを手に取り、ごくごく、と一気に飲み干していく。
飲みながら理沙に言われた言葉に対して(私だって20歳になるのに...。)と子供扱いされていることが少し気になっていた。
「それで、今日はどうしたの~?」
「えっとですね...。」
リュシアはコップをコトンとテーブルに置き、朝食に夢中になっているわたこの方をちらりと見た。
「きゅうーん、きゅーん」ペロペロペロ(あれ、もうなくなっちゃった、やだやだやだやだ~)
朝食を全て食べ終えたわたこは、空になった容器をぺろぺろとなめまわしている。
どうやらドッグフードのかけらを全てなめとっているようだ。
わたこ自身、稼ぎがあるというのにこの食いしん坊っぷり。
実はこの世界に来て自分で収入を得るようになったわたこは、地球にいた頃よりも5キロほど太った。
運動量は増えたがそれをはるかに上回るほどの間食をしているのだ。
そのせいでわたこは今、理沙にダイエットするようにいわれている。
「わたこ....。」
「そう、今日来た用事とは、わたこさんに関するお話なんです。」
「きゅーんきゅ...わん!!」(え~ん、もっと食べたいよぉ....あれ!リュシアちゃん!!)
よだれをぽたぽたとたらしながら、リュシアに気が付いたわたこが近寄ってくる。
「わたちゃんお口ふくよ~」
「もがもがもが」
理沙がリュシアに近づくわたこを素早い動きで止め、タオルでごしごしとよだれをふき取る。
反抗せずにおとなしく口を吹かれるわたこのほうを向いてリュシアは話し出した。
「わたこさん、以前...もう半年位前になるでしょうか。あなたの才能は全属性に適性があることだと伝えたと思います。でも、どうやら違う可能性が出てきまして。」
「わふぅ?」(ちがうの?)
理沙から解放されたわたこは、リュシアの話を聞いて首をわずかに傾げた。
わたこはこの世界に来た時...つまり半年以上も前、リュシアの水晶玉の魔道具で魔法適性を調べられた時、全属性に適性があることが分かった。
それからリュシアが文献を調べ、全属性適正の才能を持った過去の人間と水晶玉の反応が同じだということで、わたこの才能も全属性適正だと伝えたのだった。
「ええ、あれからショウさんの才能を調べていた時に、わたこさんの結果により類似している結果を出している人が、過去にいたんです。」
翔の才能は異世界に来てから半年がたとうとしている今になっても、詳細が完全にわかっていない。
個体、液体、気体をそれぞれ同じ形状の別のものに置き換えるという翔の異質な才能。
長いこの世界の歴史でも、同じ才能を持っていた人はいない。
そんな翔の才能を少しでも解き明かそうと、リュシアは日々書物を読み漁っているのだった。
「わたは全属性適性じゃないってこと?....じゃあ全属性に適性があるのは才能に頼らないわた自身の才能!?マジ!?」
翔はリュシアの言葉が信じられず、つい聞き返してしまう。
わたこの才能、全属性適正は全ての魔法を使いこなすことができる魔法。
もし才能が違うものだとすれば、わたこ自信が持つ、文字通りの『才能』ということになる。
「マジです。わたこさんの数々の魔法を見ていくうちに、ただの適性では説明できないような点がありまして...」
「...あー、あの時か。」
「あの時だねぇ~....。」
翔と理沙が庭を遠い目で見つめる。
「あっ...あの、その節は....。」
「きゅぅぅん....。」(ごっ、ごめんってばぁ....。)
リュシアとわたこが申し訳なさそうに二人に頭を下げた。
それもそのはず、リュシアの言う『わたこさんの数々の魔法』を見た機会とは、およそ1か月前に酔っぱらったリュシアと遊びたがりのわたこが庭で繰り広げた魔法の勝負だった。
芝生で生い茂り、花壇には花が咲き、大きな木が植わっていた庭は、2人の勝負のせいで買い取り手のない荒れ果てた土地と見間違うほどにすべてを破壊した。
2人の頑張り(償い)によって今ではすっかり元通りだが、モノを壊すのではなく直す方向に慣れていなかった二人が完全に庭を修復するのには丸2日かかった。
「冗談冗談!もう二度としないなら平気だって!......もう二度としないなら。」
「二度目はないよ~?」
翔と理沙の、特に理沙の発言に思わずブルブルっと身を震わせる2人、この恐怖を忘れない限り2人が庭を破壊することは二度とないだろう。
忘れない限りは。
「えっと...で、ですねぇ...。そのわたこさんの才能を確定するためにもわたこさんには私の研究室に2日程来ていただきたいんです。」
その空気に耐えられなくなったリュシアは、強引に本題へと話を戻した。
「...うん、いいんじゃないか?もしかしたら全属性耐性なんかよりももっとすごい才能かもしれないしな!わた、リュシアちゃんとお泊り、お利口にできるか??」
翔はわたこの可能性を素直に喜んだ。
以前の翔であればここで落ち込んでいただろう。
しかしガゼダに作ってもらった鎧を着て出勤し、銃をもって迷い込んできた魔物を撃退しているうちにだんだんと自信がついてきていたのだった。
「...わふ?」(お泊り?お泊りかぁ~)
「わたちゃん、お泊りしたことないよね~?お利口にできるかなぁ~?」
わたこは外泊をしたことがない。
日本にいた頃よりもはるかに知能が発達し、言語を理解し人と会話ができる。
そんなすごい犬でもまだ2歳直前の子供、どこに行くにも翔たちと一緒に暮らしてきたわたこは、寂しさ半分楽しさ半分といった心境だった。
「まぁ、わたは一人でトイレもできるしただの犬じゃないから心配はないけど...寂しがりだもんなー。」
「くぅん...。」(しょうとりさがいないの寂しい...。)
「わ、私と寝ましょう!!お散歩も行きますし、おいしいご飯も出しますよ!」
実は前からわたこのことを抱いて寝てみたいと思っていたリュシアは、食いしん坊なわたこを食べ物で釣った。
「わん、わんわん!」(じゃあいく!ごはん!ごはん!)
釣れた。
雨宮家は定期的にリュシアの研究室に遊びに行っていた。
その時に出された料理のおいしさをわたこは知っていたのだ。
「食に目がないやつ...。」
「わたちゃんたらも~!」
寂しいのは翔と理沙も同じだったが、この時ばかりはある欲求が優先された。
「じゃあ、2日だけいいでしょうか?」
「「もちろん」~」
愛欲である。
2人は昨夜わたこによって営みを妨害された。
大好きな家族とはいえ、たまには二人きりになりたいときもあるのだ。
「それではわたこさん、よろしくお願いしますね!...あ、お仕事とかもありますよね?どうしましょう?...あとトイレとか?」
「あ、職場には伝えて奥から大丈夫!」
「トイレも~、わたちゃん空間魔法ですましちゃうもんね~!」
その言葉を聞いてリュシアがピキっと固まった。
「空間魔法...?わたこさんできるんですか?」
「わん!」(できるよ~!リュシアちゃんが前使ってたの見たし~!ほら!『開けゴマ』!)
わたこはリュシアの問いかけに答えた後、しっぽをぺしっ!と地面にたたきつけた。
尻尾が地面に触れた瞬間、床にひびが入り、サッカーボール大の空間の裂け目ができる。
「ほんとに空間魔法...トイレのためだけに....?」
「人間用のトイレ行かせるにも形状が違うじゃん?だからリュシアちゃんの空間魔法ならどうかなってわたに伝えたらすぐ出来たんだよなー。よっ天才!」
「すぴすぴ」(へへへ~)
わたこは自慢げに鼻を動かして応えながら、尻尾で床をひと撫でして空間魔法を解除した。
出すもしまうもお手の物である。
ちなみに、実際にトイレをした後は水魔法と風魔法を使っておしりのお尻の汚れを落とすという、犬にしては綺麗好きすぎる事をやってのけている。
飼い主にとって、ありがたい魔法の使いこなし方なのだ。
「本当に調べがいがありますね...わたこさん、今使えるすべての魔法を見せてもらいますからね!」
「わん!」(その分ごはんもたくさん頂戴ね~~~!)
「...わたちゃん?今よりも500g以上太ってたらだめだからね~?」
ダイエット中だというにもかかわらず、リュシアに食べ物を大量に要求するわたこをみて、理沙が釘を刺した。
「!!きゅーんきゅーん...。」(わわ、わかってるもん...。)
「~~!」
垂れた耳をさらに下げてばつの悪そうな顔をするわたこの前にしゃがみこんで視線を合わせるリュシア。
わたこの頬を両手でぐりぐりと撫で始めた。
撫で欲が抑えきれなかったようだ。
「わたこさ~~~ん!その分おいしいものを食べさせてあげますからね!ショウさん、リサさん。わたこさんの才能について、絶対に何か手がかりを見つけてみせますね!」
「「よろしく!」」
翔たちのほうを向いてガッツポーズをするリュシアに対して、理沙と翔は元気いっぱいに応えた。
彼らの脳内では欲望が渦巻いているのだが、そんなことになっているとはわたこもリュシアも夢にも思わないだろう。
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「わたこさん、では参りましょう!」
「わん!」(行ってきまーす!)
庭でわたこにまたがったリュシアが、テンション高めで天にこぶしを掲げる。
彼女はもう子供ではない....のだが、その小柄な体系と幼い顔つきのせいで、ただでさえ子供っぽいというのにわたこの背に乗る姿は完全に子供。
理沙と翔はその姿を見て、わたこは未来の自分たちの子供のいいお姉さんになりそうだなぁ、と激しくうなずいていた。
リュシアの掛け声でわたこがその場でジャンプした。
空中でシャカシャカと四本足をバタつかせ、足先から魔法を発動。
すると飛び上がったわたこは宙に浮いたまま地面には降りてこず、そのままリュシアを載せて王城の方へと飛んで行った。
下から見ると、わたこの足はすさまじいスピードで動いているためぶれて目視ができない。
なんともへっぽこな飛び姿である。
「気をつけろよ~!」
「...行ったね~...。」
理沙と腕を組んで空に消えていく雲のようなわたこを見つめる翔。
2人の間に微妙な空気が流れる。
「なっ、なんか汗かいちゃったな~!ちょっと朝風呂でもしてこようかなぁ~!」
わざとらしく会話を切り出したのは翔だった。
組んでいた腕を外し、家の中に入ろうとした翔に理沙が声をかける。
「ふふ、ねぇ、翔ちゃん。」
「な、なんだよ。」
その思春期の子供のような反応を見せる翔がどうしようもなく愛しく感じた理沙。
翔は呼ばれてまだ庭にいる理沙のほうを振り向くが、その色気のある表情に思わずドキッとしてしまう。
「一緒にお風呂、はいろ?」
髪を耳にかけながら、庭と家という高低差を使って上目遣いから繰り出されるコンボに翔の顔はみるみる紅潮していった。
「...先入ってる!」
「は~い♪」
この後、2人はわたこに邪魔されない2人きりの時間を楽しんだ。
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~その二日後~
「あ、あの~。わたちゃんをお返しに着ました~...。」
「うぉん!」(ただいま~!)
リュシアが釣れてきたわたこは、見事に1.5倍程度まで大きくなっていた。
「............翔ちゃん、体重計。」
「はっ、はい!」
「!!!!!きゃんきゃん!」(やだやだやだー!!)どてどて
理沙の殺気を感じたわたこは庭を駆け回って理沙と翔の手から逃げたが、お腹が邪魔でうまく走れず、逃げ出して早々に転んでしまう。
結局、9キロも体重を増やしてしまった事が発覚して、わたことリュシアは正座をさせられて理沙にこってりと絞られた。
短期間で9キロも増えたのは、マナを多く含んだ魔物の肉を与えて魔法にどう影響があるかを検証した結果だったのだが、その肉がわたこに気に入られたのが問題だった。
リュシアも最初は止めたが、わたこの泣き落としに負けて大漁に食べさせてしまったのである。
「リュシアちゃん~~!あれほど言ったのに何で食べさせちゃうんですか~!もう!500gって言ったのに9キロ!9キロだよ~!」
「ハイ....。」
「わたちゃんも、お願いすればなんでももらえるって思ってるでしょ~!かわいいからって何しても許されるわけじゃないんだよ~!」
「くぅん...。」(ハイ.....。)
説教を受け続けた1人と1匹はだんだん姿勢が前のめりになり、土下座のような姿勢へと移り変わっていく。
「きゅーん...。」(しょう~.....。)
「ショウさぁん....。」
「わた、リュシアちゃん、あきらめろ...今回はお前達が悪い...。」
理沙の横でその光景を見ている翔に向けて、リュシアと翔はうるうると涙を眼に溜めて助けを求めた。
しかし、翔に助けを求めても無駄、なぜならここで庇ってしまうと翔が理沙に怒られるからだ。
「わたちゃん!反省してないでしょ!」
「くぅ~~~~~~~~~~~~ん」(許してよ~~~~~~~~~)
「ご、ごめんなさぁああああああい!!」
その後も、理沙の説教は数時間は続いた。
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~???~
ここは異世界でも地球でも、宇宙のどこでもない、どこかの空間。
そこにたたずむ巨大な鳥居と巨大な社、それ以外の場所はすべて真っ白な空間。
広い社の中は、まるでライブ会場のような空間が広がっているその中心部には一人の少女が畳の上で寝そべっていた。
「あぁ、腹が立つ」
この世のものとは思えないほどに美しい和服を来た黒髪の少女。
額から伸びる小さな2本の赤い角は彼女が人間ではないことを表していた。
「このままされっ放しも癪じゃのぅ」
そういいながら、彼女は怒りをあらわにしていない。
それどころかリラックス仕切っているような体勢で四角い箱を指でいじっていた。
「.....はー、また負けたのじゃ...。」
少女は手に持っていた四角い箱をポーンと近くの座布団に投げ、大の字で社の天井を眺め出した。
彼女は何を思って天井を見ているのか、その四角い箱は何なのか、それは誰にもわからない。
「!?」
突如、体を飛び起こして周囲をきょろきょろと見まわす少女。
その顔はとても焦っている。どうやらただ事ではなさそうだ。
「....この気配...儂の眷属...いや、あの鳥女の気配も感じる....?」
彼女は数秒程その場で立ち止まった後、先ほど放り出した四角い箱を袖の中へとしまった。
「これは...確かめる必要がありそうじゃな....。」
そういって社の外へと少女は歩いて行った。
一体何が起きるというのだろうか、この少女はいったい誰なのか。
それは今はまだ、誰にもわからない....。