Code.10 (30)
超絶怒涛の1/10連投 84
手痛い仕返しを受けた。
Code.10は完全に硬直した女神を見てそう思った。
魔王は石田への対抗意識にかまけるばかりで女神の計画について深くは考えていなかったように見える。
女神の話ではシステムの自爆システム設定に利用されるCodeの中に8は入っていなかったが、第二段階である自爆発動の場面でCode.8は不可欠だ。
魔王はどう出る?
ここで石田側に寝返れば、形勢は一転する。
いくら女神とはいえ、石田と魔王に敵対されれば容易に動くことはできないだろう。
少なくとも、魔王が女神に非協力的になるだけでもCode.1争奪戦を有利に進めることができる。
Code.1さえ手に入ればあとはどうとでもなる。
今現状、力関係だけ見ても女神側に天秤が傾きすぎていた。
女神のいない12年でCode.10の加入とCode.5の獲得には至ったが、女神もCode.6を手に入れているのだ。
天秤を正すためにも、魔王の立場は極めて重要だった。
カチリ。
厚く塗られた静けさの中に、マーカーのキャップがはめられる音が広がった。
ため息。
女神が持っていたマーカーを会議机に放った。
コーティングされた天板の上を妙に軽い音をさせながら跳ねるそれは、数回回ったあと、机の真ん中で静止した。
「呆れた。」
女神は蔑んだような目を石田に向けると、指を回した。
女神の指先に魔法陣が展開される。
{「信仰Lv.10」の発動を確認しました。}
{「呪怨Lv.10」の発動を確認しました。}
マーカーがのたうち回る。
高速で円を描きながら円筒状の影を残すそれは、やがてモーター音を鳴らしながら直立した。
「この期に及んで命乞い?
共感でも得ようと思った?
ナメてる?私のこと。」
高音を鳴らしながら回るマーカーのキャップが、限界を迎えたのか破裂するように飛び出す。
それは天井に激突したあと、部屋内を何度かバウンドして隅に転がった。
「そもそもの話、Code.を取り出すのに、輪廻システムに回帰するまで殺し切る必要なんてない。このシミュレーションの死亡判定って結構ガバガバだよ?誰かさんのせいでVer.1.0のままで止まってるから。」
マーカーに残っていたわずかなインクがペン先から染み出す。
渦のような回転からインクが分離され、マーカーの上に塊を形成した。
「死亡処理は、順にHP:0→スキル、称号の停止→経験値処理→魂の分離→輪廻システムへ移動。魂の分離がされるまでにHPを回復させれば特に問題もなく復活させられる。まぁ、経験値の処理までされるとステータスが剥がれるからそこは気をつけなきゃだけど。あんたらもやったことあるでしょ。死者蘇生の一つや二つ。」
「帝国の法律では死者蘇生やそれに類することは禁忌の一つだ。HPが0になった存在を蘇らせることは倫理的に許されていない…。」
「倫理って…それを私に説く?」
石田の返しを女神は鼻で笑った。
増井が下を向く。
Code.10は彼がCode.5奪取の過程で一度命を落とした事を知っていた。
「私は妃奈を殺す気はない。魔王契約も残ってるし。私は絶対にして公正…っていうのはかなり前にも言ったわな。
…それに…」
マーカーの回転は止まらない。
回転するインクは縦に引き伸ばされ、細い線状に形成されていた。
女神が手を広げる。
「それに私にはCode.9がある。古賀幹から奪った直搾り。」
手のひらから展開されたそれは空中に固定されていた魔法陣を飲み込むように広がり、赫く光った。
直後、線状になっていたインクが膨張し天井付近にまで届く巨大な塊へと変容したかと思うと、破裂した。
滝のようなインクの洪水が会議室を埋めた。
照明が点滅し、完全に消える。
インクと闇で完全に暗黒に没した会議室の中、なぜか女神の姿だけは照明に照らされた時の見栄えのままマーカーのキャップをつけたり外したりしていた。
インクが滴り落ちる音と、キャップのプラスチック音の中、皆が各々の方法でインクを回避したのを薄く笑って確認した女神が口を開く。
「私はザキを食らったくらいで妃奈を殺すほど無慈悲な存在じゃないし、それはあんたらに対してもそう。もう一回言うよ?Code.5をまず私に捧げなさい。Code.2とCode.7は戦争終結まで待ってやる。」
女神はまた微笑んだ。
山:なんか久しぶりじゃないですか?
ア:特に忙しくもなかったですよね。
山:今回はもう言い訳も言わせてくれない感じなんですね。
ア:だってないでしょう。言い訳。
山:強いて言うなら、「5月病」書いて本当に五月病になったこと…?
ア:20過ぎたらただの人になる凡人さんは書き続けないといけないんですよ。
山:あまりにも鋭いナイフすぎる。




