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ミクロな世界の女子大生  作者: やまとりさとよ
第二章 ミクロな世界の生き方

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61 細菌とウイルスの心情

とはいえ、最早瀕死というか、三途の川を九割がた渡り切っちゃってるこの私が化け物が放ってくる即死級の魔法をまたさっきまでと同じように避け続けて、分体が侵入した個体に接近できるか、と聞かれるとその答えは否だ。


ぶっちゃけ現実的なことを言っちゃうと、ここまでの戦いで私に蓄積され続けたダメージは、もうテンションで何とかできるレベルじゃない。


もちろん心身ともにね。


{熟練度が一定に達しました。希少スキル「思考大加速 lv.l 6」を獲得しました。}


お。

思考加速のレベルが上がった。

よし。

これで少しとはいえ考えられる時間が伸びたね。

じゃあまずは脳内に侵入してる分体に連絡。

どうも私がルンターになって獲得したゾンビスキルは、洗脳みたいに脳に直接スキルを使って操るって感じじゃなくて、神経に何とかソースを作ってそのまま操るって感じの、いわばラジコンみたいなのと同じようなことをすることができるスキルらしい。


まあ、具体例を挙げるとしたら、昔理科の授業でやった蛙の脊髄に通ってる神経に無理矢理電気信号流してビクンビクンさせるのと同じような原理ってとこだね。


ってことで。筋肉と神経と、一応脳以外の臓器とか脂肪とかは食べて問題はないからそいつらを食って分体を増やして片っ端から私に視覚繋げといて。


{了解。}


これでオケ。

さてさてさーて。

ハーメルンの真似事でも始めましょうか。



思考大加速のレベルも上がったし、これで多少は失ったスピードを補うことができそう。


コォォォォォォォォォォオォォォォォォォォォォ…。


ダッシュ!


シュン…。


オッケー。

スキルのレベルが上がった恩恵で、奴らが光魔法を放つ予備動作というか予備音声みたいなのまで見えるようになってきた。

これで多少は光魔法を避けやすくなったね。

いまだに速度はイエローな猿さん並みの速度だけども。


{熟練度が一定に達しました。希少スキル「予見 lv.l 2」を獲得しました。}


ナイス!

いやはや。

いいことは重なるもんだね。

これは神様までもが私を応援してくれているのでは?


ふう。

頑張れー。

頑張るんだ私。






Feat ウイルス


ウイルスは、焦っていた。

その狂った頭で、必死に考えていた。


事の発端は、腹を空かせたウイルスの前に、不自然に撒き散らされていた、世界最強とされているキャタピラー種の幼体の死骸を見つけたことだった。

ウイルスの中でキャタピラー種というのは、圧倒的な攻撃力に、圧倒的な防御力、その残虐性に、狡猾な戦法、生まれながらにして、食物連鎖の頂点に君臨する存在であった。


それは幼体であるセルロックキャタピラーでも同じことであり、キャタピラー種は、この世界に君臨する暴君のような扱いだったのだ。


話はここで少し変わるが、実はこの世界には、キャタピラー種でさえ一瞬で葬り去る恐ろしい物体が存在した。

それは、白い靄のような、薄白く発光する物体であり、それに触れた生物はみな死んでしまうのであった。


そこに死んでいるキャタピラーも、その物体に触れ、死んだのだろうと、その時のウイルスは考えた。


キャタピラーにかなう生物などいないのだと。

ウイルスはその短絡的に簡略化されたコンパクトな脳で考えた。

それを浅はかというのには、元々そのようなものを持っていなかったウイルスに言うのは酷なことだろう。

更に、ウイルスはその時体力的な面でも消耗していたため、すぐに近づいてしまったウイルスの腹の減りは、そこに漂う残虐的な瘴気を無視するのにもちょうどよかった。


しかし、それでもそれがすべての間違いだった。

食糧のほうに漂うように近づいていけばいくほど、キャタピラーの死骸の有り様は明瞭になっていった。

キャタピラーの全身に刻まれた、まるで数万の刃に切り刻まれたかのような夥しい量の切り傷。

頭部に残る強烈な打撃を食らったような大きなへこみが、それが致命傷になり死んだということが容易に想像できた。


やはりこれは生物のなせる業ではない。

ウイルスがそう確信したとき、悪寒とともに、すさまじい雄たけびが背後から聞こえてきた。


本能的に振り返ると、そこにはバクテリアと呼ばれる鋭い鎌のような刃を何本もある触手の先に持つ、この世界では中位ほどに位置する生物と、ウイルスの同族、そして、新たなキャタピラーが集結していた。


一瞬、何の意味もなく只死を覚悟したウイルスだったが、すぐにこの軍勢が目の前の食糧にしか興味を示していないことを悟り、ほっと一息ついた。


そして慌てて切り替え、これからすぐに始まるであろう食料戦争に巻き込まれないよう、殺された同族の死骸を持ち帰ろうとしたその時。


…極大の悪寒が背筋を走った。

はじかれたように後ろに向き変えると、いつの間に移動してきたのか、最早腹の減りなどでは目を背けることすら許されない凄まじい瘴気を放つ死神が現れていた。


…。


その突然現れた死神から、その場にいた全生命は目を背けることができなかった。

死神は、それこそ先ほど見たキャタピラーと同時にここに来ていたバクテリアと同じような姿をしていたが、その体躯はバクテリアというにはそれこそあまりにも小さく、大きさとしてはウイルスとさして変わらないような体だった。

しかしそれでいて、その小さな体から放たれる威圧は、ウイルスとは到底比べ物にならなかった。

そして、その場にいた全生命は悟ったのである。

これから目の前の食糧の一部に我々は加わるのであろうと。


ウイルスはすぐさま生命の危機を感じ、その場からすぐに逃げようとしたのだが、周りの生物はそうしなかった。


否。

出来なかった。


何故なら、その場にいたすべての生命が同時にみな感じていたからである。

背を向けた瞬間に殺される。

そして、長い長い殺戮の時間が始まったのだった。


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