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ミクロな世界の女子大生  作者: やまとりさとよ
第九章 ミクロな世界の戦争

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とある魔族の話 オルドワルドの場合 ②



「まず…だが。」


俺が口を開くと、天使は持っていた紅茶のカップを静かに置き、こちらに目線を向けてきた。


薄灰色の虹彩がこちらを射抜いている。


重苦しい緊張感が流れる中、意を決した。


「何をしていた?この階層もハーピィも、お前には関係のない事だ。」


妥当だろう。


少なくともこの階層は俺の陣地だし、更には俺の配下を拘束していた。


質問としての妥当性は極めて高い筈だ。


とは言え始めの質問。

生唾を飲み込む俺を知ってか知らずか、眠そうに瞼を数回はためかせ、ゆっくりとした口調で天使は話した。


「インスピレーションの獲得の為…。」


「は?」


帰ってきた回答は俺の想定を斜め下に外していくものだった。


インスピレーション?


何のだ?


つか、それはうちのハーピィを見てどうにかなるものなのか?


頭の中で疑問符が渦巻く中、かろうじて次ぐ質問が口から吐き出される。


「…それは魔王様の御命令か?」


「別に…。」


「…。」


「これは極秘事項。ひ…魔王にも言ってない。」


「…そうか。」


わけがわからない。


魔王様の管轄よりも上にある極秘事項がうちのハーピィにあるとでも?


ここのハーピィは、31層の山岳エリアにいるやつの進化系だ。


主には毒と闇魔法を併用し、弱化した相手を物理で仕留める戦闘スタイルだが、その過程に特別な何かが含まれることはねぇ。


確かにこの階層の再ポップ構造を構築したのは魔王様だが、天使本人がそれより上の懸案事項というのなら、それも関係ない。


…真意を掴めねぇ。


…これ以上考えるのは無駄か。


思考を頭の中の懸案事項欄に書き連ねた後、切り替えて別の質問を考える。


天使は自身の回答による俺の微妙な反応にも素知らぬ顔で手元の紅茶を啜っている。


苛立ちが募る。


先の質問の答えは、追撃を防ぐという意味では完璧に近しいものだった。


天使自体の立場を考えれば、そう言われればこれ以上それについて俺が何かを質問することはできない。


歯軋りをしそうになる口を抑え、次ぐ疑問を問うた。


「幾つか聞かせろ…12年前に何があった。」


核心に近い。


12年前、侵略者討伐軍が魔王城内にいる侵略者を殲滅するために動いたあの日、俺たちが韋駄天と交戦をしたあの日に目の前の天使と魔王様は何処かへと消え、その2年後に魔王様が帰ってきたと思えば、魔王様は人類との戦線を留めた。


それに対して人間側はより勢いを増し、魔王城外にいる魔物や魔族に甚大な被害が出た。


これまでの魔王様の動きから見ればあり得ない所業。


10年前魔王様が帰ってきた時、深い傷を負っていたとアヴァンから聞かされた。


魔王様が消極的になったのはあれからだ。


魔王様の真意について、全ての魔物がその事を知りたがっていた。


魔王様に聞くことはできねぇ。


聞いても返答は返ってこねぇ。


だが、この女ならば。


おそらく魔王様と一緒にあの日何処かに行ったと思われる天使ならば。


何かを知っている可能性は高い。


「…それ、関係ある?」


自身の爪を眺めながら天使が怠そうに言う。


蝋燭の日が苛立たしげに揺れた。


生唾を飲み込む。


「ある。お前の行動倫理を俺は見定めなきゃならねぇ。」


意を決して言った。


しばらく俺のことを見つめていた天使は、根負けしたように軽くため息を吐くと、つらつらと回答を吐き出した。


「別に、あの日やったのは当初の計画の延長に過ぎない…。」


「延長だと?」


「侵略者は何も魔王城内部だけにいたわけじゃない。一際強いのが外にも発生してた。それを叩きに行ってただけ…。」


天使の回答に軽い衝撃が走る。


何かと戦っていたことはわかっていた。


それが侵略者だと?


しかも魔王城内に居た奴よりも?


「そんな報告俺たちには…。」


「魔王スキル産の魔物じゃあれに太刀打ち出来ない。報告をしてる暇があったら、ひ、魔王が戦いに行ったほうが効率的。」


一刀両断する天使の言葉。


思わず歯軋りをする。


「…12年間もか?」


「10年前に魔王は返したでしょ。」


「…。」


「妃奈はここ10年で外界に残った侵略者の討伐やシステムの負荷の調整、人魔大戦準備とか、進捗をできる限り終わらせてた。…知りたいことはもう無い?」


「…あぁ。」


言葉はもう出なかった。


ため息のように口から漏れる声に、天使が立ち上がり、部屋を出ようとする。


ドアノブに手をかけたところで、思わず呼び止めた。


「…おい!」


「…?」


天使が振り返る。


蝋燭がまたも揺れ、その姿が幻惑のように揺らぐ。


「お前は敵か、味方か?」


なんとか言葉を吐いた。


「…あなたの上司。それ以上でも以下でもない。」


そう言い残すと、天使はドアの先に消えた。





「…何してんの?」


自宅のリビングで、転移門から帰ってきた妃奈の声がかかる。


手元のハーピィの羽をさわさわしてた私は、用意していた答えを返した。


「インスピレーションの獲得の為…。」


「はぁ?」


私は学んだ。


迂闊に外に出ればか弱い乙女たる私はあっという間にヤンキーに絡まれ、あれよあれよと言う間に家に連れ込まれてしまう。


それは不味い。


非常に不味い。


薄い本的展開は断じてNGなのだよ。


「年齢制限的な話。」


「はぁ??」


やはり家は至高。

ヒッキーこそがあるべき人間の姿と言える。


私はその格言を深く胸に刻んだ。

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