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ミクロな世界の女子大生  作者: やまとりさとよ
第九章 ミクロな世界の戦争

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Code.10 (25)


「今回の戦争においてレーニン・ユーリーンは最も重要な鍵と言えます。如何なる状況に於いても優先する必要があると、理解していただけますか。」


「言われなくとも、子供たちは私の庇護下です。それが出生如何に限らず包括したものであることはサラ様も理解されているかと。」


「…いいでしょう。」


教会第七会議室。

魔術的な防護結界が複数展開され、最も機密性の高い会議において使用される室内で、サラは1人の女と会話していた。


明かりが極めて少ない会議室では、女の姿はあまりよく見えない。


「しかしサラ様。失礼ながらユーリーンがそれほどまでに重要視されるのならば、敵軍本拠地たる魔王城への実習は控えた方がよろしいのでは。」


「彼への一定以上の干渉は人類、魔族の両面にて禁止されています。今度の実習で潜る階層は3層まで。通例通りならば問題はありません。」


第七会議室の大部分は結界術の構築によって占められている。


用意された空間は他のものと同様ではあるが、実際に使用可能な空間は人が鮨詰めで五人入るか入らないかと言うほどに狭かった。


顰めた会話でも、閉じられ、窮屈な空間ではやけに大きく感じる。


とは言え、防音結界は完全だった。


「他に守護天使は。」


「あなただけです。アドヴァンダルの教員が付きますが、それもグループに分け、引率に向かえる1人だけ。ステータスはこちらです。」


サラが女にファイル詰めされた紙を渡す。


同行する教員のステータスを軽く眺めた女は、眉を顰めて言った。


「重ねて失礼ながら、やはり少々不用心かと。この攻撃力ならば、身体強化は最低でも第二進化までは必要です。基礎ステータスも心許ない。遠距離攻撃は持ち合わせていないのですか?」


用紙を爪で軽く叩く女に、サラはため息をついて言った。


「過剰な戦力は却って魔王城を刺激する可能性があります。一定の干渉を禁じていると言えど、比例反撃の口実を作らせるわけには行かない。」


「…。」


「それにこの実習には司祭様にも支援して頂けます。聖洸魔法を実習前に祝福として授けると。」


「第四段階を?」


「ええ。」


「……どれをですか。」


「レベル10です。」


サラの言葉に女は絶句した様子を見せ、一瞬目を見開いた後、何かを察したように目頭を押さえて俯いた。


「…聖洸魔法Lv.10は、身体超強化Lv.10相当のステータスの加算に加え、Lv.8のものと差別化するために特異な効果があります。それがHP、MP、SPを上限を超えて回復し、ストックする効果。これは術者側で唯一調整可能であり、回復超過の10%をストック可能、その最大貯蔵基礎ステータスは1000です。」


「ええ。知っています。」


女の呟きにサラは無感情に頷いた。


「SPを与えるのですか?ユーリーンに?…Code.1に?」


「ええ。」


変わらぬサラの返答に女は悲しげな声色を見せた。


「…否定されないのですね。」


「否定すれば何かが変わったのですか?それに、事実は変えようがありません。」


「…そうですか…。」


「…。」


沈黙が流れる。


妙に窮屈な会議室。

暗闇は圧迫感となって2人の周囲を包み込んでいた。


数刻の停滞の後、女がゆっくりと目線を上げ、サラを睨んで言った。


「生贄ですね。」


「教会の決定は変わりません。少なくとも、私の回答は一定です。」


「子供に背負わせる気ですか、生を、死を、それも守護するべき大人のそれを。」


「ええ。タイムリミットはそう残されていません。1000年経ったんです。倒れながら辛うじてバランスをとっていたコマも回転数が落ち切っています。もう後は身を削りながら倒れていくしか無い。大人になるのを待つ暇はありません。」


「しかし」


「綺麗事では無いんです。これは。私達は受けるべき咎を踏み倒して此処まで歩んできた。それがもう乗り越えられなくなっただけの話です。」


サラの感情を押さえた言葉に、それでも女は絞り出すように返した。


「…できる限り争います、それでも、抗うべきです。」


「それなら、貴方が守ってあげてください。できるでしょう、貴方ならば。」


「…。」


サラは言葉を切り、会議室の扉を開けた。


廊下からの光が、暗闇に満ちた部屋内に一筋の線を描く。


暗闇の狭間に、修道服を着た女の姿が映った。


サラが振り返り、言った。


「…改めて、よろしくお願いします。人類のため、そして子供達のために。シスター・ココ。」


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