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番外編その2:理沙の過去

今から26年前、理沙はとある田舎で生まれた。


母親も父親も当時20歳、若くして理沙を生んだ両親は、通っていた大学を働きだした。

その間の理沙の世話は母方の祖父母に任せられ、両親も母方の実家で暮らすようになった。


「理沙ぁ、これがなぁうめぇんだ。食ってみろ。」

「うまうま~!」

母の実家が山の中にあったこともあり、好奇心旺盛な理沙はよく猟師である祖父の後をついて、仕留めた動物の解体作業をよく見ていた。


幼いころからある種の英才教育を受けてきた理沙は、血や死に対して免疫がついて行ったのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~理沙:3歳~

母親が2人目の子を出産した。

理沙と名付けられた娘を見た理沙は妹ができたことを喜んだ。


しかし、理沙の母親は昔から体が弱く、二人目の出産で体調を崩し、免疫力が低下していたところに病気にかかってしまい、命を落としてしまう。


「理沙....千紗...あなた....。ごめんね...。」


そして悲劇はそれだけではなかった。

愛する妻を失い、職も安定していないというのに子供2人だけが残されたという現実に恐怖した父親は、妻を亡くしたその日を境に姿を消してしまう。


「あの屑....!儂の銃で殺してやる....!」

「本当に、同じ人間とは思えないね...!!!」

「まま、山に帰っちゃった~。ぱぱどこ~?」

残された理沙は、不気味なほどに母親の死をすんなりと受け入れ、涙一つ流すことはなかった。

それを見た祖父母は現実を受け入れていないのだと解釈し、理沙を抱きしめ代わりに涙を流した。


「....あんなやつのことは忘れろ。理沙、千紗、儂らがお前を育ててやる...!」

「2人とも...安心してね...。」

「じーじ、ばーば、どしたの~?」

「あ~う~」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~理沙:13歳、千紗:10歳~

「っしょ....っしょと...。」

「皮下脂肪もできるだけ一緒にとるんだぞ~。」

「キモイ~~!理沙ねぇよくそんなことできるねー.....。うげぇ」

祖父の仕留めたイノシシの解体を手伝う理沙、それを遠巻きから千紗は眺めていた。

両親がいなくなってから10年、中学生となった理沙は相変わらず祖父の仕事を手伝い、解体の作法を学ぶほどまでになった。

理沙はオシャレにあまり興味がなく、服装も動きやすさを追求しているものだった。

しかし、その自分を飾らないのが逆に好感が持てると学校では密かに恋心を抱く男子がいるのを彼女は知らない。

一方で千紗は、小学4年生ながら小学生モデルとして雑誌に載るほどのかわいらしさとオシャレさを手に入れていた。


対照的な姉妹はその人懐っこさとすぐに人と打ち解けてしまうコミュニケーション能力で、老人からも若者からも広く気に入られている。


「じーじ!早く帰ってばーばに焼いてもらお~!」

「お肉お肉!千紗もはやくたべた~い!」

食欲においては姉妹よく似ているようだ。


「待て待て、これを荷台に乗せるのがこれまた一苦労でな....。」

理沙によって綺麗に解体された肉と皮と骨と臓物をそれぞれ袋に入れ、ひとつづつゆっくりと荷台に積んでいく祖父。


「じーじごめんねぇ、私がもーーーっと怪力だったらよかったのにぃ~。」

「げ~、止めてよ、ムキムキな理沙ねぇとかみたくなーい」

「そら、これで最...後っと!よし、2人とも乗った乗った!」

祖父が運転席に乗り、エンジンを欠けると理沙と千紗は解体済みのイノシシがのった荷台へと飛び乗った。


「くっさ~い!じーじ飛ばして~!!」

「千紗ちゃん~!イノシシさんに失礼だよ~!これからおいしくいただくんだから~!」

理沙は幼いながらに死とはただの弱肉強食であると考えている。

そこに恨みも憎しみもない。

食べるために殺す、殺したら食べる。


それゆえに母親が死んだとき理沙は疑問に思った。

母の命と引き換えにして千紗が生まれたのなら、何故千紗は母を食さなかったのだろうか、と。

今では母の胎内で母から栄養を食べていた、と納得しているらしいが、女子中学生の考えとしては恐ろしくドライである。


つまり、祖父の仕留める野生動物も同じく、祖父が強者だから死ぬのだ。

強者として命を奪った以上、糧となる弱者に敬意を持って接しなければならない。

理沙の場合その経緯が食すという行為だった。




「こんな量、老人2人と子供2人じゃ食べきれないだろうに...」

「じゃ、なぁ...。理沙、千紗、ご近所さんに声をかけてきてくれ。」

家で待っていた祖母はそのイノシシの肉の量を見て頭を抱えた。

冷凍庫には一昨日仕留めた鹿の肉がまだ残っているというのに、通常よりも大きいサイズのイノシシの肉が新たに加わるのだ。


「やった~!宴会だ~!!」

「マジ!?ミクちーとかなちーも呼んでいい!?」

「おう、よべよべ!」

「ちょっとあんた!!!誰が準備すると思ってるんだい!....たく...。こうなったら自棄だよ!あんたはバーベキューセット一式を庭に何セットか用意しな!!」

急遽始まった大規模BBQ、実に今月2回目である。

こうした人と人との関わりも、田舎ならではの出来事なのであった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~理沙:22歳、千紗:19歳~

「本当に行くんだね、寂しくなるよ....。」

「年を取ると涙腺が脆くなるもんだな...。」

大学在学中に都内で内定を貰った理沙は、大学卒業のタイミングで都内に引っ越す事となった。

当初理沙も千紗も、祖父母が心配で地元で職を探そうとしていたが、2人にもっと広い世界を見てほしいと願う祖父母の説得により、都内に行くことが決まった。


一方で千紗は中高でモデルの仕事をこなし、演劇の腕も磨いていた実績が認められ、都内の芸能事務所の推薦状を手にしている。

理沙に併せて引っ越す事を決めていたため、高校卒業後の1年間は演劇のグループに入りその腕を磨いていた。


「じーじ、ばあば今までありがとう~!まったね~!」

「ヒッ....じ..じぃ...ヒック....ばあ....ばぁ.....ヒッ.....うぇええええええええ!!」

理沙は相変わらずドライ、千紗は新幹線の時間ギリギリまで祖父母に抱き着いて離れることはなかった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~理沙:23歳、千紗:20歳~

都内に引っ越してきてから1年が経過し、理沙が仕事に慣れてきた頃、出会いは突然に起きた。


その日理沙は休みで、特に予定がなかったため、近所の動物園に一人で来ていた。


目的はもちろん動物を見ること。


「カンガルーかわいい~!」じゅるり

(!?!?!?)

付け加えると、『食べたらどんな感じなのかを想像しながら』動物を見ること。

理沙はフードコーナーでフランクフルトとホットドッグを買い、両手に持ちながら動物園を回った。


そんな時、オオカミが展示されている檻の前のベンチで、一人でぼーっとしている男性を見かけた。


(わ、わ、どうしよう、好みかもぉ~。)

普段色恋沙汰にあまり興味のない理沙だったが、ちゃんと男性の好みはあった。

幼いころから祖父にいろんな事を教わり、なんでもできた理沙はよく人に頼られて生きてきた。

人に必要とされる事に喜びを感じるようになった理沙は、学校でも率先してほかの人に手を焼いた。

いじめられている男子をいじめっ子の手から救ったこともある。

しかし、女子に助けられることは恥ずかしい事、と考える男子が多い事もあり、その時は男子からお礼をいわれることなく逃げられてしまったのだ。


そんなことがつもりにつもり、理沙はいつしか自分が何でもしてあげられるような男の人が現れないかと心待ちにしていた。

悪く言えばヒモ製造機である。


そんな理沙の前に現れたのはまさにドストライクの男性。

整った顔立ちに、無造作にセットされた髪型。

そして虚ろなまなざしでオオカミをみるその雰囲気は、放っておいたら檻の中に飛び込んでしまいそうな危うさ。

そして破棄のなさそうな表情。


その全てが理沙の心臓を高鳴らせた。


田舎でも、仕事でも、今まで幾度となくいろんな男性に自分から話しかけてきた。

もちろん恋愛とは無関係な理由で、だったのだが、今目の前の男性にはとても話しかけられない。

話しかける事を想像するだけで心臓が高鳴り、頬が紅潮する。


(~~~~っ!千紗ちゃああん!助けて~~!)

両手にジャンクフードを持ちながら、一旦その場から離れた理沙は、千紗に連絡をすることにした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

理沙:千紗ちゃん!お仕事中ごめん!!

千紗:ん~?理沙ねぇから連絡なんて珍しいね~。どしたの?

理沙:今動物園にきてるんだけど

千紗:うん

理沙:すっごい好みの人が一人でいるの

千紗:は!?ちょっ!!!嘘!!!!

千紗:本当に理沙ねぇ?本当に?

理沙:うん

千紗:おっけ、ちょっと待って、Bluetoothイヤホンで通話かけて。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「つ、つうわ~??」

理沙は耳にイヤホンをはめて電話をかけた。


『理沙ねぇ?イヤホンが見えないように髪の毛で隠してその男の人に話しかけて、あたしが指示するから。』

「ええぇ~~~!ちょ、ちょっと待って、...もごもご」

ホットドッグとフランクフルトを一気に口に入れて急いで咀嚼し、水筒に入ったお茶で一気に流し込もうとした。

しかし、理沙も今から自分から男性に話しかけるという一世一代の大勝負に出ることに緊張しているのか、、普段ならすぐに食べきってしまう量の食料が、なかなか喉を通らない。


「んっっく」

何とか胃に流し込んで口を拭い、バッグのポケットからリップを取り出す。

普段リップを塗りなおしたりしない理沙も、この時ばかりは身なりを気にした。


「よ、よし。いいいいいいいよ~。」

『理沙ねぇ落ち着いて、今どんな感じなの?カメラONにして鞄かなんかにスマホしまって見えるようにして?』

「えっ、と、盗撮だよそんなの~」

『いいから!』

千紗の押しに負け、スマホをカメラ部分だけバッグから出るようにしまう理沙。

内心ドキドキである。


『よし、じゃあ突撃だ理沙ねぇ!自然に、自然に話しかけてみて』

「う~~~、わかったぁ~....。」

髪の毛を手櫛で整え、ベンチに座る男性の元へと歩いていく。

一歩一歩の足取りがとても重い、こんなに緊張するのは初めて何じゃないか、と理沙は自分の高鳴る鼓動を感ながらゆっくりと前に進んだ。


「あ、あのぉ~。オオカミ、好きなんですかぁ~?」

『うーん、まぁ及第点。』

千紗の実況が少しばかり理沙を楽にした。

まるで横で見てくれているような...実際にカメラ越しに見ているため間違ってはいないのだが。


「え?...あぁ。犬は好きだよ。」『うわ、死にそうな顔...でもめっちゃイケメンじゃん、やるね理沙ねぇ』

突然話しかけられた男性は、一瞬理沙を見て固まったが、特に軽快することなく理沙に応えた。

千紗のコメントを無視して理沙は会話を何とか続けようととりあえず愛想笑いを浮かべた。


「えへ、ワンちゃん、かわいいですもんねぇ~......。『そのまま続けて』...動物園はよく来るんですか~?」

当たり障りの無い会話を繰り広げたとたん、千紗の指示が入る。

理沙は千紗の指令を受けて、なんとか話を広げようと動物園に1人で来ているかを聞き出そうとした。


「今日が初めてかな....はぁ.....俺って、趣味も何もなくて、仕事以外何すればよくわからないんだよね。とりあえず動物園に来てみたけど、楽しさがわからないんだよ...。」

そう、この男性は両親から解放され、仕事に明け暮れていた翔。

翔は今まで親に全てを管理され、『育成』されてきたせいで、趣味というものがなんなのかよくわからなくなっていた。

職場に同僚はいるものの、話す内容はいつも流行りに関する事。

授業や勉強、色恋沙汰の話しかしなかった学生時代とは違い、流行りも何も知らない翔が溶け込むのには少々難があった。


「!」キュン

『マジか...理沙ねぇ、止めときなって、絶対ヤバい奴だよ。』

ため息をつきながらそんな暗い話をし始めた翔の横顔に、思わずキュンとしてしまう理沙。

おそらくこの男性は趣味はおろか、心の底から楽しいと思えた事が無いのだろう、と直感で感じてしまう。

もはや千紗の言葉は頭に入らない。


すぐにでもこの男性を連れまわし、いろんな事を教えてあげたい。

世の中には楽しいことが沢山あると教えてあげたい。


そんなことを考え出してしまった理沙は、衝動的に動き出していた。


「私が!!」

「へぇっ?」

理沙は翔の手を取り、両手で包み込んだ。

今までモテていたとはいえ、女性と付き合った経験が無い翔は突然握られた手をみて驚いた。


「私が教えてあげます!楽しいこと!!」

「え、あ、ちょ」

『理沙ねぇ!?』

翔の目の前にしゃがみこんだ理沙は、まっすぐと翔の眼を見て宣言した。

鞄のポケットに入ったスマホ越しに見ている千紗には、もはや声しか聞こえない。

何が起きているのかがまったく理解ができない千紗を無視して、理沙は翔の手を引っ張った。


「まずはオオカミです!ほら、もっと近寄って~!!」

「わ、わかった....。」

理沙に手を引かれた翔は、されるがまま理沙についてオオカミの檻に近づいた。

高校の時にも押しの強い女子から迫られたことはあったが、ここまでではなかった。

当時恋愛も禁止されていた翔は、どんな女性に告白されても優しく、相手を傷つけずに断ってきた。

断る理由も無い今、翔は女性から好意的に見られた時、どんな対応をすればいいのか全く分から無かったのだ。


「こんなに大きなわんちゃん、見たことありますか~?ないでしょう~!あのおっきな爪と牙、人間が襲われたらひとたまりも無いでしょう~!がぶー!で、ぎゃー!ですよ!」

「ふっ...。」

『少しあざといけど...理沙ねぇはこれが素だもんなぁ....。』

理沙のオーバーな身振り手振りと、ポップに聞こえて割かし残虐な内容のギャップに思わず翔は噴き出す。


「ちなみに....。」

「...?」

理沙は人差し指を立てて翔に顔を近づけた。

話に夢中だからか、羞恥心が麻痺してしまった理沙ははたから見るとごりっごりの肉食系女子である。


「イヌ科の動物は筋張っててあんまりおいしくないみたいです~!」



「おいし...え?なんて?」

『ちょ、理沙ねぇ、初対面の相手にそれはないわ...。最初の会話思い出してみなよ...。』

「へ?」

今理沙が何を口にしたのか、理解できなかった翔は聞き返した。

翔の反応と千紗の発言から、今自分が言った言葉の何が悪かったのかをよくよく考えた。


(えっと...オオカミ好きなのか~って聞いて、犬は好きって言われて~....。あ....。)

そこまで考えて、理沙の頬を冷や汗がつつつっと滑り落ちていく。

翔は犬が好きだといったのに、犬は筋張ってておいしくない...?

理沙は自分の発言が完全にサイコパスのそれであることを理解した。


理沙自身、犬は大好きであり、食べたいだなんて思ったことはない。

ただ、以前見た『食の歴史』という本に書いてあった知識を教えたかっただけだった。


「あ....え...えと、その!これは違くて~!わんちゃんじゃなくて~オオカミの昔本で~~!」

もはや焦りすぎて自分が何を言っているのかよくわかっていない理沙。

そんな理沙をみて、以外にも翔は笑みを浮かべた。


「あはは、本かなんかの知識ってこと?いきなり変なこと言うから何かと思ったよ。君は動物のこと詳しいんだね。」

「あ、あはは~....。昔から山で...。」

『ストップ!!!』

そこまで言って千紗の声が理沙の耳を貫いた。

理沙をよく知る千紗はこの後の発言をなんとなく理解していた。


『理沙ねぇ、じーじの狩りを手伝ってたなんて言ったら絶対引かれるから!!!!』

「....山が好きで~!!イノシシとか、鹿とか食...大好きなんです~!」

せっかく軌道修正したのに、『食べるのが好き』と言いかけてしまう理沙。

翔はそれを聞いて、鹿もイノシシも食べるのが好きなんだろうなぁ、と理沙の本心を見抜いていた。

というのも、理沙が話しかけようと迷っていた時、翔はそれに気が付いていた。

自分の周りをうろうろする、フランクフルトとホットドッグを両手に持つ女性。目立たないわけがない。

必死に食いしん坊であることを隠そうとする理沙が、なんだか無償にかわいらしく見えてきた翔は、意を決して自分からあることを提案することにした。


「あの、もしよかったら俺と一緒に動物園を回ってくれない?」

「へっ、あっ、あ、もちろん!!!」

『....もう大丈夫そうだね、あとはガンバ~。』

まさか向こうから誘われるとは思わなかったのか理沙は挙動不審になりながらも翔の提案に応えた。


(千紗ちゃんも通話切っちゃったし、二人っきりで動物園って....デートってこと~~~~!?)

(この子となら動物園も楽しめそうだな。)


その後翔と理沙は連絡先を交換し、徐々に仲を深めていったのだった...。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「....なんかショウさんキャラ違いません!?なんで陰のあるいい男風なんですか!?」

酒の回ってきたリュシアが、理沙と翔の話を聞いて納得がいかなそうにそう叫んだ。


「いや~、俺にもあったって訳よ、そういう時代が。」

「翔ちゃんあれからだいぶ変わったよね~!」

照れくさそうにしている翔の腕に理沙は手をまわし、身を寄せた。

酒が入っているからか、リュシアの目の前でも雨宮夫婦はいちゃつきだした。

20歳=彼氏いない歴のリュシアにとって、目の前で繰り広げられるリア充行動は目の毒だった。


「くぅ....私だって~~~~!」

ジョッキに入ったサングリア(翔の才能産)を一気に飲み干し、ダン!と勢いよくジョッキを机に置くと、ジャイアントフロッグのジャーキーを噛んでいたわたこが、リュシアの元へやってきて膝の上に顎を乗せた。


「くぅん。」(りゅしあちゃん元気だして~...。)

「~~~~!わたこさん~~~!独身女性同士、頑張りましょうね~~~~!!!」

いまだにイチャイチャし合う雨宮夫妻を放置して、リュシアはわたこの頭部に顔をうずめてこねくり回した。

リュシアはわたこの事を自分と同じ、出会いのない女子同士だと思っているが、実際は少し違った。

実はわたこにはいい感じになっている相手がいる。

その相手とは、冒険者でにぎわう第5地区の一角にたたずむ魔物使いギルド、そのギルドマスターの使役している『コクライ』と呼ばれているライトニングウルフだ。


しかし、わたこはそのことを伝えない。

賢い彼女は『(つがい)』候補がいないことをリュシアが悩んでいると知っているからだ。


なんとも賢い犬である。


「そういえば、わたこさんは前にいた世界での記憶ってあるんですか??」

わたこに顔をうずめることで精神を保っていたリュシアは、唐突にわたこの過去についての疑問が浮かんだ。

わたこはこの世界に来てから知能が格段に上がった、であれば生まれたばかりの赤ん坊のように、知能が付く前の記憶を持たないのではないか、という疑問だ。


「...わふ」(んとね....一応あるよ。)

わたこは自分の過去を思い出しながら、ゆっくりとリュシアに語りだした。


....のだが...。


「わふ~。」(なんかね~気が付いたらもうしょうとりさが居てね~、お手をしたり回ったりしたらおやつがもらえたんだよ!)

「....なるほど?」

まったく内容のないわたこの話に首をかしげるリュシア。

理解できないまま話は続く。


「わんわんわふ~」(んでねぇ、最初はもっと小さいおうちに住んでたけどねぇ、車に乗ってこの家に来たんだよ!)

「....翔さん、理沙さん、いちゃついてるところ申し訳ないですけど、わたこさんが家族になったときのこと教えてもらってもいいですか...?」

「い、いちゃついてねーし!...わたがうちに来た日かぁ~~....。懐かしいなぁ~」

翔は酒の回った状態でゆっくりと話し始めた。

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