347 レスバ
超絶怒涛の3/10連投
「すまないが、それでも俺はCode.5を貴女に返すわけには行かない。少なくとも今はまだ。」
妃奈に苦笑いで目を逸らされた後、再度石田を詰めようとしたところで増井がそれを遮ってきた。
視線を移す。
防ぎ損ねたのか、体のあちこちに飛び散ったインクの跡、辛うじて顔は守れたのか、痩せこけた頬に浮き出た目が私をまっすぐに見据えていた。
あー
目ぇ澄みすぎ。
石田も大概だけど、こいつも大概頑固だよなぁ。
「石田はCode.5を完璧には取り出せない。」
「承知の上です。」
「たとえその選択が、私との完全な敵対を意味するものであっても?」
「覚悟はできています。」
「…。」
多少圧を加えてみたけど、増井は一切動じなかった。
意思カッチカチやで。
めんどくせぇ。
ここでことを構えることは、できない。
今の体じゃ石田達の認識以前に増井を絶命させることはできないし、そもそもCode.5の簒奪付与を貫通できる保証もない。
妃奈ならワンチャンいけるけど、その場合は即戦争勃発だし。
本体を連れてこようにも、エネルギー過剰になりかねない。
対Code.6の時みたいな閉鎖された空間ならまだしも、ここは帝都。
来る時に何となく見た感じ、明らかエネルギー溜まりのど真ん中。
人間が住んでなかったら、いや、ちょっと住んでたくらいじゃ結構簡単にダンジョンができかねないくらいのエネルギー濃度の場所。
臨界ギリギリのこの場所で本体なんてきたらあぶれたエネルギーだけで簡単にダンジョンが生成される。
それは避けたい。
先の戦争の主役は人間なわけだし。
帝都の民は大事な人的資材なわけで。
ここで無駄に減らすわけにはいかない。
特に何も考えずに殴り込んだのは私だけど、なんか上手い具合に人質を利用されてる気がする。
だーくそ。
面倒な。
ため息。
「…まぁいいや。戦争が始まったら、せいぜいその身を守っとくことだね。」
「受けて立ちましょう。」
私の返答に、どっと冷や汗を吹き出しながら返す増井。
痩せ我慢も通せば問題ないってか。
…私のこれまでの主なレスバスタイルは圧かけて相手が降参するの待つだけだったからなぁ。
そこで対抗されたら歯が立たない。
知能面は妃奈マインドのせいでデバフ掛かってるし。
知能面はデバフ掛かってるし!
妃奈マインドのせいで!
「…んなんかめっちゃ失礼なこと考えてるでしょ。」
「…なぜバレた。」
私がクールに敗北を噛み締めてると、妃奈が突然エスパーの如く私の心情を言い当ててきた。
「私をガン見しながらハンカチ噛んどいてバレないとでも?…言っとくと、私はレスバ強えから。」
あーあー。
レスバ(笑)ね。
石田にカウンターパンチ喰らってお陀仏したアレね。
「絶対バカにした!今!」
妃奈が噛み付いてこようとするのを華麗に回避し、クールに会議を続行する。
「んじゃま、戦争前合同のすり合わせはこんなんでいいか。他に何か言いたいことある人。」
襲いかかる妃奈を片手で制しつつ、面々を見渡す。
終了の気配を察し、若干弛緩した顔面の天使達。
その中で手を挙げるのが見えた。
「はいそこ。」
小崎が立ち上がる。
「はい。Code.1、レーニン・ユーリーンですが、彼は前世の記憶を持っている可能性があります。」
爆弾発言。
え?
ま?
「え、ま?」
私の心の声と妃奈の声がシンクロした。
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