老兵の場合 ①
怒涛の1/14連投
{……ザ…ザ…ザ}
討伐依頼の帰り際、唐突に鑑定が発動した。
ハイ・グリズリーの足を捨て置き、身を翻し木陰に潜む。
{「陰身Lv.10」を発動しました。}
身じろぎをせず、呼吸さえ浅く、木に染み込むようにもたれる。
大樹を背にし、顔を出さず周囲の気を探る。
風すらない。
生き物の気配一つしない世界の中で鑑定の雑音だけが響いている。
少なくとも、アタシの感知内に敵は居ないように思える。
一息つく。
とは言え、スキルは解除しない。
魔王城近郊だ。
探知を突破してくる怪生なぞ百と見てきた。
スタミナは減るが、過去60年初めての状況に気緩めるバカが何処にいる。
森は答えない。
だが、その問いの答えを目の前のステータスボードは持っているようだ。
腰のホルスターから丸めたスクロールを取り出す。
今回の依頼は大した敵じゃなかった。
依頼難度から夜鍋して作ったスクロールが無駄になっちまったと思ったが、どうやら虫の知らせは正しかったらしい。
ステータスボードのノイズが消え、唐突に闇を映し出す。
一瞬壊れたかと思ったが、よく見れば後ろに赤い蝋燭がチラチラと揺れている。
どうやらそれは何処ぞの空間を映し出しているようだった。
周囲の状況に気を配りつつ、それを見る。
瞬きの狭間だった。
空間が切り取られたかのように、ソレは空間の中に座っていた。
ちんちくりんの小娘。
支部長の孫娘と同じ位の歳の女が能面のような顔でこちらをじっと見る。
覇気はない。
ない…が。
女は画面外から何やら棒のようなものを取り出すと、画面下に机があるのだろう、それを下に固定する。
伏目でそれを更にいじると、ステータスボードから骨を切るような雑音が発された。
女がそれを2度叩く。
同時に同様の雑音が流れる。
顔が上がった。
画面の中のそれと目が合った。
{私達魔王軍は、これより人類への侵攻を開始する。…諸君らはせいぜい抗うが良いさ。}
…思ったよりも若い。
子供の声だ。
15、6か。
ギルドの新人受付みたいな声で告げられたのは、魔王軍による宣戦布告だった。
「なんだってんだい」
愛機に手が伸びる。
{あなたた…お前らは、創世以降溜め込み続けた罪を精算する必要がある。理不尽かつ唐突な通告ではあるけど、これは不可避かつ絶対。}
緩やかに走り出す心臓とは無関係に、子娘が言葉を連ねる。
{暴力による解決は円満の見込みを断つのは知ってるけど、端からそんな意思はない。これを最後に、今後一切の通知も意思疎通も行われない。私達はお前らを必ず殺す。軍を敷こうと、家に閉じ籠ろうと、森を焼いて空を焼いて街を焼いて徹底的に滅ぼす。人族の寿命は今日尽きる。}
なるほど。魔王か。
はじめ、魔族のお偉いさんの娘かなんかが喋ってるのかと思ったが、違うらしい。
その体に宿る魂が小娘のそれじゃない。
悪魔が小娘の皮を被って喋っていると考えた方が分かりやすい。
口調も声色も乳臭いが、その裏に底知れない深淵がある。
威圧ではない。
得体の知れなさだ。根源的恐怖に近しい。
{我が力を見せるだとか、狭間の闇に脅えろとかそんなちゃちいことは言わない。恨みだとか、殺意だとかそういう次元の話でもない。私らは、人類を滅ぼすまで止まらない。戦って、戦って、戦って、戦って、せいぜい明日の自分を現世に繋ぎ止めるために自らを抱いて眠れ。
…これより魔王軍は、人類への侵攻を開始する。}
その言葉を最後にウィンドウが掻き消える。
発言を整理する間もなく、地を揺るがすような轟音が全身を通り抜けた。
北西、魔王城の方向に、赤い発光が見えた。
同時に埋め尽くされつつある空。
帷のように見えるそれは、蠢く群体のようだった。
「敵襲か!」
{「身体超強化Lv.3」を発動しました。}
全身にエネルギーが行き渡る。
感覚が鋭敏になり、薄ぼけた世界に光が宿る。
魔王城に駆け出す。
{ババァ!聞こえるか!}
翔ける中、念話を受信する。
支部長の声だ。
敵襲だね?
アタシの返答に、首肯の気配と共にじじいの返答が返ってくる。
{魔王城前の冒険者協会が魔物の攻撃を受けた!お前が一番近い、非戦闘員と生存者の保護を頼む!}
魔王関連かい?
{帝国は声明を出してねぇ、だが、状況は火を見るより明らかだ。}
ため息を吐く。
念話を切断し、速度を上げる。
発言即実行というわけか。帝国の政治家よりよっぽど有能だ!
ア:三連休最終日なんですよ。
山:1日って後3000時間くらい欲しくない?




