Code.8 (15)
{「獄地魔法」が発動しました。}
{「獄地魔法」が発動しました。}
{「獄地魔法」が発動しました。}
{「獄地魔法」が発動しました。}
{「獄地魔法」が発動しました。}
{「獄地魔法」が発動しました。}
{「獄地魔法」が発動しました。}
{「獄地魔法」が発動しました。}
{「獄地魔法」が発動しました。}
{「獄地魔法」が発動し…
玄関から入るにつれ、家が順々に組み立てられて行く。
足の付く先から基礎が生え、フローリングが生成される。
建築が追いすがるようにして、私の動線を先回りしながら構築されていく。
廊下が伸び、天井が乗り、照明が宙から吊り下げられ、すでに通った後ろでは壁紙の色が定着し始めている。
曲がり角をひとつ折れると、階段が一段、虚無に向けて伸びていた。
不恰好な段差と手すりに手をつけると、私の意思に反応して木材が道の先を作り上げる。
ノリとしては完全に某雪の女王。
歌いながら駆け上がりはしないけどそれなりに楽しい。
増え切った階段を上り切ると、最後の一歩で踊り場が生まれた。
私の部屋はもうそこにあった。
他の部屋が如何とかは特段関係なしに躊躇なく戸を開ける。
部屋の中は、すべて整っていた。
窓もカーテンも本棚も、机の上のペン立てでさえ、いつもの位置。コードの抜かれた扇風機が、ゆっくりと動きを止めた。
気だるげな冷房が、さっきまで外だったこの場所を静かに室内に作り替えている。
椅子を引き、腰を下ろして一息つく。
何の気なしに机に手を置いた瞬間、家の奥の方で鳴ったゴキブリホ◯ホ◯の設置音がこの家の完成を告げた。
ペン立てに突っ込まれたボールペンを一本抜き取る。
ノックを数度カチカチ鳴らした後、それを空中にブッ刺した。
途端、空に発生したボクセルな切れ込みがボールペンを飲み込み、次いで二十一種類の幾何学が浮かび上がった。
フライパンで物理結界をぶっ壊そうとも、演出のための雷魔法はこの家の魔法結界を貫通できない。
Code.9の過剰なエネルギーも、Code.6の吸収効果も、同等の権能とそれなりのリソースが割かれたこれに手を出すことはできなかった。
3次元的に展開され、複数のスキルと魔術が重なり合った幾何学形がそれの周囲を回っている。
精密機器の如き魔法陣の中心に置かれたそれ。
直径は1mくらい。
半透明の金色の輪郭が何層にも重なり、中心から外周へ向かって、無数の細い光の筋が放射状に走っている。
神経網、あるいは回路基板。
それは機械の理に似て、だけど明らかに異質な知性によって構築されている。
外縁には幾何学的な記号が浮かび、常に回転しながら変容していく。
周期性を保ちつつも、不定期に揺れる輪郭が生きているかのような不規則さを孕んでいる。
中心には渦巻く光核があり、絶えず脈動していた。
その拍動と共に放出されるエネルギーは伝播される信号の如く神経網を伝って全体に流れている。
平面的にみるとデス・◯ターの断面図みたいなこいつは、創造の権能そのものだった。
女神様が随分昔に私に与えたCode.8。
そのとき私のステータスに刻まれた術式を書き出したのがこれというわけ。
いや、『そのとき』っていうとちょっと違うか。
実際に見てたわけじゃないから、具体的なところはわからないけど、魔王になったとき渡されたCode.8の術式は、今よりもっと小さくて単純だった。
効果は今とまったく変わらない、獄閻魔法のリソースの踏み倒しだとか、詳細設定だとかだったんだけど。
実のところ私は、Code.8をその権能全体の1%も使えていない。
考えてみれば当たり前のことだ。
そもそもCode.ってのは全宇宙を管理する女神様の権能。
いうまでもなく宇宙は膨大で、そんな中の木端も木端な地球一つを管理するのにCode.全ての権能を100%も使う必要はない。
それに、今回は現地民(私)に管理をさせる以上、いくらSPを無理やり増やさせようが、天の川銀河全体に供給されるエネルギーの、太陽系全体に供給される分の、地球の分の、生命体の分の、人間の分の、私に設定された分のエネルギーに耐えうる器しかないようじゃ、無理がある。
紙コップをいくら装飾して増築しても、海の水を丸ごとぶち込んだら大元が破れて終わりなわけで。
そんなわけで、私に与えられたCode.8は紙コップでも耐えられるように、海の水をコップ一杯すくって、蒸留して、濾過して、殺菌して、水素を抜いて空気にする、くらいの配慮がされてる。
つまりは、極限にまで簡易化された創造の権能が、今の「Code.8」な訳だ。
そしてその制限は、1000年間にわたり膨大なSPを溜め込んだ今の私を持ってしても全く解除されない。
確かに、一番初め、魔王をはじめて60年目くらいに成功したCode.8の書き出しの時と比べれば、4回りくらい大きくなってるけど、私が使える権能自体に変化は全くない。
今使える獄閻魔法の踏み倒しとスキルの詳細設定とかは私に最初に刻まれた分、この1mの術式の中の中心付近、バスケットボール一個分くらいの権能でしかなくて、残りはこっからさらに拡張されて得られる権能への接続点でしかないんだと思う。
Code.8の本体がどこまでの大きさになるのかはわからないけど、一つ言えるのは、私がこれからやりたい事は今のCode.8の権能だけじゃ成し得ないってこと。
Code.8のスキルツリーをもっと増やしていかなくちゃいけない。
勝算はある。
今度始める人魔対戦、使う崩壊パックの行使元は私、というか魔王だ。
女神様の案じゃ人類が死ぬ事で行くエネルギーとか経験値は軒並みシステムで相殺させる予定っぽいけど、その行く先を決定するのは魔王だ。
SPが足りてない。
人魔対戦で崩壊パック関係なしに殺戮する私の魔物達がどれくらいSPを集められるのかわからない。
もし足りなければ、そのときは後先を考えるべきじゃない。




