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ミクロな世界の女子大生  作者: やまとりさとよ
第九章 ミクロな世界の戦争

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支部長の場合 ②

怒涛の7/14連投

「もう一度言え、アーク。冒協が、何するって?」


一語一語踏み締めるようにエリゼが問い掛ける。


殺意すら感じるその冷たい眼に気圧されつつ、アークは気丈に言葉を返した。


「レベルアップ処理だ。お前の場合は1ランク以上。プラチナにまで上げられる可能性も少なくは無い。魔王城への遠征と帝国周辺の守護がどちらもダイヤ以上の指名だからな、それを加味しての事だろう。」


アークの返答に、エリゼは吐き捨てるように返した。


「偉くなったもんだな。これだから政ってのは嫌いなんだ。」


「再度言うが、今度ばかりは逃げられない。今回の依頼、元は帝国か教会だ。除名処分だけじゃすまねぇ。最悪其処のイカれと同じ処分が下るぞ。」


「みみゅまもむえめもも??」


「大人しく食ってな小娘。」


「みむめー」


アークの視線に反応したミラが何かを発したが、エリゼは肉の山を押し付けてそれを無理やり黙らせた。


「元々こう言うのはリナのが得意だったんだ。アイツを失った帝国の落ち度じゃないか。…大人しくアタシだけに頼ま良かったんだ。」


エリゼの沈み込むような言に、アークはため息をついた。


「依頼元が依頼元だが、相手は魔王軍だ。流石のお前も人類滅亡を是としているわけじゃ無いだろ?」


その言葉に、空になったジョッキを投げ捨てたエリゼが返す。


「バカ言ってんじゃないよ。その仕事は帝国下じゃなくても出来るってんだ。」


「適切な人員に適切な役職が割り振られる予定だ。帝国下の方がより効率が良い。」


「あの帝国様が軍法を理解していると?アタシにはどうもそうは見えないね。弱者の視点がわかってないんだアイツらは。どの作戦も天使による力押しばかりじゃ無いか。」


机を指で叩きながら返すエリゼに、アークは渋い顔で返した。


「冒協も会議には出席する。現場の言葉は上に伝えられる筈だ。」


その言葉を鼻で笑ったエリゼは、かぶりついた骨付き肉をアークに突き出して笑った。


「冒険者上がりのが何処までお上に通じるか見ものだな。冒協は最近教会からの圧力が大きいと聞くが。」


「最善は尽くすさ。」


骨付き肉を押し戻し、アークは絞り出すように言った。



…。



ウェイトレスがジョッキを乗せた盆を持ってやってくる。


空のジョッキと皿を盆いっぱいに乗せて帰っていくその背中を見送った。


酒を呷る。


殆どアルコールのそれが鼻に抜けて行く。


痛烈なそれに喉を焼いた後、空になったジョッキを机に叩きつけた。


酒の量は時を回すごとに増えていった。


ミラは既に意識を失っている。


状態異常耐性があるのでは?


訝しむアークにエリゼは返した。


「切ってんだろうさ。アクティブでも出来ないことはない。今時耐性系を切んのは気狂いだがね。」


ジョッキが回る。


「今なら捕縛できるな。」


「酒の席だ。今は忘れな。」


「そうするとしよう。冒協にそのリソースがあるか分からないしな。」


肉にかぶりつく。


燻製肉だ。厚い皮が歯に裂かれ、ぱり、と乾いた音が響く。


噛み切られた肉の断面から湯気が立ち、燻された香りが鼻を突いた。


「歳だろ。自重しな。」


「お互い様だ。」


エリゼの軽口を気にも留めず骨の根本まで食い進める。


溢れるほどの肉汁が床に新たな染みを作っていった。


と、そこで、店の奥の方から叫び声が混じる喧騒が聞こえてきた。


「喧嘩か?このご時世に元気のある事だな。」


「ただのそれなら良いが…ありゃ一般人か?」


其方を見ようともせず、カラカラ笑いながら言うエリゼだったが、アークのその言に改めて顔を向けた。


詰めているのはひょろっとした風体の青年だ。

対する冒険者数人組は、疲れた顔でそれに応対している。


「痴情のもつれか?…今時?」


冒険者の気質は総じて奔放だ。ある程度までいくと金も有り余っているし、遊びに惚ける者も少なくは無い。


だが、この時勢でそれが発生するのは考えにくかった。


そしてアークは、冒険者に怒っている青年の風貌に見覚えがあった。


「アイツは…兄だ。魔王城前冒険者教会支部受付の。そいつの生存確認はまだ取れてない。」


「なるほど…悲しい事だ。となると…。」


「おい。」


「話に行くだけさね。」


席を立ち、其方に歩いて行くエリゼ。


その間に、喧嘩は白熱していった。


そう呼ぶにはあまりに一方的なそれの中、青年が懐から肉切り包丁を取り出す。


スキルの乗ってないそれでは冒険者の体には傷一つ付かないだろうが、青年は何かを喚きながらそれを冒険者に振り下ろそうとする。


エリゼは既にその後ろに立っていた。


振り上げるその腕を掴んでそのまま投げ飛ばす。


紙切れのように吹っ飛んだ青年は、空席だった席に腰を強かに打ちつけた。


その様を見、興味を失ったように再度酒を呷り出す冒険者パーティ。


やりすぎだ。


アークは青年とエリゼの元に駆けた。


呻きながら、それでも肉切り包丁を離さなかった青年に、エリゼが呟くように言う。


「家族の安否が分からないのは、何もアンタだけじゃない。冒協も最善は尽くしてるんだ。目の前にいるレッドの処理が間に合わないくらいにはね。」


「…う、うるさい!!だから僕は反対だったんだ!職員の安全も守れない冒険者協会なん…か…。」


エリゼの言に包丁を振り回し、その切先をその顔に向けた青年の言葉が途中で止まる。


顔面が徐々に強張り、幽霊でも見たかのような表情に変わっていった。


「リ…リナ・エンバースターク…!!」


青年が弾かれたように酒場のカウンターの方を見る。


酒場とはいえ、冒険者協会の中だ。


カウンターの上の垂れ壁には、歴代のプラチナ級冒険者の顔写真が下がっている。


その中の一つ。


アーグマン・トニーム、レイエナ・カルドウィンなど名だたる伝説の冒険者が連なる中にその顔と名があった。


“再炎” リナ・エンバースターク。


エリゼとほとんど変わらない顔が其処には掲げられていた。

山:アーグマンとかレイエナとかリナとかの名前は一応473話でちょろっと出てたりします。



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