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壊れた果実

その男、世の中を生きるツワモノなり






「う〜ん・・・・」


鉄格子を廊下側に見せるお部屋の三畳間に、眼鏡を掛けた50代の男性が正座をして考えている。 痩せた長身のインテリ然とした物腰柔らかそうな男性である。


ココは共同生活のコミュニティーであり。 強面の方々や、一筋縄では行かない方々と交流の出来る所であるらしい。 “禁固”と云うノンフリーダムサービスと、“懲役”と云うカリキュラムの組まれた方と二種類が、この施設に一緒で暮らしている。 


「はて、私はどうして此処に入る事になったのだろうか・・・・。 審判の居る頭脳スポーツに負けたが・・・。 理由は・・・なんだろう?」


自分を此処に送り出してくれた人々は、公的機関の収容施設から移動する時にこう励ましてくれたのが目に残る。


“お前みたいな悪魔は出てくるなっ!!!”


“死ねばいいのに”


“しっかり反省しなさいっ!!!!”


“金返せっ!!!!”


数々の送る言葉に彩られ、彼はこの寒い少し雪が降る場所に送られたのである。


彼の名前は、虚言癖 真実(ほらふき まじめ)。 嘘でもなんでもない。 本名である。

ただ、この本名を知る人は少ない。 この鉄格子のあるお部屋を見守る方々の間では、真実氏(真実だけだと解り難いので、“氏”をつけます)の事は有名で。


“1000の偽名を持つ男”


と、有名だ。


しかし、真実氏はそれは間違いと此処に来て言う。


“私は偽名など持ってはおりませんよ。 ただ、10000の仇名が在るだけです”


と・・・。


真実氏は、畳の上で正座して考える日々だ。


「う〜ん、何がいけなかったのかな・・・。 あ・・・まさか、お年寄りのセックスレスを解消しようと販売した“年寄りの冷や水”と“八十の手習い”が・・・安すぎて・・・株が暴落したとか?」


6年前、彼が弱虫 悟(いたいけ わかる)名義あなだを変えていたときだ。 不特定少数の背中に彫り物が在る方や、小指が無い方と共にバイ○グラに赤マ○シを入れて150倍に薄めた水と、新たな発想で考案された新体位・四十八手の教本“カモン・スーグイク”をセットで6万円で売りさばいた事があり。 その時は、トカゲの尻尾と名づけられた若者を家捜しに来た公務員に提出してお咎めは受けていない。


真実氏は、更に考えて。


「後は・・・。 あっ!!! 3年前に、チベットのダラ○・ラ○氏の教えをビデオにして売ってしまった事が、道徳的にイケない事だったのか?」


3年前、石頭 硬(わからずや けん)名義あだなを変えていた頃。 インターネットの無料画像からチベットの高僧の画像と麗しい美女の映像を集めて切り張りして編集した映像ディスク“セクシャル・イーヤ〜ン・イン・恥ベット”を発売。 パッケージに凝った御蔭で10万本を超す売り上げを叩き出し。 1本8万円のDVDが完売した。


その時は、“特”に“捜査”の名義を持った方々が土足で事務所に踏み込んで来た。 真実氏は、たまたま外に弁当を買いに行っていて。 コワい方々の連行を免れた訳だ。


真実氏は、戦後間もない赤線と青線の地帯の間に産まれた。 父親は、虚言癖 白人(ほらふき しろと)。 母親は、戦後の混乱期に金で身体を売っていた桃絵ももえと云う女性である。


真実氏の父親は、遊興の博徒であり。 メイクして田舎町に出かけて、無い事をさも有る様に地主に吹き込んで投資させて金を得る御仕事をしていた。 金が入れば、物心着く前から真実を連れて際どい格好の女性の居る宿に泊まる毎日。 真実氏の実家など存在はしなかった。


だが、父親・白人は真実を可愛がったのは事実である。 お金が無ければ、我が子を抱いて東京の人通りの多い通りで物貰いのダシに使い。 子供を亡くした金持ちの未亡人をたらし込む為に真実氏を上手く使った。


かくして、真実氏はお金に苦労しない日々と苦労する日々の極端な生活を生きてきた訳だ。


今・・・彼の歴代の御仕事が、思い出されるのである。


「う〜ん・・・・他に有るかな?」


先週、絞首刑に成った彼の仲間が居る。 一緒に、お年寄りへ安い商品のお勧めをしていたのだが。 悪い虫が仲間を唆し、お金の滞納者に励ましの細則をしてしまったのだ。 そのため、お年寄りが自分を責めてあの世への旅を決意。 その数が、とんでもなくなった為に、殺人罪を適用され。 半年もしないうちに刑死したのだ。


「う〜む・・・惜しい友人を亡くしたな〜・・・」


真実氏は、素直に思う。


刑死した彼との思い出は長い。 あるときは、DVDの裏に塗れば膜を張り傷つきを防ぐと誇らしげな広告を載せて、“傷物なんかにさせませんアナタのDVD!! 安心ヴァージン・フィルム”と云う商品を売った。 これを塗れば、薄い透明の膜が張り。 傷や汚れをガード出来ると謳った商品だが。 中身は、セメダインをシンナーで薄めた物。 二人が初期販売でトンズラした後。 ニュースに取り上げられる程の反響が有った。 だが、一部の別の使い方をする若者には好評だったらしい。


他には、“宮○じどっ○”と云うブランドの鶏肉に対抗して、“宮成みやなり煮モッコ”と云う鳥肉料理をインターネットで販売してみた。 鳥インフルエンザに汚染された肉を、養鶏家の所から上手く宣伝して、処理場を偽って処理料金と共に貰って来た。 そして、夜にこっそりとおすそ分けして頂いて来た里芋と共に、賞味期限が意味を成さなくなった調味料で煮込んだ煮込み料理である。 バレるまでの半年、売り撒くって逃げた。


「う〜ん、お互いに一生懸命だったなあ〜」


他には、大量に捨てられていたマネキンを頂いて。 胸とアソコをリアルにシリコンで再現したダッチなワイフも数百体売れた。


他にも、お金と云う崇高な物質で、自らのお体を披いてくれる女性に、


「この場所にお金を持ってきて・・・私の全て・・・あげるわ・・・」


と、生まれたままの姿でビデオ撮影し売った所。 予想以上の反響が来た。 場所は、吉原の某ビル。 中に入れば、女性が待ち。 お楽しみ頂居ている間に男性からお財布を頂く商売で、予想以上の売り上げを叩き出した。 なにせ、行為はしているだけに、中々公的機関にお届けも出ず。 息の長い商いが出来た訳である。


他には、ネジも部品も足らないブラウン管テレビを額縁に入れて、高画質薄型TV“カッタガ・ソン”は、一週間で捜査員に見つかった。


焼酎のボトルに付いて来るレモン果汁を、ラベルの無いペットボトルに入れた水道水に少量垂らして売った“レモン水・果汁の一滴”は、今もインターネットで売られていたらどうしようか・・・・。 と考える真実氏。


彼は、父親の影響も在ってか、こうゆう事に抵抗を感じる心持は全く無い。 寧ろ、それが自由を本能的に思っている。


今から、10年前。 彼は、ある人物に説教した事がある。 その相手は、人が死のうが殺そうが、こっちの勝手だと言った。


「君は間違っている。 それは違うぞ。 人を殺せば、人一人が死んで、事態が大きくなるし深刻化する。 被害が大きいのと、死人がでるのだと偉い違いになるさ。 大体、騙されてくれる相手を殺すなんて非合理的だ。 利益追求に成ってない。 騙される相手は決まってる、その人口を減らすなんて阿呆だ。 君みたいな人物は、最も無知で、この世界に必要の無い人間だね。 騙す側と騙される側は、共存関係に在ると言っていいのだから」


と、言い返して喝采を浴びた事もある。


後日。


昼間、俗に言う“臭う御飯”を食べた後だ。


「受刑者番号DD1209RT、面会者が来ているぞ。 雑誌の記者だそうだ、面会するか?」


真実氏は、のろりとした面持ちで警備員の男性を見た。


「はあ・・・アポ無しでですか・・・。 解りました」


今まで、真実氏も職業柄で記者とは何度か会った事が有る。 1・2度、夕方のニュース番組で才能(・・)在るアイディアマンとしてモザイクを掛けられた顔で、暗い部屋の中で取材を受けた事もある。 インタヴューの数日後、街頭TVで夕方にその放送を見ていると。 近場に居たサラリーマンの紳士二人が真実氏の姿を見て。


「悪い奴だね〜。 良い死に方しないよ・・・コイツ」


「ですね。 此処まで来ると、悪魔って感じですね」


と、真実氏を絶賛している。


(なんていい人達だ・・・・心打たれた。 今度、新しいアイディアの商品を売ってあげようかな・・・)


その後、この二人のサラリーマンの家は、夜逃げしたとかで売りに出されていたとか・・。


真実氏が、腰に命綱を付けられて連れられて行くと。 面会室に案内された。 透明な窓の向こうには、若い男性が座っている。 やや長い髪は茶色で、服装は黒いジーンズの様な物に白いジャケットを着た中々の女性にモテそうな男性であった。


真実氏が、対面する形で席に座ると。


「どうも、○○社の記者で麻生(あそう)と云います」


「あっそ」


ピタリと止まった二人の顔。


記者の麻生は笑って。


「冗談が上手いですね」


真実氏は顔色も変えずに。


「はあ」


麻生は、手帳を取り出してペンを持つと。


「貴方の有罪と成った事件も含めて、関係者の方々から御協力頂いて取材しています。 お話をお聞かせ願えませんか?」


物腰柔らかく、麻生は言う。


真実氏は、のらりと脇を見て。


「はあ」


と、言葉を置く。


麻生は、真実氏の様子に警戒の目を見せながら。


「ネットの中だけの商品券、ヴァーチャル・ギフト・チケットの事をお聞きしたいんですが。 登録料が1万円、年間会費が5千円。 それで、毎月溜まるチケットで色々と買い物が出来ると云う事ですよね。 しかし、1点を1円で使えるネットの中のチケットが、毎月5万円づつ増えるなんて夢のような話ですが。 こんな詐欺を考えたのは貴方だとお聞きしましたが?」


真実氏は、欠伸をして。


「さ〜ね〜。 そんな事考えたような・・・誰かの言った事の様な・・・。 記憶が曖昧ですな」


麻生は、更に踏み込み。


「貴方は、各県の特産物をこのネットチケットの交換商品に使う為に部下の男性を使って営業させていますよね? 最初に、購入代金の一部を払い、信用させて提供させた。 だが、その後は一部一部づつの手付金を僅かに払っただけで。 いきなりお客からクレームが来たからとごっそり商品を納入させてから手を切った・・・。 これは、間違い無く詐欺ですよね」


真実氏は、上を向いて半目のままに。


「鳥は詳しくありません。 私は、鳥でもありませんしね」


麻生は、上辺の笑みで。


「逃げるのがお上手な鳥さんですよ。 貴方は。 所で・・・儲けた利益はどうして居るんです? 一部の情報からですと、何処かでクリーニングしてるとか・・・。 スイス銀行などに、口座でも在るのではありませんか?」


真実氏は、ピクリとも顔色を変えなかった。 詰まらなそうに、俯いたり、上向いたり。


麻生は、反応が無いのに困る。


「虚言癖さん。 今回の事件では、関わった提供者からは自殺者が出てます。 被害者には、多額の借金を抱えた方も・・・。 貴方、間接的な殺人者と変わりませんよ」


すると、真実氏は薄く笑った。


「それは、言い掛かりですな。 記者とも在ろう方の言葉とは・・・。 フフフ・・・」


麻生は、少しムッとして。


「そうでしょうか・・・。 彼方方の設立した詐欺の商法が無ければ、自殺者も被害者も出なかったと思いますが?」


真実氏は、全く身に覚えが無いと云った表情だ。


「さ〜・・・どうでしょうか・・・。 年間会費と登録料が1万5千円なら。 それ以上買わなければいい話。 提供する側も、登録者の数は解っている訳で、此方のシステムは説明している以上は、その数や支払われている金に見合う品・数を納入すればいい話。 チケットをバカ遣いしたのはお客さんだし、必要以上に納入したのは提供者・・・。 どちらも他人に任せて利用しようとしていたのが、不発に終わっただけの話ですよ。 自分の大切な命を捨てる決定をしたのも他人なら、無駄なまでに借金をして金を振り込んだのもお客さん。 皆さんの勝手な判断で行動した事を、さも悪い事をしているように我々に置き換えるのは止めて貰いたい。 私共は、借金しろとも、限界まで納品しろとも強制した事は在りません」


麻生は、少し目を厳しくさせ。


「全ては、自己責任と?」


「ええ・・・。 自分の大切な財産だ。 自分で責任を持たずして誰が責任を持つと? 我々は、マーケットのフィールドを作ったに過ぎない。 其処で売り買いするのは、お客さんと提供者さんです。 言い掛かりはお止め下さいな」


「ですが、彼方方がフィールドを作った以上。 フィールドを管理する責任は発生いたしますよ。 その事は、商法でもネット関連の法でも明記して在りますが・・・。 現に、詐欺事件と裁判で認められていますし。 多大な責任が在るかと思いますが?」


真実氏は、微笑み。


「それは、了解しておりますよ。 ですが、管理はしっかりしていましたでしょう? 提供者やお客さんがどちらかを騙しただの、脅しただのと云うトラブルは一件も在りませんでした。 フィールド使用者の暴走が、たまたま今回のような事件の引き金に成っただけで。 詐欺も強請りも不正取引も起こってない。 裁判員の方々、裁判官、利用者、マスコミ、世間の方々が過敏に反応しただけですよ。 我々は、責任は果たしていましよ」


麻生は、本気の声で。


「では、何で虚言癖さんは罪に問われたのですか?」


「ふむ・・・」


真実氏は、少し考えてから。


「逆恨みではないでしょうか?」


麻生は、思わず声が出なかった。


「・・・・」


真実氏は、緩やかに続けて。


「人は、勝手に盛り上がり。 それが、“損”と云う不利益の変わると不満を向ける相手を探しますからね。 勝手に熱くなって、借金したり商品を売り捌こうとしたが失敗した・・。 だから、自分の不満を向けて憎む悪役が必要だったのでしょう。 誰も、自分は悪者に成ったりしませんよ。 体のいい矛先の先がこちらに向いただけかと・・・」


麻生は、唖然とした顔で真実氏を見て。


「貴方・・・人の心が無いんですか? 人騙して、平気なんですね」


すると、真実氏は困った笑い顔で。


「私共は、騙す気は在りませんよ。 利用して下さるお客さんを待つだけです。 人の心が無い訳ないでしょう・・・。 キチンと、正義の心も在りますよ。 ま・・・他人様が考える正義かどうかは解りませんがね」


麻生は、更に追及する言葉が無く。 それで辞退した。 


真実氏は、こうして生きている・・・。


彼が、この箱の様な施設を出る日はまだまだ先である。 思い出される回想録はまだまだ続く・・・・かもしれない。




どうも、騎龍です^^


今回は、長編に纏まらないストーリーを此処に集めて行こうと想いフィールドを設けました。 一話完結の物から、思い立った時に考えた小話など掲載して行きます。 更新頻度はまちまちなので、のんびり付き合って頂ければと思います^^


ご愛読、ありがとう御座います^人^

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