老兵の場合 ③
怒涛の3/14連投
「これは…正しく侵攻というわけか。」
冒険者協会前。
かろうじて形を保っている草むらに飛び込み、先を見る。
目標の建物は、すでに火に飲まれていた。
それなりの防護結界と物理的な塀に囲まれてたはずのそれは易々と突破され、あの荘厳さは今や見る影もない。
熱気だ。
瞳が焼き付くほどのそれと、鼻がひん曲がるような匂い。
人が焼けていた。
いくつかの記憶が脳の奥底から浮上してくるのを抑え、残弾を確認する。
85発。
「正面突破は不得意なんだが…。」
冒険者は、大なり小なりそれなりの耐性がある。
襲撃で生き残ったそいつらが中の生存者を庇って建物から脱出しているのが見える。
とはいえ、敵の数は絶望的だ。
{「土魔法Lv.2」を発動しました。}
{「土魔法Lv.10」を発動しました。}
{「火魔法Lv.2」を発動しました。}
{「炎魔法Lv.2」を発動しました。}
受付を抱えて逃げる奴らの後ろに迫っていた飛竜を撃ち落とす。
空を覆い尽くすほどのそれら。
地上に湧き出てるのは、ゴブリン、オーク、小型竜、魔犬、その他雑魚多数。
こいつらが安全圏まで逃げ切れればいいが、この調子じゃ安全圏がどこになるのか皆目見当がつかない。
この草むらも、快適に過ごせる場所ではないだろう。
クソみたいな依頼だ。まったく。
深呼吸。
草むらから飛び出した。
「!!」
跳躍し、小型竜を蹴り飛ばした。
組み伏せられてたそいつは、目を瞬かせ、アタシの顔をじっと見ていた。
「リn…」
そいつの頭をポカリとはたき、叫んだ。
「足手纏いはさっさと逃げな!!助ける暇は無いんだこっちは!」
「あ…あぁ…すまない、助かった!!」
ヨタつきながら生存者を支えている冒険者の方に走っていく男。
鼻を鳴らして視線を戻す。
小型竜は既に立ち上がっていた。
軋むような鳴き声をあげ、アタシに突進してくる。
{「土魔法Lv.2」を発動しました。}
{「土魔法Lv.10」を発動しました。}
{「火魔法Lv.2」を発動しました。}
{「炎魔法Lv.2」を発動しました。}
飛び掛かろうと跳躍したその腹をぶち抜く。
「Gya!?」
妙な声をあげ、空中で身をひねる竜。
アタシの頭上を通り抜け、後ろで倒れ込む。
ジタバタ暴れ、血を吹き出している。
再度鼻を鳴らし、頭に一発ぶち込んだ。
動かなくなる竜。
次か…。
周囲を見回した時、探知が魔法の起こりを報告した。
!?
ごく近く。
足元。
今打ち込んだ竜の頭で。
咄嗟に身を翻す。
爆裂。
膨大な熱気が背後で膨れ上がる。
爆風に吹き飛ばされ、体が宙に浮く。
防護魔法のかかった外套をより強く全身に巻きつけ、そのまま地面に転がった。
数メートルの回転の末、体が止まる。
「なんだってんだい…」
おそらくは地雷型の魔法。
ランクは3段階、火炎魔法か。
負けた時の保険?
この量の魔物に?
コスパが明らかに悪すぎる。
維持だけで国一つが賄える。
その疑問の答えは、案外すぐに現れた。
先のほうで、冒険者パーティがオークと対峙していた。
なるほどベテランなのだろう。鮮やかな連携で素早くオークの首を落としたそいつらは、勝利を味わう隙なく即座に爆発したオークの炎に飲み込まれた。
警告の暇もなかった。
爆炎が晴れた後、そこに残ったのは焼けこげた冒険者パーティと、首の再生したオーク。
鳥肌がたった。
レベルアップによる完全回復か!!
魔物全員に魔法をかけていたのではない、魔物自身が自身に魔法をかけていたのだ。
全員ではないだろう。
だが、その個体がいるというだけで驚異だ。
これが魔王に使役された魔物か。
{「土魔法Lv.2」を発動しました。}
{「土魔法Lv.10」を発動しました。}
{「火魔法Lv.2」を発動しました。}
{「炎魔法Lv.2」を発動しました。}
黄泉返ったオークを再度冥土に送る。
爆風に吹かれつつスクロールを取り替える。
「あぁ全くクソだな!!」
接近してくる奴らにトリガーを引いた。




