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ミクロな世界の女子大生  作者: やまとりさとよ
第九章 ミクロな世界の戦争

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騎士の場合

怒涛の13/14連投

近頃、夜の兵舎はうめき声で埋め尽くされている。


戦争が始まって数週間ではあるが、その間の地獄は我々帝国騎士にすら癒えない傷を刻み付けていた。


ここ最近漂っている絶望の気は肉に魂に染みつき、毒の様に正気度を削っている。


帝都民はそれ即ち信徒だ。

貴族の出ともなればその気はより強い。


だが、近頃は、神に祈れども死が自ら怒涛の様に襲いかかってくる。

救いの地はあれど直近の煉獄は信仰心を大幅に削り取っていた。


以前迄であれば、死と救いの均衡は保たれており、救いの手は皆一様に差し伸べられるだけの余裕があるかに見えた。


教会も手厚でその地は信徒に向けて門戸を常に広げていた。


しかし、今や死は日常に隣り合って常に死角でその身に宿る魂を奪い取ろうと虎視眈々と狙っている。


魔王軍は強大かつ狡猾だ。


魔物に備え付けられた自爆魔法。


自爆と言いつつ、それが成功した暁にはその魔物は際限なく復活する。


再利用可能な無限増殖する爆弾が戦場を縦横無尽に駆け巡っている。


どんな依頼であろうともう気を抜くなど許されなかった。


草むらの中に隠れているグリーンラビットが、木の上でこちらを見据えるクロロバードが。


自爆をも厭わず突撃してくるそれは即死魔法となんら変わりない。


認識できない全ての魔物が隠れ潜む死そのものであった。


いかに幼少期から英才教育を施され、アドヴァンダルの教育プログラムを修了した帝国騎士であろうと、その緊張の連続にもう心が限界だった。


日中目が空いている間は空を飛ぶ鳥が、地面を這う虫が爆裂するとも知れぬ中で神経を研ぎ澄ませ、夜間寝る前はこの眠りが熱とともに永遠のものとなる恐怖に身を縮め、夢の中では爆死する戦友の横顔のフラッシュバックに身を悶える。


麻痺することはできる。

だが、戦争が始まって未だ数週間だ。


その期間は慣れるにも癒えるにもあまりに短すぎた。


それを加味しての、今日の飯であったのだろうと思う。


高度に教育された帝国の正規兵の士気ですらこれなのだ。


冒険者や傭兵達のそれは察するに余りある。


帝国の兵站は膨大だ。


各領地からの資材、食料の集積は今のところ滞りなく行われているし、そも帝都だけでもかなりの量を生産している。


だが、このいつ終わるともしれない戦争が続く中でそれがいつまで持つかもわからない。


一般人目線からして明らかにジリ貧であった。


帝都も教会も莫大な資金力と国力はある。


しかし今の世の金や権力の力はやや衰退気味だった。


崖の淵が見え始めていた。


アドヴァンダルの生徒が、未だ15の少年が戦場に駆り出されるほどに。


向かいの二段ベッドで眠るユーリーンの姿が夜闇の中でうっすらと映っている。


アドヴァンダルは名門校だ。


実力や素養が重要視される場所ではあるが、家柄や財産も評価の一端を担っている。


騎士にも引けを取らない動きを昼間は見せていたが、緊張感や切迫感はあまり感じなかった。


帝国は未だ戦場も知らぬ様な子供を駆り出している。


ユーリーンは眠っている。

だが、その眠りが快適なものではないことは暗がりにうっすら見える険しい寝顔から察せられた。


それは兵士たちの呻き声によるものなのか、兵舎に蔓延している苦悩の気によるものなのか、はたまた枕が合わないだけなのか、それを察することはできない。


しかし、デュランはこの様な少年が家元を、学舎を離れた戦場の中で眠らざるを得ない状況に哀れみを覚えた。


学徒をも動員するしかないのか。


睡眠時間はそう長くは取れない。


見張の交代は5時間後だった。


憐れにも思うが、今は我慢してもらうほかない。


帝国からはその有り余る財からたっぷりと報酬が支払われるはずだ。


寝苦しそうに寝返りをうつユーリーンから目を離しかけた時。


ユーリーンの体から緑色のスパークが発されるのを見た。



「なん」


直後、兵舎の天井が轟音と共に落下してきた。

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